近鉄沿線を中心に、地域の発展を牽引してきた近鉄不動産株式会社
大阪・奈良・三重を中心に近畿一円に路線網を広げる近畿日本鉄道(※以下、近鉄)は、交通のインフラだけでなく、不動産事業も展開している。同社の不動産事業は、1950年の学園前住宅地(奈良県)の開発に始まり、1968年には近鉄の土地建物経営事業を継承した近鉄不動産株式会社を設立。大規模宅地開発などで地域の発展を牽引し、関西の街づくりを担ってきた。
しかし近年は、少子高齢化によって、近鉄の沿線人口も減少の局面に突入しており、従来の新しい街づくりだけを推進する事業モデルは見直しを迫られている。また、成熟期に入った街や、コロナ禍の急激なライフスタイルの変化は、新しいニーズも生み出し、あらたな事業展開も必要となっているようだ。
今回、近鉄不動産株式会社 専務取締役の古川浩氏にインタビューする機会を得た。インタビュアーは、日本最大級の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」を運営する、株式会社LIFULL 取締役 LIFULL HOME’S事業本部長の伊東祐司氏。古川氏が管掌する戸建事業、仲介事業、リフォーム事業を中心に、事業の現在地と展望を聞いてきた。
歴史ある会社は、未来に向けて絶えずその姿を変え続けている
古川 浩:1983年、近畿日本鉄道株式会社入社。同年、近鉄不動産株式会社出向。2016年、取締役 ハウジング事業本部 マンション事業部担当。2017年、取締役 名古屋事業本部長。2018年、常務取締役 ハウジング事業本部長。2021年、専務取締役 ハウジング事業本部長伊東氏:近鉄不動産は幅広い住まいの事業を展開されていらっしゃいます。なかでも古川専務は、一戸建て、仲介、リフォームを主業務とするハウジング事業本部を管掌されていると伺っています。本日はハウジング事業本部が担う事業を中心にお話を伺いますが、まずは御社の歴史をお聞かせください。
古川氏:近鉄不動産は、近鉄の土地建物経営事業を承継し、1968年に設立した不動産会社です。設立当初は、沿線人口を増やすことを目的に、山林を造成して新しい街を作るいわゆるデベロッパーとしての事業が主でした。初期の近鉄不動産の開発には、学園前住宅地や、桔梗が丘住宅地(三重県)、登美ヶ丘住宅地(奈良県)、東生駒住宅地(奈良県)などがあります。現在までの累計販売区画は約2万5,000区画、約1万7,000戸の一戸建て住宅を供給しており、その約8割が近鉄沿線での供給です。
1969年には三重県賢島のリゾート開発事業に進出したほか、1973年には現在のハウジング事業本部が担う仲介事業を開始するなど、順調に事業を拡大していきます。仲介事業は現在近畿圏を中心に、東海圏・首都圏・広島地区で47店舗のネットワークを展開し、取扱高は年間1,000億円を超える規模になっています。
1980年代には都心の新規ビル開発にも参入しますが、この頃も沿線人口は拡大を続けており、当社のメイン事業は引き続き沿線の宅地造成事業でした。当時は1,000戸を超える規模の住宅地が、同時に10団地くらい開発されているような、大量供給の時代。1990年のバブル崩壊で世の中の経済状況は大きく変わりますが、その後も10年くらいは安定した住宅需要が続きました。
伊東氏:同時に10団地とはすごいですね。
古川氏:はい、私が担当課長をしていた頃は、注文住宅を合わせると年間1,000戸ほど販売していました。時勢が変わったのは2000年代です。人口減少の時代を迎え、当社も事業変換を余儀なくされます。都心回帰の動きも相まって、これまでの大規模宅地開発から一転、「ローレル」ブランドで展開していた分譲マンション事業が当社の新たなメイン事業となりました。その後は、既存住宅のリフォームが注目を集めるようになります。リフォーム事業には1989年から取組んでいましたが、2005年に「NEWing(ニューイング)」という新たなブランドを立ち上げ、積極的に展開。現在はストックの活用にも注力しています。創業以来の「お客さまに喜んでいただく」というポリシーは一貫して変わっていませんが、不動産会社としての事業の中身は、実は時代によって大きく変わっているのです。
変わっていく住民のニーズに応じて、サービスと店舗も変化
伊東 祐司:大学卒業後、2006年株式会社ネクスト(現LIFULL)に入社。2015年に最年少の32歳で執行役員就任。2019年、LIFULL HOME’S事業本部長に、2020年12月に取締役に就任した。事業責任者として不動産業界が抱える社会問題の解決に向けて積極的に取組んでいる伊東氏:少子高齢化・人口減少社会というお話もありました。働き盛りの頃、御社が開発した住宅地に住まいを購入した人たちも、年月を経てライフステージが変わりつつあるタイミングだと思います。御社がつかんでいる新しいニーズがあれば、ぜひ教えてください。
古川氏:大規模開発は、ほとんど終わりを迎えており、現在ハウジング事業本部が力を入れているのは買取再販事業です。高齢化や住宅の老朽化といった問題、空き地・空き家の処分や相続でお困りの方に、これまではその売買のお手伝いを行っていましたが、2015年以降は新たに買取再販のご提案も行っています。これは、売却を希望される物件を当社が買い取ったうえで、リフォームや新築をし、新たなお客さまへ販売するサービスです。お客さまにとっては、早く確実に売却できることと、現状のままで売却できることがメリットです。
他にも、2021年11月からは住宅リースバック事業「ずっとこの家」を開始しました。当社がご自宅を買い取り、その後も賃貸借契約を結び、同じ家に住み続けていただくもので、「老後資金を手厚く準備して不安を解消したい」「子どもには別に家があり、残す必要がない」などのニーズに対応しています。こちらも将来的には、当社が建て替えやリノベーションを行い、新たな住まいとして次の住まい手に提供することになりますが、いずれも空き家化の防止や沿線コミュニティのライフサイクル循環につながり、当社の事業目的のひとつである「沿線の活性化」に資すると考えています。
伊東氏:時代に応じて提供するサービスも変化しているのですね。そうすると、店舗の在り方も変わってきているのでしょうか。
古川氏:はい。2015年9月から、従来の「近鉄の仲介」と「NEWing」が統合した、「住まいと暮らしのぷらっとHOME」を開設しました。買う・売る・借りる・貸す・建てる・リフォームするといった住まいに関するさまざまな相談にワンストップで対応できる店舗で、現在27店舗を展開し、多様なニーズに応えています。また、学園前店と花吉野店(いずれも奈良県)では、住まいに関するセミナーや、収納・ヨガなどさまざまなワークショップを開催するほか、カフェラウンジやテレワークコーナーを設け、住民の皆さまに開放することで、地域コミュニティ形成の場としても機能しています。
従来、新築の販売センターなら新築住宅の提案だけ、リフォームの店舗ならリフォームの提案だけしかできませんでしたが、お客さまの選択肢はそれだけとは限らないんですね。住まいのことなら「とりあえずここに行ったらいい」と思っていただけるシステムにしようという思いで展開しています。
また、2021年12月には近鉄難波ビルの1階と、近鉄東生駒ビルの1階に、無人店舗「住まいの情報ステーション SMART SPOT」を開設しました。そこでは、当社が保有する不動産情報をご覧いただけ、必要に応じてスタッフがオンラインで相談に乗ります。ここは結構な数の方に立ち寄っていただけていまして、今後さらに広げていきたいと思っています。
住宅需要が減少するなかで、進化する商品企画
伊東氏:ニーズの変化というと、提供する住宅や、住宅地にも変化があるのでしょうか。
古川氏:近鉄グループの主軸は鉄道事業です。鉄道は、正確に安全にお客さまを運ぶことが使命ですので、当初は近鉄不動産も同様に、建築コストをかけてでも誠実にしっかりした建物を作ることを重視していました。しかし近年は、一戸建て需要が減るなかでお客さまに選んでいただくために、外観デザインや商品企画にも力を入れるようになりました。
コロナ禍では、テレワークや家事・趣味のスペースとして活用できるプライベート空間「ココチスペース」を備えたプランや、分譲マンションでは各戸玄関横に設置する宅配ボックスと防災備品収納スペースが一体となった専用ボックスを開発するなど、お客さまの新しいニーズにお応えする住宅を提案しています。
また、現在売り出し中の学研奈良登美ヶ丘住宅地(奈良県)は、これまでの宅地造成の集大成と位置づけ、「ひと、優先。」をテーマに大変美しい街並みを形成しています。総535区画の一戸建て街区では、メインストリートと各住宅に面する区画道路を分け、街を通過する車を制限したり、ロータリー道路を導入して車のスピードを抑制したりして、歩行者の安全性を高めています。また、すべての電柱・電線を地中化したことで、景観的にも美しく、災害にも強い街になっています。他にも、コミュニティ形成が図りやすいクラスター型街区や、電力の見える化サービス(HEMS)を導入するなど、住宅の形も、住宅地の形も、進化しています。
伊東氏:集大成として、これまでのノウハウを結集させているのですね。とはいえ、今後もまだまだ進化は続くものと思います。ハウジング事業本部として、近鉄不動産として、今後力を入れていきたいことを教えてください。
古川氏:当社がこれまでに分譲してきた住宅地では、高齢化も進んでいます。仲介事業やリフォーム事業、戸建事業で現在お住まいの皆さまの暮らしや、これから住まわれる皆さまの暮らしを支えることはもちろんのこと、住宅地のライフサイクルを円滑に循環させるためにも、先ほど申し上げた買取再販事業には注力すべきと考えています。私たちが開発した住宅地は、私たちが責任をもってバリューアップしなければなりません。
また、直近では「近鉄・伊勢志摩ワーケーション」という事業を、実験的に開始しました。近鉄グループが運営するホテルを活用し、新しい働き方・遊び方をめざすもので、今後拡大していきたいと考えています。
これまでも、当社は時代の流れに合わせて、柔軟に主力事業を変化させてきました。今後も、しっかり時代の流れを読みながら、お客さまのニーズにお応えして、柔軟に変化していくことが大切であると考えています。
郊外のまちづくりでは「継続したビジョン」が大切になる
伊東氏:最後になりますが、日本の住宅は今後どのように変化していくと思われますか? 古川様のお考えをお聞かせください。
古川氏:大阪市の中之島公園や御堂筋では、車道を廃止したり減らしたりして、人を中心とした街づくりが進んでいます。当社でも、天王寺公園のエントランスエリアの運営を大阪市から受託し、「てんしば」として再整備。芝生広場を中心に、カフェやレストランを展開し、都市の憩いの場として親しまれています。このような「住んで楽しい空間づくり」は、現在は特に都市部で盛んですが、この流れがいずれ郊外にやってくると考えています。
しかし、住宅地の開発や分譲は長い時間をかけて行われるものでもあります。私がこれまで開発や分譲を担当してきた住宅地でも、担当者が変われば、住宅の外観やコンセプトも変わってしまうものでした。郊外の住宅地でこういった「住んで楽しい空間づくり」を実現するためには、時代や担当者が変わるなかでも、「この街はこういう街にするんだ」というぶれない視点を持つことが大切なのではないかと思います。これからの郊外の住宅地をよりよいものとしていくためには、継続した理念や信念を持ち続けることが必要であると考えています。
伊東氏:時代を読んで事業の形を添わせていく柔軟さと、継続してビジョンを持ち続けるこだわり。一見相反するこの二つが、これからの近鉄不動産の強さになっていくと感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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