岡山県岡山市の新しい「木の家」、CLTモデルハウスを見てきた
昔ながらの木造住宅は、鉄筋コンクリート造や鉄骨造の住宅と比べ、性能も価格も庶民的ーー。
木造住宅にこのようなイメージを抱く人は多いだろう。日本で広く普及している在来工法はコストを抑えて検討しやすく、建物の法定耐用年数をみても、鉄筋コンクリート造47年、重量鉄骨造34年、木造22年と、税務上の基準においては木造住宅の想定寿命は他の構造より短く規定されている。
そんな木造住宅のイメージを覆すような、新しい「木の家」に挑戦している会社がある。岡山県岡山市に本社を置く住宅メーカー、ライフデザイン・カバヤ株式会社だ。2022年で創業50年を迎える同社は、中四国ブロックビルダーランキングで4年連続1位(※)、岡山県では2014年度から2020年度まで注文住宅着工棟数7年連続1位(※)を獲得するなど、地元に根差した住宅メーカーとしての歩みを進めてきた。(※株式会社住宅産業研究所 より)
同社が近年、力を入れているのが、大規模木造建造物などで使われる建材「CLT」の一般住宅への転用だ(この記事では、CLTが構造の一部に用いられた住宅を「CLT住宅」とする)。CLTは従来の建材と何が違うのか、なぜ同社はCLTの普及に注力するのか、同社の丹原さん、平田さん、坂本さんにお話を伺った。
CLTとは?「直交集成板」は従来の材料とどう違う?
CLTとは「Cross-Laminated-Timber」の略で、直訳すると「直交集成板」。挽き板を直交に重ねて接着した大判のパネル材のことを指す。大きいもので幅3m×長さ12mにもなるというから、同じ木質建材であっても木造在来工法で使われる柱や梁とは見た目も役割もまったく異なる。木を”軸”として使う在来工法と異なり、CLTは壁・床・屋根といった”面”で支える構造材として使われ、壁式工法のような建て方となる。
CLTは1990年代にオーストリアで開発され、ヨーロッパをはじめ近年では北米やオセアニアなど、世界各国でさまざまな建築物に利用が広がっているという。日本ではまだCLTという言葉は耳慣れない人が多いかもしれない。それもそのはず、日本で検討・施工が始まったのは2010年代に入ってからと、比較的新しい建材だ。新国立競技場をはじめ、木造の大規模建造物は近年目にすることが増えてきたが、まだまだ身近な一戸建て住宅での事例は少ないのが実情だ。
そんな中、2015年の自社支店での施工を皮切りにさまざまなCLT建築を手がけてきた同社では、2020年より在来工法とCLT工法を組み合わせたハイブリッド住宅をエンドユーザー向けに展開している。
強く暖かく美しい、CLTでつくる木造住宅
大規模建造物ではなく、一般住宅でCLTを取り入れるメリットはどのようなことだろう。
丹原さん(以下表記のない「 」内は丹原さん):
「CLTを一般住宅で使うメリットはたくさんあります。特に大きいのは耐震性、断熱性、意匠性の3つです。CLTは既存の木材より材自体の強度が高いため、少ない壁量で耐震性を確保することができます。構造壁が少なくて済む分、室内の雑壁を極力なくして開放的な大空間を設計することが木造住宅でも可能になります。また、木の表面をそのまま壁の仕上げとすることができるので、ヒノキやスギといった美しい木の味わいをインテリアの一部として活かすことができます」
確かに取材で伺ったモデルハウスの内装は、木肌が存分に生かされており、「この雰囲気を好まれるお客さまが多い」というのもうなずける。竣工から1年ほどたつそうだが、玄関を開けた瞬間から森林浴に来ているかのようなスギの香りが感じられた。耐力壁が少なくて済む分、間取りや開口部の大きさの自由度が高く、照明の数は最小限でありながら、室内は十分に明るい。自然光を生かしたパッシブデザインとなっていた。
「また、木から感じ取れる温かみに加え、断熱性に優れている点もCLT住宅の魅力の一つです。木材の断熱性能は、コンクリートと比較し10倍、鉄と比べると400倍とされています。CLT構造の壁の厚みは、弊社の仕様で24mm×5層の120mm。壁内の空間を断熱材でカバーする一般的な木造住宅に比べ、CLT住宅は夏は涼しく、冬は暖かい室内環境を実現しやすいといえます」
CLTの普及が、日本の森林に必要な資源の循環利用を促す
同社がCLTの普及に力を入れているのは、CLT住宅に住む人だけでなく、日本の林業や地球環境にとっても大きなプラスの意味があるからだ。
日本は世界有数の森林国。林野庁の報告によると、森林面積は約2,500万ヘクタールと国土面積の3分の2を占め、そのうちの約4割が人工林であり、その半分が主伐期である50年を超えているという。森林の荒廃を防ぐためには、主伐期を迎えた木の伐採→植栽→育成といった適切な循環利用のサイクルが求められる(※)。しかし林業従事者の高齢化や後継者問題などで、放置された森林が広がりつつあるのが現状だ。(※林野庁 森林・林業・木材産業の現状と課題 より)
「国産の木材は、梁など無垢材としては使用が難しい樹種も多いのですが、CLTであれば利用可能になります。また、木材はコンクリートや鉄に比べ製造時に発生するCO2が少なく、木は成長するときも伐採されて建材利用されてからも、CO2を貯蔵し続けます。政府が2050年までの実現を目指すとしたカーボンニュートラルにCLTは貢献できる建材といえます」
CLTが”循環型社会”や”SDGs”の文脈で取り上げられることが多いのは、こうした背景があるからだ。また、CLTの接合部にはボルトが使われているため、解体時には躯体にダメージを与えることなく外すことができ、また別の建造物に再利用することもできる。
ライフデザイン・カバヤが本社を置く岡山県も、森林面積が県面積のおよそ7割と森林資源に恵まれた県である。同社のCLT住宅モデルにもやはり岡山県真庭市産のスギやヒノキが使われていた。「地産地消」は食の分野ではよく使われる言葉だが、CLTの活用が広がることは建築分野での地産地消の拡大ともいえるだろう。地元の資源が地域内で循環する仕組みは、運搬エネルギーやコストも抑えることにつながる。また地元の木材で建てられた住まいは、やはり住む人にとって愛着が湧きやすくもなるだろう。
CLT住宅は広がるか?課題はコストと認知
住む人にも環境にも優しいCLTの市場規模は、日本でも徐々に拡大している。2019年時点での国内施工実績は400棟あまり、公共施設や集合住宅などの大規模建築物などでも採用が進む。
とはいえ、エンドユーザーへの認知はまだまだこれからのように思えるのは、その価格がネックになっているようだ。同社の一戸建てCLT住宅モデル「LC-core構法(CLT工法と在来工法のハイブリッド構法)」は、坪単価でいうと80万~100万円程度だという。一概には言えないが、構法別で価格比較をした場合、木造住宅というよりは鉄筋コンクリート造と同程度の価格帯になるだろう。
「CLT住宅は木造住宅ですが、従来の木造住宅とは似て非なるものです。高い耐震性に断熱性、大空間が設計できることによる間取りの柔軟性、木そのものの意匠性、どれをとっても今までの木造住宅とは一味違うということを、私たちは伝えていきたいと思っています」
日本ではまだ黎明期といえるCLT。「生みの苦しみを実感していますね」と平田さんは語ってくれたが、海外の事例を見ると、CLT住宅が今までの木造住宅とは一線を画したポジショニングを獲得していく可能性も見えてくる。
平田さん:「海外では日本よりも広くCLTが普及していますが、市民の環境意識が高い国では、木造住宅は”憧れ”の存在になっているといいます。木造住宅は従来の構造の建物よりも上位に位置する存在として認知されていて、木造住宅を建てることが一つのステータスであるとされています。日本でも"環境に優しい住宅といえばCLTだよね"という認知が当たり前になり、多くのお客さまの選択肢の一つになる未来を目指したいですね」
林業の課題解決につながるという側面からも、国土交通省、林野庁、農林水産省など、CLT住宅普及に向けた各種助成金も増えているが、それらを活用しても一般住宅としては、まだ高い。当面はハイクラスな価格帯で検討するユーザーが対象になるだろう。ただ、住宅としての性能だけでなく、持続可能な林業・住宅業界の未来を考えたとき、CLT住宅は新しい木造住宅として何かしら新しいカテゴリー分け(法定耐用年数等も含め)が必要なのかもしれないとも思えた。卵が先か鶏が先か理論になるが、今までにない木造住宅として制度面の整備が進み、徐々にユーザーからの認知も広がっていけば、市場原理が働いてもう一段コストが抑えられるようになるだろう。
次の一手は、建築家・伊礼 智氏との企画型CLT住宅プロジェクト
CLT市場の拡大のため、同社は"CLTの普及と技術開発"を目的として社内団体「日本CLT技術研究所」を2018年4月に設立、全国でのフランチャイズ展開をスタートさせた。40社以上の加盟企業に、CLT建築に関する知識や技術ノウハウ・独自開発した簡易構造計算システムの提供など、多角的に支援を行っている。
さらに次の一手として、2022年3月より建築家・伊礼智氏とのコラボレーション企画を開始した。全国と加盟店を通じて、伊礼氏が設計した企画型CLT住宅を販売するというものである。伊礼氏は「住宅はより小さく、より低く」設計することでも知られている。当初は大型建造物のイメージが強いCLT企画住宅のプロジェクトにあまり乗り気でなかったというが、CLTの製造工場に足を運び、CLT住宅が持つ設計の自由度を生かせれば高性能で面白い企画住宅ができるのではないか、そう考えたという。
「伊礼先生は、"できるだけ良質な住宅を、多くの人が手に届く価格で"という想いで、ご自身でも企画型住宅を手がけられています。CLT住宅は今はまだハイエンド向けの価格設定ですが、少ない壁量で耐震等級3が確保できること、そのうえ自由な間取りが設計できることなど、ある程度の汎用性が求められる企画住宅としての可能性を感じていただいたようです。伊礼先生の企画を基に、加盟企業が間取りやデザインなど、お客さまのニーズを組み入れてプランすることができるようになっています」
完成内観イメージからは、CLT住宅の力強いイメージの中に、伊礼氏の建築に見られる空間のやわらかさやプロポーションの美しさが感じられる。「著名な建築家に注文住宅を頼みたいけれど、ハードルが高い」、そう考えるユーザーにとって企画型住宅は希望をより叶えやすくする存在だ。本プロジェクトの発表直後から多くの反響があり、実際に計画が進んでいるという。
同社ではCLTの呼称として「森の壁 CLT」という商標登録を取得した。日本の山、森にはたくさんの木があるにもかかわらず、建築材料として十分に使われていない現状がある。
目で、香りで、手触りで、日本の森を感じられ、日本の森林の課題解決につながるCLT住宅は、そんな現状を打破する一つの選択肢になりうる。日本の森林の課題に真正面から取り組む同社をはじめ、CLTの活用を模索する企業やCLTを選択するユーザーは徐々に増えていくのではないだろうか。LIFULL HOME`S PRESSでは、実際の施工事例も含めCLT建築の今後の動向をまた取り上げていきたい。
■取材協力・記事内画像提供:
ライフデザイン・カバヤ株式会社
https://lifedesign-kabaya.co.jp/
日本CLT技術研究所
https://nc-labo.jp/













