天神祭で陸と水が出会う場所
大阪の夏の風物詩「天神祭」。大阪天満宮を出発した催太鼓と神輿が町を練り歩く「陸渡御(りくとぎょ)」と、神楽を乗せた奉安船が大川を行き来する「船渡御(ふなとぎょ)」。まさに、大阪が“水の都”と呼ばれてきた象徴ともいえる「陸渡御」が行われる乗船場の中継地点に、「テラスかんなん(菅南福祉会館)」はある。
2020年3月に竣工した「テラスかんなん」は、1000年以上続くこの天神祭の運営を担う、菅南地域の集会所だ。
「対岸からも見えやすい場所であり、地域のシンボルになりうる立地。陸と水の交通が交わる場所で、天神祭との歴史的な繋がりがあります。この土地にある複数の重なる意味を、最大限に活かした建物にしたかった」建築の設計を担当した、スタジオ宙一級建築士事務所代表・郡 裕美(こおりゆみ)氏は話す。
内から外に上から下に、自由に交流できる仕掛け
プロポーザルコンペ方式で、スタジオ宙一級建築士事務所が設計者として選ばれ、設計開始から完成予定日まで約1年というタイトなスケジュールだったが、菅南地域との打合せは、繰り返し開催した。天神祭の事務局、神輿の保管や展示、イベント利用、ふれあい喫茶など、地域へのヒアリングで浮き彫りになった「テラスかんなん」の建築に寄せられる多数の要望。
応えるためにはにはどんな空間が必要か?を追求した結果、天満宮の門に着想を得て。2つの世界を結ぶ門をデザインテーマに、集まり方を自由自在に変容できるような仕掛けが、各所に設えられた。
「門」のような町側の外観。玄関の扉を開けると、悠々と流れる大川と天神橋、対岸の中之島のビル街が目の前に広がる。そのままバルコニーに出ると、目下には、南天満公園の緑。実はここは2階で、階段を降りると、そのまま南天満公園に繰り出すことができる。1階にある集会室はスライド式の仕切りで自由度を高く。公園にそのまま出られる立地を生かして、調理したものをテイクアウトできるよう、1階のキッチンは公園側の土間の窓際に設えた。
「建物のどこからでも水辺の景色が見えるように、そして、1階・2階にある集会室、バルコニーや屋上テラスなど、どこにいても交流ができるように心がけました」と郡氏。人の視線と動線に配慮した、人と地域と歴史を繋ぐ交流の場が完成した。
地域の拠点として積極的に活用
新しく建てられた「テラスかんなん」では、現在、地域同士のコミュニケーションが積極的に行われている。集まる人の雰囲気や交流の仕方も以前から変わったと明るく話すのは、菅南地域活動協議会会長の池田和夫氏だ。
天神祭の運営会議のみならず、詩吟教室やヨガ体操、子ども将棋など幅広い催しが、日常的に地域の人により行われ、月間予定表は常にぎっしり状態だ。建物の外観や広報看板を見て、通りすがりの方から問合せも多い。町内会の人優先だが、空いていれば町外の人でも時間単位のレンタルも可能となっている。
「地域の避難場所としての役割も担っています。災害時に備えて、キッチン周りのガスは、非常用としても使えるようにプロパンガスを設備。僕たちにとっては、守るべき天神祭の拠点でもあるし、大事な地域の拠点でもある。地域の人が活用する中で、今後どんな動きが生まれていくのか楽しみです」と池田氏は話す。
水辺を生かしたプロジェクトに期待
大川を挟む中之島エリアは、近年開発が進み、注目を集めているエリアでもある。大川の中央に浮かぶ中之島公園には、中之島公会堂や美術館などの文化施設があり、芝生広場は市民の憩いの場となっている。また対岸には、テラス席を用意したカフェが軒を連ね、休日になると若者たちが店の前に列をなす。
2003年頃から、行政・市民・NPOが連携して進められている、水辺の豊かな都市空間を生み出すプロジェクト「水都大阪」。船着場の再生、橋梁のライトアップなどの親水空間の整備や体験型アートプログラムやマルシェなどのにぎわいづくりが盛んに行われている。この水辺エリアに位置する「テラスかんなん」も、今後この動きと連携していくことも期待がかかる。
「『テラスかんなん』を地域の人に、最大限に使いこなしてほしい。水辺や公園を活用する自由なアイデアが育っていくことで、町が豊かに変わっていく。そんな場所になってくれたら嬉しいです」と郡氏。コミュニティの中心となる地域の集会所が、どう活用されて町に還元されていくのかを見守りたい。





