下水道の持続的な発展を掲げる「新下水道ビジョン加速戦略」

下水道は、雨水や汚水の処理して衛生環境を保つなど、人間が文化的な生活をおくるうえで必要不可欠なインフラだ。そのため国は、以前から下水道の整備に注力してきた。2017年8月に策定された「新下水道ビジョン加速戦略」もその一つだ。
元々、2005年に策定された「下水道ビジョン2100」では、下水道の長期の将来像を見据え、持続的な施設機能を継続していくための「施設再生の実現」が掲げられていた。その後、東日本大震災の発生や大規模災害の発生リスクの高まりなどを受け、2014年に「新下水道ビジョン」が策定された。

そして「新下水道ビジョン」策定から3年が経過し、下水道の維持に向けた課題は深刻度を増している。
中でも「老朽化施設の増大」は特に大きな課題の一つだ。現在、国内には、建設後50年以上経った下水道が2015年度末で約1.3万km(総延長)と、2012年度末から約3割増えており、20年後には約10倍(約13万km)になる見込みだ。また、こうした設備を維持していく「地方公共団体の下水道担当職員の減少」という課題もある。2016年度末の下水道担当職員数は約2万8,300人と、ピークの1997年度の3分の2まで減少しており、団塊世代の職員の大量退職による管理体制の脆弱化も懸念されている。
さらに、近年のゲリラ豪雨などの局地的な雨によって、都市機能に影響を与える被害が発生していることや、南海トラフや首都直下型地震等の巨大地震等に対する耐震化などの対応も求められている。
こうした状況の中、いかに下水道の効果的で効率的な整備、運営を可能とするか、その道筋を示しているのが「新下水道ビジョン加速戦略」である。

参照:国土交通省 『新下水道ビジョン加速戦略』これまでの経緯と加速戦略の位置づけ参照:国土交通省 『新下水道ビジョン加速戦略』これまでの経緯と加速戦略の位置づけ

5年程度で実施すべき8つの重点項目

「新下水道ビジョン加速戦略」では、5年程度で実施すべき施策として以下の8つの重点項目を設定している。
<新たに推進すべき項目>
1)官民連携の推進
中小地方公共団体を中心に厳しい経営環境という実情を、民間企業との包括的民間委託を推進することで、業務の効率化をはかる。
2)下水道の活用による付加価値向上
下水道のストックや処理水・汚泥等の資源を効果的に活用することで、従来からの下水道の第一義的な目的以外の効果についても最大限発現していく。

<取り組みを加速すべき項目>
3)汚水処理システムの最適化
下水道、集落排水、浄化槽の役割分担を定め最適な汚水処理手法を明確化した上で、スケールメリットを活かした効率的な事業運営に向けて、最適な施設規模や執行体制を構築していく。
4)マネジメントサイクルの確立
維持管理情報を効率的、効果的に計画・設計、修繕・改築に活かすため、“維持管理を起点とした”マネジメントサイクルの確立を推進
5)水インフラの輸出促進
日本下水道事業団の国際業務の拡充検討する。
(例:民間企業等と連携した海外下水道事業に係る実現可能性調査の受託等)
6)防災・減災の推進
「ストックの最大活用」や「逃げ遅れゼロ」のためリアルタイムの観測情報を効率的に収集・活用する。
7)ニーズに適合した下水道産業の育成
民間企業の下水道事業における運営ノウハウの蓄積。
8)国民への発信
下水道を自分ゴトと捉え理解してもらい、下水道事業へ協力してもらえるよう段階的に働きかけていく必要性。そのための住民の関心レベルに応じた段階的な広報を実施。

参照:国土交通省 『新下水道ビジョン加速戦略』8つの重点項目と施策例<BR />
◎ :直ちに着手する新規施策、○ :逐次着手する新規施策、◇ :強化・推進すべき継続施策参照:国土交通省 『新下水道ビジョン加速戦略』8つの重点項目と施策例
◎ :直ちに着手する新規施策、○ :逐次着手する新規施策、◇ :強化・推進すべき継続施策

下水道のストックや資源を活用した付加価値の創出

多くの施策が検討されている「新下水道ビジョン加速戦略」の中でも、私たちの生活への影響が大きい取り組みの一つが「下水道の活用による付加価値の向上」だ。下水道は管きょ、処理場等のストックや処理水・汚泥等の資源を有しており、これらを効果的に活用することで、生活者の利便性や地域経済に貢献するとしている。
具体的には、まず「下水汚泥の燃料化・肥料化」が挙げられる。下水処理から発生する下水汚泥は、燃料・肥料としてポテンシャルを有しているものの、バイオガスや汚泥燃料としてなど、エネルギー化率は16%(平成27年度末)に留まっている。また、肥料などに利用されるリンは、全量を輸入に依存している戦略物資であり、輸入量(約40万t/年)の1割強が下水処理場に流入している。しかし、実際に有効活用されているリンはそのうちの1割程度だという。
また、下水道施設の空間の活用法として「下水道への紙オムツの受入れ」の可能性も検討されている。これは、オムツを、家庭内で溶解・粉砕するディスポーザーの開発などによって、水と一緒に下水道に流せるようにするというもので、高齢化社会の進行に伴う介護等の負担や子育て世帯の負担の軽減を目指している。

参照:国土交通省 新下水道ビジョン加速戦略検討会(平成29年度)『住民生活の利便性等の付加価値向上』参照:国土交通省 新下水道ビジョン加速戦略検討会(平成29年度)『住民生活の利便性等の付加価値向上』

ゲリラ豪雨などによる浸水に対応する防災・減災の推進

生活への関わりが大きい取り組みには「防災・減災の推進」もある。
近年、局地的な大雨、いわゆるゲリラ豪雨等が頻発しており、雨水の地下街や地下室への浸入、浸水による幹線道路の交通の支障、床上浸水による個人財産の被災などの被害が発生している。
新下水道ビジョン加速戦略では、こうした浸水対策として「雨水管理総合計画の策定促進」を掲げている。これは、下水道による浸水対策を実施すべき区域や目標とする整備水準及び段階的対策計画(現在の全体計画に時間軸を考慮)を定めるもので、浸水リスク等に応じて地域(ブロック)ごとに目標を設定される。
この他にも、センサー等を活用した浸水状況の観測に加え、市街地に設置されたカメラの映像情報やSNS情報等を活用し、面的な浸水情報の収集、分析によりさらなる雨水管理の効率化、自助共助の支援強化など、「逃げ遅れゼロ」に向けた取り組みが強化されている。

このように下水道の有効活用によって私たちの暮らしは、より便利になりそうだ。また、日本の先端技術を活用したインフラを海外へ輸出すれば、経済の活性化にもつながる。
今後はこれらの戦略をウォッチしてみたい。

参照:国土交通省 新下水道ビジョン加速戦略検討会(平成29年度)『防災・減災の推進』参照:国土交通省 新下水道ビジョン加速戦略検討会(平成29年度)『防災・減災の推進』

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