浪江駅周辺グランドデザイン基本計画

常磐線浪江駅常磐線浪江駅

東日本大震災により地震、津波、原子力災害の大きな被害を受け、いまも復旧・復興が進む福島県双葉郡浪江町。これまでも着実に復興への道を歩んできたが、ここにきて大きなニュースが飛び込んできた。浪江駅周辺を一体的に整備する「浪江駅周辺グランドデザイン基本計画」が策定され、2022年6月12日に発表されたのだ。2021(令和3)年に発表された浪江駅周辺整備計画に基づき街並みやデザインをまとめたもので、約5年の計画。造成、道路拡幅などで予算は約125億円、建物などを含めると200億円近い予算となる予定だ。

浪江町、株式会社隈研吾建築都市設計事務所、伊東順二事務所と住友商事株式会社の4者は、2021年に浪江町の復興に寄与することを目的に「デザインの力による浪江町の復興まちづくりに関する連携協定」を締結。隈研吾氏と伊東順二氏が中心となり建物や街並みをデザイン、4者が連携し復興を加速していくことが期待されている。

浪江駅周辺整備計画
https://www.town.namie.fukushima.jp/soshiki/26/26520.html

浪江駅周辺グランドデザイン基本計画
https://www.town.namie.fukushima.jp/soshiki/26/30691.html

常磐線浪江駅常磐線浪江駅ホーム
常磐線浪江駅常磐線浪江駅のロータリー

空き地が目立つ駅前中心地ににぎわいを蘇らせる

浪江駅前浪江駅前

震災後、9年にわたり運転が見合わせとなっていた富岡駅と浪江駅間の常磐線が2020(令和2)年3月、運転再開となった。長い期間を経て、待ちに待った全線再開だったのだが、浪江駅前の様子はこの間に震災前と大きく変わってしまっていた。

「震災から4~5年くらいで、駅前周辺の住宅や店舗の解体が進みました。駅から近い距離にある新町通り周辺には飲食店の開業も増えましたが、駅前から中心市街地にかけて、現状、雑草の生えた空き地も目立つ状態です。まずは駅前周辺を先導整備エリアとして優先的に開発し、周辺ににぎわいを波及していく計画です。駅は『町の顔』であり玄関口となる場所ですので、ここのにぎわいを取り戻し、駅前周辺に住みたいと思ってくれる人を増やしていきたいです」と話すのは、浪江町役場 建設課 中心市街地整備室長 今野裕二氏だ。

浪江駅前浪江駅前付近。震災以降、建物の解体が進んだ

「震災後町民の皆さまにご意見をお聞きし、それを基に2017年3月に浪江駅周辺整備計画を策定しました。そのなかでもやはり声として上がっていたのが浪江駅前と新町通りのにぎわいの復活でした」と、浪江駅周辺整備事業を担当している浪江町役場 建設課 中心市街地整備室 係長 上野幹一氏。浪江町民の多くが町外に避難しているため、避難先に出張し住民説明会や検討会を実施してきた。復興していくなかで欠かせなかったのが浪江駅前の再生だったのだ。

浪江町のなかでも、一番にぎやかだった新町通り周辺と駅前付近に再び人を呼び戻す。5年をかけて新しい町をつくるといってもいい、壮大な計画だ。その内容を見ていこう。

浪江駅前浪江駅前にある交流スペース「なみいえ」。 2021年11月にオープンした。コワーキングスペースや地域活動に利用できる

駅から人、街をつなぐ「なみえルーフ」

「浪江駅周辺グランドデザイン基本計画」では、駅舎(東西自由通路)、芝生広場、交流施設、商業施設、民間住宅、公営住宅と多くの施設や機能が整備される。浪江駅は現在の駅舎の改修に加え、東西自由通路が設置される計画で、こちらは改札の外側に造られる予定。駅利用客だけでなくすべての人が利用可能で、交流施設や商業施設、広場への行き来がしやすくなる。駅に併設される交流施設は約1,600m2の面積で、1階はカフェスペース・待ち合いスペース、2階はコワーキングスペースとなり、2階からは芝生広場が見渡せる。交流施設の隣には約2,600m2の商業施設(スーパーマーケットや飲食店)が整備される。これらの駅舎、交流施設、商業施設は約2,700m2の丸い芝生広場を囲むように配され、歩きやすくかつアクセスがしやすい設計だ。商業施設のテナントは現時点で未定で、今後公募する予定。

歩行者の動線は一般車の動線(福島県道167号)とは別に、敷地内の緑空間に設けられ、歩行者は安全に、憩い広場遠路の緑を眺めながら新町通りまで行くことができるようになるだろう。

計画の中でも特徴的で、浪江駅のシンボルとなりそうなのが「なみえルーフ」だ。やわらかに波打った大屋根が駅舎、交流施設、商業施設を覆う。なみえルーフの曲線は人々のにぎわいを表現している。大屋根と自由通路は鉄骨造のV字柱が土台となるが、鉄骨を木で挟み周囲の芝生広場と一体化した調和のとれたデザインになる予定だ。

出典:浪江駅周辺グランドデザイン基本計画<br>
https://www.town.namie.fukushima.jp/uploaded/attachment/14549.pdf出典:浪江駅周辺グランドデザイン基本計画
https://www.town.namie.fukushima.jp/uploaded/attachment/14549.pdf
出典:浪江駅周辺グランドデザイン基本計画<br>
https://www.town.namie.fukushima.jp/uploaded/attachment/14549.pdf出典:浪江駅周辺グランドデザイン基本計画
https://www.town.namie.fukushima.jp/uploaded/attachment/14549.pdf

民間住宅、公営住宅を建築予定

浪江町新町通り周辺。飲食店が増えてきている浪江町新町通り周辺。飲食店が増えてきている

芝生広場から道路を挟み、駅からすぐの場所に住宅が建設される。公営住宅、民間住宅合わせて延床面積は約7,700m2。公営住宅は3階建て、4階建て、5階建てそれぞれ1棟の計3棟。緑地を挟んだ向かいには民間住宅が並び3階建てと4階建てが1棟ずつ。公営住宅も民間住宅も広場に面し、1階には集会スペースが設けられる。公営住宅は91戸、民間住宅は28戸で、計119戸募集の予定。駅前の商業施設にはスーパーが誘致され、公園もあり、飲食店も周辺にできる予定なので、車がなくても生活ができそうである。入居対象については「福島再生賃貸住宅という制度を活用し、浪江町に住民票を移した方は入居対象となる予定です。帰還された浪江町民の方、産業団地や新規立地事業所などの従業員の方を想定しています」と今野氏。

浪江駅周辺グランドデザイン基本計画を見た町外に避難中の浪江町民から「この住宅ができるなら浪江に戻りたい、ここに住みたい」という電話がかかってきたそうだ。浪江駅前の整備を心待ちにしている人は多そうだ。

8.4ヘクタールの大規模なまちづくりが進む

新町通り周辺。駅前から新町通り周辺にかけて一体的な整備が期待される新町通り周辺。駅前から新町通り周辺にかけて一体的な整備が期待される

今回なぜ、隈研吾氏に依頼することになったのだろうか。経緯について上野氏は話す。
「浪江町は古くから林業が盛んで、棚塩産業団地に2021年、日本最大規模の福島高度集成材製造センター(FLAM)が完成しました。林業との関わりが深い浪江町の歴史もあり、木材を基調としたデザインを得意とする隈研吾建築都市設計事務所にご相談しました。当初、浪江駅周辺整備計画を基に各施設の設計をお願いする予定でおりましたが、隈研吾氏から『まずは駅周辺のグランドデザインを描いてから設計を進めるほうがよい』とご意見をいただき、浪江駅周辺グランドデザイン基本計画を作成しました。結果的にランドスケープも含めて一体的なデザインになり、よりよいものになったと思っています」

隈研吾氏にとっても、8.4ヘクタール規模の事業は初めてのことだという。世界的に見ても珍しいチャレンジとなりそうだ。浪江駅周辺グランドデザイン基本計画で隈研吾氏は、「駅から始まり、その周辺の交流・商業施設や共同住宅まで総合的にデザインできるのは世界的に見ても貴重なチャンスです」と触れている。

グランドデザインでは、建物の外装や内装、緑空間に配置されるストリートファニチャーなどで木材をふんだんに利用。温かみのある建物・空間が特徴となるが、特筆すべきところはそれだけではない。浪江町が進める水素利活用プロジェクト(水素タウン構想)と連携し、浪江産水素の地産地消を実現する。敷地内に水素ステーションを配置、燃料電池自動車や燃料電池マイクロモビリティなどに水素を供給。また駅前エリア内の施設でも水素を利用する。敷地内のさまざまな場所でデザインと調和した太陽光パネルを設置し、エネルギーを使うだけではなく、必要なときだけ「電気を集め・貯め・使う」次世代のライフスタイルを目指す。

新町通り周辺。駅前から新町通り周辺にかけて一体的な整備が期待される出典:浪江駅周辺グランドデザイン基本計画
https://www.town.namie.fukushima.jp/uploaded/attachment/14549.pdf

移住者が集まる浪江町

2017年3月31日、東京電力福島第一原子力発電所の事故により浪江町全域に出されていた避難指示が、帰還困難区域を除く区域で解除された。東日本大震災当時の浪江町の人口は、2万1,542人だったが、2022年8月末時点で1万5,750人、居住人口は1,909人ほどだが、年々増えつつある。実は、浪江町外からの移住者の割合が多いという。
「浪江町に居住されている方のうち、3割ほどが移住者の方です。まちづくり会社や、町内にできた新しい施設などで働く方が多く、復興のために働きたいという思いで移住してくださる方が多いようです。移住された方からお話を聞くと、人がいいと仰ってくださる方もいますし、前向きに新しいことに挑戦できる環境があると、うれしいお声もいただきます」と今野氏は話す。

震災後の2016年には仮設商店街「まち・なみ・まるしぇ」がオープン。2019年7月にはイオン浪江店が開業し、2021年3月には道の駅なみえがグランドオープンと、着実に町の利便性は上がってきており、移住者も増えているようだ。

2019年6月にオープンしたイオン浪江店2019年6月にオープンしたイオン浪江店

なお、移住支援策として、福島県による「福島県12市町村移住支援金」「ふくしま12市町村移住支援交通費等補助金」や、浪江町独自の移住検討者向け短期滞在支援として「町内滞在支援補助金」、長期滞在者向けに「移住検討者お試し補助金」がある。浪江町の移住定住相談窓口は、専門の方が移住希望者をサポートしてくれるので、気になる方は問合せをしてみるといいだろう。

2019年6月にオープンしたイオン浪江店2021年3月にグランドオープンした道の駅なみえ。休日は多くの人でにぎわう
2019年6月にオープンしたイオン浪江店道の駅なみえにある地場産品販売施設では、浪江町が誇る伝統工芸品である大堀相馬焼が展示販売されている。大堀相馬焼を体験できる現在唯一の施設でもある。東日本大震災により山形県長井市に移住を余儀なくされた鈴木酒造店が地場産品販売施設に出店。酒蔵も地場産品販売施設内にあり、酒造りを見ることもできる。日本酒が味わえるレストランSakeKuraゆいも人気

浪江水素タウン構想などさまざまなプロジェクトが同時進行で進む

浪江町では、浪江駅周辺整備計画以外にも、多くの復興計画が同時進行で進んでいる。
2020年、浪江町はゼロカーボンシティを宣言。同年3月、世界最大級の水素製造能力を有する「福島水素エネルギー研究フィールド(通称:FH2R)」が開所している。2050年までにCO2排出量実質ゼロを目指し、棚塩産業団地内に立地企業の使用電力が再生可能エネルギー100%となるRE100産業団地を整備する計画が進行中。

また、棚塩産業団地内には、浜通り地域に新たな産業を創出する国家プロジェクト「福島イノベーションコースト構想」の取り組みである福島ロボットテストフィールドの「浪江滑走路・滑走路附属格納庫」があり、ドローンの実証実験などで利用されている。

ほかにも、震災前に全農家のうち1割ほどが従事していた畜産業を復活させるべく、新しい動きも出てきている。2021年6月、浪江町、福島県酪農業協同組合、全国酪農業協同組合連合会は、浪江町における円滑な酪農復興事業を推進することを目的とした連携協定を締結。約24ヘクタールの敷地に牛舎や搾乳舎、堆肥舎、バイオガスプラントなどの施設を建設予定。ICT(情報通信技術)を活用した自動給餌装置や、ロボット技術を活用した搾乳機器など、最新技術の導入を予定しており、日本最先端の牧場ができるかもしれない。

浪江町に「復興牧場」整備へ 酪農復興事業に関する連携協定を締結
https://www.town.namie.fukushima.jp/uploaded/attachment/14502.pdf

まさに、新しい大規模なチャレンジがさまざまな領域で生まれ、進行している浪江町。浪江駅前の整備の進捗とともに、次世代のまちづくりを見守っていきたい。

浪江町役場浪江町役場

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