築年数経過が賃料に与える影響度の違いを「3つの観点」から比較
賃貸アパートと賃貸マンションの物件属性が賃料単価に与える影響を考察した「賃貸マンションと比較した賃貸アパート実態分析③において、築年数経過による賃料単価の下落(以下、経年変化)は、賃貸アパートと賃貸マンションで同水準の可能性があると指摘した。
では、両者の賃料は築浅や築古といった竣工後の期間にかかわらず、同じように下落していくのだろうか。また、専有面積や最寄駅からの距離の違いによって差は生じるのだろうか。
本レポートではこれらの疑問を検証すべく、「①物件種別:賃貸アパート/賃貸マンション」、「②物件タイプ:シンルタイプ専有面積18m2以上30m2未満)/コンパクトタイプ専有面積30m2以上60m2未満)」、「③最寄駅からの距離:近い7分未満)/遠い7分以内)」の3つの観点から、賃料の経年変化の違いを、統計モデルを用いた計量分析により明らかにした。
具体的には、LIFULL HOME'Sの物件情報上で2019年1月から12月までの1年間に掲載された、東京23区の築35年までの物件データ264,706件を、①物件種別×②物件タイプ×③最寄駅からの距離で8つに区分し、それぞれ統計モデルを構築した。
この統計モデルから、外挿する物件属性のうち築年数のみを1年ずつ変化させた理論賃料単価を算出し、築年数ごとの理論賃料単価を比較した。データセットの分割条件および理論賃料単価算出に当たり外挿した物件属性の詳細は(図表1)の通りである。
(図表1)データセットの分割条件および各統計モデルに外挿した物件属性
出所)LIFULL HOME‘S 提供資料をもとに三井住友トラスト基礎研究所作成注1) 賃貸アパートと賃貸マンションの分類は、LIFULL HOME‘S への掲載依頼主の判断による。
注2) シングルタイプは18 ㎡以上30 ㎡未満、コンパクトタイプは30 ㎡以上60 ㎡未満。
注3) 通勤時間とは、当該物件から最寄りの主要ターミナル駅までの所要時間を指し、当該物件から最寄駅までの所要時間と、最寄駅から最寄ターミナル駅までの所要時間を合算して算出した。なお、ターミナル駅は、東京駅、新宿駅、渋谷駅、品川駅とした。
注4) 所在階比率とは、物件が「1 階から数えて総階数の何割に当たる部分に所在するか」を指す。例えば総階数5 階建のうち3 階に位置す
る物件では0.6 と計算した。
注5) その他ダミーは、間取り、方位、特定階、分譲賃貸物件か否か、各種設備の有無について設定した。物件種別(賃貸アパート・賃貸マンション)による賃料の経年変化の違い
初めに「①物件種別:賃貸アパート/賃貸マンション」による賃料の経年変化の違いを検証した(図表2)。
新築時から築35年までの累計の賃料下落率は、両物件タイプとも賃貸アパートの方が僅かに小さいもののほぼ同程度となり、「賃貸マンションと比較した賃貸アパート実態分析③」の結果と整合している。
ただし、賃料の経年変化は築15年(コンパクトタイプでは築20年)までは賃貸アパートの方が小さいが、築年数の経過と共にその差は薄れ、築25年以降は賃貸マンションの方が小さくなった。
経年変化の「物理的劣化」と「経済的劣化」
築年数の経過と共に、賃料の経年変化の関係性が逆転するのはなぜか。理由を考察すべく経年変化を要因分解すると、経年変化は「物理的劣化」と「経済的劣化」に分けられる。
「物理的劣化」とは、当該物件そのものが劣化していくことであり、賃貸物件が使用されることによって摩滅したり、風雨によって損傷したりすることによって生じる。
一方「経済的劣化」とは、当該物件への賃貸需要が減退していくことであり、需要者の新築志向の強さや、同一エリア内での競合物件の新規供給、周辺環境および住宅選好の変化等によって生じる。これら物理的劣化と経済的劣化の進行スピードが築浅と築古の時期で異なるため、賃料の経年変化に違いが生じていると考えられる。
物件が築浅の間は物理的劣化が大きく進展するとは考えにくく、賃料の経年変化には経済的劣化の影響が大きいと考えられる。そして物件が築浅の間は、「築浅である」ことが需要を喚起し、例えば「築10年以内」といった条件で探索され、築浅物件同士で比較検討されやすい。
東京23区の賃貸アパートと賃貸マンションのストック戸数の築年別
ここで、東京23区の賃貸アパートと賃貸マンションのストック戸数を築年別に見ると、1971年以降、賃貸マンションは賃貸アパートの3~5倍のボリュームで供給され続けていることが分かる(図表3)。
賃料の経年変化は築15年までは賃貸アパートの方が、築25年以降は賃貸マンションの方が小さい
すなわち賃貸マンションは、同一エリア内で供給される新築賃貸マンションが絶対数として多くなり、競合関係が生じやすく、経済的劣化が進行しやすいと考えられる。また賃貸アパートは築浅物件同士で比較検討される際、賃貸マンションとの比較で割安に感じられやすく、市場競争力を維持しやすいため経済的劣化が進行しにくいと考えられる。これらが影響し、築15年程度までは、賃貸アパートの方が賃料の経年変化が小さくなるのだろう。
しかし築年数が経過するにつれ、「築古だけど立地がいい」、「築古だけど設備の状態がいい」といったように、築年数と他の物件属性とのバランスが重視され、経済的劣化だけでなく物理的劣化が意識されやすくなっていく。そのため、建物の構造上耐用年数が短い賃貸アパートの方が物理的劣化の進行が速いことで、築年数の経過と共に経年変化の関係性が逆転し、築25年以降は賃貸アパートの方が賃料の経年変化が大きくなると考えられる。
次回は、物件タイプ・最寄駅からの距離による賃料の経年変化の違いを検証していく。
LIFULL HOME'S×SMTRI
https://www.smtri.jp/market/lifull_homes/
●駅近コンパクトタイプのアパートは、賃料の経年変化から見た安定性が最も高い
【過去のレポート(SMTRI)】
●「賃貸アパートは安い」イメージは、狭い物件の多さが一因か
●レポート「大阪の賃貸マンションを上回る、東京の賃貸アパートの市場規模」
●アパート・マンションの物件属性が賃料単価に与える影響の違い
◎分析 :三井住友トラスト基礎研究所 菅田 修、 髙林 一樹
:株式会社 LIFULL 遠藤 圭介
参考:東京23区の賃貸アパート(LIFULL HOME'S)
東京23区の賃貸マンション(LIFULL HOME'S)
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