原爆資料館停留場に隣接する長崎西洋館
長崎県長崎市川口町の新浦上街道沿いに、西洋風の大きな建物がある。路面電車の原爆資料館停留場電停で下車するとすぐそばにある建物が、長崎西洋館だ。長崎原爆資料館にほど近く、周辺を観光したことがある人なら見たことがあるかもしれないが、日本でも珍しい、路面電車が建物の中を走る貴重な建築である。地下2階、地上3階建て、敷地面積は5,271m2。地下1階と1階の店舗や駐車場の間を路面電車が走り抜ける構造になっている。
長崎電気軌道株式会社の子会社である、株式会社ナガデンクリエイトが運営している。テナントが営業する商業施設として利用されているが、2022年6月、長崎電気軌道株式会社は2023年5月末で閉館することを発表した。今後の予定や閉館決定の経緯について、長崎電気軌道株式会社の担当者の方にメールでお伺いした。
社有地を活用して1990年11月30日にオープン
長崎西洋館が開業した経緯について、長崎電気軌道株式会社の担当者に伺った。
「敷地はかつて、1978年より長崎電気軌道が月極駐車場として営業を行っていたものでした。1985年に『ナガサキアーバンルネッサンス構想2001』が策定され、浦上川沿いに高架道路が架設されることに伴い、それまで国道沿いにあった線路を移設することになりました。移設した線路が社有地を分断する形になったため、月極駐車場跡地を有効活用すべく計画されました」
なお、西洋風の意匠は、「長崎のエキゾチックな魅力をひとつの街として創り上げる」というコンセプトを基にしたデザインだという。建物は全体的にゆったりした造りをしており、オープンスペースに置かれたテーブルやベンチでお喋りしたり、休憩したりする人が多く見られた。キッズスペースも広く取られており、ちょっと買い物や食事の後に子どもを遊ばせるのもよさそうだ。屋上からの眺めもよく、とても贅沢な造りの建物であると感じた。
テナントの撤退、赤字が続き苦渋の決断
閉館の決定に至った経緯については、「開業以来毎年赤字を継続し、現在では開業時にもまして経営が成り立っていない状況まできており、西洋館の赤字を本体(不動産、広告事業)で補填していました。さらに軌道業においても、近年の少子高齢化や県外への人口流出に加え、昨今の新型コロナウイルスの影響で売り上げが大幅に減少し、先行き不透明な状況で、抜本的な経営の見直しが急務となりました」との回答だった。
来場者推移は1996(平成8)年度に最大の234万8千人に達したが、2020(令和2)年度には最小の67万7千人。テナントも減少傾向にあった。新型コロナウイルスにより、全国で多くの商業施設が大きな打撃を受けたが、人が出歩かなくなれば観光業、鉄道業への影響は大きい。これは長崎県に限ったことではなく、全国共通のことであるといえる。
なお、長崎電気軌道株式会社の会社概要によれば、輸送人員の推移は2019年度に約1,635万人だったのに対し、2020年度は1,061万人、2021年度は1,130万人と、2019年度の水準には遠く及ばない状況が続いている。コロナ禍において、度重なる緊急事態宣言もあり、国内でも名だたる観光地である長崎の鉄道業に大きな痛手となったことが分かる。
長崎西洋館閉館後は?
長崎電気軌道株式会社は、長崎西洋館の土地建物含めて売却を検討している。今後の予定について伺ったが「現在、売却を見据えお客様と協議を行っているところで、決定した事項はございません」とのことだ。
なお、長崎西洋館3階にある長崎路面電車資料館は、長崎路面電車の開業からこれまでを振り返る貴重な資料が展示されている。被爆に関する記録などもあり、長崎の歴史についても学べる。長崎路面電車資料館の移転については「現在、検討中です」との回答を頂いたので、路面電車について知りたい人は閉館前に一度足を運ぶことをおすすめしたい。
110周年を見据えて利便性の向上施策を進める
長崎電気軌道株式会社は、1992年から納涼ビール電車の運行を開始。また2015年からは冬に「おでん電車」、2020年からイベント特別車両「あかり」を運行するなど、路面電車でしかできない体験を提供している。
「普通の居酒屋と異なり、街の景色(夜景)を観ながらビールを飲んだり、おでんを召し上がったりと、非日常な異空間が楽しみだと、お陰様でご好評をいただいております」と、乗客からの反応も上々のようだ。
2015年に電車開通100周年を迎えた長崎電気軌道株式会社。2025年には110周年を迎える。110周年を迎えるにあたり今後の予定について聞くと「現在実施している毎月第3日曜日『路面電車こども無料の日』や2区間内100円の『チョイ乗り割引』など、常にお客様の満足度向上、利便性向上を目指し、さまざまな施策を検討、実施しています。また、できる限りバリアフリー車両の導入などの設備投資を行っていきたいと考えており、結果として、お客様にとっても弊社にとってもより良い形で110周年を迎えられればと思っています」と、110周年を見据えてさまざまな取り組みを実施する予定であると言う。
昨年、JR東日本が地方路線の収支を初めて公表し注目を集めた。鉄道業において、新型コロナウイルスが長期化したことにより、赤字額がかさみ、人件費や運輸費を他路線や他事業でまかないきれないという事態が、全国で起きている。
暮らしに欠かせないものであり、長崎らしい景色のひとつでもある路面電車。ぜひ長崎に赴いた際は、路面電車から見る景色も楽しんでみてほしい。





















