“マンション防災士”によるオンライントークショー
2021年3月6日、被災地の防災士や語り部による任意団体・オンライン防災により「東日本大震災10年 愛する人を守るために」と題したオンラインイベントが開催された。Web会議ツールを使い、4つのチャンネルを用意。「ふっこう国内チャンネル」と「ふっこう海外チャンネル」では、東日本大震災やインドネシア、イタリアで被災した方々のリポートを、そして2つの「ぼうさいチャンネル」では楽しみながら防災を学ぶコンテンツが配信された。
今回は「ぼうさいチャンネル」のコンテンツの一つ、「なんと著者から学べる! 『マンション防災の新常識』~私38階に住んでますがどうしたらいいでShow」を拝聴。
登壇されたのは2020年11月に発売した「マンション防災の新常識」(合同フォレスト)の著者、釜石徹さん。釜石さんは、マンション特有の防災対策の研究を長年続け、災害対策研究会主任研究員兼事務局長、また“マンション防災士”という肩書で、実践的なマンション防災対策や長期在宅避難のノウハウを伝えるために自治体の防災講演会やマンションの防災セミナー講師として活躍している。防災マニュアルを1枚のシートにまとめた「マンション防災スマートシート」は、マンション防災アイデアコンテストおよび内閣府主催のジャパン・レジリエンス・アワードで優秀賞を受賞した。
マンションの38階に住んでいるという一般社団法人おうえんフェス代表理事の高田洋平さんがファシリテーターを務めた。
お二人のトークショー内容からピックアップし、釜石さんの著書で補足させていただきながら、マンション防災についてご紹介したい。
マンションの耐震性と在宅避難
実際に高層階に住んでいる高田さんだが、釜石さんの著書の副題が「逃げずに留まる『在宅避難』完全ガイド」となっていることに驚いたという。「最悪を想定することが大事だと思うが、そもそもどんなリスクがあるのか分かっていない」と本音を打ち明けた。そして「マンションが折れちゃうことはないのですか?」と疑問を呈した。
釜石さんは「いまの建築基準法では、震度7クラスが複数回きても倒れるということはほぼありません。新耐震基準といっても1階が大きな駐車場や店舗になっていて壁の数や柱が少ないと、その部分が崩れて尻もちをつくようなことはありますが、一般的に簡単に倒壊することがないような設計がされています」とのこと。
著書のなかではそれに加えて「暴風雨にも耐えられます。津波や水害の場合でも、上層階に逃げれば命を落とすことはありません」と、一戸建ての場合に比べて災害に強いといわれる理由が書かれている。
このことから在宅避難が可能になるわけだが、そこには避難所が抱える問題も関係すると釜石さんは指摘する。
「避難所の収容予定人数は人口の15~20%なんです。いま行政では、避難所は地震など災害で倒壊したり、火事が起きたりして住む家を失くした方が暮らす場所といわれています。新耐震基準が施行された1981年以前に建てられた、いわゆる耐震性が弱い建物に住んでいらっしゃるのは首都圏で15~20%くらいです。ということは、その方々の家に被害が出る可能性が高く、避難所を利用しなければいけません」
さらに、避難所に用意される食料は、収容予定人数の3日分ほどがあるとされているが、釜石さんによると、東京都23区は都と区が折半することになっており、1日分から1.5日分しか用意されていないという。
現在の新型コロナウイルス禍では密を避けるために収容人数はさらに減員されるだろうし、トイレなど衛生面、高齢者や病人などの災害弱者に十分な対応が見込めるか、ペットの同行避難はどうかなど不安もある。避難所は本当に必要な人のためとし、寝泊まりできる家があるのであれば、在宅避難が呼びかけられているのだ。
在宅避難で過ごせる空間を確保する
在宅避難の備えについて「まず、最初の地震の揺れで死傷しないようにすること、発火したときはすぐ消せる、そんな態勢をとりましょう」と釜石さん。
発火については、初期消火に対応できる消火具を用意しておくこと。地震の揺れについては「建物は高層であればあるほど、免震構造や制震構造で揺れが抑えられますが、まったく揺れの影響がないともいえません。したがって、家具の転倒防止や、食器棚から食器が飛び出さないようにする、ガラス戸には割れないようにガラスフィルムを貼るなど、家のなかでケガをしないような対策をとっておくのが第一に大切なことです」と語る。
そうすれば生活空間を確保することもでき、在宅避難で過ごしやすくなる。
そして、「家の中で安全な場所はあるのですか?」という高田さんの質問に、「つくっておくことは必要でしょうね」と釜石さん。
「ある程度生活ができたり、動きやすいようにするには、寝室と廊下を自分の家の安全な場所ということで考えておくのがいいかもしれません。寝室に背の高い家具を置かない、人に向かって飛んでくる可能性があるものを置かないなど、寝ている間に大きな地震があっても死傷することがないようにする。もう一つは、どうしても物が多くなるリビングルームから、ちょっとの移動で行ける廊下。廊下は意外といろんなものを置いていなかったりするので、散乱しないようにしておけばいいですね」
夜に災害が起きて停電になったときのため、コンセントにはめ込んでおくタイプの停電時自動点灯ライトの設置もすすめた。地震の揺れで懐中電灯やライト機能を持つスマホがどこかにいってしまうことも考えられるからだ。また、乾電池を使用する自動点灯ライトもあるが、固定していなければ揺れの影響を受けることがある。「コンセントから抜くと懐中電灯の代わりにもなりますが、それほど明るくないので、それを使って懐中電灯などを探すことができます」
備えは10日分以上が必要!?
釜石さんが著書で記したのは、10日以上の在宅避難ができるノウハウ。「行政は、昔は3日間の備蓄をと言っていたのが、それでは足りないと分かって、3日の備蓄、できれば7日と変わってきています。でも災害の大きさによって変わりますし、7日でいいかどうかは誰にも分かりません」と釜石さん。
2019年の台風15号による千葉県や2018年の台風21号による大阪府と和歌山県では、2週間ほどの停電が続いた例を挙げ、「地震だけでなく、台風などいろいろな災害を考えたときに、2週間以上の停電の可能性を十分に考えておく必要があると思うんです」と述べた。
また、首都圏の火力発電所は東京湾沿岸に集中しており、地震の震源地が東京湾沿岸だった場合、長期の停電は覚悟しておかなければいけないというのが釜石さんたち防災のプロの見解だそうだ。よって「想定外と言わせないための対策として、7日では足りないので、10日以上という言葉を使っているんです」とのこと。
また、災害時のトイレ対策は、釜石さんも「難しいですね」と言う。そんななか対策の一つとして、防災グッズで携帯トイレを用意することが挙げられるが、ただ購入しておくだけでは不十分とのこと。「ぜひ、事前に試しておいて欲しいのです。実際にご自身の排泄物で行うことが難しければ、キムチや納豆、カレー粉といったにおいの強いものを入れてみて、においが漏れないか確認してください」
災害時にゴミを容易に捨てることはできないため、自宅で保管しなければならないからだ。
防災対策を見直すきっかけに
食料や飲料水のほか、本のなかではキッチンが使えないときのためにカセットコンロの用意も推奨している。また、長期の在宅避難で家族分の携帯トイレのゴミを保管するのは場所も回収も大変なので、排水管に断裂がなければ小便は流すという手段もあるが、それには排水管チェックが必要になり、個人ではできないのでマンションの管理組合の協力を仰ぐことになる。釜石さんが高層マンションで恐れることの一つに、エレベーター内での閉じ込めもある。そういった詳細は、ぜひ本をご参照いただきたい。
トークショーの最後に釜石さんは下記のように話した。
「今日お話ししたのはごく一部でしかないのですが、この本には、自分が今まで見聞きしていた防災の知識は、悪くはないのですが不十分で、もっといい方法があるのではと自分なりに研究して、実践して、取組んだ内容を書いています。決してこれが正解とはまだ思っていませんが、みなさんの防災対策をちょっと見直してもらうきっかけになれば。そのために“新常識”としていますから、こんな考え方できるのかと思っていただきながら、実際にやっているものと比較したり、取り入れていただいたりして、さらによい防災対策をしていただけたらうれしいです」
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マンション防災に特化してはいるが、もちろん一軒家の防災にも通じることがある。いつ起きるかわからない地震、そしてこれから台風シーズンも迎える。防災対策もバージョンアップが必要だ。
取材協力:オンライン防災 https://www.facebook.com/groups/711895056039971







