建築学生ワークショップ醍醐寺 2024。開山1150周年を迎える醍醐寺で開催
日本の建築の原初ともいえる「聖地」に集まり行う「建築学生ワークショップ」。建築を学ぶ大学生、建築やデザインなどの領域で日本をけん引する講評者たちが集い、建築の未来を担う後進の挑戦・成長の場だ。NPO法人 アートアンドアーキテクトフェスタ(AAF)が主催し、12回目の開催を迎えた2024年は、開山1150周年を迎える醍醐寺で開催された。
「今、建築の、原初の、聖地から」をコンセプトに行われた今回のワークショップ。
過去には、平城京跡(2010年)、竹生島(2011年)、高野山金剛峯寺(2015年)、明日香村(2016年)、比叡山延暦寺(2017年)、伊勢神宮(2018年)、出雲大社(2019年)、東大寺(2020年)、明治神宮(2021年)、宮島厳島神社(2022年)、仁和寺(2023年)といった日本の聖地で開催されてきた。
2024年の舞台となった醍醐寺は、874年(平安時代)に空海の孫弟子の理源大師聖宝が開山した真言宗醍醐派の総本山だ。世界文化遺産にも指定されており、15万点ほどの文化遺産が残る聖地となっている。醍醐山頂上一帯の上醍醐から、山裾の下醍醐に広がる約200万坪の敷地には、歴史ある建造物と美しい自然が共存する。
本ワークショップでは、この場所の意味を読み解きながら、建築に落としていくことが求められた。
学生と講師が本気で建築に向き合う3ヶ月
建築学生ワークショップは、全国から建築を学ぶ大学生が集い、グループで「フォリー」と呼ばれる1日限りの建築物を公開プレゼンテーションに向けて制作する。今年は6月8日の現地説明会・調査に始まり、エスキース、リモート会議、制作、提案作品講評会、実施制作打合せを経て、9月10日から会場の醍醐寺で制作合宿を開始し、9月15日の公開プレゼンテーションを迎えた。
このワークショップの大きな特徴は、なんといっても学生、講評者ともに建築の現場に向き合う本気の姿勢だ。約半数の講評者たちは前日に会場入りし、制作途中の学生たちにアドバイスをして回る。前日の時点で、ある程度完成している班や、自立せずに試行錯誤している班、半壊し再度建て直すことになった班など進捗具合はそれぞれ。ある程度形ができている班でもよりよくするためのアドバイスや、抜本的に違うやり方のほうがよかったなど妥協のない指摘が入り、まだ完成に遠い班には講評者同士でどうやったらうまく立つかの議論が交わされていた。
名だたる建築家の講評者とともに同じフォリーの作り方を現場で議論できる機会はそうそうないだろう。学生と講評者が同じ立場で真剣に頭を悩ませる姿が印象的だった。
ぎりぎりまで試行錯誤を繰り返し、迎えた公開プレゼンテーション。
当日の朝8時にようやくフォリーが建ったという班もあった。学生、講評者ともに最後までこだわり抜いた3ヶ月の努力の賜物だ。熱量と緊張感で充満した空気の中で、公開プレゼンテーションと審査が行われ、受賞班が決められた。力作ぞろいの今年は、どの班が受賞することになったのだろうか。それぞれの班の作品を紹介していこう。
粒ぞろいの作品がそろったという2024年の作品
1班「自然ーじねんー」
仁王門前に制作された1班の「自然ーじねんー」は、自然・寺・人間の共存をテーマに、台風で倒れた木の枝を活用したドーム状のフォリー。不規則な形の枝を麻ひもで組み、規則性を持たせて支え合うレシプロカル構造を用いて作られている。前日の制作途中に半壊したものの、指摘を受けた高さの課題をクリアし、中に入り広い空を感じられる作品となった。
2班「伝う」
和紙と木で組んだ同じ形の四角形のパーツを組み合わせ、包み込まれるような形状をしたフォリー。「母なる仏」といわれる准胝(じゅんてい)観音のようなやさしく包み込んでくれる感覚を、フォリーを通じて体験することができる。三角形にしたほうがいいとアドバイスを受けたが、四角形にするためにパーツや全体のバランス設計をこだわり、最終的に四角形で実現した。和紙の白さが景色の中で映えていて、太陽の光や木陰もうまく利用した作品だった。
4班「むすび」
結界の役割を担う日月門の前で「結界性を増幅させ、自然と人の関わりに想いを馳せるきっかけをつくる」ことをコンセプトに置いた作品。竹材で作られたすだれ状の面材を巻き、大きさの異なる3つ円筒を連続したフォリーとなった。前日に「支えの部分をどうにか美しくできないか」という指摘を受け、フォリーのバランスを調整し、当日には支えの本数を減らす工夫をしていた。ボルトが見えてしまっているのが惜しいとの評価もあったが、思わずくぐりたくなるような造りとなっていた。
6班「空感(くうかん)」
土壁を塗られた六角形のレイヤーを、竹の柱から麻ひもで吊り下げることで、雲のレイヤーを表現。圧縮材と引っ張り材を活用したテンセグリティ構造や、竹や土壁といった自然由来の材料を使用した、他の班以上に自立に試行錯誤を必要とするフォリーとなった。前日はフォリーを自立させるために講評者がつきっきりで指導に入り、脚立に囲まれながら作業していたが、当日にはしっかりと自立した状態で作品を披露することができた。
8班「流るる」
1.8mmの細い針金をはんだで接合し、蜘蛛の巣を思わせるような網目の形状をしたフォリー。本殿から拝殿に向かう人の祈りの流れを表す見えない道をイメージして制作された。見えない道をテーマにしていたことから、接合部分をなるべく目立たないようにするためはんだ付けにこだわったという。前日の作業では間に合うかどうかが課題だったが、講評者のアドバイスで接合部を一部針金に変更し、当日に間に合わせることができた。1.8mmという細さで自立させたことに対して、講評者から高い評価がされた。
9班「ハレ」
2つの門に表書院、三宝院 庭園に囲まれた空間に立地する9班「ハレ」は、醍醐寺の竹とよしずで2枚の壁を立て、動線をつくったフォリー。特別な人しか通れない唐門からの動線を、冠木門から入る現在の動線からもフォリーを通り抜けることで追体験できるよう設計された。最初は竹とよしずの向きがそろえられていたが、講評者のアドバイスでよしずの向きを斜めにし、素材のよさがグッと引き出された。庭園をあえて見えないようにすることで、いったん心を落ち着けてから外に出るという設計が日本的でよいとの講評がされた。
10班「うつり」
板材を曲げ、組み合わせた10班のフォリーは、五重塔と向き合い対話する流れを表現した。カラフルな色使いにより、外からは見えない五重塔内部の色使いを可視化。前日に、もう少し高さを出して不ぞろいさを出したほうがいいとのアドバイスを受け、いちばん長い板をさらに1m伸ばしていたが、高さが出ることで目線がスムーズに五重塔に誘導され、立地のよさが引き出された印象だった。
特別賞、優秀賞、そして最優秀賞を獲得したのは?
ここからは、特別賞・優秀賞・最優秀賞を受賞した班を紹介していく。約3ヶ月の間、最後までこだわり抜いたレベルの高い作品のなかで、受賞したのはどの班だったのだろうか。
特別賞:5班「うつろい」
醍醐寺の奥地、美しい自然に囲まれた神秘的な空間「無量寿苑」に建てられた5班の「うつろい」が特別賞となった。醍醐寺内の落ち葉を集めたブロックを積み上げて作られたフォリーとなっている。1つのブロックに2万3,000枚もの落ち葉を使用し、150個のブロックを積み上げた。
木々の匂い、木漏れ日、滝の音など、五感を通してこの場所のよさを感じられる立地になじみ、またフォリーの中から自然を見ることで、五感を研ぎ澄ませて景色を楽しむことができる。テーマの「うつろい」は、五感の移ろいに加え、廃棄される落ち葉を建築として生まれ変わらせ、自然に還すという自然循環の移ろいを表す。立地のよさを十分に生かしたこと、そして落ち葉を活用する自然循環というテーマ性が高く評価された。
優秀賞:7班「泡沫」
優秀賞となったのは、7班の「泡沫」。朱色に染められた羊毛に囲まれる大きな球形のフォリーだ。金堂前に建てられ、包み込まれるような球体で命の原点「胎内」をイメージしている。密教の曼荼羅の「胎蔵界」を表していて、中から見た円形の竹のフレームが曼荼羅を思い起こさせるような形をしていた。斬新だったのが、このフォリーは回転する設計になっていたことだ。中に入ると窓から醍醐寺のさまざまな風景が切り取られて見られるようになっている。羊毛は糞や草のついている状態だったものを、1kg当たり6時間かけて8kgもの羊毛を洗い上げ、乾かし、着色したというが、ファッションの専門家の視点でこの作業を成し遂げたことに対して高く評価されていた。また、合宿に入った後のスムーズな制作進行から、事前の準備の徹底ぶりに対しても好評を得ていた。
最優秀賞:3班「くう」
最優秀賞を受賞したのは、3班の「くう」。不動明王の前という立地で「なにかがあるけど、なにもない」という違和感を具現化した三角形のフォリーだ。仏教において「なにもないこと」を示す「空(くう)」という概念に基づき制作された。
こだわったポイントは、でんぷんのりを素材として使用したことだ。でんぷんのりは、古くから寺と、まちの人々をつなげる役割を担っていたという。不動明王と「空(くう)」をつなげるという意味を考えて素材を選んだ。強度、透明度のバランスを考え、でんぷんのりの調合を考えるところから制作がなされた。でんぷんのりを予定していた大きな一枚のパーツにすることができず、合宿当初は立たせることができるか不安だったそうだが、諦めずに大小さまざまなパーツを組み合わせることで作品を完成させることができたという。審査では、新たな素材作りから始めるという発想力の高さが多くの講評者から好評を得る結果となった。
班のリーダーを務めた山田さんは、2021年、2022年の開催でも素材にこだわった作品で最優秀賞を受賞していて、講師陣からは「マテリアリスト」と呼ばれていた。こだわりが強いあまりに苦戦することもあったというが、それでも最後までやり遂げる情熱を評価されていた。素材の着想について山田さんは「できるだろうと思えるものを完成させるより、立つかわからないものをどうやって立たせるかという、学生の間だからこそできる挑戦をしたいと考えて素材を選びました」と話していた。
場所を読み解き、素材にまで落とし込む
今回受賞した班に共通するのは、意味のある素材を追求することでコンセプトを体現していた点だ。「寺とまちの人々をつなぐ」という意味を持つ3班のでんぷんのりに、自然が美しい無量寿苑だからこそ落ち葉で自然の循環を体現した5班、7班の羊毛も「醍醐寺の名は羊に由来しているという説もある」と醍醐寺の方からの説明が後付けがあった。講評でも素材に言及するコメントが多く聞かれた。
「今まで材料は作品を作る"手段"にすぎなかったが、今年は材料そのものに着目していたのがよかった」
「素材自体がメッセージとなり、物質じゃないものが物質になるのが面白い」
受賞した班以外でも、竹やよしず、和紙などそれぞれ異なる素材にこだわったことで、班ごとの個性が光る作品となっていた。
また、素材の観点でいえば、コンセプト性だけでなく、環境配慮まで徹底されている点も特徴的だった。聖地を会場としている以上、「ごみは出さず、1mmでも美しくして戻す」「リユース・リサイクルを考える」ことがレギュレーションとして定められていたが、3班のでんぷんのりは、醍醐寺の残土置き場で肥料として活用され、5班の落ち葉は山に還る。
そして、環境に配慮した素材を使うことで、結果的に建築がなくなっていくはかなさも表現された。でんぷんのりも、羊毛も、落ち葉も、雨が降れば形をなくしてしまう。講評では、「雨が降ったらなくなりそうだけど、あったという事実や崩れる美学を示せた作品の評価が高かった」という声が挙げられていた。雨は降らなかったものの、1日だけという条件があるからこそ表せる「崩れる美学」を見てみたいという気持ちにさせられた。
変化の過程に醍醐味のある建築学生ワークショップ。来年度は日本国際博覧会の会場で開催予定
本ワークショップ全体を通じて、アドバイスや現場の状況に応じて手を動かしながら柔軟に作品を変化させていく、思考力と対応力に醍醐味があると感じた。本ワークショップの図録をご覧いただければわかるが、ほとんどの班で、当初の想定と大きく異なる形の作品が仕上がっている。これこそが机上では得られない学びであり、実際に手を動かして一つの作品を作り上げるワークショップの意義である。だからこそ、総評の指摘にはコンセプトと完成作品が一致していないことも指摘された。
「コンセプトが最後に出来上がったものに接合していないと思われる作品が多かったです。最初に設定したコンセプトを、形にして構造にしていく間の試行錯誤がすごすぎて、最初と最後で全然違うものになっているのに、そのままのコンセプトでプレゼンテーションをしている班も多かったのではないでしょうか。通常、建築は強いコンセプトで職人をまとめ上げる必要があります。しかし、このワークショップは例年最初のコンセプトではほぼ実現できないことがわかっているので、コンセプトを作品の完成形に定めるのではなく、むしろ『自然の素材を使う』『手仕事で作る』といった態度やビジョンに、一貫したコンセプトを落とし込んでいけばいいのではないでしょうか」
試行錯誤や変化の大きさがこのワークショップの面白さであり意義でもあるからこそ、今後はその変化を考慮したコンセプト設計に期待がされる。来年度は日本国際博覧会の会場で開催予定だ。ビジョンに一貫したコンセプトのある作品が、博覧会に来た一般の方々や海外から来た方々の心にどのようなメッセージ性を残していくのだろうか。来年度の開催が待ち遠しい。
■取材協力:特定非営利活動法人(NPO法人)アートアンドアーキテクトフェスタ
https://www.aaf.ac/
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