「住みたい」「住み心地が良い」「子育てしたい」と若者世代に人気の姶良市

いま鹿児島県43市町村の中で「住みたいまち・住み心地の良いまち」として人気を集めている自治体がある。鹿児島県のほぼ中央に位置する人口約7万8000人のまち、姶良市(あいらし)だ。

姶良市は2010(平成22)年に姶良町・加治木町・蒲生町の3町が合併して誕生した鹿児島県で“いちばん新しい市”。鹿児島市・霧島市という2大都市に挟まれているためベッドタウンとしての住宅需要が拡大しているほか、鹿児島空港まで約20分と地の利も良い。何よりクルマ社会の鹿児島において、九州縦貫自動車道や東九州自動車道など高速道路の大型インターチェンジが複数揃っている点も地域の強みとなっており、市民からは「自然環境と交通利便性のバランスが良い」と高く評価されている。

実際に市の人口は令和に入ってから右肩上がりで増加しており、鹿児島県下では転入超過数が最も多い自治体に(総務省:住民基本台帳人口移動報告2023年結果より)。 また、姶良市統計書(令和4年度版)によると、この10年間で市内の幼稚園・認定こども園・小学校の児童総数は18.2%増となっており「働き盛りの若い世代や子どもの数が増えている」という理想的な人口動態を示している。

その姶良市で、地元内外から好評を博しているのが子育て支援拠点施設 子ども館『ちるどん』だ。この『ちるどん』を取材して、姶良市が人気を集める“本当の理由”が見えてきた。

▲姶良市ホームページ「市の人口」人口推移より▲姶良市ホームページ「市の人口」人口推移より
▲姶良市ホームページ「市の人口」人口推移より▲姶良市内の文教エリア、加治木地区かもだ通りに2024(令和6)年4月にオープンした『ちるどん』。一般公募により選ばれた愛称『ちるどん』は、子どもたちを表す「チルドレン」を鹿児島の方言(~どん)のようにと付けられた。また”ちる(チル)”=「ゆっくりする・くつろぐ」という意味もあり、「子育て世帯がぬくもりと安心を感じながら子育てに励むことができる拠点」という子ども館の理念にも合っている

子育て世代から“嬉しい”と思われるような福祉政策に力を注ぐ

「姶良市は鹿児島県の中で一番最後に合併してできた新しい市です。他よりも合併までの道のりが長かったぶん、他の自治体の事例を参考にしながら調整に時間をかけることができました。そのため、合併後の旧町同士の連携もスムーズで、様々な取り組みを展開しやすかったと思います」

企画政策課 山元さんによると、姶良市には公務員の居住者が多いという。錦江湾のちょうど中央付近に位置しているため、鹿児島市・霧島市のほか、大隅半島や指宿など東西どちらにも移動しやすい。そのため、県内の転勤が多い教職員や県庁職員が好んで姶良の住まいを選ぶという。

「住みたいまちと言われるようになったのは、姶良市が合併してからここ数年のことですね。2021(令和3年)3月に九州縦貫自動車道の『桜島スマートインターチェンジ』ができて、マイカーでの乗り入れがしやすくなったこと。さらに、大型商業施設の『イオンタウン姶良』が店舗面積を拡張してリニューアルオープンしたことなどが起爆剤となり、はじめて姶良を訪れる人が増えました。そこで、立地条件の良さ、豊富な観光資源、美しい自然の街並みなど姶良の魅力を知っていただき“住みたい”と思って下さる方が増えたのだと思います。これは本当にありがたいことです」

2018(平成30)年に就任した湯元敏浩市長は、元民放キー局の政治部記者という異色の経歴の持ち主。そのためメディア戦略にも長けている。

「湯元市長は情報発信を非常に大事にされていますし、何より多くの世代の声を聞いて市政に活かしたいという考えをお持ちです。そうした意向の中で、高校生と市長が対面で意見交換を行う『あいら若者まちづくり会議』を2022(令和4)年から開催しています」

今年で3回目を迎える『あいら若者まちづくり会議』は毎年高校の夏休み期間に開催される。テーマは各年ごとに異なっており、観光資源のこと、福祉のことなど高校生側から姶良市の課題について提起してもらい、各校から選ばれた代表生徒が市長と会議を行う。

「2024年も市内4つの高校に加えて高専の生徒さんにも参加してもらうのですが、回数を重ねるごとに高校生の皆さんの反応が活発になってきて“自分が会議に出たい”と立候補をする生徒さんも増えていると聞いています。

おかげさまで、姶良市は“人口が増えている”と言われていますが、日本国内全体の課題として今後間違いなく人口は減少に転じていきます。そのピークアウトを少しでも先へ延ばすためには、やはり元気な世代が多いこと。姶良市で生まれたお子さんが姶良市で育ち、姶良市で学び働き、姶良市で新しい家庭を持って、姶良市で老後を過ごしてもらうこと──その良好な世代循環は必ず地域の活性化につながっていくはずです。

そのため姶良市としては、この『ちるどん』のように、子育て世代の皆さんから“嬉しい”と思われるような福祉政策を今後も継続して届けていきたいと考えています」

▲日本一の巨樹として環境庁の認定を受けた蒲生八幡神社の「蒲生の大楠」は姶良市を代表する観光名所。樹齢約1600年とされている御神木だ(鹿児島県観光サイトより)。「ちょっと行けばすぐ近くに観光名所が揃っている点も姶良の魅力です」と山元さん。なお、姶良市では新庁舎の完成を記念して2024(令和6)年12月に「eスポーツフェスタ」を開催予定。eスポーツへの関心が高い若者世代だけでなく、高齢者も楽しめるような多世代交流の場を作り、姶良の地域振興事業として育てていく計画だ▲日本一の巨樹として環境庁の認定を受けた蒲生八幡神社の「蒲生の大楠」は姶良市を代表する観光名所。樹齢約1600年とされている御神木だ(鹿児島県観光サイトより)。「ちょっと行けばすぐ近くに観光名所が揃っている点も姶良の魅力です」と山元さん。なお、姶良市では新庁舎の完成を記念して2024(令和6)年12月に「eスポーツフェスタ」を開催予定。eスポーツへの関心が高い若者世代だけでなく、高齢者も楽しめるような多世代交流の場を作り、姶良の地域振興事業として育てていく計画だ
▲日本一の巨樹として環境庁の認定を受けた蒲生八幡神社の「蒲生の大楠」は姶良市を代表する観光名所。樹齢約1600年とされている御神木だ(鹿児島県観光サイトより)。「ちょっと行けばすぐ近くに観光名所が揃っている点も姶良の魅力です」と山元さん。なお、姶良市では新庁舎の完成を記念して2024(令和6)年12月に「eスポーツフェスタ」を開催予定。eスポーツへの関心が高い若者世代だけでなく、高齢者も楽しめるような多世代交流の場を作り、姶良の地域振興事業として育てていく計画だ▲今回インタビューに対応してくださった皆さん。上段左から:姶良市企画部企画政策課 山元さん、姶良市福祉部子どもみらい課 木佐貫さん、姶良市福祉部子どもみらい課 内之倉さん。下段左から:姶良市子ども館ちるどん館長 向江さん、副館長 染川さん

みんなで楽しく子育てを──姶良市民以外も利用できる『ちるどん』

「いまは核家族化や社会情勢の変化を受けて孤立化する世帯が増加しています。そのため、子育てについて相談できる場所、子どもが安心して遊べる場所、親御さん同士が交流できる場所をつくって、子育てのバックアップをしたいということで、2020(令和2)年頃から子育て支援拠点の整備基本計画を進めてきました。

その後2024(令和6)年4月に開業したのが、こちらの姶良市子ども館『ちるどん』です。

まだ開業して間もないのですが、多くのメディアに取り上げていただき、“子育てのまち姶良”のシンボル的な存在となっています」

広々とした芝生広場や大きな駐車場が設けられた『ちるどん』は、姶良市の文教エリア加治木地区にある。もともと地域の物産館があった場所とのことで、建物の一部にはその廃材をリサイクルして活用。姶良・鹿児島の木材をふんだんに使った「森の巣箱」というテーマでデザインされたという。

『ちるどん』には主に以下の3つの機能があり、保育士・栄養士・看護師などの専門スタッフが常駐・交代しながら子育てサポートを行っている。

①子育て支援施設・・・遊び場の提供、イベント・講習会の開催など(無料)
②一時預かり施設・・・生後3か月~小学校就学前の乳幼児の預かりに対応(1時間400円)
③利用者支援施設・・・専門の支援員が子育ての相談に対応(無料)

何より驚いたのは「利用登録を行えば姶良市民でなくても利用できる(小学校3年生までの子どもと保護者、妊娠中の方と家族が対象)」という門戸の広さだ。

「“姶良市民以外でも利用できる”という情報はかなり浸透していまして、実は利用登録の約5割が姶良市外の方です。特に土日は県外ナンバーの車も見られ、駐車場がいっぱいになりますね。もともと近隣の鹿児島市や霧島市にも同様の施設があって、姶良市の市民もこれまで利用させてもらっていたので、その点はお互い様という感じです。“市民の方も、そうでない方も、分け隔てなくみんなで楽しく子育てしましょう”という想いがあります」

▲カラフルなキッズスペース「あそびのひろば」は小学校3年生までの子どもとその保護者、妊娠中の方とその家族が対象で、利用登録と事前予約を行えば午前9時から午後5時まで無料で利用可能。一時預かりは生後3か月から小学校就学前の乳幼児が対象で、午前9時から午後7時まで1時間あたり400円(2人目以降半額)で利用できる▲カラフルなキッズスペース「あそびのひろば」は小学校3年生までの子どもとその保護者、妊娠中の方とその家族が対象で、利用登録と事前予約を行えば午前9時から午後5時まで無料で利用可能。一時預かりは生後3か月から小学校就学前の乳幼児が対象で、午前9時から午後7時まで1時間あたり400円(2人目以降半額)で利用できる
▲カラフルなキッズスペース「あそびのひろば」は小学校3年生までの子どもとその保護者、妊娠中の方とその家族が対象で、利用登録と事前予約を行えば午前9時から午後5時まで無料で利用可能。一時預かりは生後3か月から小学校就学前の乳幼児が対象で、午前9時から午後7時まで1時間あたり400円(2人目以降半額)で利用できる▲曜日を限定してボールプールやエアートランポリンなど楽しい巨大遊具が入れ替わり登場する。右奥のアートは地元の園児たちがペットボトルのキャップで制作した姶良市のイメージキャラクター「くすみん」

遊びの会話の中からスタッフがさりげなく悩みや困りごとを聞き出していく

▲館内には授乳ブースやおむつ交換台のほか、調乳専用の浄水給湯器も完備▲館内には授乳ブースやおむつ交換台のほか、調乳専用の浄水給湯器も完備

ここからは『ちるどん』の運営を行っている職員の方にお話を聞いた。

「スタッフは私たちも入れて13人が常駐・交代制で勤務しています。小児科の先生を講師にお招きして講話をしていただいたり、保育士や栄養士、看護師からのアドバイスも含めて、トータルな子育て相談に応じられる体制を整えています。

オープンから3カ月が経ちましたが、おかげさまで『ちるどん』の存在が口コミで広がって、最近はママさんたちの“待ち合わせ場所”として使われることも多いですね。鹿児島市で里帰り出産をした方が、志布志市に住んでいる子育て中のお友達と、お互いの中間地点にある『ちるどん』で待ち合わせをするといったケースもありました。“なるほど、こういう使い方があるのか!”と私たちも感心しています(笑)」

利用登録した人が友人を誘い、さらに利用登録数が増えていく。この好循環によって開館からわずか1カ月で利用登録者は2000人を突破、取材時の7月16日時点では5790名まで急増した。また、子ども連れのパパ・ママに限らず、おじいちゃん・おばあちゃんがお孫さんを連れて訪れることもあるため、ここで多世代の交流が生まれている。

「あそびのひろばは年齢ごとにエリア分けをしていて、だいたい同じような年頃、同じような月齢のお子さんたちが集まりやすくなるよう工夫しています。すると、そこで保護者の方同士が交流できますし、ちょっと年上のお子さんたちの様子を見て“もう少ししたらこんな風に成長するんだな”と、子育て期の変化を感じ取ることもできます。

お子さんたちの遊びを通じてパパ・ママ同士がお互いの悩みを話したり、励ましあったりするシーンは本当によく見られますし、私たちスタッフも積極的にそこへ交わるようにしています。『相談会』にすると身構えてしまう方が多いのですが、遊びの会話の中で最近の様子の変化やちょっと困っていることをさりげなくお聞きすると、皆さんいろいろ話して下さるんですね。その“気軽さが良い”とご好評をいただいています」

▲館内には授乳ブースやおむつ交換台のほか、調乳専用の浄水給湯器も完備▲館内は“密”にならないよう利用組数を制限。遊具ゾーンを対象年齢ごとに分けることで、子ども同士だけでなく同じ世代の子どもを持つ保護者同士の交流も生まれやすくなる
▲館内には授乳ブースやおむつ交換台のほか、調乳専用の浄水給湯器も完備▲半屋外になった「そらのひろば」では砂遊びや水遊びを楽しめる。夏休みシーズンにはビニールプールも登場
▲館内には授乳ブースやおむつ交換台のほか、調乳専用の浄水給湯器も完備▲「雨の日に子どもを抱っこしながら傘をさして移動するのは大変」との意見を反映し、屋根付きの駐車場からそのままエレベーターホールへ移動できる快適動線が確保されている

「子育ての楽しさに気づいてもらうこと」が一番の子育て支援策

▲木のボールプールには地元の天然木で作った木製ボールが。この木材特有のやさしい手触りも子どもたちの感性を育むきっかけになる▲木のボールプールには地元の天然木で作った木製ボールが。この木材特有のやさしい手触りも子どもたちの感性を育むきっかけになる

いまの時代、すさまじいスピードで世の中の価値観が変化しており、子育ての悩みもどんどん変わっていく。保護者との対話によってその変化をいち早くキャッチし、モヤモヤとした子育て期の不安を解消へと導いていく点は『ちるどん』の大きな存在意義となっている。

「この『ちるどん』は姶良の子育て支援施設の拠点。こちらからも積極的に情報発信を行いつつ、何より保護者の方の想いや気持ちに寄り添い続ける施設であることが一番大切だと考えています。

また、お子さんの成長を共に喜びあえることは私たち職員にとって何より嬉しいことです。

子育ては大変──これは皆さん覚悟されていると思います。でも楽しみがあったり、面白さもあったりする。それを知らないまま、赤ちゃんと家でずっと2人っきりで過ごすというのはとても辛い時間です。『ちるどん』に来たらリフレッシュできるようになった、子育てが楽しくなったと言われるような施設を目指したいですね」

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「子育てを楽しみながらできるようにすること」が、一番大事な子育て支援──姶良市が真剣に取り組むこの支援策は、今後多くの自治体のお手本となりそうだ。

■取材協力/鹿児島県姶良市子ども館『ちるどん』
https://www.city.aira.lg.jp/kosodate/airashikodomokan.html

▲木のボールプールには地元の天然木で作った木製ボールが。この木材特有のやさしい手触りも子どもたちの感性を育むきっかけになる▲プライバシーへの配慮が必要な相談室や授乳室・おむつ交換室を除いて、基本的に館内は壁のないオープンスペースとなっている。「保護者の方がお子さん2人を連れて来られたときも、1人はあそこ、もう1人はここ、と全体を見渡せるようになっています」
▲木のボールプールには地元の天然木で作った木製ボールが。この木材特有のやさしい手触りも子どもたちの感性を育むきっかけになる▲外構の植栽ガーデニング、館内壁面のクロスカラー選び、絵本コーナーの図書選び、ペットボトルキャップアート製作には地元の人たちも参加。市民協働の子育て支援の象徴的施設となっている。「来館して下さった方から“来てよかった、楽しかった”と言われるような施設を目指して今後も運営を行っていきます」

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