注目される資源・天然ガス
天然ガスは近年、世界的に需要が高まっている天然資源だ。天然ガスは燃焼時のCO2排出量が少ないことから、火力発電の燃料にも用いられている。世界各国がCO2の削減に向けて動き出していることから、天然ガスの価格も高騰している状況だ。本記事では、注目される天然ガスと地盤沈下との関連性、千葉県の地盤沈下の概況について解説する。
南関東ガス田とは
南関東ガス田とは、可採埋蔵量が3,685億立方メートルとなるわが国最大のガス田である。日本は天然資源に乏しい国とされるが、南関東ガス田では天然ガスが採取されている。南関東ガス田は、千葉県を中心に茨城、埼玉、東京、神奈川県にまたがる広範な範囲に広がるガス田である。
天然ガスが産出されるのは上総層群と呼ばれる砂岩と泥岩からなる地層であり、千葉県の九十九里地域で多く採取される。天然ガス鉱業会によると、九十九里地域のガス井戸からは2018年時点で年間約4.4億立方メートルが生産されており、現在の生産量で換算すると可採埋蔵量は約800年分となっている。埋蔵量では南関東ガス田は国内最大とされているが、天然ガスの生産量としては1位が新潟県、2位が千葉県となっている。
天然ガスの主な成分はメタンガスであるが、中でも千葉県の天然ガスは一酸化炭素や不純物をほとんど含まないメタン99%の純度の高いガスであることが特徴となっている。一般的な天然ガスは、メタンガスの割合が約90%である。メタンガスからは水素も取り出すことができるため、将来的に水素社会が到来してもメタンガスがあれば国内で水素をある程度調達できることになる(ただし製造過程でCO2を排出してしまう) 。天然ガスは石炭や石油と比べると時代のニーズに合致した天然資源となっており、このような資源が日本に存在することは喜ばしい。
しかしながら、現状では日本は天然ガスの約98%を輸入に頼っており、国内生産量は約2%にとどまっている。そのため、都市ガスや電気の料金は天然ガスの国際価格に大きく影響を受けてしまう状況にある。昨今では、為替相場やウクライナ情勢が起因して、天然ガスの輸入価格が上昇傾向にある。都市ガスや電気の料金も徐々に上がってきており、日本全体としては国内で生産される天然ガスの恩恵はほとんど受けることができないのが現状だ。
天然ガスを積極的に採取できない背景
国内の天然ガスの生産量はわずか供給量の約2%であり、天然ガスの恩恵を受けられる地域は限られている。千葉県においても県全体で国産の天然ガスを利用できるわけではなく、地元のガス会社からガスの供給を受けられるのは主に太平洋側の地域を中心とする一部のエリアのみである。
昨今、都市ガスの料金が値上げされている中で、千葉県内の天然ガスを利用している地域ではガス料金の値上げが生じていない。ガスを輸入していない千葉県のガス会社は、国際情勢の影響を受けにくいことが主な理由である。埋蔵量も豊富で国際情勢の影響も受けにくいのであれば、もっと積極的に千葉県で天然ガスを採取すべきなのではないかと思われるかもしれない。
しかしながら、天然ガスはそう簡単に生産量を増やせない事情がある。千葉県で天然ガスが果敢に生産できないのは、取り過ぎると地盤沈下を引き起こしてしまうからである。千葉県で採取できる天然ガスは水溶性天然ガスと呼ばれており、微生物起源のメタンガスが「かん水」という地下水に高い圧力で溶け込んでいる状態で埋蔵されている。かん水は、海水などが堆積物の隙間に閉じ込められた太古の「地層水」であり、長い年月をかけて微生物が分解され、天然ガスとして溶けて溜まっていったものと考えられている。千葉県で天然ガスを採取しようとすると、このかん水(地下水)を汲み上げることになる。
千葉県の地盤沈下の状況
地下水は汲み上げ過ぎてしまうと地盤沈下を引き起こすため、天然ガスを大量に採取することはできないのだ。実際、千葉県では今もなお天然ガスの採取地域を中心に地盤沈下が生じている。2022年11月22日に公表された「令和3年 千葉県における地盤沈下の概況について」によると、2022年1月1日時点で調査地点の約3分の1の地域で地盤沈下が見られた。
千葉県の地盤沈下の概況を示すと、以下の通りである。
(調査概要)
調査基準日:2022年1月1日
調査対象地域:東葛、葛南、千葉・市原、君津、北総及び九十九里地域の47市町村
調査面積:3,208.5キロ平方メートル
(調査結果)
地盤沈下が見られた面積:1,068.7キロ平方メートル(調査面積の約33.3%)
・2020年調査結果と比較して753.5キロ平方メートル減少している。
・2cm以上の沈下がみられた面積は0キロ平方メートル
・5年間累計では10cm以上の沈下がみられた面積は0.1キロ平方メートル
地盤沈下が大きかった水準点(大きい順に10地点)は、以下のような地域である。
長生村七井土 ▲1.83cm
睦沢町飛地 ▲1.77cm
茂原市本納※1 ▲1.75cm
茂原市下太田 ▲1.71cm
茂原市大沢 ▲1.70cm
佐倉市米戸 ▲1.63cm
茂原市本納※2 ▲1.62cm
富里市高松 ▲1.53cm
八街市榎戸 ▲1.50cm
富里市十倉 ▲1.39cm
水準点番号:※1「3932」、※2「3931」
地盤沈下が発生している地域は茂原市や長生村、睦沢町といった九十九里地域に多く、一部に富里市や八街市といった北総地域にも見られる。九十九里地域はかん水を採取している地域であるが、富里市や八街市では採取は行われていない。九十九里地域で行われているかん水の採取が、隣接している富里市や八街市にも影響を及ぼしていると考えられる。
地盤沈下の原因
地盤沈下の原因は、一般的にはかん水や地下水の採取にあると考えられている。しかしながら、千葉県内には1年間の間で逆に隆起しているエリアもあり、一概にかん水の採取だけが原因ではないとしている。
例えば、九十九里地域の中にある横芝光町や山武市には、1年間で+1.08cmも隆起した地点も見られる。そのため、千葉県としては地盤沈下の原因は詳細な調査検討を要するとしており、かん水や地下水の採取以外にも地震動や時間経過による圧密等の自然的要因、またはこれらの複合要因も原因になり得るとしている。
圧密等とは、ゆれや上部からの荷重によって地層中の水や空気が移動して地層が収縮する現象のことである。
千葉県が地盤沈下の調査を継続している理由
千葉県は地盤沈下の調査を1960年(昭和35年)から継続して行っている。なぜこれほどまで長期に継続的な調査が行われているかというと、地盤沈下は進行が緩慢で被害が大きくなるまで公害として認識されにくいからである。
地盤沈下は一度発生するとほとんど回復不可能といわれており、防止していくためには地盤沈下の状況を長期的に監視していく必要がある。定期的なモニタリングを実施することで、適切で効果の高い対策を立案し、きめ細やかな対応を実施していくことが狙いだ。なお、このような地盤沈下の調査は同じく天然ガスを多く採取している新潟県でも継続して行われている。新潟県でも積極的に天然ガスの生産量が増やせないのは、急速な地盤沈下を防ぐことが理由だ。
千葉県の地盤沈下対策
千葉県では、まず一部の地域で工業用水法とビル用水法の2つの法律で地下水の採取を規制する地域を定めている。また、千葉県および千葉市の環境保全条例によっても地下水の採取を規制する地域を定めている。これらの法律や条令で規制を受けるエリアは主に東葛、葛南、千葉・市原、君津といった東京湾エリアが中心となっている。東京湾エリアは地下水の採取の規制があるため、地盤沈下もあまり生じていない。
一方で、九十九里地域および千葉県内の天然ガス会社との間では、「地盤沈下の防止に関する細目協定」を結び、細かな対策をとっている。細目協定は、継続的な地盤沈下調査の結果に基づき、内容が5年ごとに改定されている。細目協定の目標としては、「年間沈下量20mm以上の地域をなくす。」と「九十九里地域で標高5m未満の地域(平野部)においては5年間の累計沈下量が30mmを超える地域をなくす。」の2つを掲げている。
2021年の調査では20mm以上の地盤沈下が発生した地域はなくなっており、目標の一部は達成できているといえる。一方で、5年間の累計沈下量が30mmを超える地域は一部にまだ存在する状況にある。千葉県の地盤沈下は昭和40年代が最も激しかったが、法律や条令の規制により大幅に削減され、細目協定の改定と天然ガス鉱区の買い上げも実施されたことで現在は沈静化傾向にある。
地盤調査に関しては、調査と対策が継続的に行われていけば、5年間の累計沈下量が30mmを超える地域をなくすという目標もいずれ達成されていくものと思われる。
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