東京がメガイベント戦略を取らざるを得ない事情

アトランタ五輪跡地のセンテニアル・オリンピックパーク入口(筆者撮影)アトランタ五輪跡地のセンテニアル・オリンピックパーク入口(筆者撮影)

前回は、メガイベント戦略としての五輪をアトランタ五輪を例にあげて考えてみた。
それでは、2020年の東京五輪開催をどうとらえることができるだろうか。

前回の議論を踏まえれば、五輪後の需要を見越して過大な施設をつくらないこと、特に既存のスポーツ施設との競合関係なども考慮に入れた、暫定施設、既存施設利用などを進めることや、国際的なイメージ戦略などと緊密な連携をとるという、これまでの教訓を繰り返すことになるだろう。

しかし、日本の大都市にはメガイベント戦略を採用せざるを得ない特殊な事情があるように思われる。注目したいのは、メガイベントの公共投資配分に与える効果である。

これまでに述べたように、メガイベントは対象地域のプロジェクトを大きく推進する。公共投資に関して言えば、財源や権限に関して地方分権が進んだ環境下では、自らその財源を調達することが求められるため、特定の地域が公共投資を増加させることが他地域との摩擦を生み出すことはないだろう。
しかし、中央集権化された仕組みで財源の配分やプロジェクトの決定が行われている場合、特定の地域での公共投資の増大は他地域での減少をもたらす。このような環境下にあっては、人口や経済活動が集中している大都市であっても、議員定数が適切に配分されていない限り、大都市に過小な公共投資配分が行われる可能性は高いだろう。

公的固定資本形成の東京都のシェア

このような状況を打破する手段として、過去にメガイベント戦略が使われた可能性がないだろうか。
下図は県民経済計算を用いて、全国の公的固定資本形成(一般政府)の東京都と東京都を除いた三大都市圏と地方圏のシェアを、1955年度を基準にした指数で描いたものである。ここからわかるように東京都のシェアの指数は五輪が開催された1964年度にかけて2.5倍程度に急上昇し、そのあと減少し続け20年程度で元のシェアになっている。具体的には、1955年度に6.5%であった東京都のシェアは1963年度に16.3%というピークを迎えている。
つまり東京という大都市がメガイベント戦略を利用して過去に整備されたという事実は、現在の我々にどのような意味を持つのだろうか。

近年インフラの一斉老朽化問題に関する議論が高まっている。メガイベント戦略にそって、都市がある時期に集中的に整備されたのだとすれば、整備されたインフラは一斉に更新時期を迎える可能性が高い。その社会の公共投資の配分システムが、分権化されたものに変貌していない限り、更新投資に必要な財源を大都市自らが獲得するのはハードルが高い。
この場合大都市は、再度メガイベント戦略を採用することが合理的な行動となる。

公的固定資本形成(一般政府)の東京都のシェア</br> 注)内閣府県民経済計算より筆者が算出</br>(http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kenmin/files/files_kenmin.html)公的固定資本形成(一般政府)の東京都のシェア
 注)内閣府県民経済計算より筆者が算出
(http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kenmin/files/files_kenmin.html)

五輪を触媒とした都市更新と
首都東京のためのレガシープランの必要性

アトランタ・センテニアル・オリンピックパーク内の子供用遊戯施設(筆者撮影)アトランタ・センテニアル・オリンピックパーク内の子供用遊戯施設(筆者撮影)

それでは東京は、永遠にインフラの更新時期にメガイベント戦略に打って出る必要があるのだろうか。
それが是認されるかどうかは、1964年見据えていた都市像がこれからも期待できるかという点にかかっている。

東京都、首都圏は確かに2015年以降人口が減少期を迎えることになる。しかし、当初のメガイベント戦略の出発点である1964年当時に比較すると、まだまだ大きな都市規模が将来にわたっても維持されることが、予想されている。これらのことから、2020年に五輪を触媒とする都市更新を図ることには、一定の支持を与えることができるのではないか。

だが、東京であっても今後人口減少を迎えることは軽視すべきでないだろう。
メガイベント戦略を採用した場合、ゲーム開催という締切が設定されることで、投資判断がかなり甘いものとなる傾向がある。過去に成功した事例と言われているロスアンゼルス五輪では、既に大規模な容量の施設が整備されていたため、ほとんどを既存施設の活用を行うことで対応した。またそのような大規模施設がなかったアトランタ五輪でも、暫定施設の利用あるいは既存施設の活用が図られたことが既存研究で知られている。

より長期においては東京でさえも縮退することを念頭においた慎重な施設計画、いわゆるレガシープランの下に五輪が運営されることを期待したい。

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