日本史上、最もお茶の間に浸透した建築家

隈研吾氏(写真:宮沢洋 ※以下、記事内掲載写真も同)隈研吾氏(写真:宮沢洋 ※以下、記事内掲載写真も同)

最近やたらと名前を聞く建築家、隈研吾氏。
何がどうすごいの? 見に行くならどこ? 6月18日から東京国立近代美術館で始まる「隈研吾展」を前に、筆者が執筆した書籍『隈研吾建築図鑑』の取材メモの中から、“隈研吾ツアー”形式で3回にわたって記事をお届けする。

「日本の歴史上、最もお茶の間に浸透した建築家」──。筆者は隈氏をそう位置付けている。
あなたも「なんとなく名前は知っている」であろう隈氏だが、実際何を設計した人かと問われると、思い浮かぶのは「国立競技場」くらいではないか。しかし、隈建築の面白さは、ある程度の数を見ないと分からない。連載の初回は、「隈建築の聖地」とも呼ばれる高知県・梼原(ゆすはら)町を巡ろう。

その前に、筆者が何者かを少しだけ。
筆者は現在、画文家として活動しており、本サイトで「建築シネドラ探訪」を連載させていただいているが、前職は建築専門誌の記者である。1990年から2020年まで30年間、「日経アーキテクチュア」の記者として、隈氏を見てきた。

正直に言うと、10年前までは、隈氏のことを「将来、日本を担うかもしれない建築家の1人」としてしか考えていなかった。しかし、この10年間の隈氏の活躍の華々しさは、筆者の予想をはるかに超えていた。そのブレイクの理由を探るべく、独立後の単著第一弾として『隈研吾建築図鑑』を5月に上梓した。

書籍に掲載した隈建築は厳選50件だが、実際には80件くらい見に行った。中でも「ここはいつか行くべき」とお薦めするのが、高知県・梼原(ゆすはら)町である。

隈研吾氏(写真:宮沢洋 ※以下、記事内掲載写真も同)高知県・梼原町にある「木橋ミュージアム」。隈研吾氏の設計で2010年に完成

1990年代から6つの隈建築が次々に

梼原町はここ(イラスト:宮沢洋、以下も)梼原町はここ(イラスト:宮沢洋、以下も)

「それ、どこ?」という人がほとんどであろう。梼原町は、高知県と愛媛県の県境にある。高知空港、松山空港のどちらから行っても車で1時間半くらいかかる。

ここ梼原町には、6つの隈建築が密集している。建設年代が四半世紀にばらけており、その進化が分かる。そして、隈氏とそれまでの多くの建築家たちの“デザイン志向の違い”がよく分かる。

もし建築が好きな人と隈氏の建築について話をすることになったら、「あのパラパラした感じが独特よね」と答えてほしい。きっと、「この人分かってる!」と相手の目の色が変わる。隈氏独特の「パラパラ感」が日本の、いや世界の建築ツウを魅了しているのだ。

「パラパラ感」とはどんなものか、実際の建築を建設年の古い順に見ていこう。

①梼原町地域交流施設(雲の上のホテル)
完成:1994年
所在地:梼原町太郎川3799-3
発注者:梼原町
設計者:隈研吾建築都市設計事務所、小谷設計、プラザデザインコンサルタント(実施設計協力)

隈氏の設計で梼原町に建った建築の第1号だ。現在の作風とはかなり違うが、それでも全体を1つの「分かりやすい形」で構成しない設計姿勢は今に通じる。

梼原町はここ(イラスト:宮沢洋、以下も)雲の上のホテルの外観。屋根の形は飛行機の翼をイメージしたもの。建て替えが決まっている

パッチワーク風スギ板外壁、前代未聞の茅葺き外壁

②梼原町総合庁舎
完成:2006年
所在地:梼原町梼原1444-1
発注者:梼原町
設計者:慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科、隈研吾建築都市設計事務所

様々な環境配慮技術を結集した先端省エネ建築。スギ板をパッチワークのように張った外壁が隈氏らしい。内部は本格的な木組みだ。

梼原町総合庁舎の外観梼原町総合庁舎の外観
梼原町総合庁舎の外観梼原町総合庁舎の内部

③まちの駅「ゆすはら」
完成:2010年
所在地:梼原町梼原1196-1
発注者:梼原町
設計者:隈研吾建築都市設計事務所

前代未聞の茅(かや)葺き外壁。これぞまさに「パラパラ感」。室内に立つ樹木のような柱もパラパラ。

梼原町総合庁舎の外観まちの駅「ゆすはら」の外観
梼原町総合庁舎の外観まちの駅「ゆすはら」の内部

さらに進化するパラパラ感

④木橋(もっきょう)ミュージアム
完成:2010年
所在地:梼原町太郎川3799-3
発注者:梼原町
設計者:隈研吾建築都市設計事務所

橋のような形状のミュージアム。SFを見るかのような巨大な木組み。巨大パラパラの頂点。

木橋ミュージアムを地上から見上げる木橋ミュージアムを地上から見上げる
木橋ミュージアムを地上から見上げる木橋ミュージアムの内部

⑤⑥ゆすはら雲の上の図書館、YURURIゆすはら
完成:2件とも2018年
所在地:梼原町梼原1212
発注者:梼原町
設計者:隈研吾建築都市設計事務所

2つの公共施設が並んで立つ。特に、図書館内のパラパラした木組みにびっくり。天窓から光が差し、まさに木漏れ日のよう。必見。

木橋ミュージアムを地上から見上げるゆすはら雲の上の図書館の外観。右手前方向にYURURIゆすはらが続く
木橋ミュージアムを地上から見上げるゆすはら雲の上の図書館の内部

パラパラ感は“脱・コルビュジエ”の決意?

これらは1日あれば十分見て回れる。ただ、空港から距離があるので、東京からだと日帰りは難しい。高知市内か松山市内の観光をからめて、1泊2日で訪れるのがお薦めだ。

独特のパラパラ感、お分かりいただけただろうか。隈氏自身はこの「パラパラ感」を、「粒子」という言葉で説明することが多い。6月18日から東京国立近代美術館で始まる「隈研吾展」でも、5つのテーマのうちの1つが「粒子」だ(残り4つは「孔」「斜め」「やわらかい」「時間」)。

戦後日本の建築は、フランスの巨匠、ル・コルビュジエの影響を大きく受けており、重量感たっぷりのコンクリートでアピールしたものが多い。いわば「塊」の建築。それに対して隈氏は、内外に小さな隙間をたくさん空け、「粒子」で建築を構成することを目指す。

そして、建築を粒子化するのに適した素材が、木や石などの自然素材であった。次回は、隈氏が自然素材を“再発見”した栃木県那須周辺の建築群を巡る。

木橋ミュージアムのイラスト。書籍『隈研吾建築図鑑』から抜粋木橋ミュージアムのイラスト。書籍『隈研吾建築図鑑』から抜粋
『隈研吾建築図鑑』の装丁。タイトル文字やイラストは宮沢洋『隈研吾建築図鑑』の装丁。タイトル文字やイラストは宮沢洋

『隈研吾建築図鑑』
価格:2640円(税込)
ISBN:978-4-296-10885-5
発行日:2021年5月11日
著者名:宮沢 洋(画・文)
発行元:日経BP ページ数:208ページ 判型:A5
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4296108859/
日経の本:https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/21/282010/