本場メジャーリーグの知見も生かした、ボールパークによるまちづくり
「きつねダンス」が日本中で話題になったプロ野球・北海道日本ハムファイターズが2023年3月、「エスコンフィールドHOKKAIDO」(以下、エスコンフィールド)を開業させる。新天地は、札幌市と新千歳空港の中間にある北広島市。「初」ずくめの新球場を核として、商業施設やレジデンス、保育所などが集まる「北海道ボールパークFビレッジ」(以下、Fビレッジ)が誕生する。新しい観戦体験ができ、多世代が交流する「世界がまだ見ぬボールパーク」になりそうだ。
2004年に北海道へ本拠地を移転して以来、ファイターズが本拠地としてきた札幌ドームは札幌市が所有し、市の第三セクターが運営している。札幌ドームは野球に特化していないこともあり、球団にとってはより柔軟で効果的な管理運営が悲願だった。理想とするプレー環境の実現や、運営の自由度向上、スポーツビジネスの幅広い展開を求め、新球場建設を計画していた。誘致に手を挙げていた北広島市と協働し、自前の新球場を中心に、北海道を代表するような新しい「まち」をつくることにした。
Fビレッジとその中核となるエスコンフィールドを運営するのは「株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント(FSE)」。川村浩二社長の講演会に参加した筆者は、そこで語られた思いや情報を基に取材を進めた。
講演で川村社長は、「単なる球場づくりにとどまりません。ボールパークを通じたまちづくりをしていきたいと考えています」と力を込めた。
野球観戦にプラスアルファの価値を持たせたボールパークは、アメリカが本場とされる。川村社長によると、メジャーリーグの大半の球団は、野球に強い関心のない地元の人も楽しめるよう、ボールパークを中心にしたまちづくりを展開し、行政からの建設費支援も充実している。「行政にとってもメリットがあり、寂れたダウンタウンで再開発するケースが多いです」と紹介する。このため今回のボールパークのプロジェクトには、メジャーリーグでボールパークの経験が豊富なアメリカの設計事務所が参画している。
圧倒的な臨場感、回遊性にこだわる。「初」ずくめの新球場
新庄剛志監督が「世界一の球場」と胸を張るエスコンフィールド。地下2階、地上6階建ての世界最大級で、Fビレッジ内の道路の建設を含めて約600億円が投じられる巨大プロジェクトだ。
最大の特徴は、天然芝の球場では日本初となる、開閉式の三角屋根だ。選手からの要望が強かった天然芝を養生するために開閉式となり、バックスクリーンの奥にせり立つ巨大なガラス壁からも日光が注がれるように設計された。
また2022年シーズンまで本拠地だった札幌ドームの収容人数は4万1,000人だったが、エスコンフィールドでは3万5,000人(レストランなど含む)に絞った。窮屈になりがちだった座席にも余裕を持たせるよう、座席幅は札幌ドームより約6cm広くし、全席をホームベースに向けた。前席との間隔も拡大。ゆとりを感じさせる配置とし、360度回遊できるコンコースと合わせ、球場内の回遊性を高めることも狙った。ライト側の観客席には、家族連れで利用しやすいソファのボックス席や、子どもが遊ぶスペースもある。
「圧倒的な臨場感」にもこだわり、随所に工夫が施されている。上階に行くにつれて傾斜が強くなる3層のすり鉢状の構造としたことで、どの席からもグラウンドを見下ろしやすくなった。ブルペンは外野の観客席からのぞき込める位置にあり、チームメンバーが陣取るベンチはグラウンドにせり出すなど、選手らの表情やしぐさがよく見えるようにした。
一塁型と三塁側にあるLEDビジョンは国内最大級で、場内各所のデジタルサイネージ(電子広告)と連動させた演出ができるシステムを採用。中継映像や音響、光を高度に組み合わせた「最先端の水準の演出」が楽しめるという。
生粋の野球ファン以外も楽しめる。新しい観戦スタイルを提案
野球観戦そのものだけにとどまらず、さまざまなエンターテインメントを組み合わせた、多様な観戦スタイルを提案しているのもエスコンフィールドの新しい価値になっている。試合がない日でも楽しめるほか、球場での滞在時間を従来の野球観戦よりも伸ばせそうだ。
バックスクリーンの裏側にはクラフトビール醸造レストランがあり、ビール片手にグラウンドを見下ろせる。球場内にビールの醸造所を設置するのは国内初で、メジャーリーグでも球場中心部に設けるのは珍しい。
レフト側には5階建てのタワー状の建物がお目見えする。日本初となる球場内のホテルや、世界初という球場内の天然温泉とサウナが入り、くつろぎながら迫力ある試合を楽しめる。かつてファイターズで活躍したダルビッシュ有、大谷翔平両選手の当時の背番号「11」にちなみ、「TOWER 11」と名付けられた。アート作品が並ぶミュージアムや、シミュレーターで乗馬体験できる施設も入居する。
バックネット裏の三塁側にあるコンコースでは、すし、焼肉、ラーメン、スイーツといった飲食店が入る「七つ星横丁」が設けられる。
保育所からシニア向けマンションまで。あらゆる世代が交流するエリア
Fビレッジ内には、分譲マンションや商業施設、アウトドア施設など多くの施設が並ぶ。ボールパークの総敷地面積は東京ドーム約7.8個分の36.7ヘクタールで、あらゆる世代が憩い、交流し、住まうエリアを目指す。
エスコンフィールドのすぐ隣の分譲マンションは「レ・ジェイド北海道ボールパーク」。購入者は10年間、球場にフリーで入場できる。ゆとりのある専有面積をもつ118戸がすでに完売。新千歳空港からのアクセスが良く、首都圏在住者には新たな拠点として注目された。
商業施設「THE LODGE(ザ・ロッジ)」は、Fビレッジの情報発信基地、また道内を周遊する観光のハブとしての機能が期待されている。木材やレンガは道産の素材をあしらい、近隣地域の特産品を販売するアンテナショップや、北海道の自然に親しめるアウトドア専門店、サイクルスポーツ専門店などが入居する。
ザ・ロッジ隣の芝生エリアでは、グランピングや、デイキャンプ・BBQといったアウトドア体験ができる。焚き火スペースのある管理棟と宿泊棟8棟が並ぶ。近くには、水辺越しにエスコンフィールドを望み、サウナなどを楽しめるプライベートヴィラ9棟も誕生する。
このほか、複数の医療機関が入居する「メディカルモール」のあるシニア向け賃貸マンションや認定こども園、1,900m2に及ぶ子ども向けの遊び場、収穫体験などができる農業学習施設などもお目見えする。
札幌も空港も近い。北広島市から「スポーツコミュニティ」を実現
北広島市ではFビレッジ開業をきっかけに、当面の最寄り駅となるJR北広島駅周辺での開発事業が動き出し、アクセスをより向上させる新駅建設に向けた協議がJR北海道(北海道旅客鉄道株式会社)側と続けられるなど、地元にとっても大きな変化とインパクトをもたらしている。
Fビレッジを運営するFSEは経営理念に、スポーツと生活を近づける「スポーツコミュニティの実現」を掲げている。これまでも観光や食、スポーツなどに関する道内自治体とのパートナー協定を結んだり、球団選手らが「応援大使」として全179市町村を訪問したりと、2004年の北海道移転以降、地域との関わりを深めてきた。
こういった蓄積をベースに、FSEは、「北海道の魅力や価値を国内外に発信し、北海道のアイデンティティを象徴し、道民が誇りと愛着を感じられる空間にすること」をボールパークのあるべき姿として描いている。
具体的には、豊かな自然や食材といった魅力を発信する「北海道のショーケース機能」、そして道内観光の拠点となる「ハブ機能」を重視。川村社長は例として、商業施設ザ・ロッジにアメリカ発祥の自転車メーカーがアジア初のエクスペリエンスセンターを置くことから、道内のサイクルツーリズムの拠点になるとみる。また、地元のバス会社と連携し、快適に移動できる専用のプレミアムバス「F VILLAGE CRUISER(F ビレッジ クルーザー)」を配備。ボールパークを起点に近隣の観光地などを周遊する予定だ。
「北広島市から60分圏内の商圏は約300万人で、道内人口の半分ほどをカバーできます」と川村社長は強調する。道外や海外からも集客する上で、北広島市という立地は大きなアドバンテージになると見立てている。
川村社長は「2004年の北海道移転は球団にとって『第二の創業』で、地域との結びつきを深めてきました。ボールパークの開業は『第三の創業』。より北海道に根を下ろし、北海道のシンボルとなる新しいまちをつくっていきます」と意気込む。












