江戸川区が100年に1度の大事業計画を進めている

現在の江戸川区役所本庁舎(画像:PIXTA)現在の江戸川区役所本庁舎(画像:PIXTA)

江戸川区は東京都の東端に位置する特別区だ。面積は49.09km2で23区中4位。人口は約69万人で5位となっている。江戸川区の魅力のひとつに、23区内にもかかわらず、身近に豊かな自然を感じることができるということがある。川や海に囲まれているゆえに葛西臨海・海浜公園、大島小松川公園といった大小さまざまな公園が整備され、公園面積は23区で最大である。また、23区の中では比較的地価が安価であることから、住み替え先として気になっている人も多いだろう。

その江戸川区が現在、100年に1度の大事業として区役所庁舎の移転および新庁舎建設計画を進めている。区役所の庁舎は、各種行政サービスを提供するだけでなく、災害時には復旧・復興の拠点にもなる非常に重要な施設だ。なぜ移転するのか、どのように生まれ変わるのか、などを紹介しよう。

築60年を超える現庁舎

現庁舎の配置図。増築を重ねたことにより建物が分散し、使い勝手が悪くなっている(出所:『江戸川区新庁舎建設基本構想・基本計画』)現庁舎の配置図。増築を重ねたことにより建物が分散し、使い勝手が悪くなっている(出所:『江戸川区新庁舎建設基本構想・基本計画』)

現庁舎があるのは、江戸川区中央一丁目。JR総武線「新小岩駅」よりバスで10分、都営新宿線「船堀駅」よりバスで15分と、けっして交通の便はよくない。また1962年に本庁舎南棟を建設して以来、行政事務の拡大に伴って増築を重ね、さらには第三庁舎や別館は周辺の民間建物を賃借して対応している。

本庁舎は築60年を超える南棟を筆頭に、1970年築の東棟、1980年築の北棟、1984年築の西棟といずれの建物も築年数が古く老朽化が目立ち、特に南棟は、2011年の東日本大震災でひび割れや一部損傷などが発生していた。

現庁舎の配置図。増築を重ねたことにより建物が分散し、使い勝手が悪くなっている(出所:『江戸川区新庁舎建設基本構想・基本計画』)東日本大震災によって損傷した煙突部分。現在は撤去済み(出所:『江戸川区新庁舎建設基本構想・基本計画』)

狭いゆえに各窓口が分散

現庁舎には、前述の交通の便、老朽化を含めて次のような課題があるとされる。

耐震性能と建物寿命

南棟は、2006年に耐震補強工事を行っている。その後の耐震性能を示すIs値は0.66。震度6~7の地震でも倒壊の危険性が低いとされる数値にはなっているが、国土交通省の基準では、0.9以上が求められている。また、一般社団法人 日本建築学会による鉄筋コンクリート造の耐用年数は65年とされており、建物としての寿命も近いといえる。

設備の老朽化と維持管理費

現庁舎の維持管理や補修工事に要した費用は、1984年から2013年の30年間で約43億円。今後はさらに老朽化が進むことから、今後30年の費用は約81億円になると試算されている。

狭い・分散した庁舎

現庁舎の職員1人あたりの面積は、他の自治体と比べて狭く10m2となっている。そのため、執務スペースだけでなく、待合室や会議室などの空間も十分に確保できていない。特に執務スペースが不足しており、近隣の民間施設を賃借することで補っている。
また、庁舎機能が分散することで来庁者に目的の窓口をわかりにくくし、手続き内容によっては効率的な動線ではなくなっている。

防災機能

老朽化が進んでいることに加えて災害対策本部を設置するための十分なスペースや機能がなく、災害時の業務運営に懸念がある。
関係機関の詰所や備蓄倉庫など、効率的な本部運営に必要となる場所を確保することが難しい。

省エネルギー設備と環境対応

庁舎のように大規模な建物は、エネルギー消費や環境への影響も大きい。現庁舎は、スペースの不足や大掛かりな改修が必要になるといった理由から、たとえば太陽光発電や、雨水利用・排水再利用といった省エネ設備の導入が十分に進められていない。

バリアフリー設備・案内サイン

現庁舎は十分なバリアフリー機能を満たしていない。たとえば4階建ての北棟にはエレベーターが設置されていないので、車イスでの利用が困難になっている。また、庁舎が分散しているにもかかわらず、視認性の高いサインが設置されていないので、目的の場所がわかりにくい状況になっている。

交通の利便性

東京23区の本庁舎の多くは、最寄り駅から徒歩5分以内にある。しかし、江戸川区の本庁舎は、最寄りのJR新小岩駅から徒歩で20分、バスでも10分程度かかり、利便性が高いとはいえない。

現庁舎は、最寄りのJR新小岩駅から徒歩で20分、バスでも10分程度かかる現庁舎は、最寄りのJR新小岩駅から徒歩で20分、バスでも10分程度かかる

新庁舎の検討・建設を進めるための5つの基本理念

上記課題を踏まえて江戸川区では、新庁舎の検討・建設を進めるための5つの基本理念とそれに伴う基本方針を設定している。

基本理念①:災害対応の拠点として70万区民を守るたくましい庁舎

江戸川区を含む東京都東部低地帯は地盤が軟弱で、首都直下地震発生時には液状化現象の発生が懸念される。また、三方を海や河川に囲まれていることから、過去には大規模水害にも襲われていて、新庁舎には、大規模水害などのリスクから区民を守る機能が求められる。
新庁舎では、想定される最大浸水深(グランドレベルから5m)より上に庁舎2階床レベルを設定し、窓口や防災関連諸室、機械室といった主要機能を2階以上に配置。水害時の物資輸送や要救助者の避難に対応するため庁舎屋上にヘリポートを設置する。地震対策としての免震装置も、水害の影響を受けないよう5階床下に免震装置を設置する中間層免震構造を採用したり、エレベーターの一部を1階に着床しないものとしたり、総じて水害時に防災拠点として庁舎機能を維持できる庁舎づくりが計画されている。屋外に設置する歩行者デッキも、水害時には桟橋となり、救助ボートの船着き場として活用できる計画だ。

基本理念②:協働・交流の拠点として開かれ、シビックプライドを高めていくような庁舎

スペースの制約から現庁舎には待合スペースや憩える空間がなく、行政と協働する地域・団体の活動拠点も整備されているとはいえないため、新庁舎には区民が日常的に集まりやすい「コミュニティ広場」と、そこに面して「協働・交流ゾーン」を計画する。協働・交流ゾーンは庁舎の“顔”と位置付け来庁者を迎え入れるエントランスとして整備するほか、執務室とのセキュリティを明確に分けることで、閉庁時でも区民の憩いの場として利用できるようにする。

新庁舎のイメージ。まず土地と建物の権利者で組織する「再開発組合」が新庁舎と再開発ビルを整備し、その後、江戸川区が庁舎部分の権利を取得する計画(出所:江戸川区HP)新庁舎のイメージ。まず土地と建物の権利者で組織する「再開発組合」が新庁舎と再開発ビルを整備し、その後、江戸川区が庁舎部分の権利を取得する計画(出所:江戸川区HP)

基本理念③:区民サービスの拠点として誰にでも優しい庁舎

区役所庁舎は子どもから熟年者、外国人、職員などさまざまな利用者が想定され、すべての人が快適に過ごせることが求められる。手続きや業務がスムーズに行える区民サービスの拠点としてユニバーサルデザインを徹底し、利便性・快適性を備えるよう機能の強化を行う。
窓口・相談機能においては、2階をライフステージ・転出入など来庁者の多い手続きに対応した窓口とし、3階は個別ブースを主体として来庁者の要件に応じて職員がブースに出向く形をとる。また、近年ICT環境が目覚ましく進展していることから、将来の「来庁せずに手続きが行える区役所」を目指し、時代の変化に対応できる庁舎とする。

基本理念④:日本一のエコタウン実現に向け、環境の最先端を歩む庁舎

大型公共施設である庁舎は、財政負担の面からも環境配慮に関する積極的な取り組みが必須である。そのために、一次エネルギーの年間消費量を50%以上削減するZEB Readyの実現や、CASBEE-Sランクの取得を目指し、高断熱の仕様、自然エネルギーの活用、高効率機器の採用を計画している。

基本理念⑤:健全財政を貫きつつ、将来の変化にも柔軟に対応できる庁舎

人口の減少や窓口のオンライン化によるニーズの変化や来庁頻度の変動などに伴う、一部フロアの用途変更など多様な用途に柔軟に変更できる庁舎づくりをする。また、地下階を作らないことで工期・コストの削減につなげるなどイニシャルコストの削減に取り組むほか、エネルギー運用の効率化などによってランニングコストの合理化も図る。

新庁舎のイメージ。まず土地と建物の権利者で組織する「再開発組合」が新庁舎と再開発ビルを整備し、その後、江戸川区が庁舎部分の権利を取得する計画(出所:江戸川区HP)各階部署配置の方針(出所:「江戸川区新庁舎基本設計方針(案)」)

移転完了は2028年度の予定

複数の課題が顕在化していく中、本庁舎移転に最適な敷地が見つかった。そこはもともと都営住宅が立っていた土地で、都営新宿線「船堀駅」から徒歩3分という好立地。東京都の所有だったが、2022年7月に江戸川区が一部を購入している。とはいえ現在、この敷地は2つに分かれているなど、さまざまな課題を抱えている。しかし、権利者の協力を得て新庁舎とともに再開発ビルも建てるという官民一体の再開発を進めるとしている。

最新の状況は江戸川区のホームページをご確認いただきたいが、本記事の執筆時点で移転完了は2028年度の予定となっている。基本理念を読む限り、ほかとは違う一歩先を行く庁舎になりそうだ。従来のいわゆる「箱物」ではなく、誰もが気軽に利用でき、いざというときは頼りになる施設として生まれ変わってほしい。

公開日:      更新日: