コンセッションの役割・働き、海外での事例について

コンセッションとは、空港や上下水道、道路など、利用料金の徴収を伴う公共施設の所有権を公的機関に残したまま、運営権を民間の事業者に売却すること。厳しい財政事情の中でインフラの更新を行う必要があることなどの点から、政府が導入に力を入れている。

そのコンセッションを用いた事業の普及と浸透を目的にしたセミナーが、国土交通省と内閣府、「みやぎ広域PPPプラットフォーム」の事務局である株式会社七十七銀行の共催で、2020年12月22日に仙台市の会場とWebで行われた。

中部空港連絡橋(セントレアライン)中部空港連絡橋(セントレアライン)

コンセッションの役割と働き

基調講演を行った株式会社日本政策投資銀行地域企画部長の足立慎一郎氏基調講演を行った株式会社日本政策投資銀行地域企画部長の足立慎一郎氏

基調講演を行った株式会社日本政策投資銀行地域企画部長の足立慎一郎氏は、コンセッションには、地域経済の「トップラインの伸長」と、「ボトムライン悪化の緩和」というふたつの役割・働きがあると解説。前者は空港などの集客や収益をより上げるために、民間の事業者が運営を担うというもの。後者は上下水道などの長期的な維持管理やライフサイクルコストの削減などのために行うものだ。

欧米でも、PPP(Public Private Partnerships)の代表的手法のひとつとして、コンセッションが空港や有料道路、港湾や上下水道などのインフラ部門を中心に導入されている。足立氏は、イギリス、フランス、アメリカ、そしてイタリアの上下水道事業におけるコンセッションの採用事例を紹介。各国では、コンセッションを導入しても、水道料金が値上げされていることから、日本でも、運営主体に関係なく、今後の値上げは不可避ではないかと予測していた。

仙台空港と愛知県道路公社の有料道路における「トップラインの伸長」の例

上/仙台国際空港株式会社取締役航空営業部長の岡崎克彦氏<br>
下/愛知県建設局道路建設課有料道路室室長の河合誠氏上/仙台国際空港株式会社取締役航空営業部長の岡崎克彦氏
下/愛知県建設局道路建設課有料道路室室長の河合誠氏

続いて紹介されたのは、仙台空港の民営化と愛知県道路公社の有料道路コンセッション、みやぎ広域PPPプラットフォームの取り組みだ。仙台空港は2016年に民営化され、それまでバラバラだった空港の旅客ビルや駐車場の運営、貨物の取り扱い、空港の利用促進、着陸料の設定などが、東急グループが中心となった仙台国際空港株式会社に一本化された。その結果、旅客数は2019年度には約371万人を記録。民営化前に比べて約60万人増えた。民営化以降に就航した国内線、国際線はともに6路線を数える。

順調に民営化の効果を上げてきたが、2020年度はコロナ禍で状況が一変。大幅な赤字となった。「それでも国内線の営業活動などは継続中で、新規に2路線が就航しました」と話す仙台国際空港株式会社取締役航空営業部長の岡崎克彦氏。観光促進や空港運用時間の延長、航空貨物の誘致などにも、引き続き取り組んでいると報告した。

愛知県道路公社の有料道路のコンセッションは、2015年7月に「構造改革特別区域法の一部を改正する法律」が成立したことから実現したもので、日本初の取り組みだそうだ。愛知県建設局道路建設課有料道路室室長の河合誠氏によると、コンセッションの対象となった有料道路は知多半島道路、南知多道路、猿投グリーンロードなど8路線、約72.5㎞。2019年度の通行台数、通行料収入は、コンセッション事業が開始された2016年度に比べると、それぞれ6.6%、1.3%伸びている。

有料道路のコンセッション事業は、利用者・地域、道路管理者、民間事業者の「三方よし」を目指すものだと説明した河合氏。事業のポイントとして、「しっかりとしたモニタリング態勢を構築すること」「十分な事業期間を設定すること」「リスクを官民で適切に分担すること」などをあげている。その上で河合氏は、2016年10月の事業開始から4年が経過し、民間ならではの工夫や効率化などによる効果が現われつつあると評価。今後も「三方よし」のために取り組みを進めたいとしている。

官民連携の橋渡し役として機能するプラットフォーム

七十七銀行が事務局を務める「みやぎ広域PPPプラットフォーム」、通称「MAPP(マップ)」は、地域や社会の課題解決に向けた官民連携の促進を図ることを目的に、2020年1月に設立された。

PPPなどに関する普及・啓発、情報発信、官民の交流、人材の育成、官民連携事業の形成などの働きをすることになっていたが、コロナ禍で活動は大幅な軌道修正を余儀なくされた。説明にあたった七十七銀行地域開発部長の茂田井健太郎氏は、将来的には、雇用創出・働き方改革、空き家対策、廃校などの公共施設の利活用、観光振興など、さまざまな課題の解決に機能させたいとしている。

みやぎ広域PPPプラットフォーム説明資料から、「MAPPの取組みを通じた今後の将来イメージ」みやぎ広域PPPプラットフォーム説明資料から、「MAPPの取組みを通じた今後の将来イメージ」

現在進行中の事例に見るコンセッションの可能性と課題

セミナーの最後は、2022年4月の事業開始を目指している「宮城県上工下水一体官民連携運営事業(みやぎ型管理運営方式)」の説明だった。宮城県が運営する水道用水供給事業、工業用水道事業、流域下水道事業は、人口減少、節水型社会の進展、管路などの更新の必要から利用料金の上昇は避けられない状況となっている。厳しい経営環境を踏まえて、県では2015年頃から対応を検討した結果、官民が連携するみやぎ型管理運営方式の導入が決まった。

みやぎ型管理運営方式は、県が行っている上下水道、工業用水の事業のうち、9事業についてまとめて民間事業者と契約するもので、契約期間は20年間。また、薬品や資材の調達、設備の更新工事なども、県から民間事業者に担当が移ることから、大幅なコスト削減を見込むことができる。約247億円が削減目標となっている。現在、応募した3企業グループの審査が行われていて、2021年3月に優先交渉権者が選定される予定だ。

セミナーでは、宮城県企業局技監兼次長の岩崎宏和氏が、「飲料水の安全・安心は確保されるのか?」「海外では再公営化が主流と聞いたが?」といった県民の不安にも答えていた。
みやぎ型管理運営方式では、事業者が実施する水質検査には、現行と同等以上の試験項目、方法、頻度を求めることになっていて、要求水準は満たさなかった場合の罰則や、県の抜き打ち検査も規定されているそうだ。また、海外での再公営化については、フランスを例にとると、2010年から2015年の間に再公営化した水道事業は68件あるが、コンセッション等に移行した事業も同数の68件あり、一方的に再公営化されているわけではないというのが回答だった。

県民の不安にあったように、海外では、コンセッション事業から公営事業に戻った水道事業もあり、当たり前のことだが、コンセッションを採用すれば、すべてが解決するわけではない。まず求められるのは、地域の将来やインフラのあり方を冷静にとらえ、グランドデザインを描くことではないか。そんなことを考えさせられたセミナーだった。

みやぎ型管理運営方式説明資料から、「事業費削減目標について」みやぎ型管理運営方式説明資料から、「事業費削減目標について」

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