北海道土産で有名なチョコレート。その工場近くになぜ駅が?
北海道土産として有名なチョコレートブランド「ロイズ(ROYCE')」。そのメーカーが札幌市近郊で増設している工場の近くに、長年の念願だった駅が誕生した。2022年3月開業の「ロイズタウン駅」。経営難に苦しむ北海道旅客鉄道株式会社(JR北海道)としては20年ぶりの新駅となり、明るい話題を振りまいた。定住人口の増加を目指している地元の当別町との公民連携で、新駅を基軸にした新しいまちづくりが始まりつつある。
当別町は、札幌市中心部から北に約30km。2022年4月現在の人口は約1万5,000人で、北欧風の住宅街や人気の道の駅で知られる。多くの町民が札幌圏に通勤しているベッドタウンだ。ロイズタウン駅があるのは、札幌駅と終点の「北海道医療大学駅」を結ぶJR札沼線(学園都市線)。北海道医療大学駅より先の約50km区間は2020年に廃止になっているが、今も残る区間では、通勤客のほか学生の姿が多く見られる。
2022年7月下旬に新駅を訪ねた。札幌駅からは約30分で、遠さは感じなかった。
真新しい無人の駅舎は田畑に囲まれて建ち、「ロイズ」のパッケージを思わせる青色の外観が印象的だ。ガラスに貼られた衝突防止のシールは、人気商品のピュアチョコレートと同じデザインがあしらわれていた。
駅前では造成工事が進んでいて、300mほど先には大きく白い「ロイズふと美工場」が見えた。工場までは歩いて10分もかからないが、シャトルバスも発着していた。
リニューアルが続く主力工場。その集客力が新駅の推進力に
約9億3,000万円を投じて駅舎などの建設費用を負担したのは、生チョコレートなどを製造する株式会社ロイズコンフェクトだ。1999年に移転した「ふと美工場」は同社の主力拠点で、物流機能も集約させつつ生産能力を向上させ、増設を重ねている。2022年3月にはチョコレートなどの菓子やオリジナルグッズが手に入る直売店がリニューアルオープン。新たにベーカリーが入り、7月には敷地内にガーデンが完成するなど魅力が高まっている。
7月下旬の訪問時は、駐車場には札幌ナンバーの車が多く並び、ツーリング中らしいバイクや自転車に乗る人の姿もあった。ガーデンを散策したり、施設内でソフトクリームを味わったり、菓子売り場で品定めしたりと、思い思いに滞在する客でにぎわっていた。
2022年冬には、工場見学ができる施設がお目見えする。さらなる集客増が見込まれていることが、新駅をつくる上での大きな材料になった。
チョコレートでまちづくり。モデルは米国の「ハーシータウン」
駅名に「タウン」がついているのは、ロイズ側の強い思い入れが表れている。「チョコレートを起点に、地域を盛り上げていけるようなまちづくりを目指しています」と広報担当者は語る。どんな背景があるのだろうか。
ロイズコンフェクトの山崎泰博社長はかねて、アメリカ・ペンシルベニア州にあるチョコレートメーカー「ハーシー」が、まちを一からつくったことに感銘を受けていた。ハーシージャパン株式会社のホームページによると20世紀初頭、創業者のミルトン・ハーシーが、従業員がより良い生活ができるようにと、交通機関や学校、住宅、動物園などがそろった「理想の街」を構想。設計と建設を始め、ハーシー市の基礎をつくった。遊園地「ハーシーパーク」や「ハーシータウン」は、今でも観光名所として知られている。
山崎社長は2022年3月にあったロイズタウン駅の記念式典で、15年前に視察団を組んでハーシータウンを訪問した時のエピソードを披露。「コンベンションホールやホテルがあり、世界中からいろいろな人が田園の町を訪れていた」と振り返った。ロイズのふと美工場も田園風景の中にあるため、両者を重ねるように「この地(当別町)にハーシーのようなまちづくりができればいい」と目標を明かした。
地元にとって、この駅は約15年に及ぶ悲願だった。長い間、駅をつくるというハードルは高いとみられていたが、地元側や企業などがJRに設置を求める「請願駅」という可能性が着目され、実現へと動き出した。駅舎の建設費などをロイズが負担し、駅前広場や駐車場を当別町が整備することとし、手を携えてJRと交渉していくこととなった。
全国で相次ぐ「請願駅」の可能性。三者の思惑が一致した新駅
沿線自治体や企業などが鉄道会社に要望して新設される「請願駅」。住民の利便性向上や人口流入、観光の活性化、地価上昇といったメリットが見込まれ、各地で相次いでいる。
首都圏では、住民が設置に奔走した東小金井駅(東京都、JR中央本線)や、本田技研工業株式会社(HONDA)の工場近くにある「みなみ寄居駅」(埼玉県、東武鉄道)、大型ショッピングモールに隣接する「越谷レイクタウン駅」(埼玉県、JR武蔵野線)などがある。千葉県内のJR京葉線では、ショッピングモール近くの幕張新都心に「幕張豊砂駅」が開業予定。道内でも、プロ野球の北海道日本ハムファイターズの本拠地となる「北海道ボールパークFビレッジ」を建設中の北広島市で、新駅設置に向けて協議が進んでいる。
当別町もこの「請願駅」に着目し、ロイズと調整を重ね、連名で2020年1月にJR北海道に要望。JRとしても、駅が路線の利用客増に貢献する可能性があるため、町によると「3者の思惑が一致した」。9ヶ月後の2020年10月には、JR北海道の島田修社長(当時)が新駅設置を発表した。
JR北海道の在来線では20年ぶりの新駅となった。維持管理費はJR側が負担するが、2021年4月の会見でJR北海道の島田社長は「利用人員の増加を考えれば十分採算が合う」と説明した。経営難で駅やローカル線の廃止といった苦しい決断を重ねているJR北海道にとって、貴重な明るいニュースとなった。
人口減少の中、工場の働き手の確保にも期待
当別町などの想定では、ロイズタウン駅の利用客は工場の見学客と通勤する従業員を合わせて1日1,000人ほど、年間で約40万人を見込んでいる。
ふと美工場はロイズタウン駅ができるまで、線路は近くにあっても最寄り駅からは歩いて30分弱と距離があり、当別町中心部からも離れていた。このため当別町によると、工場に通勤する従業員を含めて、アクセスは車が中心だった。新駅ができた効果について、町事業推進課長の高田浩司さんは「シャトルバスの利用を見ても、予想以上にJRの利用がありました」。ロイズコンフェクトの広報担当者も「従業員の通勤は便利になり、JRでご来店されるお客様も確実に増えています」と実感する。
工場を訪れる人のアクセス充実に加えて、従業員の利便性向上と人材確保にもつながる期待は大きい。ロイズコンフェクトの山崎社長は2022年3月の記念式典で「従業員の通勤路として、また工場を訪れる方を誘導できるようPRして、利用客をどんどん増やしたい」と強調。通勤手段を充実させることで、人材確保にもつなげたい考えを示した。
駅舎内のシールの絵柄を人気商品と同じデザインにしたのはJRの計らいで、通勤するロイズコンフェクトの社員に愛着を深めてほしいという思いもあるという。多くの業界で人手不足が深刻化する中、渋滞などのストレスがない鉄道で通えるメリットは小さくなさそうだ。
新駅を軸にした再開発へ。「スマートタウン」を目指す当別町
当別町は「第6次総合計画」(2020年)で定住人口2万人の目標を掲げ、「公民連携による新駅の検討・既存施設の活用など『新しいまちの顔』となる地域を創出し、人の呼び込みにつなげる取り組みを進めます」とうたっていた。ロイズタウン駅の近くには年間約70万人が訪れる道の駅もあり、さらなるにぎわい拠点がかねて求められていた。
半面、財政状況が厳しい中で町単独の事業は難しく、民間活力の活用が現実的だった。2019年10月にロイズと町は、地域活性化に向けた包括連携協定を締結。町は約6億円をかけて駅前のロータリーやトイレ、歩道などを整備している。
JR北海道の島田社長も記念式典で「人口減少が進む中、定住人口と交流人口の増加の取り組みのモデルケースとして町に新たな人流を生み出す拠点に」と期待をかけていた。実際、駅周辺ではさまざまな構想が打ち立てられている。
観光面では、道の駅や田園風景を絡めて周遊できるよう魅力を発信し、交流人口増から、定住人口の増加へ駒を進めることを狙う。町によると、ベッドタウンとしての当別町の注目度は高まり、建築確認の申請数は2020年に38件だったが翌年は73件に急増し、2022年は6月末時点で44件に上っている。
また、田園風景が広がる新駅周辺は、5Gを活用した「スマートタウン」に向けた実証実験の場としても検討されている。人手不足に悩む農家による「スマート農業」や、無人走行バスの運行といった可能性が模索されている。
一帯では、再生可能エネルギーの積極的な利用を進めている。道の駅ではヒートポンプ(熱移動させる装置)をすでに導入し、新駅周辺では道路を温めるロードヒーティングに地中熱の活用を計画。町事業推進課長の高田さんは「新駅ができるチャンスはそうそうありません。札幌から近い当別町への認知度が高まったので、定住人口2万人の実現に向けて、新たな取り組みを重ねてチャンスを広げていきたいです」と言う。
公開日:










