超高齢社会に求められる住環境と住まい方とは
10月は国土交通省が定めた「住生活月間」だ。毎年、住居や居住環境について考えるさまざまなイベントが用意されていて、2021年10月26日にオンラインで開催された「住生活月間フォーラム」もそのひとつ。超高齢社会における住生活のあり方をテーマに、東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 教授 大月敏雄氏の基調講演と、パネルディスカッションが行われた。本稿では、フォーラムで語られた内容をレポートする。読者の皆さんが、高齢社会の住生活のあり方を考えるきっかけとなれば幸いだ。
基調講演で大月氏は、私たちにとって、95歳や100歳といった“超高齢者”は、その生活や体の状態などについて、よく知らない「新しい人」であり、超高齢社会とは、高齢者を含む、より多様な人が暮らす多様な社会であると解説した。
高齢者は住み慣れた環境の中で暮らすことが大切なので、地域に多様な居場所をつくることや、多様な住宅に適切に引越しができることが重要なのだという。大月氏は、高齢の親世帯とその子ども世帯が「スープの冷めない距離」に住む「近居」を提案する。大月氏が調査した地域では、60分以内に親が暮らしているという人は約80%に達しており、実際に「近居」を行っている人は多いそうだ。
一方、近居や同居といった「家族資源」や、有料老人ホームや特別養護老人ホームなどの「制度資源」を使えない人は、「地域資源」を活用して、居場所をつくることが求められる。これらを受けて、各地で高齢者の居場所づくりの取組みも増えてきているそうだ。高齢者の能力を生かすことや、高齢者の地域内での移動をスモールモビリティなどで支援することによって、高齢者の「生きがい」を生む地域をつくることができると説明。大月氏の話題提供によって、今年も住生活月間フォーラムが幕を開けた。
子どもから高齢者まで対応するスマートタウン「Fujisawa SST」
パネルディスカッションには、パナソニック株式会社 ビジネスソリューション本部SST推進総括 兼 Fujisawa SSTマネジメント株式会社 代表取締役社長の荒川剛氏、住まいのお金相談室 代表の有田美津子氏、ミサワホーム株式会社 技術担当顧問の栗原潤一氏が参加。各氏がそれぞれのテーマについてプレゼンテーションを行った後に、大月氏と質疑を行うという形でパネルディスカッションは進んだ。
まずパナソニックの荒川氏は、神奈川県藤沢市の郊外にある「Fujisawa SST」を紹介した。「SST」は、サスティナブル・スマート・タウンの略だ。約19haの敷地に600戸の住宅、商業施設、健康・福祉・教育施設、集会場などが設けられていて、パナソニックを中心に18の企業と、藤沢市、慶應義塾大学が連携してまちづくりに取組んでいる。各住戸は太陽電池や蓄電池、エネファームなどを実装し、CO2排出ネットゼロ住宅として電気も生み出している。また、各住戸や地域のCO2排出量を見える化し、地域全体でCO2の排出量を1990年比で70%削減する取組みを実践しているという。さらに新しい技術を活用して、モビリティ、ウェルネス、セキュリティ、コミュニティに関するサービスも提供しているそうだ。
SSTでは、特別養護老人ホームやサービス付き高齢者住宅と、クリニックや薬局、保育所や学習塾が一体となった「ウェルネススクエア」を設け、高齢者から子どもまで幅広い世代に向けたサービスを提供。また、サービス付き高齢者住宅では、IoT対応エアコンと非接触センサーによって、睡眠中の居住者と室内環境の見守りを行うなど、人生100年時代のまちづくりを実践している。
大月氏からエネルギーの生産状況を問われた荒川氏は、各戸で月に5,000円から1万円の売電収入があると回答。エネルギー生産は順調のようだ。今後について聞かれた荒川氏は、新たに約400戸の集合住宅の建設を計画していて、地域の中で住み替えができるようにしたいという。この考えは、大月氏の賛同を得ていた。
退職世代の資産の3分の2は自宅資産。住まいとお金の深い関係
「住まいとお金には深い関係があります」と話す、住まいのお金相談室の有田氏が勧めるのは、元気で資金力がある間に老後の住まいを考えることと、終のすみかまでを考えた資金プランを立てること。
65歳以上の持ち家率は80%以上に達していて、さらに退職世代の資産の3分の2は自宅資産だという。このことから有田氏は、自宅を活用して手元資産を残すことが重要だと説明する。
その方法のひとつとして有田氏は、住宅金融支援機構の「リ・バース60」などのリバースモーゲージを紹介。自宅を担保に融資を受ける制度で、毎月の返済は利息のみで、相続が発生した際の自宅売却資金などで一括返済する仕組みになっている。一戸建て住宅のバリアフリーリフォームや、一戸建て住宅からマンションへの住み替えなどに幅広く利用されていて、「リ・バース60」の取扱金融機関数も利用実績も、大きく増えているという。
「リバースモーゲージの制約は?」という大月氏の質問に、一戸建て住宅では、地価が高くない場合に融資を受けられないことがあり、マンションも築年数などの制約があると答えた有田氏。終のすみかや介護の希望、資産の状況などについては、子ども世帯が自宅を購入するタイミングなどをきっかけに話し合うことを勧めている。
高齢者の健康を左右する住まいの断熱性
ミサワホームの栗原氏は、住宅の省エネルギーや断熱などの研究に携わってきた。日本の住宅には断熱が不十分なものが多く、さらに暖房のためのエネルギー消費量は、イギリスの4分の1、イタリアの3分の1と、欧米諸国と比べても暖房を使わないという。これらのことで、部屋による寒暖差が大きくなり、血圧変動で入浴時に意識を失って溺れるといった事故の増加につながっていると指摘。住居の室温は、高齢者の健康に大きな影響を与えるのだ。
この問題を解決するためには、断熱性能の向上や適切な暖房設備の利用などによって、安定した室温を確保することが重要で、それは健康の維持にも省エネルギーにも好影響をもたらすことになる。
大月氏から、部屋を暖かくする簡単な方法を聞かれた栗原氏は、「カーテンレールの上の部分を塞ぐだけでも効果があります」と話し、加えて、生活にて利用するエリアのみ断熱を強化するという選択肢もあり得ると答えた。
人生100年時代に求められる自分らしさの追求
最後に、人生100年時代の住生活で重要な点を聞かれた3氏。栗原氏は、高齢者が希望する生活・住まいを確保できるように周囲が考えること、荒川氏は、身体機能の低下を支えるIoTやAIやロボットなどの新しい技術を使ったサービスなどの開発、そして有田氏は、自分らしい住まいや住み方と介護を両立させることを、それぞれ挙げた。
大月氏は、人生が長くなったからこそ、自分の好みや事情に合わせたサービスや制度をつくること、自分らしさを追求することが、今後はより必要になるとまとめてパネルディスカッションを終えた。
同じ高齢者でも65歳と95歳では、暮らし方も適した住まいも異なる。人生が長くなれば、老後資金もより必要になる。人生100年時代とは、100歳を想像することから始まる。その必要性を教えられたフォーラムだった。











