チャレンジしたい人や企業が集まる横瀬町

横瀬町苅米地区の寺坂棚田と武甲山横瀬町苅米地区の寺坂棚田と武甲山

官民連携プラットフォーム「よこらぼ」を活用したまちづくりで注目を集めている埼玉県秩父郡横瀬町。人口7,600人ほどの小さな町では、「よこらぼ」を起点とした企業や個人などによるまちづくりの実践や実証実験が進められ、町に新しい風を吹かせている(2023年10月30日時点までの採択数は141件)。

人口減少という課題を抱えながらも、「日本一チャレンジする町」を掲げる横瀬町で2022年に立ち上がったのが「みんなでつくる日本一幸せな町横瀬協議会」、通称「しあつく」だ。

地域の活性化は、一部のまちづくりに関わる人だけのものと思われがちだが、横瀬町には、各々が考えるウェルビーイングな事業やプロジェクトを支援するための仕組みがある。「町にはこんなことが必要なんじゃないか」「こうなったら楽しい」と感じたとして、そのアイデアを実現するのは一般的に簡単なことではない。「しあつく」は、町と連携し、ウェルビーイングな取り組みへの助成や支援を行っている。

横瀬町のウェルビーイング施策についてはこちらの記事を参照

横瀬町のウェルビーイングなまちづくり。「その人らしい幸せ」がかなう町を目指して
https://www.homes.co.jp/cont/press/buy/buy_01751/

横瀬町にウェルビーイングの事例を生む「しあつく」

心身と社会のよい状態を意味するウェルビーイングは、1946年にWHO(世界保健機関)憲章で健康の定義として触れられたのがきっかけに広まり、一般にも浸透しつつある言葉だ。昨今では、ウェルビーイングをまちづくりに取り入れる自治体も見られるようになった。

横瀬町は、前述した官民連携プラットフォーム「よこらぼ」だけでなく、ウェルビーイングを推進する町としても知られている。町の小中学校ではウェルビーイングが授業に取り入れられ、市民向けにもウェルビーイングに関するワークショップなどが開催される。横瀬町総合振興計画(第6次)にはウェルビーイングの指標が取り入れられており、まさに町をあげて町民の幸福の最大化を図っているのだ。

自治体におけるウェルビーイング推進については、横瀬町のほかにも、富山県や東京都荒川区などでもそれぞれ独自の取り組みが進められている。だが、まだ実験的な段階で、指針となるマニュアルのようなものがあるわけではなく、各自治体手探りで進めているような状況であると考えられる。

そんななか、横瀬町の「しあつく」は、ウェルビーイングに関わる事例を推進する役割で生まれた。「しあつく」には、幸福学研究の第一人者である慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授 前野隆司氏を会長に、横瀬町長 富田能成氏や町職員などがプロジェクトメンバーとして参画している。

ウェルビーイング(しあわせなまちづくり)のイメージウェルビーイング(しあわせなまちづくり)のイメージ

活動助成金だけでなく伴走支援も

しあつくプロジェクトメンバーの中村怜生氏と中澤文実氏しあつくプロジェクトメンバーの中村怜生氏と中澤文実氏

ウェルビーイングという言葉を耳にする機会が増えてきたとはいえ、実際に自分の生活に置き換えたときに、いったい何がウェルビーイングで何が支援の対象となるのか、そもそも何がしたいのか、思いつかないということもあるだろう。こうした場合も、「しあつく」のプロジェクトメンバーへ、企画前の段階からでも相談することができるようになっている。プロジェクトメンバーの中村怜生氏、中澤文実氏に話を聞いた。

「主に『しあつく』として行っているのは3つです。1つは町民の方との対話の場づくりで、『横瀬町しあわせ未来会議』という名称でワークショップを開催しています。町の課題や参加者の方の困りごと、こんなことができたらいいんじゃないかといったアイデアを出し合ったり企画をブラッシュアップしたりする場です。2つ目は、企画に対する伴走支援と活動サポートです。プロジェクトによっては横瀬町と連携し、活動助成金を助成することも含まれます。3つ目は、幸福度調査の設計やアンケート調査などの活動です」(中村氏)

「しあつく」の活動助成金は、横瀬町の企業版ふるさと納税を原資にしている。助成金額は1件あたり最大40万円で、応募条件は横瀬町、または秩父地域(1市4町+東秩父村)での活動であること。みんなでつくる日本一幸せな町横瀬協議会役員会の審査を経て、採択されると助成対象となる(助成金額などの制度内容は今後変更になる可能性あり)。

よくある空き家の活用や子どもの居場所づくりなど特定の目的に縛られることなく、「みんなで日本一幸せな町をつくる」ことが目的なので、細かな制限がない分、活動の幅が広がりやすそうだ。

「私たちは伴走支援を担当し、公正を期すため審査会には参加しませんが、採択の対象となるかどうかは、町への影響や、一過性ではなく、持続性があるかなどの観点も含めて検討されます。寄付という公的なお金を活用しますので、しっかり価値として変えていけるように、企画の段階からブラッシュアップのお手伝いもしています」(中村氏)

しあつくプロジェクトメンバーの中村怜生氏と中澤文実氏横瀬町しあわせ未来会議のワークショップ

お祭りを地域の交流を深める場に

秩父夜祭・御神幸行列のこれからを考える会が町の交流場Area898で開催された際の様子秩父夜祭・御神幸行列のこれからを考える会が町の交流場Area898で開催された際の様子

「しあつく」が関連し、これまで幅広い取り組みが行われてきた。絵本を子育てに生かすワークショップや、自己理解を深めるアートのワークショップ、子どもの居場所を考える会など、子育てや自分を知ることによって結果的にウェルビーイングにつながっている。また最近では、横瀬町苅米地区にある八坂神社で開催されるお祭りで「しあつく基金」が活用された。

「お祭りを、もっと地域の方々が交流を深められる場にしたい、というご提案を町⺠の方からいただきました。私は東京から移住し、横瀬町は人と人との距離が近く、コミュニティのある町だと感じていますが、⻑く住んでいる方からすると、子ども会への参加人数が減ってきているなど、徐々に交流の機会が少なくなっていると感じるという声を聞くこともあります。お祭りを機に、コミュニティがまた少しずつ育まれていけば、結果的にウェルビーイングにつながっていくということで、助成をさせていただきました」(中村氏)

「『地域の祭りをどうしていくか?』をテーマにしたワークショップを開催し、私たちプロジェクトメンバーも同席しました。私たちのような部外者が入り、目的を問いかけたりどうしたいかを深めたりしていくことで、あらためてみなさんの想いを見つめなおし、ウェルビーイングにつながるということが確認できたと思います」(中澤氏)

当日は、お祭りの屋台を引くルートを変更し、交流会に参加しやすいように時間を調整して開催された。参加者たちが一同に集まって交流できるよう、今年は大きめの場所を用意したという。例年のお祭りを進化させたいという住民の思いと「しあつく」による支援がかみ合い、地域の行事に変化が起こったようだ。

秩父夜祭・御神幸行列のこれからを考える会が町の交流場Area898で開催された際の様子2024年10月20日、晴天のなか苅米八坂神社例大祭が開催された
秩父夜祭・御神幸行列のこれからを考える会が町の交流場Area898で開催された際の様子祭りには多くの人が集まった

「しあつく」で生まれた住民同士が話す場

横瀬町しあわせ未来会議は誰でも参加可能横瀬町しあわせ未来会議は誰でも参加可能

「『しあつく』をはじめたころは認知されていなかったので、『町⻑と語る会』などの町⺠が集まる場に同行して、活動の内容を説明していました。当初は、何かをやってみたいと思っていそうな方を見つけてこちらから声をかけていましたが、少しずつ浸透し、町内の口コミを聞いた方からお声がけいただいたりすることが増えました。何かしたいことがあったら『しあつく』へ相談できるという認識が、少しずつ広がってきていると思います」(中村氏)

「イベントのときに参加者の方が、『そもそも町の人同士で話し合う場がなかった、話せてよかった』と仰っていて。『しあつく』がひとつのきっかけになっているのだと思います」(中澤氏)

ウェルビーイングを実践する事例が着実に増えている横瀬町だが、「しあつく」の原資は企業版ふるさと納税だ。2023年度には2事業に対して合計約52万円、2024年度は3事業に対して約119万円の助成実績があるが、来年度の予算はどれくらいの規模になるのか、まだ見えていない。今後、安定した原資を確保するために、町内外問わず賛同いただける方からの寄付を募る制度も検討しているという。

コミュニティをよりよくしたいと思っている住民がいて、町にそのウェルビーイングな思いを支援する仕組みがあるというのは、魅力的な地域といえるのではないだろうか。

「しあつく」へは、プロジェクトメンバーとして参加する、企画を提案する、企業版ふるさと納税で寄付する、などの関わり方ができる。興味がある方はこちらを参照してほしい。

しあつく https://shiatsuku.com/

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