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Sensuous City[官能都市]  ―身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング

都市の魅力とはなんだろうか。楽しく幸福に暮らせる都市とは、どのような場所だろうか。「住むこと」の自由を考えるHOME’S総研が、都市の本当の魅力を測る新しい物差しを提案します。独自調査によって測定した全国主要都市の魅力度ランキング「センシュアス・シティ・ランキング」を中心に、ゲストに迎えた都市のエキスパートたちの都市論を収めました。

2015.09.03

アトムとジブリと物差し

現都市計画のいうまちの活気とはなんなのか。良好さとはいったいなんなのか。都市の魅力とはどのようなものなのだろうか。都市に生きる生活者として心地よい・楽しいと思えるまちと、都市計画や資本が考える良いまちの間に、埋めがたい大きなギャップがあるように思う。

都市や郊外に関する多数の著作を持つ、社会デザイン研究家の三浦展は、東京の都市風景の分析を通じて、日本人の都市に対する3つの価値観・見方に、アトム的・ジブリ的・パンク的と名付けられる3つの極があることをあぶりだした(『新東京風景論 箱化する都市、衰退する街』NHKブックス、2014年)。

アトム的な都市とは戦後の昭和が夢見た「未来都市」であり、そのカタチは要するにル・コルビジェの「輝く都市」であり垂直田園都市だ。昔なら西新宿の高層ビル群や首都高速、今ならお台場や豊洲などの湾岸エリアが代表的な例だろう。再開発でスーパーブロックと高層ビル群に作り替える都市計画は、まさにアトム的な価値観によって計画される。

これに対して、ジブリ的な都市とは、風土に根ざした原風景的な懐かしさを感じさせる、商店街や路地裏や横丁が残る風景だ。例えば、谷根千(谷中・根津・千駄木)や神楽坂などが象徴的で、吉祥寺や阿佐ヶ谷や高円寺などもジブリ的都市だ。いずれも木造密集エリアである。

パンク的とは、映画『ブレードランナー』が描き出した、超高層ビルの足元に屋台街が広がるような猥雑で混沌とした都市像で、アトム的な風景とジブリ的な風景が視界の中に併存する。もんじゃストリートで有名な月島あたりで、路地裏の古い木造長屋の背景に超高層マンションがそびえる風景や、日本橋の上を覆う首都高速などは、いかにもパンク的である。

それらの異なる都市像・風景は、社会ではどのように受容されているだろうか。メディアでの取り上げられ方をみれば、手がかりがつかめそうだ。

経済や不動産を扱うメディアはアトム的なまちを喜び、続々と発表される大規模開発計画は、「東京大改造」などの見出しで紙面を飾る。一方、観光やまち歩きを扱うメディアで取り上げられるのは、ジブリ的なまちの代表格である吉祥寺や西荻窪、高円寺などの中央線沿線や、谷根千などの下町だ。HOME'SやSUUMOなどの不動産ポータルサイトが発表する人気投票「住みたい街ランキング」でも、不動の人気ナンバーワンの吉祥寺に代表されるように、ランキングの上位はジブリ的なキャラクターのまちで占められている。

乱暴なステレオタイプの区分ながら、人が住みたい・遊びたいのはジブリ的なまちで、経済が作りたいのがアトム的なまち、その境界線にはからずも出来上がるのがパンク的なまちという、きわめて単純で分かりやすい対立軸が浮かび上がる。

ジェイン・ジェイコブズ以降、先進国の都市に対する価値観は大きく転換し、「スーパーブロック」「ゾーニング」「公園の中のタワー」などに代表される近代的都市計画に替わって、「小さな街区」や「用途混在」、「歩ける」というコンセプトが都市計画のコンセンサスになっている。その流れでわが国でも、ジブリ的なまちの価値は見直され、下町の風情や京都の町家は、感度の高い若者を中心に人気が出ている。都市研究者の間では、ヒューマンスケールな都市のあり方として路地を再評価する声も多い。

それにも関わらず、現実の都市の中では、ジブリ的な風景はアトム的な再開発の圧力にさらされている。武蔵小山しかり、新橋しかり、京成立石しかり、京急蒲田しかり、三軒茶屋しかり。いずれも駅前の横丁を潰して高層ビルへ建て替える再開発計画が進行中である。東京だけではない。地方都市においても、都市再生、中心市街地活性化、地方創生などの名の下、アトム的再開発計画が各地に目白押しだ。大手デベロッパーの提唱するコンパクトシティは、要するに超高層ビルやショッピングモールを正当化するための道具になっている。

アトム的なまちは、防災や効率性など都市工学に機能的で、不動産投資の市場原理に合理的で、すなわち科学的で客観的な理論と数字を根拠に計画される。その“正しさ”おいて、ジブリ的なまちは、安全性を問題視され、合理性を否定され、風景として前近代的として貶められる。ジブリ的なまちが再開発によって一掃されてしまうことを受け入れたくない立場は、ノスタルジーや個人的な好き嫌いとして退けられ、議論の土台にすら上がることができない。住民説明などで異を唱えたとしても、機能性・合理性の価値軸で設定された土俵の中では、為す術もなく沈黙するか、日照権や風害や景観破壊など、ややもすれば住民エゴと見なされかねない武器にすがるしかないのが実態である。

都市の魅力を測る適切な物差しがないのが問題なのだと思う。都市に住むことの喜びを反映した、リアルな都市生活者目線の物差しが必要だ。

文:HOME'S総研所長 島原万丈

報告書

全データ

Sensuous City・全体(26.16MB)

各章データ
  1. PROLOGUE(1.8MB)

  2. 1:センシュアス・シティ調査(6.9MB)

    動詞で評価するセンシュアス・シティ・ランキング

    株式会社アンド・デイ取締役 橋口理文/奥田 理

  3. 2:Sensuous Cityの価値評価(0.2MB)

    Generic Cityとの対比における「居住価値」の検証

    HOME'S総研チーフアナリスト 中山登志朗

  4. 3:都市の魅力:スーパースターとローカルスター(1.9MB)

    シンガポール国立大学不動産研究センター教授 清水千弘

  5. 4:都市がcomfortableを失った道(0.5MB)

    住宅・不動産メディアを軸に検討する

    慶應義塾大学 政策・メディア研究科博士課程 小野有理

  6. 5:東京大学 大月敏雄教授に聞く(1.2MB)

    魅力ある都市の条件“多様性”と“雑味”はどこから生まれるのか

    東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 教授 大月敏雄

  7. 6:まちの達人・三浦展と歩く センシュアス・シティ@荒川区(1.6MB)

    株式会社カルチャースタディーズ研究所主宰 三浦 展

  8. 7:都市のなかの人生ターミナル トーキョー・銭湯考(1.0MB)

    文筆家 小野美由紀

  9. 8:官能都市のデザインとプレイスメイキング(1.0MB)

    エモーショナル環境がつくる魅力価値

    筑波大学環境デザイン領域准教授 渡 和由

  10. 9:都市政策の立脚点は“アクティビティ”である(1.8MB)

    前 国土交通省 都市局まちづくり推進課企画専門官 富田興二

  11. 10:まちの達人に聞く「センシュアス・シティなまちづくり」実践論(1.3MB)

    株式会社アフタヌーンソサエティ代表取締役 清水義次 × HOME'S総研所長 島原万丈

  12. 11:官能都市を感応するデータを超えて(1.6MB)

    「場所と物語」石神夏希

  13. EPILOGUE(1.7MB)

    HOME'S総研所長 島原万丈

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