少子高齢化と医療需要の関連性
わが国が、現在(そして将来にわたって)、世界のどの国も経験したことのないようなスピードで高齢化が進むということは、ほとんどの人の共通認識になっている。
このような人口構成の変化は、医療・福祉需要にどのような影響を与えるのだろうか。
厚生労働省「平成17年度国民医療費の概況」において、年齢別の国民医療費が観察できる。高齢者の医療需要は他の年齢階層に比して非常に大きいため、高齢化の進展は医療需要に関して増加方向の影響を与える。しかし、同時に進展する人口減少は、医療需要に対して減少方向の影響を与えるため、医療需要への総体としての影響は、高齢化と、少子化、人口減少のそれぞれ相対的な影響の強さによることになる。
都道府県別・将来の医療需要の推計
国立社会保障人口問題研究所では、平成19年に「日本の都道府県別将来推計人口」を発表している。前述の年齢別医療需要量が変わらないとすれば、各都道府県においてどれだけの医療需要が発生するかをある程度見通すことが可能だ。
つまり、先ほどの年齢別の一人当たりの国民医療費を固定して、各都道府県の将来人口の変化を乗じることで、ラフな将来の医療需要の推計ができる。そしてその変化率を、人口の絶対値の変化に起因する分と、高齢化など人口構成が変化した分に分解することができる。各都道府県毎に2005年から2020年までの変化、2020年から2035年までの変化を、要因別に記述したのが下の図である。
人口の推移の変化がもたらす医療需要への影響は?
2つの図からわかるように、2005~2020年において人口要因は大都市圏の都道府県ではプラスだが、その他の大部分の都道府県では医療需要に関してマイナスに作用している。
一方人口構成要因、つまり高齢化の影響は、全ての都道府県で医療需要に関してプラスに作用している。そして、全ての都道府県で高齢化がもたらすプラスの影響の方が強く、医療需要はこの期間増大することが予想されている。
しかし、2020~2035年においては、人口要因が全ての都道府県でマイナスに作用するようになり、大部分の都道府県で高齢化のプラスの影響を凌駕し、総体として医療需要が減少する地域が多くなるのだ。
これらの動きは何を示唆するのか?
当面は高齢化を背景に 当面医療需要が拡大することはほぼ確実であるが、中長期的には人口減少の影響を受けて、需要が減退する時期が遠からず到来する。このことは、短期的な視点から医療・介護・福祉関連の耐用年数が長い施設を整備することは、高度成長期に整備した公共施設が人口減少期の現在過剰なものになっていることと同様の状態をもたらす可能性がある。
高齢化する地方都市:大牟田市の事例
私は先日、大牟田市の高齢者住宅・介護施設を見学する機会を得た。
大牟田市は石炭産業の集積地であり、1960年には21万人の人口であったが、現在12万人まで減少している。高齢化率も31.1%であり、24.7%の全国平均よりも大幅に高い。駅から5~10分歩いた中心市街地は、ほとんどシャッターが下り、空地、あまり管理されていない空家が広がっていた。
しかし、私が見学した高齢者住宅・介護施設は公営住宅と併設される形で整備されており、効率的な運営が行われているように見受けられた。人口減少の中で都市の中心部は、高齢者を意識した医療・介護・福祉などの空間として再構成していく可能性があるのではないだろうか。
次回は「まちなか集積医療」という提案を紹介したい。
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