マンション長寿命化促進税制が創設された背景
2023年度(令和5年度)の税制改正の大綱には、新たに創設された「マンション長寿命化促進税制」が組み込まれている。マンションの適切な修繕積立金を確保するためにインセンティブ(動機付け)を与えてくれる税制であることから、マンション組合組合の理事だけでなく区分所有者もぜひ知っておきたい制度となっている。
マンション長寿命化促進税制が創設された背景として、多くの高経年マンションにおいて修繕積立金が不足している状況が挙げられる。
国土交通省が行った「平成30年度マンション総合調査」によると、修繕積立金のストック状況は、以下のようになっている。
修繕積立金のストック状況
| 現在の修繕積立金が計画に比べ不足している | 34.80% |
| 現在の修繕積立金が計画に比べて余剰がある | 33.80% |
| 不明 | 31.40% |
全体のうち34.8%のマンションが「現在の修繕積立金が計画に比べ不足している」と回答しており、少なくとも3棟に1棟程度の割合で修繕積立金不足のマンションが存在していることになる。不明と回答している31.4%のマンションの中にも修繕積立金不足に陥っている物件が存在する可能性があり、実際には34.8%以上のマンションが修繕積立金不足となっている可能性はある。
国は修繕積立金不足のマンションが多いことを問題として認識しており、2021年9月には「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の改定も行っている状況だ。また、上記の調査は2018年時点のものであるが、近年は工事費が急激に上昇していることから、2018年の調査時点よりも修繕積立金不足に陥っているマンションはさらに増えている可能性も考えられている。
修繕積立金不足のマンションが増えれば、長寿命化のための大規模修繕が適切に実施されない物件も増えていくことが懸念される。大規模修繕が適切に実施されなければ外壁の剥落や廃墟化を招き、周囲への大きな悪影響も生じかねない。
そこで、全国のマンションに、適正な修繕積立金の確保や大規模修繕を適宜実施できるように管理組合の合意形成を後押しできる施策の必要性が生じており、マンション長寿命化促進税制ができたという流れである。
特例措置の内容
マンション長寿命化促進税制とは、一定の要件を満たすマンションにおいて、長寿命化に資する大規模修繕工事が実施された場合に、その翌年度に課される建物部分の固定資産税額を減額する制度だ。
減額割合は、参酌基準を「3分の1」とし、「6分の1」から「2分の1」の範囲内で市町村の条例で定めることとなっている (1戸当たり100平米相当分までに限る) 。
長寿命化に資する大規模修繕工事とは、屋根防水工事や、床防水工事、外壁塗装等工事のことを指す。
対象となる工事は、過去に1回以上長寿命化工事が適切に実施されており、2回目以降の工事として2023年4月1日~2025年3月31日の間に実施されたものになる。
マンション長寿命化促進税制のポイントは、各区分所有者の建物の固定資産税が安くなる点にある。区分所有者はマンションの管理組合の組合員であることから、自分たちの固定資産税が減額されるのであれば大規模修繕の実施に賛同しやすい。また、修繕積立金が不足している場合、修繕積立金を増額する改定に関しても合意形成が図られやすくなる。区分所有者自身に直接メリットが与えられることから、マンション長寿命化促進税制は大規模修繕の実施や修繕積立金の見直しに関してインセンティブが働く制度となっている。
対象となるマンションの要件
マンション長寿命化促進税制の対象となるマンションは、以下の4つの要件を満たすことが必要となる。
【対象となるマンションの要件】
・築後20年以上であること
・戸数が10戸以上であること
・過去に1回以上の長寿命化工事※を実施していること
・長寿命化工事の実施に必要な積立金を確保していること
※長寿命化工事とは、屋根防水工事や床防水工事、外壁塗装等工事のこと
要件の中でポイントとなるのが、「長寿命化工事の実施に必要な積立金を確保していること」である。
長寿命化工事の実施に必要な積立金を確保していることとは、以下のいずれかの要件を満たしている必要がある。
【長寿命化工事の実施に必要な積立金を確保していることの要件】
・積立金を一定以上引き上げ、「管理計画の認定」を受けていること
・地方公共団体の助言・指導を受けて適切に長期修繕計画の見直し等をしていること
管理計画の認定とは
管理計画の認定とは、マンション管理適正化法(マンションの管理の適正化の推進に関する法律)に基づく制度のことを指す。管理計画の認定制度は、2022年4月から始まった制度であり、まだ認知度は低いかもしれない。
マンション管理適正化法とは、マンションの管理の適正化の推進を図るとともに、マンションにおける良好な居住環境の確保を図ることを目的とした法律である。
マンション管理適正化法では、マンションの管理計画の認定制度を設けている。どのような制度かというと、まず自治体が適正なマンション管理の基準を作成し、その基準を満たす管理計画を有するマンションが自治体からお墨付きをもらえるという制度である。
自治体の作成するマンション管理の基準のことを「マンション管理適正化計画」と呼び、自治体から管理計画のお墨付きをもらうことを「管理計画の認定の取得」という。そのため、管理計画の認定を受けるには、マンションが所属している自治体(都道府県または市)がマンション管理適正化計画を作成しているか否かを確認する必要がある。マンション管理適正化計画があれば、その指針に沿って自分たちのマンションの管理計画を作成することになる。管理計画ができれば、該当する自治体の長に対して認定を申請していくという流れだ。
管理計画は単に作成すればよいというものではなく、現在のマンションが管理計画の基準を満たしていなければならない。基準の中には、例えば、「管理費と修繕積立金の区分経理がされていること」や「総会が年1回以上定期的に開催されていること」等の要件がある。特に、長期修繕計画に関しては「長期修繕計画の作成および見直し等」という項目で以下の基準が定められていることが一般的である。
【長期修繕計画に関する認定基準】
・長期修繕計画が(標準様式準拠)の内容およびこれに基づき算定された修繕積立金額について総会で決議されていること。
・長期修繕計画が7年以内に作成または見直しが行われていること。
・長期修繕計画の計画期間が30年以上かつ残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれていること。
・長期修繕計画において将来の一時金の徴収を予定していないこと。
・長期修繕計画の計画期間の最終年度において、借入金の残高のない⾧期修繕計画となっていること。
・長期修繕計画の計画期間全体での修繕積立金の総額から算定された修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと。
要件の最後の部分における「修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと」とは、「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」に記載されている金額が一定の目安とされている。目安の額は以下の通りである。
【計画期間全体における修繕積立金の平均額の目安(機械式駐車場を除く)】
(20階未満) 月額の専有面積当たりの修繕積立金額
建築延床面積
5,000平米未満 235円/平米・月以上
5,000平米以上10,000平米未満 170円/平米・月以上
10,000平米以上20,000平米未満 200円/平米・月以上
20,000平米以上 190円/平米・月以上
(20階以上) 240円/平米・月以上
なお、長寿命化工事の実施に必要な積立金を確保していることの要件を満たすには、地方公共団体の助言・指導を受けて適切に長期修繕計画を見直すという選択肢もある。
どちらを選択すべきかについては、例えばマンション管理士等の第三者の意見も聞きながら管理組合の理事会等で決めることが望ましいといえる。
長寿命化工事を実施する際の流れ
マンション長寿命化促進税制で減額を受けるまでの流れは以下の通りとなる。
・管理計画の認定、または都道府県等から助言や指導を受けて長期修繕計画を見直す
・2023年4月1日~2025年3月31日までの間に長寿命化工事を実施する
・長寿命化工事後3ヶ月以内にマンション管理士等が発行した証明書等を添付して市町村に申告する
・長寿命化工事が完了した年の翌年度分の建物の固定資産税が減額される
全体の流れの中では、工事完了後の3ヶ月以内に市町村に申告をしなければいけないという点がポイントとなる。
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