東日本大震災をきっかけに「全日本芋煮会同好会」が発足

芋煮とは里芋を中心に野菜、肉などを煮込んだ郷土料理で、東北地方を中心に広く愛されてきた。秋の収穫の季節になると地域のさまざまな団体が河原などで芋煮を囲む芋煮会が開かれており、最近では各地で芋煮シーズンの到来に合わせた大規模な観光イベントとして開催されることも増えている。

その芋煮、芋煮会をツールとする団体「全日本芋煮会同好会」が立ち上がったのは東日本大震災後の2012年。被災地を支援する活動の中で仮設住宅でのコミュニティの状況と課題を目の当たりにした山形県北村山郡大石田町出身の黒沼篤さんがその解消に芋煮会が寄与するのではないかと考えたことがきっかけだった。

炊き出しや復興コンサートにも意味はあるが、そうした支援は受け身一方。それだけでは人との間に繋がりは生まれにくい。震災から立ち上がろうとする地域の住民同士がもっと関係を深められるものはないかと考えたのである。

全日本芋煮会同好会。芋煮ではないことに注目。芋煮会がメインなのである全日本芋煮会同好会。芋煮ではないことに注目。芋煮会がメインなのである
全日本芋煮会同好会。芋煮ではないことに注目。芋煮会がメインなのである取材時の黒沼さん。とにかくパワフルな方で、それこそが芋煮パワーか

「住民が一緒に取組み、一緒に共感できるものはないかと考えたとき、ふと地元山形の秋の河原で繰り広げられる『芋煮会』のイメージが頭に浮かびました。
単なる郷土料理ではない、単なる野外の食イベントではない、この『みんなで持ち寄る』『一緒に作る』『シェアする』芋煮会の本来のパワーが、もしかしたら人と人、地域と地域を繋いでいけるのではないかと考えたのです」

そこで黒沼さんは全日本芋煮会同好会をひとりで立ち上げた。最初は独自で芋煮会イベントを企画してSNSで参加を呼びかけたり、当時住んでいたシェアハウスのキッチンを利用して老若男女の居住者と芋煮会を楽しんだり、食のイベントで知り合った仲間とで持ち寄り芋煮会を開催したりと身近なところからスタート。現在では食関係の事業をおこなっている勤務先の同僚たちも活動に参加、同社の公式NOTEにも紹介されるようになっている。

「持ち寄る」「一緒に作る」「シェアする」をテーマに芋煮会を定義

主な活動としては年に1~2回は会場を借りての大きなイベントを開催。もう少し小規模な防災活動、コミュニケーションを図るためなどイベントをしばしば。そして芋煮会に魅力を感じた企業、団体からの依頼で社内の研修や親睦会でファシリテーションをやるなど。

「大規模マンションの理事会の依頼で住民のコミュニケーションを図るために開催したり、品川区では防災課と一緒に炊き出し用のかまどを4つ使い、800食の芋煮を作りました。この時には芋煮ボランティアを募集、区民の方々にも参加していただきました。軽井沢では学びのために集まった140人を8つのチームに分けて芋煮を作る大規模イベントのファシリテーションも。参加者からは一緒に作りながら誰かに感謝したり、サポートしてもらったりという経験が新鮮だった、チームビルディングに有効だったと驚かれました」

真剣な表情で作り方を説明する黒沼さん(右)真剣な表情で作り方を説明する黒沼さん(右)
真剣な表情で作り方を説明する黒沼さん(右)芋煮を囲めばみんなハッピー。面白いことにどのチームも自分たちが作った芋煮が一番おいしいと言うそうだ

コロナ禍で一時活動しにくい状況が続いたが、2023年からはNTTデータ経営研究所と一緒に「あったかぼうさいスーププロジェクト」をスタートさせるなど活動を広げつつある。このプロジェクトでは被災時でも自宅にあるストック材料、代替食材で作れる芋煮レシピを開発したり、現場で芋煮作りを率先してできる防災イモニストを養成したりという活動を全国で展開。芋煮、芋煮会のパワーを広げつつある。

活動を広げていくにあたり、芋煮=里芋という要件を見直した。

「東北での芋煮には里芋が欠かせません。里芋が入った汁物と思っている人が一般的だと思いますが、そう定義してしまったら1年中里芋が手に入るとは限りません。災害時には芋煮は作れないことになります。そこで昨年後半から会のテーマを「持ち寄る」「一緒に作る」「シェアする」に寄せ、里芋ではなくてもいい、食材はもっと多様性があってもよいということにしました」

真剣な表情で作り方を説明する黒沼さん(右)里芋にこだわり過ぎず、幅広い食材を使っていこうというのが現在のスタンス

災害時にも威力を発揮する芋煮

そもそも芋煮は今の形からスタートしたわけではない。

「芋煮のルーツは江戸時代にあると言われます。当時、北海道から京都を繋ぎ、物資の流通に多大な役割を担っていた北前船が最上川を経由して山形県内陸部に向かうなかで、風を待つ間に船頭が河原で鍋を囲んだのが始まりとされており、その時に煮ていたのは積荷の棒鱈、近隣で栽培された里芋。京都にも「いもぼう」という棒鱈と芋を煮た料理があります。諸説ありますが、芋煮のルーツは京都といえるかもしれません。
具に肉が使われるようになったのは戦後のこと。里芋自体は南方の作物で山形周辺が北限。ちょうど稲刈りの時期に里芋も収穫期を迎えることから、農作業の労をねぎらい、短い秋を楽しむために芋煮会が開かれるようになりました」

いつもの食材が手に入らなくても、ないモノは今あるモノに置き換えて作れるようになれば防災力はあがる。普段ウチにあるもの、ストックしてあるものを使って災害時に温かく、栄養があるものを作れるようになる。

「普段使用する食品や日用品を少し多めに備蓄、消費した分を買い足すことで常に一定量の備蓄を保つローリングストックというやり方がありますが、そうした食品を使って芋煮が作れれば防災力、生きる力のアップに繋がるほか、フードロスを防ぎ、食べ物を大事にすることにも繋がります。みんなができるようになったら家計にも、栄養にもメリットがあるはずです」

災害時には防災食を食べる前に冷蔵庫にある、放置しておくとダメになるもの、備蓄してある食品を使って作ると良いだろう。

芋煮は東北地方で愛されてきた郷土料理のひとつ。河原などで芋煮を囲む芋煮会は秋の風物詩とされるが、その芋煮会を防災、チームビルディングなどにも活用できないかと東日本大震災以降続けられてきた活動がある。その全日本芋煮会同好会が開催したイベントに参加、話を聞いてきた。こちらがぼうさい芋煮。これにもいくつかバリエーションがある。というより、その時にあるもので作るのがぼうさい芋煮の基本だろう

4種類の芋煮を食べ比べ、芋煮作り体験も

2024年11月末に北品川にある本照寺にある寺子屋みろくで行われた芋煮文化祭2024に参加した。会場となった寺子屋みろくは寺本来が持つ垣根のないコミュニケーションの場を目指して築100年以上の庫裡をフルリノベーションしたもの。路地裏にある私設公民館といった趣の場所である。

その日用意された芋煮は4種類。山形村山風は醤油味で、里芋、牛肉、こんにゃく、長ネギを中心に地域によってごぼうやキノコ類が入るもの。この日はしめじが入っていた。〆には残りのスープを使ったカレーうどんが人気とのこと。

宮城風は味噌味で肉は豚。さまざまな根菜を使い、具材を柔らかく煮込むのが特徴とのこと。全日本芋煮会同好会のレシピでは生姜を多めに入れてアクセントをつけているそうだ。

認知度でいえば一番高いのが山形の芋煮。牛肉をたくさん作るため、単価は高くなるそうだ認知度でいえば一番高いのが山形の芋煮。牛肉をたくさん作るため、単価は高くなるそうだ
認知度でいえば一番高いのが山形の芋煮。牛肉をたくさん作るため、単価は高くなるそうだこちらは宮城風。肉だけでも牛、豚、鶏とあり、味付けも醤油、味噌といろいろ

芋煮は東北と思っていたら、愛媛いもたき風アレンジというメニューもあった。鶏肉を使った醤油味で、愛媛県大洲市が発祥と言われる日本三大芋煮のひとつ。お籠りと呼ばれる伝統行事で振る舞う鍋に各自が地元名産の里芋を持ち寄ったことが始まりだそうで、現在では秋に河川敷で月を肴に里芋を味わう観光事業になっているという。

そしてもうひとつがぼうさい芋煮(備蓄品バージョン)。災害時でも温かく、栄養豊富で水分が補給でき、被災者が心の安らぎを得られるスープとして作られた。里芋の代わりにさつまいも、肉類の代わりに凍み豆腐、麩、切り干し大根を入れており、ベジタリアンにも対応できる。

当日は4種類のうち、2種類を選べる食べ比べセット(700円)のほか、芋煮単品(400円)、飲み物などが販売され、見ていると実に多くの人が食べ比べセットを選択。追加で全品を制覇する人も少なくなかった。

認知度でいえば一番高いのが山形の芋煮。牛肉をたくさん作るため、単価は高くなるそうだ芋煮といえば東北と思っていたが、実は日本のあちこちにあった。こちらは愛媛バージョン
認知度でいえば一番高いのが山形の芋煮。牛肉をたくさん作るため、単価は高くなるそうだ具材に肉はないが、凍み豆腐などタンパク質も入り、乾物の旨みがしみじみおいしい

芋煮なら簡単作業もあり、みんなで作れる

食べるだけではなく、実際に芋煮を作る体験会もあった。事前に申し込んだ人たちが里芋の皮を剥く、こんにゃくをちぎる、しめじをバラバラにするという3つの工程を体験するのだが、見学しているだけでも発見が多かった。
ひとつは里芋の皮はナイフの背を使い、こそげるように落とすということ。包丁できれいに切らなくてもよく、かつ灰汁を取るために茹でることもしない。それでも出来上がった芋煮はとてもおいしく「なんだ、家庭の、毎日の料理ならこれでよいのだ」と感じた。
こんにゃくはフォークなどを突き刺した後に手でちぎるのだが、これなら子どもでもできる。しめじをバラバラにするのも同様。料理の経験がなくても誰にでもできる。少し大きな子どもであれば里芋の皮剥きもできるはずだ。

「一緒に作ることを意識しているので子どもでも安全にできる工程があります。簡単なだけでなく楽しくもあり、こういうやり方をすることでいつもは料理をしない人も引っ張りこみたいと考えています」

参加者全員で黒沼さんの手元を注視。そんなにきれいにこそげなくても可参加者全員で黒沼さんの手元を注視。そんなにきれいにこそげなくても可
参加者全員で黒沼さんの手元を注視。そんなにきれいにこそげなくても可こんにゃくはフォークなどでぶすぶす突き刺してから手でちぎる。こうしたほうが味もしみやすくなるそうだ

「料理をしない人」という言葉には黒沼さんの違和感が含まれている。黒沼さん自身は大学時代から料理をする人だが、郷里の芋煮会では作るのは女性たちと決め込み、調理に加わらず食べて飲むだけの男性たちも少なくなかった。それが嫌で今でも県人会などから「芋煮を作ってよ」と言われるとつい「自分でも作れるのに」と思い、お断わりすることもあるという。

平常時の役割分担が非常時に持ち込まれるのは過去の災害報道からも見てとれる。日常で動けない人は非常時にも動けない。本来助け合わなくてはいけない時に座り込んだままの人がいるのは互いにマイナスだろう。それを考えると一緒に作るという言葉の大事さがよく分かる。

参加者全員で黒沼さんの手元を注視。そんなにきれいにこそげなくても可左手のテーブルに4つの鍋が並び、来場者はここで好きなものを注文する。内容について質問する人も多かった
参加者全員で黒沼さんの手元を注視。そんなにきれいにこそげなくても可今回、SNSを見て参加したという人が多く、開場前に人が集まっていたほど盛況だった

“イモニスト”になるためには

美味しいイベントというだけでなく、その背後には深い意味、思いのこもった活動というわけだが、ここからは芋煮を作ってみたい、活動に参加してみたいと思った人に。

まず、芋煮自体は分量、調味料、材料ともに地域により、作る人によってさまざまで、それほどがちがちにレシピを意識する必要はない。正解がない料理なのである。ただ、健康を考えると意識すべきことがある。

「山形の昔ながらのレシピは醤油、砂糖を大量に入れたしょっぱくて甘いもの。芋煮が大好きでもそれを食べ続けたら健康的ではないので、死ぬまで食べ続けられる持続的な芋煮を目指して、塩分、糖分控えめなレシピを推奨しています。失敗しないためには砂糖の代わりに日本酒、醤油より出汁醤油を使うのがお勧めです」

次に全国芋煮会同好会に参加してみたいという人はまず、同会のイベントに参加してみること。プロセスを体験した人はそれだけでイモニストジュニアになれ、自分で仕切って芋煮会を開催できるようになったらイモニストプレーヤー。そのプレーヤーを育てられるようになるとイモニストコーチに昇格。現在、イモニストコーチは4人いるそうだ。

さらにその上位にはイモニストマスターというポジションがあるが、現在、これは空席。「芋煮(IMONI)といえば世界中見渡してもこの人、と言われるスターウォーズのヨーダのような存在」だそうで、代表自身がその存在になるべく奮闘中だ。

伝統のある郷土食だが、昔のままの味付けでは塩分、糖分が濃すぎることも伝統のある郷土食だが、昔のままの味付けでは塩分、糖分が濃すぎることも
伝統のある郷土食だが、昔のままの味付けでは塩分、糖分が濃すぎることもイモニストというネーミング自体が楽しい

また、芋煮会をやってみたい、サポートして欲しいという人は同会ホームページから問合せを。内容に応じて運営やレシピに関するアドバイスなどを行っており、年間10件ほどの相談がある。そのうち、社会的に意義があると思われるものには実際に運営をサポートに出向くこともあるそうだ。

さて、最後にお味について。どれもおいしかったのだが、驚いたのは肉の入っていないぼうさい芋煮が意外にコクがあっておいしかったこと。特に麩、凍み豆腐が味わい深く、これならウチでも作ってみようかと思ったほど。同会ホームページにはその他のバージョンも含めてレシピが掲載されているので関心のある人は家族揃ってトライしてみてはどうだろう。

そうそう、みんなで集まって作る際にはレシピの途中に「肉投入の記念撮影ポイント」などと指示があるので、それに従って盛り上がるのを忘れないこと。その時の合言葉は「はい、イモニー!!」。笑顔は芋煮をおいしくする大事なスパイスなのである。

■取材協力
「全日本芋煮会同好会」
https://imonikai.jp/

伝統のある郷土食だが、昔のままの味付けでは塩分、糖分が濃すぎることもこの日いただいたぼうさい芋煮。生姜も入ってすっきりした味わい
伝統のある郷土食だが、昔のままの味付けでは塩分、糖分が濃すぎることもみんなで楽しく作り、振る舞った後の記念写真。笑顔が素敵だ

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