フラれ役の瀬戸康史がドラマ後に山本美月と結婚
以前、このコラムで田村正和、木村拓哉、宮沢りえが三角関係を演じるドラマ「協奏曲」を取り上げた。そのとき、「このドラマはもし『恋の駆け引き』がなかったとしたら、『建築家の師弟のドラマ』として、かなりのリアリティー感を持って記憶されただろう」と書いた。今回取り上げる「パーフェクトワールド」もそれと同様、「もう少し恋の駆け引きが薄目だったら…」と思わずにいられないドラマである。あくまで建築目線で見ると、ではあるが。
建築や住宅、それを設計する「建築家」は、映画やテレビドラマの中でどう描かれているのか。元・建築雑誌編集長で画文家の宮沢洋(BUNGA NET編集長)が、「名セリフ」のイラストとともに、共感や現実とのギャップをつづる。
「パーフェクトワールド」は、車いすの若き建築家を主役に据えたラブストーリー。関西テレビが制作し、2019年にフジテレビ系列の火曜ドラマとして放映された。原作は、有賀リエによる人気漫画(講談社「Kiss」掲載)である。
この物語は、ドラマの前年の2018年に先行して映画化されている。映画版では車いす建築家の鮎川樹(いつき)を岩田剛典が、恋人の川奈つぐみを杉咲花が演じた。筆者は映画版も見た。約2時間の映画では、やはり盛り込めるエピソードが限られる。車いす建築家のリアリティーを見たいならば、圧倒的にドラマ版がお薦めだ。
ドラマ版では鮎川樹を松坂桃李が、川奈つぐみを山本美月が演じる。そして三角関係の末に恋敗れる好青年・是枝洋貴(愛称はヒロ)を瀬戸康史が演じる。ご存知の方も多いと思うが、ドラマでは逆転でフラれてしまうヒロ役の瀬戸康史が、現実には山本美月と2021年に結婚。場外での再逆転を果たした。
事故で車いす生活になるも建築家の夢を実現
ドラマの話に戻ろう。
松坂桃李演じる鮎川樹は、大学時代に事故に遭い、下半身不随になった。しかし懸命のリハビリと勉強で、建築士資格を取り、夢だった建築設計事務所で働いている。しかし恋愛も、大好きだったバスケットボールも、もう二度としないと心に決めていた。
ある日、高校時代の同級生、川奈つぐみ(山本美月)と再会する。つぐみは高校時代に美術部で、樹がバスケットボールに励む体育館の絵を描いて絵画展に入選したことがある。鮎川もその絵をよく覚えていた。再会した2人は互いに意識し始める。つぐみは樹の頑張りに影響を受けて、インテリアデザイナーを目指し、樹も徐々に心を開き始める。
一方、つぐみにプロポーズしようと思っていたヒロ(瀬戸康史)は、2人のくっついたり離れたりに振り回され……という話である。
車いす利用者も共感する「車いすあるある」
松坂桃李の車いす演技がすごい。かつてこれほど車いすの生活について考えさせられたドラマはない。
車いす利用者というと、「歩くことができない」ということだけに目を向けてしまいがちだが、それは大変さのほんの一部に過ぎないのだと気づかされる。脊髄を損傷したことによる排せつ障害があったり、いろいろな合併症に悩んでいたり、座り続けることからできる褥瘡(じょくそう)に苦しんでいたりする。そして、過去にできたことを徐々にあきらめていかなければならない精神的葛藤。
車いすの使い方に関しても、下り坂では前輪を浮かせるとか、車から乗り降りするときには自分で後部座席から車いすを出すとか、これまで知らなったことをいろいろと知った。車いす利用者の中にも、そのリアリティーに感心した人が多かったようで、ネット上には「過去のドラマ以上に、車椅子利用者の日常生活の悩みごとをきちんと表現している。私のような車椅子利用者から見れば、『車椅子利用者あるある』ばかりだ」といった書き込みがあった。
半面、恋愛の方は、「いくらなんでも周りに迷惑をかけ過ぎだろう」というグダグダぶり。つぐみが樹との結婚を親から反対されるのはありそうだとして、いったんヒロと婚約までしていたのを破棄してハッピーエンドというのは、あまり祝福できない。冒頭にも書いたように「もう少し恋の駆け引きが薄目だったら、いいドラマだったかも」と思わずにいられない。
「心のバリアフリー」を目指す建築家は実在
樹の「建築家としての姿勢」にも惹かれた。例えば、雑誌の取材に樹が答えるシーンだ。
雑誌記者:「鮎川さんにとって理想の建築とは?」
鮎川樹:「そこに暮らす人たち全員が誰1人我慢や妥協をすることなく、それぞれを尊重しながら共存できる建築です」
その記事は、「心のバリアフリーを目指す車椅子の建築士」という見出しで雑誌に載る。
なるほど、である。「車いす=歩けない大変さ」と短絡的に考えてしまうのと同様に、バリアフリーというと物理的な障壁だけに考えが行きがちだ。それを障がいがある人、周りにいる人の“心”から考えていくというのは、確かにその通り。病院でも、LBGTQでも、どんなバリアに関しても言えそうな話である。
「車いすの建築家」は実際にもいる。原作となった漫画「パーフェクトワールド」は、作者が実際の車いす一級建築士である阿部一雄氏(阿部建設代表)を取材して描かれた。前述の「心のバリアフリー」という言葉は、モデルとなった阿部一雄氏のモットーでもあるという。
「オレが言っているのはスロープから見える景色」
ドラマの序盤で、樹は設計事務所の後輩たちにこんな指示を出している。これも、なるほどと思った。
樹:「ここのスロープ、もう少しゆったりできないかな」
後輩:「傾斜なら、車いすでも難なく上がれる傾斜にしてあります」
樹:「オレが言っているのはスロープから見える景色のことなんだ」
後輩:「景色?」
樹:「スロープの脇の草花が見えやすいとか、夜は昼とは違った景色が見えるとか、そんなふうに機能性とデザイン性を兼ねていかないと、オレたちが考える意味はないんじゃないのかな」
ドラマの終盤では、樹の考える「心のバリアフリー」を体現するような住宅の設計案の話がある。それについて書くと、物語のほとんどが分かってしまうのでやめておく。その代わりとして、ドラマには出てこない実在の住宅の話をしたい。
フランク・ロイド・ライトが設計した名作バリアフリー住宅
このドラマを見ていて思い出したのは、世界の巨匠、フランク・ロイド・ライトが設計した「ローラン邸(Laurent House)」だ。1952年に米国イリノイ州に完成したバリアフリー住宅。ライトに設計を依頼したのは、車いすのケニスと妻・フィリスのローラン夫妻だ。障がいのある退役軍人に給付される補助金を建設費に充てた。
ライトは車いす利用者ではない。後世に伝わるライトのエピソードでは、「やりたいようにやって建て主と揉める」イメージがある。ところが、この住宅は、「バリアフリー住宅」や「アクセシブル・デザイン(障がいのある人もない人も、高齢者もそうでない人も共に使いやすいデザイン)の好例として、今も高く評価されている。
残念ながら筆者は実物を見たことがないので、どんな家なのか、WEB上の情報を拾ってみた。
建物は平屋建て。夏は日差しを避け、寒い時期は家が暖まるようにするため、細長いフットボールのような形。間取りは3ベッドルーム、2バス。低いドアノブと照明スイッチ。最低36インチ幅(約91cm)の広い戸口。室内に段差はなく、各部屋は連続していて移動のストレスが小さい。テーブルやデスクの高さは、車いすのケニスがそのまま使える高さに統一されている。本棚や収納は低い位置に違和感なく配置され、高い位置には窓と飾り棚がある。すべての造り付け家具の下にはフットレストが入るのに十分なスペースがあり、ケニスは車いすのままで家具を快適に使うことができた──。
そして、何よりすごいのは、この住宅が「バリアフリーを感じさせないデザイン」だということ。写真を見る限り、「いかにもフランク・ロイド・ライト」という感じで、言われなければ車いす利用者の住宅とは全く思わない。ゆったりとしたスロープから見える景色の気持ち良さそうなことといったら、「ドラマで樹が指摘していたことはこれに違いない!」と思わせる。
日本にも「世界に誇る名作住宅」はたくさんあるが、世界に誇るバリアフリー住宅があるかというと、私には思いつかない。いつかそういう住宅が生まれるヒントに、このドラマはなるかもしれない。
■■パーフェクトワールド
2019年4月16日から6月25日までフジテレビ系列の火曜ドラマ枠で放送。全10回
原作:有賀リエ「パーフェクトワールド」(講談社「Kiss」連載)
脚本:中谷まゆみ
主題歌:菅田将暉「まちがいさがし」(作詞・作曲:米津玄師)
制作:カンテレ
出演:松坂桃李、山本美月、瀬戸康史、中村ゆり、松村北斗、木村祐一、麻生祐未、松重豊
公開日:




