マンション管理の質を高めることは喫緊の課題

修繕積立金の不足などによって十分な修繕が実施できない、住民の高齢化などによって管理組合のなり手がいない。このようなマンション管理に関する問題は喫緊の課題とされ、国土交通省などは、マンションの老朽化と住民の高齢化の“2つの老い”と称される諸問題を解決する方策を模索している。マンションのライフタイムを延ばすとともに大規模修繕や将来の建て替えを円滑に進めること、そのために管理の質を高めることは、空き家問題などと並ぶ住宅に関する大きな課題のひとつといえる。

その政策のバックボーンとなるのが、2020年に改正されたマンション管理適正化法とマンション建替円滑化法の2つの法律だ。2つの法改正を受け、各自治体ではさまざまな施策が進められている。その多くは、管理組合にアドバイザーとなる専門家を派遣したり、バリアフリー化工事の費用の一部を助成したりといった、管理組合に対する補助事業がほとんど。しかしここでは、それらとは異なり、マンションの購入を希望する一般消費者に直接発信する手立てを企画した、大阪府豊中市の事例を紹介する。また、豊中市の発信を通して、マンション管理の重要性について考えていきたい。
記事作成に際しては、豊中市都市計画推進部住宅課主幹の杉本さんに話を聞いた。

マンションのライフタイムを延ばし、資産価値を維持するために「管理」が重要となるマンションのライフタイムを延ばし、資産価値を維持するために「管理」が重要となる

築浅マンション住民の知識と意識が必要

豊中市が制作・配布するマンガ・マンション購入者向けハンドブック『マンション購⼊時に知っておきたいこと』豊中市が制作・配布するマンガ・マンション購入者向けハンドブック『マンション購⼊時に知っておきたいこと』

大阪府北部に位置する人口40万の中核市、豊中市。豊中市では住宅戸数20万戸のうち、マンションは3万6,000戸に及び、マンションに居住する世帯の割合が多い街といえる。
その中でも、築40年を超える高経年マンションは2018年時点で6,680戸となっており、10年後には約2.1倍の1万4,030戸になるとされる。マンションの「老い」の問題は、豊中市にとっても今や深刻な問題になりつつあるのだ。

そこで豊中市は、「豊中市住宅マスタープラン検討委員会」を設置し、住宅施策のあり方や課題解決に向けた事業手法などを検討するための審議・答申を行った。また、同委員会マンション部会では、専門家によるさまざまな意見を政策に反映させるべく審議を重ねた。

「管理適正化に向けて、アドバイザーの派遣など管理組合に向けた支援が検討されてきましたが、そもそも区分所有者の管理組合に対する認識が薄いのではないかという意見が出ました。特に築10年や20年といった築浅のマンションの住民にその傾向があることから、マンションを購入しようとしている方に対し、購入前に管理組合活動の重要性を認識していただく必要があるというものでした」(杉本さん)

豊中市ではこれらの意見を踏まえ、2022年5月からマンガ・マンション購入者向けハンドブック『マンション購入時に知っておきたいこと』の制作をスタート。2023年4月に完成し、市域の不動産事業者団体を通じて、配布した。

「マンガ・マンション購入者向けハンドブック」に書かれていること

玄関ドアの内側は専有部で、外側が共用部であることが一般的玄関ドアの内側は専有部で、外側が共用部であることが一般的

管理組合と管理会社の関係や、区分所有法にある「専有部分」と「共有部分」が指す場所など、分譲マンションに関する基本的な知識を理解している人は、そう多くないのが実態だ。もちろん、仲介事業者やデベロッパーなどの販売に関わる事業者から、契約から引き渡しまでのプロセスで説明はされる。しかし、新生活に期待が膨らむ入居者が、そのことに十分な関心を寄せているとは言い難いのではないだろうか。

そこで、豊中市が作ったハンドブックでは、分かりやすいマンガ形式で、まったくの初歩からこれを説明する。姉と弟、両親、ペットのコロとタマがいる家族が、マンション購入にあたって感じる疑問に、よく勉強した姉の「せんり」が答えていくというストーリーだ。

表紙を開くと、「マンションとは」という項目から始まる。マンションで暮らすには管理費が必要なこと、賃貸マンションとは違って管理は管理人任せではないこと、共有部の修繕も住民の負担になるし、それらを行うための組合活動への参加も必要であることが解説される。

続いて区分所有法の説明だ。共同住宅はこの法律に基づいて成り立っていること。そこには、専有で使用できる部分と共用で使用する部分があることなどが書かれている。また、管理組合の役割や、総会、議決に関すること、修繕積立金の項目では、国のガイドラインで示される1m2当たりの基準単価なども示される。

杉本さんはこのハンドブックについて「今までも、区分所有法の解説や管理組合の役割などを説明した文書は多くありました。しかし、それはあくまで管理組合や管理組合の役員になった住民のためのもので、専門的になりすぎていると感じていました。そこで、初歩的な知識で、誰が見ても簡単に理解できるハンドブックを目指しました。ご審議いただいた学識経験者の委員からも『教育の場で使えるものに仕上がっている』との評価もいただいております」と話す。

ハンドブックを読めば、区分所有者としてマンションに居住する意味と、やるべきことについて、子どもたちでも理解できるだろう。専門的な知識がなくてもわかりやすいハンドブックは、マンション管理の意識変革への一歩となりうるかもしれない。

玄関ドアの内側は専有部で、外側が共用部であることが一般的「マンションとは」から始まる、分かりやすいストーリーで構成される

管理組合のネットワーク化も模索

ハンドブックは不動産業界団体を通じて豊中市内の不動産会社の店舗に置かれ、マンション購入を希望する人に配布されるという。また、市のホームページでは、パンフレットのPDF版が公開されている。

ハンドブックの最後には、マンション管理計画認定制度について書かれている。マンション管理計画認定制度とは、一定の基準を満たすマンションの管理計画を行政が認定するもの。つまり、ハンドブックを通じてマンションの購入を考える消費者に、管理の質に対する一定の評価基準を与えることになる。前出の杉本さんも「認定は、管理組合が質高く運営さていることが評価されることで、マンションの資産価値の向上に繋がるものと考えています」と話す。始まったばかりの制度ではあるが、購入希望者の認知が広がることで、認定の有無が市場で評価されることにつながるだろう。

「行政として、多くの世帯が暮らすマンションを適正に管理していていただくために、管理組合に向けた助言・指導を進めていきます。さらに、ハンドブックを通じてこれからマンションに住もうとする人に向けての啓発も続けていきたいです。ハンドブックも1回配布して終わるのではなく、必要な改稿を重ね、毎年配布していく計画です」と杉本さんは話す。
加えて、「現在は、管理組合のネットワークづくりを模索しています。さまざまな課題を抱える管理組合ですが、解決のために横のつながりを生かして協力し合う体制を目指しています」と続ける。

国の指針と法律の下、「老いるマンション」が抱える課題の解決に向けた豊中市の取り組みに注目したい。

区分所有者自らが、管理に対して高い意識を持つことが求められている区分所有者自らが、管理に対して高い意識を持つことが求められている

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