地元工務店の棟梁の手で再建された、四條畷神社の鳥居
大工の仕事を統括する人を「棟梁(とうりょう)」と呼ぶ。
棟(むね)と梁(はり)という字を書くが、これは建物の構造上最も重要な部材を表す。また、「武家の棟梁」などともいうように、組織や仕事を束ねる長や中心的人物を指すこともある。
大阪府四條畷市にある四條畷神社の「一の鳥居」は、2018年6月の大阪北部地震で被害を受け取り壊されたが、この程、地元・四條畷市の工務店、株式会社木又工務店の手によって再建を果たした。社長の木又誠次さんは、自らの肩書を「棟梁」とし、仕事の先頭に立つ。そんな木又さんに、一の鳥居再建への苦労や思い、棟梁として伝統的な日本建築にこだわり続ける大工の哲学などを伺った。
頼まれていないのに、自ら立ち上がって鳥居を再建
四條畷市では、年に1度、丸太神輿(みこし)を担ぎ、街を練り歩く祭り「畷(なわて)祭」が開催される。そもそも、この祭りを開催する四條畷青年団を立ち上げたのが木又さんだ。大工やさまざまな分野の職人を集め、それぞれの得意分野を生かし、法被やのぼりを手作り。加えて畷祭のシンボルである丸太神輿を製作し、四條畷を盛り上げるべく2005年に祭りを始めた。その神輿の出発点が、四條畷神社の「一の鳥居」だった。
しかし2018年6月、大阪府北部を襲った大阪北部地震によって参道と国道の交差点にあった一の鳥居は大きな損傷を受ける。石造の鳥居はその後、安全性を考慮し、撤去されてしまった。
畷祭を始めた木又さんにとって、神輿の出発点である一の鳥居がなくなったことは、大きな痛手であった。それは、祭りを主催する青年団や地元のみんなも同じ思いであることを、痛切に感じていた木又さん。ならば、木又工務店の力を結集して再建して見せようと、思い至ったのである。
同神社では、同年9月の台風21号でも、手水舎が大木の下敷きになり倒壊してしまった。その手水舎の修復の依頼を受けたのが木又工務店で、これが、四條畷神社での仕事のきっかけとなった。
しかし何といっても大仕事となったのは、一の鳥居の再建である。
木又さんが旗振り役となった鳥居の再建は、実は神社から依頼されたわけではない。撤去後、再建の話が出なかったことから木又さんは自ら再建を計画。材料となる吉野ヒノキは借金をして購入した。以前の石造から木造に変えたのは、大工である自分たちが製作できるほか、木ならば地震や風にも強く長持ちし、さらに美しいという考えもあったという。
購入した吉野ヒノキは、木又工務店の作業場で部材に加工した。いつもの住宅建設に使う材料の「刻み(きざみ)」と同じだ。
ただ、鳥居のもつ伝統的な美しいフォルムを再現するのは、並大抵の技ではできない。そこでは、木又工務店の職人たちが培ってきた技が生かされ、見事、吉野ヒノキの大木は柱や貫(ぬき)笠木(かさぎ)と呼ばれる鳥居の部材に仕上がった。
建前と呼ばれる据え付け作業も困難を極める。高さ6.91mもの大きさは、家屋の1階の屋根を超える高さがある。これを電線が張り巡らされた住宅街の幅6.3mの参道に建てるというのも初めての試みだった。このようにして建前を終えた後、市民をはじめ全国に寄付金を呼びかけ、資金を工面した。
代々受け継ぎ、長く使う。家もそうあってほしいから、 伝統技法にこだわった家づくり
本業の工務店では、伝統的な工法による日本家屋の建築に特化している。木又工務店には広大な倉庫があり、日本建築に適した木材を仕入れて保管。自ら仕入れに出向くことで確かな木を選定すると共に、輸送費等の中間コストを削減できると木又さんは語る。
また、仕入れた木材は木又工務店にある作業場で加工される。現代の建築手法では、建築材料となる木材は、販売店で図面に合わせてあらかじめカットされたものが現場に納入されることが多く、これをプレカットといい、現場ではクレーンを使って組み上げるだけで構造躯体が完成する。
「現場のすべてを理解することができなければ、本当の家づくりができない」と語る木又さん。
現場で指示を仰ぎ、加工された木材を組み上げていく。これだけでは納得できる家が建てられないという。お客さまの想いやこだわりを、素材選びや施工過程から大切にした家を建てたいからだと語る。
木又さんによると、大工が仕事で用いる最も重要な道具が3つあるという。曲尺(かねじゃく)・墨壷(すみつぼ)・釿(ちょうな)の3つだ。この3つを組み合わせると「水」の字が浮かび上がる(下写真)。
この「水」は、大工仕事における基本中の基本、「水平」を意味する文字だ。水平を測ることは、建築物の軸をしっかりと垂直に設けるために欠かせない。この伝統的な昔飾りこそ、木又工務店が正月に一年の無事を祈願する対象であるとともに、昔からの知恵と伝統を大切に、家づくりを追求する木又工務店の哲学を表しているという。
棟梁とは、街の問題解決処。地元愛が背中を押す
技を受け継ぐ若い世代の不足が言われる中、木又さんは春に2人の新弟子を迎えるという。
地元に頼られる「棟梁」を次世代に継承すべく、厳しくも愛と熱意を持って指導する木又さん。伝統的な日本建築の良さを伝えるために、またその仕事を完遂するためにも、棟梁の役割は大きいと語る。
加えて、棟梁という言葉には別の響きがある。今回の鳥居再建について、昔から地元の人が困っていたら「よし任せておけ」と一肌脱ぐのが棟梁の役割。神社の手水舎も鳥居も「先人たちが当たり前にやってきたこと自分もやっただけです」と謙遜する。
家づくりのため、職人をまとめ上げる中心的な棟梁。そこには、仕事を超えて、「地域のため」「みんなのため」という精神がある。
深い地元愛に根差した木又さんのお話には、古くから日本の村やコミュニティにあったであろう、責任をもって問題解決にあたるリーダーの精神を見たように感じた。
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