空き家を利活用したい人向けイベントを開催

大阪市内で開催された空き家を活用したい人向けのイベント。熱心に質問する視聴者もいた大阪市内で開催された空き家を活用したい人向けのイベント。熱心に質問する視聴者もいた

奈良県生駒市の空き家対策の取材は大阪市中央区にある地下鉄堺筋本町駅近くのコワーキングスペースから始まった。ここを会場に空き家を利活用したい人向けに実際の空き家の活用法を建築家がプレゼンするというイベントが開催されたのである。この時点で生駒市の空き家対策には他にない独自性があることが分かる。

生駒市は生駒山地を挟んで大阪府と、矢田丘陵を挟んで奈良市などと接する南北に細長い自治体で、その立地から高度経済成長期以降、大阪のベッドタウンとして発展してきた。前述の堺筋本町駅からなら大阪メトロ中央線が近鉄けいはんな線と相互乗り入れしているため、直通で生駒駅まで25分。奈良、大阪はもちろん、京都、神戸にもアクセスのよいまちなのである。

であれば、地元でのイベント開催もあり得るが、空き家を利活用したい人たちは地元だけでなく、周辺の都市圏にいることが多い。それを考えるとアクセスの良い都心で開催することには意味がある(*)。

また、そもそも、行政による空き家対策は空き家所有者向けに行われているのが一般的。生駒市で2018年から活動を始めた空き家を流通させるための専門家集団「いこま空き家流通促進プラットホーム」(以下プラットホーム)も市内の空き家所有者の困りごとを解決する意図から設立されており、日常的には所有者支援を目的とした活動が行われている。

だが、空き家所有者が手放そう、利活用してもらおうと思っても、それを欲しいと思ってくれる人がいなければ空き家は動かない。また、使いたいと思ってくれる人がいることを知って所有者がその気になるのもよくある話。それを考えると本来は双方に働きかけるべきだが、現状はそこまで手が回っていないのが本当のところだろう。

(*)当初は利活用希望者が参加してのイベントが予定されていたが、実際にはコロナ感染拡大予防のため、オンラインイベントとして開催された。

立地によって空き家にも特性がある

当日のイベントは生駒市全体の説明からスタート、空き家選びのポイント、現在利活用者を探している3軒の空き家のプレゼン、質疑応答という流れ。冒頭で印象的だったのは生駒市内の住宅エリアを3つに分類、それぞれの特徴を解説した部分である。説明によると生駒市には住環境の整った新旧のニュータウン、古民家も多い自然豊かな田園集落地、共同住宅を中心とした利便性の高い駅前の住宅地があるそうで、どこに住むかで生活は変わってくるとして、いくつかの住宅地が紹介された。

同じニュータウンでも昭和50年代に開発された萩の台、駅前にマンションの多い白庭台では暮らし方も異なるだろうし、田園風景の広がる高山地区であればさらに違うはず。利活用したい人はどこでなら自分の理想とする暮らしが可能になるか、イメージしながら見たのではなかろうか。空き家のみならず、不動産を探す人には親切な分類、解説である。

また、こうした分類がきちんとできていることが問題解決にも寄与している。取材前に市職員の荻巣友貴氏と関西大学の岡絵理子教授による「生駒市における空き家発生と流通化プロセスに関する研究」と題した論文を読ませていただいたのだが、住宅地ごとに空き家流通への障壁は異なるという。

たとえばニュータウンの場合には接道がない、再建築不可などの法令的な障壁はほとんどないが、購入時に高額だった不動産を安くは売りたくないという心理的な抵抗が大きくなりがち。

これに対して既存住宅地では現行の法令に適合しない不動産が多く、まずはそれをどうクリアするかが流通にのせるためのポイントになる。それ以外では田園集落地の場合には市街化調整区域内にあって再建築不可な例が多いなど、いずれも空き家に対処する前に知っておきたい点ばかり。そこを整理してから取り組んでいることが成功につながっているのだろう。

空き家の事例として紹介された地域の風景。大阪に近いベッドタウンのイメージとはかなり異なる空き家の事例として紹介された地域の風景。大阪に近いベッドタウンのイメージとはかなり異なる

空き家の可能性を誰にでも分かる形で紹介

建築家が自分のオフィス+セカンドハウスとして使うとプランを披露した路地の家。現地を訪れてみると隣家では若い人が自分たちでリノベーションを行っていた建築家が自分のオフィス+セカンドハウスとして使うとプランを披露した路地の家。現地を訪れてみると隣家では若い人が自分たちでリノベーションを行っていた

さらによく考えられていると思ったのはこの日、紹介された空き家3軒の立地、広さ、想定される使い方がそれぞれ違うという点。一口に空き家を利活用したいと言ってもやりたいことは人によって異なる。できるだけ多様な事例があったほうがよいわけである。

最初に紹介されたのは路地の突き当たりにある500万円の木造2階建て、和室ばかりの4DKという物件。土地は広いが、家自体はコンパクトでこれをどう使うか。プレゼンは建築家本人が仕事場兼セカンドハウスとして使うという想定で予算は500~1,000万円。それほど多額ではないので、1階のリビングに予算をかけ、水回り、2階は既存を活かして最低限に済ませるという計画で、図面、完成予想図が披露されたのだが、これが分かりやすかった。

住宅、特に木造住宅は傾いていても、屋根がなくなっていてもきちんと手を入れれば住める状態に戻せる。内装はもちろん、間取りや水回りも自在に変えられるが、多くの人はそれを知らない。そのため、古い、荒れた状態の住宅を見ると、それだけで「もうダメ!」と思ってしまいがちだが、手を入れる方法があることを予算とそのメリハリつけた使い方から解説、ビジュアルで見せられれば納得する。今回のイベントでは「なるほど、こうなるのか!」と目から鱗の思いをした参加者も多いのではなかろうか。

建物の使い方、改修の仕方の提案も

宝山寺の参道にある空き家(上の写真中央)と宝山寺から見える風景。手前に生駒市内、矢田丘陵、その向こうに広がるのは奈良市。階段はあるが素晴らしい眺望が得られる場所だった宝山寺の参道にある空き家(上の写真中央)と宝山寺から見える風景。手前に生駒市内、矢田丘陵、その向こうに広がるのは奈良市。階段はあるが素晴らしい眺望が得られる場所だった

続いて紹介されたのは生駒市最大の観光名所・宝山寺の参道にある木造2階建ての店舗可物件。商売の神様として有名な宝山寺は山の中腹にあり、参詣には1918(大正7)年に日本で最初に敷設されたケーブルカーを使うのが一般的だ。だが、ケーブルカー以前は参道を歩いて登っていたわけで、そのためか、参道沿いは商業地域に指定されており、店舗としても使える。実際、寺に近いエリアには現在も旅館、飲食店などが点在している。住宅としては細長く小さいが、眺望には恵まれており、周辺には観光客を意識したリノベーション物件も出てきているという。

提案されたのはライフスタイルの変化に合わせて自分で住んだり、人に貸したりしながら使うという例。単身あるいは夫婦でオフィス+住宅として使う、夫婦と小さな子どもで住む、単身者2人のシェアハウスとして貸すなどさまざまな可能性が語られ、これも興味深かった。

住宅は住宅として、店舗は店舗として使うのがこれまでの常識だが、働き方・暮らし方が多様化する現在、これからは用途と建物の掛け合わせ方は無数に可能になるはず。建物が使えるかどうかを検討する際に使い方が複数あれば使える可能性は広がる。この提案にもうなずいた人が多かったのではなかろうか。

最後は田園集落地にある母屋+2棟の離れに2台分の駐車場というお屋敷。玄関だけで6畳もあり、情報公開後、すでに買いたいという申し込みが集まっているという人気物件である。

これについては、建築家が11年前から似たような大きな木造家屋を少しずつ改修し続けているという事例を紹介 。一度に全部の改修をやる必要はないことや地域に開かれた、多少なりとも収益を生む空間を作ることで改修費を稼ぐやり方などが説明された。郊外の農家のような大きな住宅はそんなに広くても使いきれないと躊躇されがちだが、今回のプレゼンはその辺りの不安払拭に役立つ実用的な内容で、いちいち、なるほどと思わされた。

市が最初に空き家所有者にコンタクト、安心感から始める

近畿日本鉄道けいはんな線新石切駅から生駒山地を見たところ。2枚目はその反対側、生駒駅から生駒山地。トンネルを抜けると途端に空気が変わる、不思議な経験だった近畿日本鉄道けいはんな線新石切駅から生駒山地を見たところ。2枚目はその反対側、生駒駅から生駒山地。トンネルを抜けると途端に空気が変わる、不思議な経験だった

独自性があるのはイベントだけではない。前述のプラットホームは2018年5月から取材にお邪魔した2020年12月までの間に77件の空き家を扱い、うち22件を売買、4件を賃貸物件として流通させている。平均空き家期間10年を超えるような流通困難な物件を扱っていることも踏まえると、その意義は非常に大きいだろう。

眠っている空き家を年30件近くも流通にのせている背景には市が積極的に関与する、他にない仕組みがある。具体的には問題解決の入り口となる空き家所有者とのファーストコンタクトを市職員が行い、そこで得た情報を外部に提供することへの同意を取得、プラットホームで月に1回開かれる空き家流通促進検討会議に情報を提供するというもの。空き家所有者の中には相談先が分からない、不動産事会社に良い印象を持たないという人も少なくないが、そこに市が入ることで安心感が生まれるのだという。

相続登記がされていない、境界がはっきりしていないなど、そのままでは流通にはのせられない状態でも所有者に売りたい、貸したいという意思があればプラットホームで対象として取り上げ、専門家が手助けして流通にのせられるようにしているのも特徴。要件が整っていないからと門前払いすることは基本的にはないのである。

こうした努力が空き家利活用につながっているわけだが、「活動を続けていくうちに不動産事業者が変わってきたのも成果」と生駒市住宅政策室長の井上博司氏。生駒市は高度経済成長期以降、新築をどんどん建てて発展してきたまちで、不動産会社も長らく新築を良しとしてきた。その意識に変化が生まれ、中古物件をどう使うかを考える事業者も出てきているというのである。

地元では自分たちらしい住まい方、暮らし方を空き家利用で実現している人が出てきており、市はプロモーションサイト「グッドサイクルいこま」で中古住宅のリノベーション事例を紹介してもいる。気運は生まれてきている。仕組みができ、軌道に乗ってきた所有者支援に加え、今回、第一歩を踏み出した空き家の利用希望者支援が充実してくれば、空き家対策はさらに加速するのではなかろうか。期待したいところである。


空き家を利活用したい人向けのイベント概要
https://goodcycleikoma.jp/3405/

いこま空き家流通促進プラットホーム
https://www.city.ikoma.lg.jp/0000013956.html

いこまの住まい(グッドサイクルいこま内)
https://goodcycleikoma.jp/house/

公開日: