「みどり」の価値評価を検証する

都市における「みどり」は不動産価値にどうかかわっているのか都市における「みどり」は不動産価値にどうかかわっているのか

「みどり」は都市空間において、①景観(美しい街並み)を形成する機能、②ヒートアイランド現象などの都市気候を緩和する機能、③防災的機能(防火や防風等)、④人々に憩いやレクリエーションの場を提供する機能等、様々な役割を果たしている。

不動産取引においても、新築マンションの販売広告等で「緑ゆたかな街並み」や「緑とふれあう潤いのある暮らし」等、「みどり」が身近にある環境をアピールする広告が多く確認できる。

一方、不動産取引上における「みどり」の価値評価については、現状、十分な検証が成されているとはいえない。そこで本稿では、「みどり」が住宅賃料形成にどのような影響を及ぼしているのか検証したい。

「みどり」の量を測る指標として注目を集める「緑視率」

「みどり」の保全および創出については、各自治体が「緑地の保全及び緑化の推進に関する基本計画」(以下、「緑の基本計画」)を策定し推進している。「緑の基本計画」とは、「都市緑地法」に基づく法定計画で、緑地の保全および緑化の目標、施策の方針と内容が定めたものである。

「緑の基本計画」では、施策の方針とともに、(1)「公有地・民有地におけるみどりの量」、(2)「公園・公共施設の整備」、(3)「民有地の緑化・緑地保全」、(4)「住民満足度および参加状況」、等について、達成すべき数値目標を示している。

近年、(1)「公有地・民有地におけるみどりの量」の把握に関して、「緑視率」という指標を採用する自治体が増えている。「緑視率」とは、「ある視点から街並みや建物などを眺めたとき、視界に入るみどりの割合」を示す指数である。具体的には、「緑視率=(緑の面積)÷撮影範囲」で算出される(図表-2)。大阪市「緑視率調査ガイドライン」によれば、「緑視率」が25%超えると、みどりが多い地域と認識される(図表-3)。
ところで、「公有地・民有地におけるみどりの量」を測る指標として、「緑被率」(対象地域における樹林・草地、農地、園地などの「みどり」で覆われる土地の面積割合)や「緑化率」(対象地域における花壇や植栽、緑地帯など、緑化施設の面積割合)が採用されてきた。これに対して、人が感じる「みどり」の多寡と連動する「緑視率」はこれまでの指標より人間の感覚に近い指標と考えられている。

また、国土交通省「都市の緑量と心理的効果の相関関係の社会実験調査」によれば、「緑視率」が高い場所ほど、「安らぎのある場所」、「さわやかな場所」、「潤いのある場所」と感じる人が多く、快適性を高める心理的効果としている。快適性を高める心理的効果に着目し、「緑視率」をオフィス環境の整備に活用している事例も出ている。パソナ・パナソニックビジネスサービスは、「緑視率」の計測結果等をもとに、従業員のストレスを軽減させるみどりの配置と空間設計を提案するオフィス緑化サービス「COMORE BIZ(コモレビズ)」を展開している。

左)図表-2 緑視率の定義  右)図表-3 緑視率25%相当の交差点左)図表-2 緑視率の定義  右)図表-3 緑視率25%相当の交差点

「みどり」の多寡が住宅賃料に及ぼす影響を分析

今回は、「みどり」の量を測る指標として「緑視率」を採用し、視界に入る「みどり」が住宅賃料に及ぼす影響を検証する。賃貸住宅を探している消費者が、視界に入る「みどり」の量を住宅選択基準の1つと考えているのであれば、「緑視率」が上昇した場合に、賃料は上昇すると考えられる。

本調査は、東京都江東区に所在する賃貸マンションおよび賃貸アパートを分析対象とした。
具体的には、株式会社LIFULLが運営する不動産情報サイト「LIFULL HOME'S」において、2018年1月から2018年12月までの期間に募集掲載された東京都江東区に所在する賃貸マンション(29,611件)および賃貸アパート(2,239件)の物件データを用いて、視界に入る「みどり」が住宅賃料に及ぼす影響に関する分析を行った。

図表-4 データの基本統計量</br>(出所)江東区「平成30年緑視率等調査」をもとにニッセイ基礎研究所
※155町丁目の内訳図表-4 データの基本統計量
(出所)江東区「平成30年緑視率等調査」をもとにニッセイ基礎研究所 ※155町丁目の内訳

江東区における「緑視率」のデータ

東京都江東区は、「緑視率等調査」を定期的に実施しており、町丁目別に「緑視率」のデータを公表している。

町丁目別の「緑視率」の分布をみると、「10%未満」のエリアが全体に占める割合が30%と最も大きく、次いで「10%以上15%未満」(25%)、「15%以上20%未満」(24%)が占める(図表-5)。「みどり」が多い地域と認識される「25%以上」の割合は11%に留まる。

図表-5 町丁目別の「緑視率」の分布</br>(出所)江東区「平成30年緑視率等調査」をもとにニッセイ基礎研究所 ※155町丁目の内訳図表-5 町丁目別の「緑視率」の分布
(出所)江東区「平成30年緑視率等調査」をもとにニッセイ基礎研究所 ※155町丁目の内訳

江東区の地域別「緑視率」

図表-6は地域別に「緑視率」を示している。「緑視率」が20%を超えている地区は、「豊洲」、「青海」、「辰巳」、「潮見」、「越中島」、「新砂」、「夢の島」、「新木場」、「若洲」であった。江東区「平成30年緑視率等調査」では、「豊洲」は街路樹や高層建築物施設内の樹木が、「青海」ではテレコムセンター駅周辺の緑地等が「緑視率」を高めているとしている。
一方、「緑視率」が10%未満の地区は、「深川」、「門前仲町」、「富岡」、「白河」、「扇橋」、「千田」、「海辺」、「住吉」、「毛利」であった。近年、高層マンション等の再開発が進んだ地区では、「緑視率」が高い一方、古くから商業地区として賑わっている地区では「緑視率」が低い傾向がみられる。
「江東区みどりと自然の基本計画〔緑の基本計画〕改定案(令和2年度から令和11年度)」によれば、江東区は「緑視率」を現状の16.3%から22%に引き上げる目標に策定している。

次回は、実際の分析結果をお伝えしたい。

■ニッセイ基礎研究所レポート
視界に入る「みどり」が住宅賃料に及ぼす影響
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=65489&pno=1?site=nli

◎分析  :ニッセイ基礎研究所 吉田 資
     :株式会社 LIFULL 遠藤 圭介

図表-6 江東区の地域別「緑視率」</br>(出所)江東区「平成30年緑視率等調査」図表-6 江東区の地域別「緑視率」
(出所)江東区「平成30年緑視率等調査」

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