2014年以降の住宅政策を振り返る
2024年9月にLIFULL HOME'S総研より発表された調査研究レポート『STOCK & RENOVATION 2024』のうち、LIFULL HOME'S PRESS編集部 渋谷雄大が執筆した『社会背景の整理:住宅政策と住宅市場のこの10 年』の再掲によって、中古住宅を取り巻く住宅政策や住宅市場がどう変化してきたかを振り返る本稿。前回記事では2014年以前の住宅政策をまとめた。
■前回記事
URL2014年以前の住宅政策を振り返る~中古住宅を取り巻く住宅政策と市場の10年①
■LIFULL HOME'S 総研「STOCK&RENOVATION 2024」ダウンロードはこちらから
https://www.homes.co.jp/souken/report/202409/
2018年(執筆時点で公表されている最新データ)に持家として取得された既存住宅数は16.0万戸で、15.8万戸だった2014年以降、ほぼ横ばいで推移している※1。全住宅流通量(既存住宅流通戸数+新築着工戸数)に占める既存住宅の流通シェアも、約14.5%(2018年)で、2014年の14.9%から4年間で0.4ポイント減少と、こちらも横ばい傾向だ。
一方で、住宅リフォームの市場に目を転ずると、2022年時点でその市場規模は6.86兆円と、2014年の6.06兆円から9年間で13.2%の伸長が見られる※2。しかし、当然2010年に「新成長戦略」で掲げた2020年時点での市場規模の目標(12兆円)には遠く及ばない。
“フローからストックへ”を合い言葉に「『住宅を作っては壊す』社会から、『いいものを作って、きちんと手入れして、長く大切に使う』社会の実現へ」と意気込んだ住生活基本計画。結果的に、そこで描いた青写真は実現しているとはいえない状況だが、2014年から2024年にかけて、国はどのような目的で、どのような取り組みを行ってきたのであろうか。10年間の住宅政策を振り返る。今回は、住宅ローン控除についてまとめた。
※1:総務省「住宅・土地統計調査」
※2:公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住宅リフォーム市場規模(増築・改築工事費及び設備費等の修繕維持費の合計)」
住宅ローン控除① 新築優遇の強化ともとれる、 消費増税にともなう措置
2014年といえば、消費税が5%から8%に引き上げられた年である。前回消費税が引き上げられたのは1997年だが、このときの増税前年(1996年)は駆け込み需要により新設住宅着工戸数が前年比で11.8% 増加(164.3万戸)した一方で、増税年(1997年)には前年比15.6% 減少(138.7万戸)と、増税を境に一気に住宅投資が落ち込んだ。この経験を踏まえ、2014年の消費税率引き上げでは、増税前後の住宅投資を平準化するべく対策が講じられる。その柱となったのが、住宅ローン減税である。
そもそも住宅ローン減税とは、住宅ローンを利用して住宅の新築や取得・増改築を行ったときに、年末時点のローン残高の一定の割合を所得税および住民税から控除することで持家の取得を促進する優遇税制だ。1972年に導入された住宅取得控除に端を発するこの制度は、特にバブル崩壊以降に規模が拡大されるなど、住宅投資を喚起する景気対策としての色合いが強まっていく。
住宅投資がGDPに占める割合は3.1%(2018年)だが、住宅建設は他の産業部門との取引が広範にわたることから、住宅投資が誘発する生産誘発額は住宅投資の約2倍に及ぶとされ、内需の柱として期待されているためだ。実際、2008年にリーマンショックによる急激な経済の冷え込みが発生した際には、翌2009年入居分から住宅ローン控除が大きく拡充されるなど、景気刺激策としてその役割を期待されていた。
リーマンショック後の拡充によって、一時最大控除額が600万円(長期優良住宅・認定低炭素住宅の場合。一般住宅の最大控除額は500万円)となっていた住宅ローン控除だが、2011年以降(長期優良住宅と認定低炭素住宅は2012年以降)はその規模が徐々に縮小されていく。しかし、2014年の消費増税を前に、増税前後の需要の平準化を促す手段として再び白羽の矢が立てられた。
2013年時点では控除の対象となる借入限度額が長期優良化住宅の場合で3,000万円(最大控除額300万円)、一般住宅の場合で2,000万円(最大控除額200万円)となっていたが、2014年以降は消費税8%または10%が課税されるケースに限り、控除の対象となる借入限度額が引き上げられることとなったのだ。具体的には、長期優良住宅・認定低炭素住宅の場合で借入限度額が5000万円(最大控除額500万円)、一般住宅の場合で4,000万円(最大控除額400万円)とされた。そもそも消費税は、事業者が事業として行う取引にかかるものであり、個人が売主の中古住宅を購入するときには非課税である。住宅取引で課税されるケースは主に、住宅の新築や増改築である。また、既存住宅を購入する場合でも売主が事業者である場合には“ 事業”とみなされ、課税対象となる。つまり、消費増税を機に、新築住宅の購入および増改築、そして事業者が売主となるいわゆる買取再販住宅の購入に、住宅ローン控除の優遇措置が設けられたのだ。なお、既存住宅については、従来通り借入限度額2,000万円(最大控除額200万円)とされた。
これにより、例えば非課税である土地代が高い場合などで、消費税が上がったとしても増税前より消費者の負担額が低くなるケースが生じた※3。また、消費増税のタイミングでは住宅ローン控除以外にもその負担軽減策が講じられた。そのひとつが、引き上げ後の消費税率が適用される住宅を取得する場合に、引き上げによる負担を軽減する名目で現金を給付する「すまい給付金」の創設である。住宅ローン減税は、支払っている所得税等から控除する仕組みであるため、収入が低いほどその効果が小さくなる。そのため、住宅ローン減税の拡充による負担軽減効果が十分に及ばない収入層に対して、住宅ローン減税とあわせて負担の軽減を図ろうとするもので、最大30万円が給付された。これらの施策の結果、新設着工戸数は増税前年の2013年で前年比11.0%増の98.0万戸、増税の年となる2014年で前年比9.0%減の89.2万戸と、前回増税時よりも平準化した。しかし耐久財全体では前回増税後を上回る消費の落ち込みが発生しており、消費増税関連法で明記されていた2015年の税率10%への引き上げは、2度の延期を経て、2019年10月に実施されることとなった。
続く2019年10月の消費税率10%への引き上げでは、住宅ローン減税が再びテコ入れされる。消費税10%が適用される住宅を取得した場合に、ローン控除の期間が従来の10年から3年延長され、増税負担分の範囲内で追加の控除が行われた。また、すまい給付金の給付金額も最大50万円に増額されるとともに、対象となる所得層が拡大された。すまい給付金も消費税が課税される住宅取得が対象であり、新築・増改築と買取再販の場合に適用され、既存住宅は給付の対象外となる。
なお、住宅ローン控除については、実際にいくら戻ってくるかよりも、最大○○万円という数字が与えるイメージは大きいという見方もあり[1]新築住宅の価格には消費税が含まれていたとしても、より控除額の大きい新築住宅のほうが「お得」だと感じる人もいるだろう。さらには、消費税が10%の住宅を取得した場合には住宅取得等資金の贈与税の非課税限度額の引き上げ(関連記事参照)も行われた。このように、消費増税対策の名の下で、新築住宅および買取再販住宅を購入するインセンティブとなり得る施策が実施されたのである。
※3:例えば、土地2000万円+建物2000万円の計4000万円を借り入れるケース。10年間で1000万円を返済し、10年間平均の年末ローン残高を3500万円とする。 それまでのローン減税では200万円が最大控除額だが、拡充後の控除額は10年間で350万円となり、控除額が150万円増える。消費増税による負担増は60万円(2000万×3%)なので、増税分以上に控除されることになる
住宅ローン控除②誘導的な役割が強い制度設計
この10年、住宅価格は上昇を続けている。2010年1~12月の算術平均値を 100とした国交省の住宅価格指数(住宅総合)は、2014年1月時点で101.49だったが、2024年1月には161.1と上昇。新型コロナウイルス感染症の感染拡大に起因するウッドショックやサプライチェーンの逼迫、さらには建設業界の人手不足などが顕著となった2020年以降で特に上昇角度が上がっている。また、マンションに限ると2014年1月時点で110.08だったものが、2024年1月には197.31となるなど、その価格は10年で2倍近く上昇。アベノミクスによる大胆な金融緩和が展開された2012年末より現在まで右肩上がりに上昇している。
2019年の消費増税を機に変更された住宅ローン控除は、当初2021年で終了する予定であったが、年々上昇傾向にある住宅価格などを背景に、住宅取得時の初期負担軽減が必要だとして2023年まで2年間延長されることとなった。
しかし、2016年以降のマイナス金利政策を背景に、その「逆ザヤ」状態が会計検査院から問題視される。会計検査院の調査では、実際の借入金利が1%未満の人が住宅ローン控除特例適用者の78.1%を占めるとされた。当時の控除率は1%であるから、つまり78.1%の人が、実際に支払っている利息以上の金額を住宅ローン控除によって控除されているということになる。これでは、本来の趣旨と離れた住宅ローンの使われ方がされる可能性があるというのだ。そこで、2022年以降の住宅ローン控除では、控除率が0.7%に引き下げられることとなった。さらに、2022年からは、長期優良住宅と認定低炭素住宅のほか、ZEH水準省エネ住宅や省エネ基準適合住宅といった一定の性能を有する住宅を取得する場合にも、一般住宅と比べて控除対象となる借入限度額が引き上げられた。そして2024年以降、2025年度からすべての建築物で省エネ性能適合が義務化(後述)されるのを前に、ついに省エネ基準を満たしていない新築住宅は住宅ローン控除が受けられないこととなったのである。
消費増税以降、増税による負担を軽減することに重点が置かれていた住宅ローン控除だが、2022年以降は、前述のとおり住宅の性能が高いほど控除額を大きくするなど、計画実現のための誘導的な役割が強い制度設計となっている点が特徴的といえる。
住宅ローン控除③住宅ローン控除の築年数制限は、2022年にようやく廃止
2021年以前の住宅ローン控除は、既存住宅を購入した場合、マンションなどの耐火住宅で築25年以内、一戸建てなどの非耐火住宅で築20年以内の住宅が控除の対象※4とされてきたが、2022年からは築年数要件が緩和され、1982年以降に建てられたこと(新耐震基準適合)が条件とされた。不動産流通経営協会が「中古住宅購入における住宅ローン利用等実態調査」の調査結果で「築年数要件が、築浅物件を選択する方向に誘導機能を発揮している」と指摘しているように、これまでは、高経年であってもなお十分に活用可能な住宅の流通を、築年数要件が阻害していた可能性がある。しかし、2022年以降は、2022年時点で築40年の住宅であっても住宅ローン控除の対象となるなど、対象となる住宅が大きく増えることで、さらなる既存住宅の流通活性化が期待されている。
※4:築年数要件の緩和以前も、特例措置により耐震に関する証明書を取得すれば築年数が適用条件を超える場合でも住宅ローン控除を利用することは可能だったが、築古物件であったためにローン控除を利用できなかった人の半数以上が特例措置の適用について「何もしていない」との調査結果がある(不動産流通経営協会「中古住宅購入における住宅ローン利用等実態調査」)
■参考文献
[1]荻原博子、2016「生き返るマンション、死ぬマンション」文芸春秋
次回は2014年以降の住宅税制と住宅性能を振り返る。
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