手元資金を取り崩して老後資金を賄うのは不安なもの

年金だけで老後資金が賄えると考える人は少ない年金だけで老後資金が賄えると考える人は少ない

日本では、国民の3割が何らかの公的年金受給の権利を持ち、高齢者の半分以上が年金収入だけで生活を支えているとされている。
仕事をリタイアした後に生活に必要なお金が、いわゆる老後資金。しかし、将来にわたって老後資金を年金だけに頼ることに不安を抱く人も多いだろう。

高齢期には、ライフスタイルの変化に伴って引越しをしたり、治療費が必要になったり、まとまったお金が必要になることがある。内閣府の調査(平成30年度「高齢者の住宅と生活環境に関する調査」)では、持ち家に住む60歳以上で、住まいに関して不安を感じている人のうち、26.5%の人が「住宅の修繕費等必要な経費を払えなくなる」ことに不安を感じている。

「収支のマイナスを、手元資金の取り崩しで賄うというのでは、不安を感じやすいのは当然です。それ以外のところからの資金の捻出を考えることをおすすめします」と語るのは、老後資金問題に詳しいファイナンシャルプランナーの株式会社THE FP コンサルティング 代表取締役 峰尾茂克さん。

高齢者の住宅問題について専門家への取材を通して考えるシリーズの5回目は、住宅などの不動産を活用して老後資金を作る方法について聞いた。

住宅資産活用の前に見直したい収支のバランス

峰尾さんは、最初にすべきは老後の10年20年の収支を明確にすることだという。そのうえで、手当てしなければならない資金を見える形にし、不足分の捻出方法を考えることになる。

かといって、不足分にすぐに住宅資産を当てるのではない。
「その前に、資金が必要となる生活そのもののスタイルを考え直しては?」と峰尾さん。

「例えば、郊外に一戸建てを所有し、そこで長年暮らしを営んできたご夫婦。今は子どもたちも独立し、2人だけで暮らしているとします。少し考えてみてください。今の住宅は大きすぎませんか? 立地についても、免許も返納しクルマを手放したのなら、電車で移動できて買い物にも便利な駅前あたりが、今の生活スタイルにはぴったりかもしれません。そこで、住み替えを考えてみてはいかがでしょうか。広い一戸建ての住宅を売却し、コンパクトな駅前のマンションに引越すことで、資金が生まれる可能性もあります」

収支のバランスを考え、老後の資金計画を立てる収支のバランスを考え、老後の資金計画を立てる

住み替えと年金繰り下げ受給の合わせ技。2022年4月から選択肢が拡大

住み替えによって不足資金すべてを捻出する必要はなく、住み替えによって生み出す資金は数年分でいいと峰尾さんは続ける。どういうことだろうか。

「重要な老後資金のひとつである年金は、受け取る年齢を繰り下げることができます。そして、繰り下げることで、将来受け取る年金を増やすことが可能です。つまり、住み替えによって得た資金を活用して、年金受給開始時期を遅らせることで、結果的により多くの老後資金を得られる可能性があるのです」

住み替えと年金受給年齢の繰り下げの“合わせ技”で、老後資金を確保する。これは「単に不動産を担保に老後資金を得る方法に比べて、リスクが少なく有利な方法」と峰尾さん。

不動産の売却を先行させ、暮らし全体を見直し、退職金などの取り崩しをできるだけ少なくすることによって、預貯金が目減りすることへの不安は解消される。
つまり、収支のバランスを保ち、将来にわたって安心を得るための方法の一つとして考えられる。

年金受給年齢の繰り下げについて、詳しく見てみよう。
年金は、受給開始時期が原則65歳だが、65歳より前に受け取る「繰り上げ受給」や65歳より後に受け取る「繰り下げ受給」が可能となっている。2022年3月までは、1ヶ月早めるごとに受給額が0.5%減額、1ヶ月遅くするごとに0.7%の増額となり、60歳から70歳の間で受給開始時期を選べた。
峰尾さんは、この制度の活用余地が拡大したことも教えてくれた。

「実は、2022年4月に年金制度改正法が施行されました。それによって、受給開始時期が最大75歳まで繰り下げられるようになりました。繰り上げの場合の減額率は1ヶ月で0.4%に引き下げ、繰り下げの場合の増額率は改正前と変わらず1ヶ月で0.7%です」

つまり、75歳まで繰り下げると、65歳での受取額と比べて84%(0.7%×12ヶ月×10年)の増額となる。仮に65歳で受け取る年金額が200万円だとしたら、繰り下げ後は75歳で368万円となる計算だ。

2022年4月から、年金受給開始時期の選択肢が広がった2022年4月から、年金受給開始時期の選択肢が広がった

不動産会社に売却後、賃貸借契約で住み続けるリースバック

それでも資金が必要な場合は、住宅資産を活用した資金作りも検討したい。

「不動産を活用した資金作りは数多くあります。リースバックやリバースモーゲージなどは一般的によく知られた住宅資産等の活用法ですが、それぞれリスクもあります。それを十分に理解したうえで利用するのは当然のこと。また、これらの利用は、ご自身のライフプランに沿ったものでなくてなりません」(峰尾さん)

リースバックとは、不動産会社に所有する自宅等を売却したうえで売却先と賃貸借契約を結び、売却金額を受けとった後も、借主として同じ家に賃貸住宅としてそのまま住み続けることができる住宅資産等の活用法だ。
売却で一時的に資金を手に入れることができ、しかも自宅等にそのまま住み続けられることがメリットとなる。

ただし、自宅等に借主として住み続ける以上月々の賃料(リース料)が発生する。売却で得た金額だけをその原資とするならば、思わぬところで枯渇することもありうるという。

「リースバックを活用するうえで重要なのが、売却金額と、リース料です。一般的にリースバックによる事業者側の購入金額は市場価格の7割から8割で、リース料の算出基準も、買取価格の10%を年間のリース料とするなど、買取価格を基準に決めるものが多いです。結果的に、売却する際には市場で取引される一般的な価格より安くなり、リース料は地域の市場賃料より高くなる場合もあります。売却金額も賃料も査定は各社それぞれなので、まずは見積もりを取りましょう。少なくとも3社から見積もりを取って、比べた方がいいです」(峰尾さん)

リースバックで得た資金は、生活資金のほか事業資金や、借金の返済などの使途が考えられる。住み続けることで、周りに知られることもない。加えて、売却によって不動産の所有権を手放すことで、固定資産税の負担もなくなる。
リースバックによって売却した不動産は、会社によって異なるが将来買い戻すことが可能な場合もある。ただし、その価格は、売却金額より、高くなることが多いのが実情だ。

一時的に資金が必要な場合に、資金使途の制約がないリースバック。いつまで賃料を支払い続けて住み続けるのかといった、長期的なプランの下での利用が望まれる。

自宅を売却した後も、そのまま住み続けられるリースバック自宅を売却した後も、そのまま住み続けられるリースバック

自宅不動産を担保に資金を融資するリバースモーゲージ。返済方法や資金使途は多様

もうひとつ、不動産を活用し資金づくりを行うのが、リバースモーゲージだ。

リバースモーゲージとは、住宅など不動産を担保に、まとまったお金を借りることができ、亡くなったあとに不動産などの売却によって一括返済をするもの。利払いの方法や資金使途などの違いで、金融機関を中心にさまざまな商品があるという。

「ノンリコース型と呼ばれる、債務者の責任範囲が不動産の担保範囲に限定され、最終的に不動産の売却で、元本も含めた返済が完了するタイプや、リコース型という、担保範囲以上に債務が残るタイプもあります。資金の使途に関しても、生活資金や住宅改修に使えるタイプや、使途がより限定された商品などさまざま。返済に関しても、月々の返済は利払いだけのものや、利払いも元本と一括で亡くなった後に行われるものもあります」

たとえば月々の返済が利払いだけとなると、収支はかなり楽になるはずだ。
だがしかし、当然リスクは伴うという。

「例えば、老後資金として年間資金×20年を借り入れたとき、20年を超えて長生きすれば、融資の限度額を超えてしまいます。多くの人が望む長生きが、リスクとなり負担となってしまいます。また、担保評価や金利は一定期間で見直されるため、不動産価格の下落リスク、金利の上昇リスクも伴います」

リバースモーゲージで融資される金額は、担保価値の50%前後とする商品が多く、対象不動産を不動産担保価値の高い大都市圏のみに限定しているものが多い。

また、リバースモーゲージ型住宅ローンも登場している。一般的なリバースモーゲージでは、住宅ローンの借り換えに利用できないが、「リ・バース60」というリバースモーゲージ型住宅ローンでは、資金使途は住宅関連に限定され、生活資金等には利用できない。代わりに住宅の建設・購入や、リフォーム費用、既存の住宅ローンの借り換えなどにも利用できる。

「リバースモーゲージを活用すれば、利払いだけにとどめることで家計収支のバランスを保つことができます。しかし、担保評価や金利など、経済情勢に伴うリスクが生じるのも事実。亡くなったときは売却によって清算されることなどを踏まえたうえで、選択肢のひとつとして考えるべきではないでしょうか」

リバースモーゲージにはさまざまな商品があり、ライフプランに合わせて選択できるリバースモーゲージにはさまざまな商品があり、ライフプランに合わせて選択できる

いくら必要なのか。そのためにまず、長期のライフプランを

<b>峰尾茂克さん</b>:ファイナンシャルプランナー(CFP)・宅地建物取引士。株式会社 THE FP コンサルティング 代表取締役、一般社団法人理想の住まいと資金計画支援機構 代表理事<br>
テレビ・ラジオ出演の他、新聞・雑誌の取材協力、不動産関連の書籍を出版。住まいと暮らしに関する講演や相談を全国各地で多数行う。過去15年間のセミナー実績は1,000回以上、受講者数は3万人以上にのぼる峰尾茂克さん:ファイナンシャルプランナー(CFP)・宅地建物取引士。株式会社 THE FP コンサルティング 代表取締役、一般社団法人理想の住まいと資金計画支援機構 代表理事
テレビ・ラジオ出演の他、新聞・雑誌の取材協力、不動産関連の書籍を出版。住まいと暮らしに関する講演や相談を全国各地で多数行う。過去15年間のセミナー実績は1,000回以上、受講者数は3万人以上にのぼる

ここまで見てきたように不動産を活用した資金の作り方はさまざまだ。
しかし、峰尾さんは改めて強調する。

「重要なのは、収支のバランスを考えること。特に老後においては毎月の赤字を、今ある資産を取り崩すことで埋めていくという考えだけでは、安心した生活をおくることができない高齢者が多いのが実情です」

今のライフスタイルがそのままでいいのか、見直す部分はないのか、を一度考えてみてほしいという。

「ライフプランの作成から始めてください。老後10年20年の間に何をしたいのか、そのために収入を増やすのか支出を減らすのか、キャッシュフローを明確にすることで不足する金額が目に見えて、対処法として何を選択すべきかが判断できます。老後資金を考える場合、不動産の活用にまで考えが及ぶ人は意外と少ないです。しかし、見直すものは見直し、ライフプランにのっとり、明確な計画の下で不動産を活用すれば、そのメリットは大きいといえます」

年金にしても、老後資金の不安は多くの人が抱いている。安心して老後を送るためにはライフプランが必要だ。不動産を活用し資金を得る場合でも、しっかりしたライフプランがそのベースとなる。
そのためにはファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談するのも一つの手かもしれない。

公開日: