住みたいまちへ、魅力の一つで観光を重視

国内外からの観光客、ビジネス客が降り立つ中部国際空港 セントレア国内外からの観光客、ビジネス客が降り立つ中部国際空港 セントレア

愛知県の知多半島に位置する常滑(とこなめ)市。市の西側に面した伊勢湾の海上に浮かぶ人工島には、2005年に中部圏最大の空港となる「中部国際空港 セントレア」(※以下、セントレア)が開港し、空の玄関口となった。

常滑という名前から焼き物好きの方はご存知だろう。平安時代末期ころから古常滑と呼ばれる焼き物の産地として知られ、瀬戸(愛知)、信楽(滋賀)、越前(福井)、丹波(兵庫)、備前(岡山)と並んで日本六古窯のひとつに数えられる。現在も窯業は市を支える産業であり、茶器など製品目当ての来訪者も多い。

常滑焼の陶芸体験や常滑焼で栄えてきたことを感じさせる町並み、世界最古の海水浴場といわれている大野海岸やセントレアの対岸に作られた人工のりんくうビーチなどの海岸線、味噌、酒などの醸造業や豊富な海の幸、山の幸を使った食文化などが観光の魅力となっている。

国内外からの観光客、ビジネス客が降り立つ中部国際空港 セントレアセントレアの対岸にある、りんくうビーチ。奥に見えるのがセントレア。夕日が映える場所としても人気で、日の入り30分前が狙い目だとか
“人を招く”願いを込めて左手を挙げた招き猫ポーズをする常滑市役所経済部観光戦略課主査・森要平さん。2025年4月から現職で、その前はまちづくりに関する部署に所属していた“人を招く”願いを込めて左手を挙げた招き猫ポーズをする常滑市役所経済部観光戦略課主査・森要平さん。2025年4月から現職で、その前はまちづくりに関する部署に所属していた

常滑市は、2022年に策定した「第6次常滑市総合計画」で、2028(令和10)年度までに目指すまちの姿を「とことん住みたい 世界とつながる 魅力創造都市」と定めた。「子どもが健やかに育ち、輝けるまち」「共に生き、支え合い、安心して暮らせるまち」など子育てや福祉など7つの基本目標を設定し、まちの「安全」、「安心」、「成長」という3つの視点で取り組みを進める。その基本目標の1つ「魅力にあふれ、人が集い、進化するまち」を実現するため、「常滑市観光戦略プラン2022」が策定され、計画を実行するためのアクションが遂行中だ。

そんななか、東海地区(愛知・岐阜・三重)初の宿泊税が2025年1月から導入された。導入のきっかけ、また観光戦略について、常滑市役所・経済部観光戦略課の森要平さんに話を伺った。

来訪者が増加するも、受け入れなどいくつもの課題が…

2005年のセントレア開港以降、空港がある“空港島”やその対岸の“りんくう町”に宿泊施設や商業施設が整備された。続いて、2019年に日本初の国際空港直結型の展示場となる「Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)」が開業。同施設は、ビジネスの展示会・見本市のほか、コンサート、スポーツなどのイベントにも対応し、来訪者の増加が生まれた。特にビジネスという点では、MICE(マイス※会議Meeting、報奨・研修旅行Incentive、国際会議Convention、展示会・見本市Exhibition/Eventの頭文字をとった言葉で、ビジネスイベントの総称)の誘致が見込めるのは、インバウンドと並んで平日の利用、にぎわいが見込める。

伊勢湾に浮かぶ、セントレア。この人工島に5つのホテル(※空港ターミナル内にカプセルホテルもあり)と、Aichi Sky Expoがある伊勢湾に浮かぶ、セントレア。この人工島に5つのホテル(※空港ターミナル内にカプセルホテルもあり)と、Aichi Sky Expoがある

まちの活性化が期待できる絶好の機会。ところが、空港島から市内への回遊性、そしてキャッシュレス化や多言語に対応するといった観光スポットや飲食店などの受け入れ環境が整っていないなどの課題があった。

「観光やビジネスで訪れたお客さまを、しっかりおもてなしをするための基盤を作ることで、満足度が上がり、またお越しいただけるという好循環を作っていく必要があると考えました」と森さん。

ただ、「一方で、常滑市は6万人弱の小さなまちですので、一般的な税収からたくさんの原資を投下することは難しい。安定的に取り組みを続けていくためには、宿泊税という形でいただいて、そのいただいた分の恩恵を受けてもらいながら、市としても成長して、好循環を作っていけたら」と導入を決めた。

空港島と周辺のホテル増加で、常滑市の全宿泊施設の部屋数は約4300室。実は愛知県内では名古屋に次ぐ規模だという。

観光客、ビジネス客に魅力のある、まちへ。そうしてまちが成長することで、さらに魅力が増し、リピーターとして訪れたいまち、また、住民にとってもうれしいまちになる。

伊勢湾に浮かぶ、セントレア。この人工島に5つのホテル(※空港ターミナル内にカプセルホテルもあり)と、Aichi Sky Expoがある常滑市年間観光戦略の数値目標(「常滑市観光戦略プラン2022【中間調査版】」より)

検討を重ねた結果、宿泊税は一律の金額=200円に

宿泊税の税率(税額)はどうするべきか、常滑市宿泊税検討委員会で検討が重ねられた。宿泊税導入先行自治体は、おおむね100~1,000円の間で設定され、一律または宿泊料金に応じて税率が変わる制度をとっている。

市内の宿泊事業者へのアンケートには、「一律のほうがシンプルでよい。値段によって税率が異なるのはミスにつながる」「税率が異なる場合、スタッフの作業負担が大きい」という意見の一方、「一律の場合、宿泊料金によっては負担感が不公平」との声もあったという。

そうしたなかで、まちの成長に向けた事業規模の勘案、宿泊事業者の作業負担軽減をふまえ、一律200円とすることに決定。享受する行政サービスにおいて、宿泊料金による大きな違いがなく、課税の公平性の観点から免税点も設けないことにした。ただし、外国大使等の任務遂行に伴う宿泊のみ、課税免除する。

導入は2025年1月6日以降。条例施行後、まずは3年で効果を検証し、見直しをする。その後は、5年を目途に見直しする予定だ。

常滑市が制作した宿泊税の案内チラシ常滑市が制作した宿泊税の案内チラシ

観光客を市街地へ…宿泊税を財源としたシャトルバスをスタート

宿泊税の使途として、宿泊業者の徴収にかかる負担のため、導入先行自治体と同じ2.5%の特別徴収義務者報奨金を支払うほかは、「来訪者(宿泊者)の満足度向上」「来訪者(宿泊者)の増加促進」「観光の好循環創出と加速」という三原則を掲げた常滑市。

飲み歩き・食べ歩きMAP&クーポンの製作、MICEのウェブサイトをはじめ魅力を発信するPR事業と共に、観光戦略の大きな課題解消に向けて、2025年4月1日からは運賃無料のシャトルバスの運行を始めた。

セントレアの開港以来、悩みだった市内への回遊。セントレアに降り立ったとしても、そのまま名古屋や海外客に人気の岐阜・高山などへと向かわれてしまう。セントレアは、鉄道駅に直結しているため交通の利便性が高いのもウリ。それが常滑市にとっては逆に作用した面も。

観光戦略プランの中間調査によると、2024年の常滑市全体の観光入込客数は約476万人だったが、観光の目玉である、窯業が盛んだったころの風情を残す町並み「やきもの散歩道」を訪れたのは約26万人。6%に満たないのだ。

昭和初期ごろに最も栄え、陶器工場が並んでいたまちなみのことを「やきもの散歩道」と名付け、観光スポットに。カフェや雑貨店などがオープンするなか、写真の明治期の土管と昭和初期の焼酎瓶が壁面をおおった“土管坂”や、民家で陶器の廃材利用した箇所があるなど、歴史ある焼き物のまちを感じられる(※観光の際は、私有地への無断侵入など住民への配慮を)昭和初期ごろに最も栄え、陶器工場が並んでいたまちなみのことを「やきもの散歩道」と名付け、観光スポットに。カフェや雑貨店などがオープンするなか、写真の明治期の土管と昭和初期の焼酎瓶が壁面をおおった“土管坂”や、民家で陶器の廃材利用した箇所があるなど、歴史ある焼き物のまちを感じられる(※観光の際は、私有地への無断侵入など住民への配慮を)
昭和初期ごろに最も栄え、陶器工場が並んでいたまちなみのことを「やきもの散歩道」と名付け、観光スポットに。カフェや雑貨店などがオープンするなか、写真の明治期の土管と昭和初期の焼酎瓶が壁面をおおった“土管坂”や、民家で陶器の廃材利用した箇所があるなど、歴史ある焼き物のまちを感じられる(※観光の際は、私有地への無断侵入など住民への配慮を)こちらも観光スポットの一つ、常滑焼の展示をする「陶芸研究所」。建築家の故・堀口捨己氏により設計された建物は、国の登録有形文化財になっている。紫色のモザイクタイルの外壁も美しい

シャトルバスは、常滑駅→やきもの散歩道(陶磁器会館)→りんくう常滑駅・イオンモール常滑→空港島ホテル群→空港連絡通路下→Aichi Sky Expoを巡回(※午後5時台以降は、やきもの散歩道はなし)。午前9時40分~午後10時台まで、1時間に1~2本となっている。

筆者も経験があるが、海外で公共交通機関を利用するとき、切符が目的地までの料金できちんと買えているかなど不安になることがある。シャトルバスによってそれが解消されることで、満足度が高まる期待がある。

昭和初期ごろに最も栄え、陶器工場が並んでいたまちなみのことを「やきもの散歩道」と名付け、観光スポットに。カフェや雑貨店などがオープンするなか、写真の明治期の土管と昭和初期の焼酎瓶が壁面をおおった“土管坂”や、民家で陶器の廃材利用した箇所があるなど、歴史ある焼き物のまちを感じられる(※観光の際は、私有地への無断侵入など住民への配慮を)空港島と常滑市街地をつなぐ「TOKONAME SHUTTLE」。常滑市キャラクター「トコタン」のデザインがかわいく、印象に残りやすい(写真提供:常滑市)

宿泊施設経営側から見た宿泊税導入は?

宿泊税について、宿泊業を営む側からの意見もお伺いした。ご協力してくださったのは「ヒルズハウスセカンド」の山中潤一さん。

常滑市の観光を盛り上げようという策には「大賛成」で、1月から始まった宿泊税徴収については「目立ったトラブルらしきものはないですよ」と山中さん。山中さんの施設では、ホームページの料金のところに宿泊税が含まれている旨を記載し、さらに「宿泊税は空港シャトルバスサービスなどに活用されています」と案内している。この一文が追記されていることで、単に払わなければならないものという意識だけのところから、ちゃんと役立てられるんだという思いが生まれて、とてもいいと思った。

2025年4月から始まったシャトルバスだが、さっそく予約時の問い合わせがあった際に、時刻表が記載された常滑市の公式観光サイトのURLを紹介すると、実際に活用して山中さんの宿までやって来たことも。宿の最寄りのバス停は、やきもの散歩道(陶磁器会館)。そこから観光スポットの一つである巨大まねき猫の“とこにゃん”目印に徒歩5分で到着する。シャトルバスを降りてからすぐに常滑焼の歴史を感じられる好ルートでもある。

「ヒルズハウスセカンド」のすぐ近くにあり、人気スポットとなっている、巨大まねき猫・とこにゃん「ヒルズハウスセカンド」のすぐ近くにあり、人気スポットとなっている、巨大まねき猫・とこにゃん

2022年10月に民泊からスタートした山中さん。きっかけは、地域の若い人たちが中心となって1985年から2011年まで行った「とこなめ国際やきものホームステイ」のホストファミリーになったことだ。同企画は、海外から20名前後の陶芸家など常滑焼に興味を持つ人を招き、約40日間、ワークショップや地域活動への参加をしてもらうというもの。

「その方たちがまた来たいとなったときに、この企画に参加できるのは1度だけなので、ホームステイはできない。今ほど宿泊施設がなかったので、泊まれるところ、40日間も滞在できるところがあるのかと。そこで、会社員の現役時代は難しいと思ったので、引退したら、そういう方たちが泊まれるところをやってみようと思いました」

定年予定が2015年だったので、2012年に古民家を購入し、3年かけてリフォームして準備を進めていた。ところが、定年延長制度で5年間雇用が延び、迎えた2020年は新型コロナウイルス感染症が猛威をふるって来訪者も激減する事態に。落ち着き始めた2022年からとなった。

当時は、民泊やゲストハウスは、山中さんの施設を含めて2軒しかなかったという。そこから3倍ほどに増えた。その背景には、1975年ごろに新興住宅が作られたことがある。50年経ち、その住宅を購入した若い夫婦も老齢期となり、子どもたちは巣立つなどして、空き家になってしまうのだ。そこを買い取ってDIYしたりして宿泊施設に生まれ変わっている流れがあるそうだ。

「古民家や空き家をネガティブに見るんじゃなくて、うまい具合にいまの状況と一致しているんじゃないかなと思って」と山中さん。日本ブームの盛り上がりでのインバウンドの増加やアフターコロナなどからの需要もあるだろう。

そんななかで始まった宿泊税導入に山中さんも期待するが、課題も指摘する。「シャトルバスの待ち時間が長いとか、本数が少ないとかあります。その代替案として、電車で常滑駅に来た場合、荷物を置く場所がないので、預かり場所とかできると便利かもしれないですね。宿泊税を払った人には無料にするというのでもいいかもしれない」とアイデアも飛び出した。

「今思ったただけでもアイデアが出てくるから、常滑中の人が考えたらいいものができるだろうなって期待しています。市が考えたものには押しつけだと感じてしまうこともあるから、市民が盛り上げて、市民が考える。市はそれができる環境を作ってくれるといいのではないかなと思います」と山中さんは話す。

「ヒルズハウスセカンド」のすぐ近くにあり、人気スポットとなっている、巨大まねき猫・とこにゃん「ヒルズハウスセカンド」。オーナーの山中さんは大阪府出身で、社会人になって関東で10年勤めたあと、1988年に常滑市に移住した。「1980年ごろの東海地区というのは、第二東名高速道路(現・新東名高速道路)や中部国際空港、リニアの整備予定が出てきて、首都遷都のうわさも(笑)。それで注目をして、伊勢湾と渥美半島に囲まれたいいところだなと常滑に決めました」

人口目標6万人へ、観光の盛り上がりとともに魅力ある、住みよいまちへ

山中さんもおっしゃっていたように、森さんも宿泊税の支払いに関してのトラブルは特に聞いていないという。大都市圏で導入されていることで抵抗感もそれほどないようだ。また目に見えて、財源が観光に便利さを生んでいることもいいのではないだろうか。

空の玄関口として、たくさんの人が降り立つ常滑市。「わたしたちの市も決して他に負けていない地域資源がいろいろあります」と語る森さんは、実は市外出身で「常滑に来て、コンテンツの幅広さを知りました」という。「歴史があるまちですし、お祭りや、地元の人がプライドを持ってずっと受け継いできている伝統産業、農業や漁業など。それらは地元の人にとって”当たり前”であり、観光というものに今までなかなか結びつかなかった、PRにつながっていなかった」と、実現に向けて着々と動いている。

宿泊税を含む観光の取り組みはまだまだこれから。「日々新しいことが起きていますので、今後の課題という認識の前に、こういうことがあるんだという気づきや発見が次々と出てきたり(笑)。宿泊税含め、とにかく今はたくさん手を打っている状況なので、これからそれを検証していく作業が必要です。かわいいデザインのシャトルバスが走っていると、観光客の方の目につくのはもちろんですが、市民の方が普段の生活の中で見かけることで、市は観光に力を入れていて、常滑の魅力を知ってもらおうとしているんだなと考えていただけます。住んでいる皆様にもまちの未来というものを少しでも想像していただけるかなと思います」と森さん。

常滑市では、市民や団体、事業者、行政など互いに連携し、協力する「みんなでつくる」まちづくりに取り組むことを基本理念としている。「一緒にプロモーションをしてくれる仲間に、市民の皆様がなってくれると、素敵だなと思います」と森さんも願う。

「第6次常滑市総合計画」では、2028年までに人口6万人を目指すとある。常滑市も他都市と同じように、出生率が低くなっていて、いわゆる自然減の面があるものの、セントレアなどの施設で働く人や、外国人の移住者も増えていて、人口としては横ばいか、少し伸びている状況だという。「行政の職員として、人口減などをどう食い止めるかという話が多いなかで、どう増やしていくか、どう盛り上げていくかに携われるのは、すごくハッピーなことだと思います」と森さん。

観光の盛り上がりで、まちが活性化、成長。それが、住み続けたい、移り住みたいとつながっていく。宿泊税が、大切な未来への基盤の一つとなる。

常滑市内最高峰の高砂山の展望台から眺めるセントレア。ここも夕日ウォッチングの絶景ポイントとして人気常滑市内最高峰の高砂山の展望台から眺めるセントレア。ここも夕日ウォッチングの絶景ポイントとして人気

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