熊本地震後に決意。これまでにないトレーラーハウス造りをスタート
人口と同様に、これからは家を建てるニーズも減少する。空き家問題その他もあり、所有にこだわる人も減るだろう。一方でリノベーションや小屋ブームなどニーズの多様化もある。その中で大手とは一味違う商品を造るべきではないか。愛知県岡崎市にある株式会社BMCの青山徹氏は数年前から悶々としていた。
様々な検討のうちのひとつがトレーラーハウスだった。だが、住宅の性能にこだわる青山氏にとってトレーラーハウスは暑くて寒く、音も響く、戦後の住宅のようにただ雨風を凌げればいい程度の空間のように見えた。20年前ならそれでもよかっただろうが、これから造るのにこんな空間でよいのだろうか。
その躊躇を打ち消したのが2016年の熊本地震である。この時、トレーラーハウスは公的な福祉避難所として熊本県益城町に導入されており、青山氏は親子で被災地に出向き、そこで活躍するトレーラーハウスを見たのである。
「キャンプ用テントで生活する人たちがいる一方で整然と並んだトレーラーハウスでいつもとそれほど変わらない暮らしを送る人もいて、そこには大きなギャップがありました。また、ちょうど仮設住宅の建築中でもあり、その三者三様の状態から災害時にも変わらぬ生活ができる居住性能の高いトレーラーハウスのニーズはあるはずだと思いました」。
建設会社が車検を取るという難事業
そこで「高気密、高断熱の住宅を造る」を前提に現在ショールームにしているものと、オフィスにしているもの、2台のトレーラーハウスを造り始めた。もちろん、簡単にできたわけではない。運搬時に震度5相当の揺れが生じるため、それに耐えうる構造の検討などに日時を要した。
面白いのは住宅の場合、火災の懸念があるため、内外装に制限がある。分かりやすく言えばキッチンの周りに燃えやすい材を配してはいけないなどである。だが、車の場合にはそれがない。車の中では料理しないからだろう。特にトレーラーハウスにはエンジンもなく、燃える要素がないといえば確かにその通り。だが、実際にはトレーラーハウスの中にもキッチンはある。一般にはガスを利用している例が多いが、青山氏は火災の起こりにくさを配慮し、IHを導入している。
一方で車の場合には窓が出っ張っていてはいけないそうで、それは走行中に何かに引っかかる危険を考えてのこと。住宅であれば出窓など何の問題もないが、車となるとダメ。住宅も車も国土交通省の管轄だが、建設会社が車を造る、車検を取るなど前代未聞。そのため、当初3~4ヶ月はもっぱら運輸局を相手に造るものに求められる要件をリサーチ、やりとりを重ねた。
「重心、荷重のバランス、車高、空気抵抗その他、初めてのことばかりでとにかく分からない。ひとつずつ、相談して問題を解決しながら造っていきました」。
完成品を見ると窓部分は面一(つらいち。2つの面の間に段差が無くフラットな状態)になっている。使う人にとっては同じ生活空間でも、住宅か車かで扱いは大きく違うわけである。
室内だけ見れば在来工法の普通の住宅
悪戦苦闘の結果、最初に造った1台を見せていただいた。幅3.5m×長さ12m、大型牽引車が必要な、でもトレーラーハウスとしては最大サイズのもので、在来工法で造られている。住宅として考えると1LDKだ。玄関を入るとそこは正面にキッチンのあるDKで約6畳。驚くことにキッチンは簡易的なキャンプ仕様などではなく、ごく普通の住宅用のもの。床材も水回りにはタイル、リビングにはヘリンボーン張りの無垢材。壁はクロス貼りとし、移動などで動いたときに剥がれる可能性を考えて天井は杉板張りにしてあるのだという。
階段を上がったところはリビングになっており、こちらは約8畳。大きな開口部がとられていることもあって、4人が寛いでもゆったりした広さである。リビングの下はすべて収納になっており、キャンプ用品その他大きな品も十分しまえる。
キッチンに隣接してバスルーム、トイレがあり、廊下を挟んで洗濯機置き場、アウトドアグッズなど大物を洗うのに便利そうな大型シンク。いずれも普通の住宅仕様。さらにその奥は約4.5畳のベッドルームで2台のベッドが置かれ、壁際には作り付けのカウンターも。ベッドの足元上部を利用した収納のような工夫もあり、住宅を造ってきた人たちの手によるものであることがよく分かる。
「愛知で造っていますが、東北、北海道でも高スペックで快適に過ごせるように設計。住宅よりも転売しやすい商品になることを狙っています」。
価格は1,250万円(消費税別。以下同)。もう1台のオフィスに使われている幅2.9m×長さ10mの、ミニキッチン、トイレ付きは550万円。オフィススペースは約21m2で壁際に3台のデスク、打ち合わせスペースが作られており、数人のオフィスとして使うなら十分だろう。完成品でいくらかが分かるようにと上限、下限で1台ずつ造ったそうである。
住宅、店舗、オフィスなど使い方は多様
販売を開始したのは2016年12月から。「初年度には想像を超える120件以上の問合せがあり、毎週末見学者があったほど。見学に来た方が想定されている用途の多様さに造った側が驚かされました」。
ある老夫婦は大きな家を壊してここに住みたいと見学に訪れ、アパート住まいをしている若夫婦は親の土地にこれを置いたら家を建てなくて済むと考えた。別荘、カフェ、サロンなどのほか、多店舗展開をしている飲食店チェーンが店舗として使えないかと検討したことも。土地代だけで出店でき、退店時は移動させるだけで済む。移動した後、他の場所でも続けて営業できると考えればチェーン店にとってのメリットは大きい。だが、これについてはトレーラーハウスでは不動産登記ができないことから融資の条件が難となり、実現しなかったとか。だが、今後は十分あり得る話だろう。
実際に売れたのは2018年9月現在で4台。2台がオフィス、1台が別荘、残る1台がレストランとして使われているという。
「多くの方に響いたのは快適、コンパクトでお手頃という点に加え、建築物に該当しない限りにおいては固定資産税がかからないという点。岡崎市辺りなら年額数万円程度で、それほどの負担ではないはずですが、それでも払わなくて済むのはメリット。コンパクト、手頃でも小屋は土地に固定するので建築物となり、税金が必要。弊社のトレーラーハウスは素人が工具を使わずに移動できるようコンセントやパイプを差すだけでよく、1日で設置できます」。
これまで利用できなかった土地に居住空間を生み出す可能性も
税金以外で来訪者が気にしたのは耐震性能だった。「搬送時に備え揺れ対策は考えてありますし、住宅と違い基礎で固定していないので、ある種免震状態。一定期間ある場所に置くためにはタイヤを付けたまま、ジャッキで宙に浮かせますが、揺れても横倒しにさえならなければ車同様と考えていただければいいと思います」。
住宅、オフィスとして使える2台に続き、2018年春に造ったのが普通車で牽引できるキッチンカー「Mobile base」と部屋として使える「Mobile abode」。前者は通常のキッチンカーと違い、内部のカウンターを使ってイートインができるのが特徴。9m2ほどのコンパクトな空間ながら6人が着席できる。エアコン、テイクアウト用のカウンターも設置されており、屋根とテラスを出して店を広げることもできる。牽引免許を取る必要はあるが、一味違う小さな店を出したい人には面白いのではないだろうか。価格は345万円~。
後者は固定しても、移動しても使える6m2の部屋でありながら、内部のソファを移動することなどで家族4人が宿泊できるようにつくられている。設備はミニキッチンのみとシンプル。「日本でなら走っていればあちこちにトイレがありますし、小型のトレーラーハウスだと水量の少ないシャワー程度しかないのが大半。であれば、思い切って必要な設備だけに絞ったのがこのタイプです」。価格は545万円~。
建物が建築、増築できない場所でも建築物に該当しないトレーラーハウスなら、そこに空間をつくり出すことができる。うまく活用すれば使えなかった土地が使えるようになったり、客間、子ども部屋はもちろん、介護のための部屋という手もあろう。青山氏は見学に訪れた人たちの自由な発想に驚かされたというが、使い方はまだまだ考えられそうである。
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