コミュニティの拠点になる“ウェルビーイング”な施設
名古屋市の栄地区に複合施設「スローアートセンターナゴヤ」が誕生した。地下鉄栄駅3番出口から徒歩1分、名古屋のシンボルでもある中部電力MIRAI TOWER(旧・名古屋テレビ塔)のほど近くという、中心部の好立地。かつて名古屋市教育館があった場所で、本格整備に先立ち、市が進めている「栄地区まちづくりプロジェクト」の一環として5年間の暫定活用事業となる。
2024年3月31日に開業し、同日に行われた内覧会と開業セレモニーを取材した。
同施設のコンセプトは「個人×地域×地球のWell-being(ウェルビーイング)」。ウェルビーイングとは、肉体的、精神的、社会的、すべてが満たされた幸福な状態のことをいう。
事業主である三菱地所株式会社の中部支店長・茅野静仁氏は、セレモニーのあいさつで「1人1人、個人のウェルビーイングを高める、地域コミュニティのウェルビーイングを高める、さらに建物はボルト止めにするなど、この暫定活用が終わったあとに利活用できるようになっており、その意味で地球のウェルビーイングを高めることも心がけている」と説明。
そして「コロナ禍があり、少し立ち止まったときに、この都市の真ん中でゆっくりいろんなことを進めてもいいんじゃないかと考えました」とのことで、施設のロゴに“SLOW”という文字を4つ使ってそれを表し、「立ち上げから、ゆっくりじっくり、やってまいりたいと思っています」と語った。
アートスペースとサウナ、セルフエステ、フィットネスジム、レストランが集結。ゆっくりとリラックスできる場として新たな顧客を呼ぶことで、まちににぎわいを創出し、市民コミュニティの形成拠点となることを目指す。
日本最大級の大型サウナと個室サウナ、都心部でスローな時間を実現
まずはテナントを紹介していこう。
サウナは、2フロア展開。サウナを運営する株式会社クレドインターナショナルは、国内外で高級ホテルスパを展開するノウハウをここに注ぎこむ。
1階は最大で36人入れる大型サウナ、2階にはプライベートサウナで、1人用3室と最大4人までのグループルーム2室がある。大型サウナとグループ利用できるプライベートサウナは、着替えスペースは別々ではあるが、水着着用で男女一緒に入るスタイルだ。
グループ利用できるプライベートサウナには、スパトリートメントを併設し、さらに美と健康をサポートする。
2階には同社運営のフィットネスジムとセルフエステ店も出店。
コミュニティを活性化させるイベント利用にも対応するレストラン
1階と3階のレストラン「SAKURA SAKAE ENTERTAINMENT RESTAURANT」もクレドインターナショナルが運営する。
地元の食材をメインに使ったハンバーガーやピザなどの料理を提供するほか、サウナ利用客にも向けたスムージーなどのドリンクも。3階はルーフトップとなっており、夏にはバーベキューの予定もしているという。
また、1階は大型ステージやモニターの使用も可能で、パーティや結婚式の二次会、各種イベントにも対応する。
同社の代表取締役・白井浩一氏は、セレモニーで「ただ商業施設というだけではなく、インバウンドによる海外の方も他のエリアの方からも、観光でここを選んでいただける施設にしなければならないと思っています」と語った。総合ホスピタリティ企業としてウェルネスの部分に寄与し、最先端の情報を発信していくという。
ウェルビーイングをアートで体験、まちを楽しむきっかけにも
施設名に入っているアートに触れる主体となるのが、2階の「スローアートラボ」。
芸術系あるいは建築系大学に通う生徒や研究者、若手アーティストら、発表の場がなかなかない人たちのために展示スペースを創出して活動拠点とするほか、「ゆるやかに人々が場を共有することにより、“心地よい状態(ウェルビーイング)”とは何かを見つめ直すプロセスや、それを促すアクションを創発する「スローアート」のプログラムを企画していく。
敷地内には、オーストラリア・メルボルン在住の加藤チャコ氏とディラン・マートレル氏が主宰する芸術グループ・Slow Art Collectiveによる装置を開業時より設置。この装置は、持続可能性や多文化共生をテーマに、竹やロープなの自然素材、まちで拾い集めた素材を結んでできあがっていくもの。市民参加型のアートプロジェクトであり、結ぶ=つながりの場所であることを象徴する。
スローアートセンターナゴヤ全体の運営を担当する合同会社コマンドAのディレクター兼東京藝術大学絵画科教授・副学長の中村政人氏は「紐を結びながら、なんとなく会話ができ、出会いが生まれる。そういうゆるやかな体験をいろいろと仕掛けていきます」と話す。
サウナやレストランとともにアートでも心を整えてウェルビーイングに。そこからさらに、この施設にとどまらない広がりも考えているという。「施設内だけではなくて、我々は外との関係も作ることができます。例えば、歴史的建造物でアート活動をすることもできます。ここがクリエイティブハブとしての新しい結節点となれば、そこから関係が生まれていきますよね。外に出向いてスクリーニングプログラムをやったりしながら、名古屋のまち自体をもっと楽しむというのも大事だと思っています」と中村氏。
まちへと波及させる取組みが楽しみだ。
地球にウェルビーイングな建築とは? 1970年と2024年の融合と未来へ
茅野氏のあいさつにもあったが、同施設の建物は事業を終える5年後以降の利活用を考えて建てられた。
ボルト止めのユニットは、あらかじめ解体しやすく、部材のリユースができる。また、事業期間中に必要となれば増改築もしやすい。そのユニットの背景にあるのが、1970年に発表された「セキスイハイムM1」だ。
セキスイハイムM1は、都市が大きく成長していくときに建築パーツとして考えられたユニット工法。中村氏によると、考案した大野勝彦氏は「無目的の箱」としており、住宅以外にも使えるとしていたが、ほとんどが住宅での供給だったという。そんななか中村氏が家2軒分のユニットを購入し、イベントなどでリユースしてきた。今回はそれを基に設計することに。ちなみに、中村氏はメーカーの依頼でセキスイハイムM1の資料や写真などをまとめた「セキスイハイムM1 Archives」というホームページを制作しているので合わせてチェックしてみてほしい。
さて、実は中村氏が保有するセキスイハイムM1が敷地内に設置されている。1970年製のユニットと、2024年の新たなユニットでできた建物が向かい合っているのは建築ファンにぜひ感じて欲しいところ。ゆくゆく1970年製のユニットは、前面の扉を開いてステージとし、ライブイベントやトークイベントでの活用も予定しているそうだ。
「建築家の人たちも我々アーティストも、作品にメッセージを託します。あのユニットには大野さんの無目的な箱という思想が埋め込まれているんですね。この無目的性というのはすごく大事で、一つの用途ではなくて、いろんな関係を誘発していくのです」(中村氏)とのこと。そこに、この施設にかける思いがつながっているのだ。
「ここでは建築的チャレンジも行っているので、そういう意味で社会実験をしていることでもあるんですね」と中村氏。ここが解体されるときに本当にちゃんと部品を長く使い続けていくリユースができるかを見届けなければならないという。
そして、建築物という“箱”だけでなく、活動そのものも続いていくことを見据えている。「持続性のある思いがこの場に宿り、一つの関係を構築できるように、ハードとソフトをうまく組み合わせていく。その一つの場所が終われば次の場所へと移り、そこでまた組み立てれば、活動はつなげられます。現代はスクラップアンドビルドになり過ぎている面があるので、もっとキャッチアンドリリースできるような考えをここから発信していきたい」という。
5年という期限がある施設だが、その間に構築したものを、まちへとつなげていく。「建築デザインの領域においても、都市計画的においても、アートの文脈においても、そしてある意味、環境学的にも非常にチャレンジングなプロジェクト」(中村氏)の未来に大いに期待したい。
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