3割超のマンションで修繕積立金が不足している
2022年4月、マンション管理に関する2つの評価制度が始まった。自治体が認定する「マンション管理計画認定制度」とマンション管理業協会による「マンション適正管理評価制度」だ。これらは少しずつマンションの所有者や分譲マンションの購入を考える人から認識され、注目され始めている。
マンション管理に関してその質を評価・認定するこれらの制度だが、鍵となるのが、長期修繕計画とその執行の原資となる修繕積立金の積み立て状況だ。特に修繕積立金は、不足すると大規模修繕の実施に支障が生じる。
少し古いデータだが、2018年度「マンション総合調査」(国土交通省)によると、修繕積立金の積立額が計画に比べて不足しているマンションは34.8%に上る。また、株式会社さくら事務所の調査によると、2022年に竣工した分譲マンションの修繕積立金平均額は、1m2当たり177.8円だという。2017年と比べると67%の増額となっているものの、国交省が「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」で定める目安(下図参照)からは大きく乖離している。
そこで、修繕積立金の不足に関する最近の傾向や、不足を回避するポイントについて、さくら事務所 マンション管理コンサルタントの⼟屋輝之さんに聞いた。
なぜ、修繕積立金は不足する?
なぜ修繕積立金は不足するのだろうか。
修繕積立金の不足を生む理由のひとつが、建築資材の高騰などにより工事費用が高くなっていることだ。東京での五輪開催に伴う需要の増大によって建築費の高騰が起こったが、開催後は沈静化するだろうとされたもくろみが外れ、相変わらず高騰し続けている。これにより、当然大規模修繕にかかる工事費も上昇している。
しかし土屋さんは、修繕積立金の不足の原因はそれだけではないと言う。
「分譲時の修繕積立金の設定がそもそも低すぎるのです。購入者に、ローン返済を含む月々の負担額をできるだけ低く見せるため、管理費や修繕積立金を低く設定する傾向があるのです」(土屋さん)
修繕積立金は、大きく分けて段階増額積立方式と均等積立方式がある。段階増額積立方式とは、分譲後に修繕積立金を増額していく方式で、完成年次の新しいマンションほどこの方式が採用される傾向がある。増額方式のマンションでは、修繕積立金は所有者によって構成される管理組合の議決を経て値上げされるわけだが、ここにも大きなハードルがある。
「近年、値上げが難しくなってきています。築年数のたったマンションでは組合員の高齢化が進み、その多くが年金生活者となれば、月々の修繕積立金の負担が上がることへの同意は容易ではないです」
建物が老いることで修繕費用がかさみ、さらにその費用を負担する区分所有者の老いも進行している。建物と住民の2つの老いの同時進行が、マンションの維持管理をますます難しくしているといえそうだ。
修繕積立金が不足しているとどうなるのか
修繕積立金が不足するとどうなるのだろうか。
建築後30年を過ぎてくると、防水や塗装だけでなく、暮らしに欠かせない設備も寿命を迎える。給排水設備、電気設備、防災設備、機械式駐車場、エレベーターなどだ。もちろん、これらの修理・更新には多くの費用を要する。修繕積立金が不足すると、こういった設備の更新もできなくなる。
また、必要な修繕は大規模修繕だけではない。小さな修繕は毎年のように発生し、その都度修繕費用がかかってくる。これらは一般会計の修繕費から拠出されるのが通常だ。しかし土屋氏は、「管理委託費の上昇や、特に都心部では駐車場収入の減少など、管理組合の財政を取り巻く環境は決してよくありません」と、管理組合の懐事情を説明する。
一般的にマンションの管理組合は収益事業を行っていない。まとまった資金の運用も、住宅金融支援機構の「マンションすまい・る債」などがあるが、その手立ては多くない。財政上の資金不足は、大規模修繕だけではなく日常のメンテナンスにも影響し、住み心地にも関わる問題となる。
マンション選びで見るべき修繕積立金のポイント
私たちはマンション購入を検討する段階で、修繕積立金の積み立て状況を確認することはできるのだろうか。
「マンション管理計画認定制度やマンション適正管理評価制度では、長期修繕計画や修繕積立金も評価対象になっていて、その情報は公開されています」と土屋さん。また、長期修繕計画や積立金の金額は「重要事項調査報告書」によっても開示される。この書類には、管理に関するコストの詳細や修繕の実施状況や予定、積立金額など、管理に関するあらゆる情報が記載されている。ただし、売主がこれを取得し物件資料として開示することもあるが、物件検討の段階ですべてが開示されているわけではなく、管理組合が発行するには費用がかかる場合が多い。
仮にこれらの情報を得たとして、例えば修繕積立金が他のマンションより突出して低い場合には、大規模修繕にあたって一時金の徴収や修繕積立金の値上げの可能性もあることを認識しなければならない。月々の負担額の増加は、ローンの返済計画に影響を及ぼすことも考えられる。
また、逆に突出して高い場合にも注意が必要だ。例えば、過去の修繕で費用の融資を受け、その返済が続いているなど財政上の問題が考えられる場合もある。修繕積立金の金額については、国交省が公表する「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を参考に、低すぎず高すぎず、長期修繕計画に沿って大規模修繕の費用が確保されているかどうかを知ることが大切だ。管理組合の財政の状況を知ることも重要になってくる。
資金不足を回避し資産価値を維持するためにできること
資金不足を回避しつつ、資産価値を維持するにはどうしたらよいのだろうか。
国交省は「長期修繕計画作成ガイドライン」の中で、大規模修繕の周期を12~15年程度としている。このため大規模修繕は12年に1回行うものとして長期修繕計画が作成されている場合が多い。しかし、「実際にすべてのマンションで12年周期の大規模修繕が必要というわけではない」と土屋さん。区分所有者が負担する修繕積立金の費用対効果を最大限よくするためには、いつの時点で大規模修繕を実施するかの検討が必要だという。
「12年周期だと、建築後36年では大規模修繕を3回実施することになります。しかし周期を18年とすれば、大規模修繕は2回になり、資金計画も大きく変わってきます」(土屋さん)
12年ではなく、15年なのか18年なのかを判断する根拠は、建物の劣化具合と、補修工事に使用する材料や工法の耐久性だという。
「足場の不要な工事は適宜必要に応じて行うことで、足場が必要となる大規模修繕の周期を延ばせる可能性もあります」
ただ、管理組合員だけで修繕の箇所や時期を見極め判断するのはもちろん難しい。そこにはや管理会社やコンサルティング会社、設計事務所など外部の専門家の目も必要だ。しかし、それらを主導するのは、あくまで管理組合である。区分所有者は専用部分だけではなく共用部分も含めた全体の管理義務を負う。これは区分所有法にも定められている基本だ。大規模修繕工事については、管理会社、コンサルタント、設計事務所への施工会社からのキックバックといった問題も散見される。たとえ第三者管理方式であっても、所有者は主体的に管理に参画するという意識を持ち続けることが重要だ。
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