110余年の時を経て、成長を続ける京阪電鉄不動産株式会社

大阪・淀屋橋と京都・出町柳を結ぶ京阪特急は、テレビカーやダブルデッカーなど、常識にとらわれない発想で独自の価値を築いてきた。2017年にはプレミアムカーを導入するなど、挑戦的な姿勢は健在だ大阪・淀屋橋と京都・出町柳を結ぶ京阪特急は、テレビカーやダブルデッカーなど、常識にとらわれない発想で独自の価値を築いてきた。2017年にはプレミアムカーを導入するなど、挑戦的な姿勢は健在だ

1906(明治39)年11月、「日本資本主義の父」渋沢栄一翁を創立委員長として京阪電気鉄道株式会社は設立された。1910年に大阪・天満橋と京都・五条の間に鉄路を繋げ、以降かつての京街道は再び興隆の時代を迎えることになる。時期を同じくして産声をあげた箕面有馬電気軌道(現 阪急電鉄)の小林一三が展開した、線路敷設と同時に都心のデパート・郊外のレジャー・沿線の宅地開発を行う手法は、鉄道経営の成功モデルとなり、不動産は鉄道と切っても切り離せない関係となっていた。京阪も例外ではなく、郊外の大規模宅地開発を中心に沿線開発に取組んできた。日本最古の遊園地であるひらかたパークや、本格的なショッピングモールの先駆けとなるくずはモール街(現 KUZUHA MALL)などの京阪沿線を代表する施設は、同社の手によるものだ。

グループ設立から110余年。沿線は成熟期を迎え、大都市圏といえども少子高齢化・人口減少の足音は間近に迫っている。かつての、成功モデルを突き進めば良い時代は終わりを告げ、鉄道各社の不動産事業も方向転換を求められている。そのような環境下にありながら、京阪グループの不動産事業を担う京阪電鉄不動産株式会社は、20年で売上高を約15倍に成長させているという。成長を続ける同社の取組みとは一体。同社の基幹部門のひとつ、戸建事業部の皆さんにお話を伺った。

大阪・淀屋橋と京都・出町柳を結ぶ京阪特急は、テレビカーやダブルデッカーなど、常識にとらわれない発想で独自の価値を築いてきた。2017年にはプレミアムカーを導入するなど、挑戦的な姿勢は健在だお話を伺った、京阪電鉄不動産株式会社 取締役 戸建事業部長 小川頼人氏(左)、戸建事業部 マネージャー 豊田俊資氏(右)

「くずはローズタウン」など、大規模なまちづくりを手がけてきた

「くずはローズタウン」など、大規模なまちづくりを手がけてきた

編集部:「京阪グループ」といえば、まずイメージするのが鉄道です。皆さんは入社後、どのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか。

取締役戸建事業部長 小川頼人氏(以下、小川氏):入社当時は京阪電気鉄道株式会社の中の、不動産部門でしたので、入社後たまたま不動産に配属されたということです(※)。しかし、最初の3ヶ月は駅での研修でした。今思うと、その時の経験が「安全第一」という鉄道会社ならではのDNAを身に付ける機会になったと思います。

※2000年6月、京阪電気鉄道株式会社の不動産部門を別会社化し、京阪電鉄不動産株式会社を設立

「くずはローズタウン」など、大規模なまちづくりを手がけてきた

編集部:鉄道会社の不動産部門としての、まちづくりの歩みを聞かせていただけますか。

戸建事業部 マネージャー 豊田俊資氏(以下、豊田氏):1928年に寝屋川市香里で土地を造成・販売したところからグループの不動産業は始まりました。戦後の住宅不足では、沿線で積極的に住宅を供給し、高度経済成長期には「くずはローズタウン」(大阪府枚方市・京都府八幡市)に代表される大規模ニュータウン開発で大きく成長します。沿線での大規模開発の余地がなくなると、「びわこローズタウン」(滋賀県大津市)や「京阪東ローズタウン」(京都府京田辺市、八幡市)など、沿線外でもまちづくりを進めます。当時は、山を買って切り開いて、何千戸という規模の宅地を造成し販売していました。

そうすると必ずしも駅から徒歩圏とは限りませんので、宅地を造ると、まずは自社グループのバス路線を通し、グループのスーパーマーケットも配置するのです。全部で数千戸の宅地開発であっても段階的に売り出します。そのため最初はバスもスーパーマーケットも採算は合いませんが、最初に住んでくださった方たちにも生活がありますので、グループとして先行投資をします。大規模開発では学校の用地なども含むので、行政と一体になった計画となりますが、当時は小学校や道路は開発事業者である私たちが造って、行政に寄付をするということもよくありました。そういった投資をしても十分利益が出るためです。当時、それだけ不動産は右肩上がりだったのです。

しかしバブル期以降、そのビジネスモデルは成立しなくなってきました。土地を寝かせておけば値段が上がる時代ではなくなり、やむを得ず山のまま所有しているところもありますし、造成したところも値を下げないと売れなくなりました。

「くずはローズタウン」など、大規模なまちづくりを手がけてきた1992年にまちびらきとなった「京阪東ローズタウン」。最寄り駅となるJR片町線(学研都市線)松井山手駅は、京阪が建設費の一部を負担した請願駅だ。北陸新幹線の新大阪延伸に際しては、付近に新幹線駅が設けられることも決まり、今後も発展が期待される

グループ主軸戦略のひとつ“沿線再耕”を担う

編集部:まちづくりの方向性が変わってきている中で、貴社の売上高は成長を続けています。戸建事業部では現在どのようなビジネスモデルで事業を展開していらっしゃるのでしょうか。

小川氏:土地の値段が右肩上がりの時代ではなくなったので、時間がかかる大規模開発はリスクを伴います。そして、家は一生ものという考え方も変わりつつあります。郊外の大規模住宅地に長年住まわれていた人が、アクセスの良い立地に引越すニーズも増えています。そこで、郊外から駅近に目を向け、定期借地権システム「MIRAIS(ミライズ)」をスタートさせました。定期借地権付き一戸建て住宅は、土地付き一戸建てを購入するのと比べると、住宅ローン借入額も少なく済み、土地にかかる固定資産税も不要のため、低コストで済みます。相続税の上昇に加え、代々の土地を相続する習慣が希薄化している中で、相続時の金銭的・精神的な負担も減らせます。
当初は若年層をターゲットに考えていました。カーシェアリングなどの普及で、モノを所有しないことへの抵抗が少ないと考えたからです。しかし蓋を開けてみると、これまでに不動産売買の経験が豊富な50歳代以上の方も多く、その点は想定外でした。

定期借地権システムは、当社にとっても大きく2つのメリットがあります。ひとつは、通常の分譲と異なり、お客様と継続的につながりを持ち続けられることです。当社では「マイホームのこと1から10まで」を掲げ、売買・リフォーム・住み替えサポートなど総合的な不動産サービスを展開していますが、お客さまと繋がりがあることで、まずは当社に相談してもらえます。これは当社にとってビジネス機会の創出にもなりますし、ややこしい不動産の相談であっても、お客さまにとってワンストップでストレスのないサービスを提供できます。
もうひとつは、まちの活性化と既存住宅地の活性化の観点でのメリットです。定期借地の場合、契約期間終了後に土地が私たちのもとに戻ってきます。そうすると、その時のニーズに合わせて再び私たちがまちづくりを行うことができます。まちの活性化と既存住宅地の活性化にコミットするという面でも、理にかなっているのです。

編集部:ゆるく繋がる大家さんのような存在ですね。人生100年時代と言われ、リタイア後も長い時間を過ごす家です。より暮らしやすい駅近に移ろうという動きは今後も増えそうですね。

豊田氏:駅近への回帰という点では、もうひとつ「まちなかホーム」プロジェクトというものにも注力しています。旧京街道の宿場町を結んだ京阪の沿線には、密集市街地が形成されています。そういったエリアが更新期を迎え、古家・倉庫・木造アパートなど未活用不動産も多く発生しています。郊外の分譲地とは異なり、周辺環境や面積の大小もさまざまですが、当社では沿線のこのような土地を一区画から買い取り、都市型住宅へと再生する事業を始めています。2017年、京都を中心に厳しい建築条件下で住宅を施工するノウハウを磨いてきた株式会社ゼロ・コーポレーションをグループ化しました。建築施工は同社が行っています。

本来このような土地はマンションを建てるには小さすぎるし、一戸建てを建てるにも、戸数が少ないことから資材運搬や人員配置などの効率も悪くなります。しかし、ドミナント戦略のように沿線の各地でいくつもの事業行うことで、ある程度のボリュームが出てきます。最初こそ非効率ですが、次第に効率性を持たせることができてきます。こうした沿線の再生を通して、グループが主軸戦略のひとつに掲げる「沿線再耕」の実現を目指しています。

まちなかホームの「クィード」シリーズの事例。限られた敷地で豊かな暮らしを実現するノウハウが強みだまちなかホームの「クィード」シリーズの事例。限られた敷地で豊かな暮らしを実現するノウハウが強みだ

無人内見システムなど、テクノロジーを活用した効率化とニーズへの対応を実現

京阪電鉄不動産 戸建事業部 チーフ 岩川智子氏京阪電鉄不動産 戸建事業部 チーフ 岩川智子氏

編集部:御社では新しいテクノロジーの導入にも積極的だと伺いました。

戸建事業部 チーフ 岩川智子氏:戸建事業部では、効率化とデジタル化の一環で、「無人内見システム」を導入しています。ショウタイム24株式会社と共同開発したシステムで、営業マンなしで自由に内見できる仕組みです。今の時代、積極的な案内を好まれない方もいますし、コロナ禍で人との接触を避けたいニーズにも合致しています。360度のパノラマ画像を見ることができる「バーチャルモデルハウス」も導入していますが、やはり実物を見たいという声は根強く、それに応える取組みとして始まりました。

無人内見をしたいときは、事前にホームページなどから予約します。物件に着くと、ご自身のスマホで鍵を開けて見学が可能になります。営業時間外や休日にも対応しており、仕事帰りなどに気軽に立ち寄っていただいています。

豊田氏:当社は、まちなかホームプロジェクトのように沿線各地で事業を進めているため、1人の営業マンが担当する物件同士の距離が離れていることはよくあります。無人内見システムを活用すれば、営業マンが移動する間お客さまを待たせることもなく、非常に効率的です。室内にある二次元バーコードを読み取れば、詳しい説明も見ることができますが、人に相談したいという方には、経験豊富な営業マンがしっかり対応させていただきます。

「そのうち買おうかな」と思っていた方が気軽な気持ちで見学したところ、イメージが具体化して本格検討に入ったというケースもあり、無人内見システムで内見の敷居が下がったことは、潜在層に対する動機付けにもなっています。

京阪電鉄不動産 戸建事業部 チーフ 岩川智子氏京阪東ローズタウン 美鳥ヶ丘ブライトガーデンの街並み
京阪電鉄不動産 戸建事業部 チーフ 岩川智子氏「京阪100年CLASSの家」は、構造躯体を傷つけることなく設備・仕上げ材が交換できる構造としたり、給排水管の点検補修など建てた後のメンテナンスをしやすくしたり、100年住み継げる家づくりにこだわっている

100年先へ向け、沿線にとらわれない事業展開を

100年先へ向け、沿線にとらわれない事業展開を

編集部:これからの展開を教えてください。

小川氏:110年を超える歴史を経て、当グループは「次の100年も選ばれる京阪」を目指しています。そのなかで戸建事業部では「100年CLASS京阪の家」を掲げ、お客さまに選ばれつづけるまちづくり・住まいづくりを考えています。社会情勢や価値観が変化する中でも選ばれるためには、多様な住まい方のニーズに応えることが大切です。
例えば、間取りやカラーを多彩に選んでオンリーワンのマイホームができる「カスタマイズ・セレクト住宅」を展開しています。他には、女性社員でプロジェクトを組んで、女性だからこそ気づく暮らしの課題を、家づくりに落とし込む新プロジェクト「LiV one(リブワン)」を開始しました。

今後は、これらの取組みによるノウハウを、沿線に限らず他の地域にも広げていく方針です。実は、京阪電鉄不動産は既に沿線以外にも事業を展開しており、主に分譲マンションの領域で関西圏の他、首都圏や札幌にも展開しています。一戸建てにおいても、今後は事業エリアを広げ、グループの成長ドライバーとして果敢に挑戦し続けます。

編集部:ありがとうございました。鉄道会社のグループの一員として、沿線の活性化はもちろん、そこにとどまらず挑戦を続けることが、成長の原動力であることが伝わってきました。

100年先へ向け、沿線にとらわれない事業展開を大阪市中央区の京阪電鉄不動産本社にて。本社が入居するOMMビルは、かつての天満橋駅の跡地(現在は地下駅)に立つ