東日本大震災から10年 復興事業は完了へ

南三陸町長 佐藤仁氏。東日本大震災発生時は、同町防災対策庁舎で被災。屋上のアンテナにしがみつき、来襲する津波に耐え生還。その後は町長として同町の復興を牽引南三陸町長 佐藤仁氏。東日本大震災発生時は、同町防災対策庁舎で被災。屋上のアンテナにしがみつき、来襲する津波に耐え生還。その後は町長として同町の復興を牽引

東日本大震災が発生して10年。被災地の復興の状況を知るとともに、東京で災害が生じた際の復興のあり方について考える「令和2年度 都市の事前復興シンポジウム」が、2021年1月18日にオンラインで開催された。「事前復興」とは、阪神・淡路大震災を契機に、東京都で取組みを始めたもので、災害からの迅速で着実な復興には、災害が起きてから復興を考えるのではなく、災害の前から復興の準備をし、実践しておくことが必要だという考えに基づくものだ。シンポジウムは、小池都知事から東日本大震災における都の復興支援や、自然災害に対する事前復興の必要性などに触れた挨拶の後、東日本大震災で甚大な津波被害を受け、自身も被災した宮城県南三陸町の町長 佐藤仁氏の基調講演からスタートした。

南三陸町の復興について、佐藤氏は「10年前は、頂の見えない山に登るような思いでした」と表現。先の見えない復興に臨んだ当時を振り返った。その南三陸町の復興事業は、2021年度に予定している震災伝承館のオープンで、ひと区切りを迎えるまでになっている。職住分離を掲げて高台に造成した住宅団地は完工し、南三陸病院や町役場などの公共施設も再建。主要産業である水産業や林業、観光業なども着実に再生している。佐藤氏は「行政の力だけでは復興は難しく、地域の力が原動力になりました」と話し、行政と住民が役割分担して復興に臨むことが必要と訴える。

国土交通省 都市局 都市安全課 都市防災対策企画室長 浦口恭直氏国土交通省 都市局 都市安全課 都市防災対策企画室長 浦口恭直氏

続いて基調講演を行ったのは、国土交通省都市局都市安全課都市防災対策企画室の室長 浦口恭直氏。東日本大震災の被災3県における市街地復興事業はほぼ完了した一方で、東日本大震災以降も自然災害が頻発していることから、都市計画法および都市再生特別措置法を改正し、まちづくりの中に防災を位置づけるとともに、災害危険区域や土砂災害特別警戒区域などの災害レッドゾーンの開発の原則禁止、災害ハザードエリアからの移転の促進などの対策を講じている。また、新型コロナ危機を契機としたまちづくりのあり方を有識者にヒアリングした結果、働く場所や住む場所の選択肢を広げることや、職住近接などの多様なニーズとその変化に対応できることの必要性が見えてきたと紹介した。
また、東日本大震災の被災地に、東京都が延べ3万人以上の職員を派遣していることも報告された。東京都総務局復興支援対策部被災地支援担当課長の森田和治氏によると、派遣は、被災者の医療救護、行方不明者の捜索、避難所の運営支援、罹災証明の発行などにあたった被災直後の短期のものから、インフラや公共施設の復旧、産業の復興、被災者の生活再建などを担当した中長期のものまで多岐にわたり、派遣先も被災3県の各地に及んでいるそうだ。職員自ら復興の現場を体験することで、都が推進する「事前復興」の必要性を、より現実のものとして認識できたのではないだろうか。

南三陸町も、事前復興を考えていなかった

シンポジウムの後半は、ポストコロナの東京の事前復興をテーマにしたパネルディスカッションが行われた。パネラーは、基調講演を行った佐藤氏、浦口氏に、災害復興まちづくり支援機構の元代表委員で弁護士の淵上玲子氏、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 特任教授の窪田亜矢氏、三鷹市都市整備部長の小出雅則氏、東京都都市整備局市街地整備部長の朝山勉氏が加わる。コーディネーターは、東京都立大学名誉教授の中林一樹氏が務めた。
パネルディスカッションは以下の論点について行われた。順に紹介したい。

第一の論点は「過去の大震災の復興と事前復興の可能性」について。淵上氏は、阪神・淡路大震災からの復興において、法律や税務、不動産の評価などの専門家が必要になったことから、「阪神・淡路まちづくり支援機構」が生まれ、その経験をもとに「災害復興まちづくり支援機構」が設立されたと説明。窪田氏は、東北の各地で東日本大震災からの復興にかかわった経験から、復興の基本は元に戻すことであり、国や自治体は住民参加の場をつくることが重要と指摘。両者とも、経験を基にした事前復興の意義を唱えた。

一方で佐藤氏は、南三陸町では事前復興を考えていなかったために、仮設住宅の建設場所の選定などに時間がかかったと説明。事前に復興を考えていれば、復興のスピードも費用も異なってくるという、実体験に基づいた事前復興の必要性を示した。

これらの議論を受け浦口氏は、国交省が2018年に策定した事前復興のガイドライン(復興まちづくりのための事前準備ガイドライン)について解説。ガイドラインで準備のポイントとして挙げる、体制、手順、訓練、基礎データ、目標の5項目のうち、いずれかに取り組んでいる全国の自治体は約55%に達しており、少しずつ広まりを見せていることを示した。しかし災害はいつどこで発生するかわからない。事実、2015年現在で国内人口の67.7%が何らかの災害リスクエリアに居住していると、先日国交省が発表した。まずは、私たち住民が「事前復興」の必要性を認識することが、行政を動かすとともに、自分自身の身を守ることにつながる。

復興体制や復興手順の事前検討は比較的取組みが進んでいる一方、復興訓練の実施など、項目によっては実施率は低水準にとどまる(国土交通省 復興まちづくりのための事前準備の取組状況(令和2年7月末時点) より)復興体制や復興手順の事前検討は比較的取組みが進んでいる一方、復興訓練の実施など、項目によっては実施率は低水準にとどまる(国土交通省 復興まちづくりのための事前準備の取組状況(令和2年7月末時点) より)
復興体制や復興手順の事前検討は比較的取組みが進んでいる一方、復興訓練の実施など、項目によっては実施率は低水準にとどまる(国土交通省 復興まちづくりのための事前準備の取組状況(令和2年7月末時点) より)静岡県、徳島県は全ての自治体で取組みが行われている一方、山口県や福井県は実施自治体数が1にとどまるなど、地域差もある(国土交通省 復興まちづくりのための事前準備の取組状況(令和2年7月末時点) より)

コロナ禍で復興訓練はオンラインに

第二の論点「復興訓練とウイズコロナの都市復興」では、朝山氏が、これまで東京都が進めてきた事前復興の取組みを紹介した。「都市復興の理念、目標及び基本方針」や「震災復興マニュアル」等の作成、1998年度から実施してきた、職員や有識者、区市町村の担当者が参加する復興訓練などの取組みだ。2020年度の復興訓練は、コロナ禍によりWeb会議を活用してオンラインで実施することになったが、東京都の復興訓練に参加した中林氏と窪田氏は、「オンラインでも訓練は有効で、練習することが大切」と感想を語った。コロナ禍であっても、工夫して訓練を行い、少しでも準備することが大切だ。

一方、コロナ禍の防災まちづくりにはまだまだ課題も伴う。三鷹市の三鷹台駅前周辺地区における防災を含めたまちづくりの取組みを、まちづくり協議会等とともに進めた小出氏は、ウィズコロナ時代の市民参加の手法や、都市復興マニュアルの作成が、今後の検討課題だと述べた。

浦口氏によると、国交省では災害からの復興経験が少ない自治体に向けて、2020年に復旧・復興まちづくりサポーター制度をスタートさせている。復興の経験値が高い人がサポーターとなり、ノウハウなどを自治体に伝えて共有する制度だ。多くの災害は、直接的な被害だけでなく、経済的な影響など、場合によっては国規模で被害をもたらす。自治体という単位を超えて、横断的に協力し合う必要がある。

パネルディスカッション登壇者。上左)佐藤仁氏 上中)浦口恭直氏 上右)淵上玲子氏 中左)小出雅則氏 中中)朝山勉氏 中右)中林一樹氏 下)窪田亜矢氏パネルディスカッション登壇者。上左)佐藤仁氏 上中)浦口恭直氏 上右)淵上玲子氏 中左)小出雅則氏 中中)朝山勉氏 中右)中林一樹氏 下)窪田亜矢氏

さらなる普及が待たれる事前復興

最後に「ポストコロナの都市づくりと復興都市づくりビジョン」について議論が交わされた。小出氏が、ポストコロナの新しい生活様式にあった日常生活圏を意識したまちづくりが必要と語ったのをはじめ、朝山氏が、東京が目指す被災を繰り返さない活力とゆとりある高度成熟都市の実現、浦口氏が官民協働によるまちのマネジメント、淵上氏が被災者に寄り添う体制づくりの必要性と、各氏が描く事前復興の都市づくりを訴えた。

最後に、事前復興の展望として「国も東京都も区市も、被災して犠牲者が出た後に迅速な復興を進めるための『準備しておく事前復興』から、事前に高台へ移転するとか密集市街地の改善を進め被災後に復興がいらない街へ『今から事前復興まちづくりを実践する事前復興』へ展開していくべきであろう」(中林氏)とまとめた。

「事前復興」は、まだまだなじみのある言葉とはいえないが、東京都や国がその取組みを進めている。しかし「全国の自治体の事前復興の取組みはまだまだこれから」(浦口氏)という状況だ。災害が発生してからではなく、事前に備える必要性を、10回目の「3.11」の今日、改めて考えたい。

事前復興には、仮設住宅の建設予定地の検討なども含まれる。あらかじめ計画しておくことで、復興のスピードアップが期待される事前復興には、仮設住宅の建設予定地の検討なども含まれる。あらかじめ計画しておくことで、復興のスピードアップが期待される

参考資料
国土交通省 都道府県別の災害リスクエリアに居住する人口について
https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/content/001373119.pdf

公開日: