「建築学生ワークショップ 2017」。
今年の舞台は、世界遺産 比叡山延暦寺

建築や芸術、デザインや環境分野にある取り組みを通じて、これからの活躍が期待される次世代に焦点を充てた活動である「建築学生ワークショップ」。
これまでも奈良・平城旧跡や高野山など、数々の日本の文と歴史の聖地で行われ、その地で実際に学生が建築物をつくる、という貴重な機会が与えられるワークショップである。(※LIFULL HOME'S PRESSでも2015年の高野山2016年の明日香村を取材した)

開催の目的は、
1.学生のための発表の場をつくる
2.教育・研究活動の新たなモデルケースをつくる
3.地球環境に対する若い世代の意識を育む
4.地域との継続的な交流をはかる
というもの。
今年はユネスコの世界遺産に登録された比叡山延暦寺の境内・根本中堂周辺で、学生が合宿を行い、小さな建築を8体をつくった。

開催のプロセスとしては、今春に全国から公募にて建築や芸術、環境デザインを学ぶ国内外の参加学生ら約50名を募ったところから始まった。6月には現地のリサーチを重ね、中間発表を経て、実際の建築物を学生たちは8月22日から延暦寺に滞在する合宿形式でつくりあげた。

2017年8月27日に比叡山延暦寺延暦寺会館にて行われた公開プレゼンテーションと表彰の様子を取材してきた。

写真上:比叡山延暦寺会館で行われた公開プレゼンテーションと講評の様子</br>写真下:学生のプレゼンテーションに多くの聴講者も訪れた</br>(写真:​© Satoshi Shigeta)写真上:比叡山延暦寺会館で行われた公開プレゼンテーションと講評の様子
写真下:学生のプレゼンテーションに多くの聴講者も訪れた
(写真:​© Satoshi Shigeta)

8班のそれぞれのプレゼンテーションと講評①
1班から4班まで

公開プレゼンテーションは、学生たちが制作した建築物(フォリー)を現地で視察。その後、延暦寺会館にてコンセプトと建築構造などの学生たちによる班ごとの5分のプレゼンテーションに15分ほどの講評者による質疑を含めた感想が語られた。講評者は、20名余の建築・美術両分野を代表する評論家、第一線で活躍する建築家や建築構造研究などの研究者、大学で建築学の教鞭を執られている教授などによって構成されている。
それぞれの学生班のプレゼンテーションのポイントと講評を簡単にまとめてみたい。

1班:「残したい場 」
プレゼンポイント:大講堂脇の見せたい景色のための建築物をつくった。
講評(※以下、すべて講評はコメントの一部):形とロケーションの関係性が見えづらい。何故、螺旋状をとったのか?
見せたい景色があるときに人間の座高の差はどう考えたのか?視点を得るためのアプローチに疑問が残る。

2班:「終わらない場所 」
プレゼンポイント:比叡山延暦寺の過去と未来。終わらない聖地を表現した。
講評:コンセプトに対しての地面との関係性が弱い。もっと拡がりを考えてほしかった。
竹を材料としているが、もっと特性を活かせたのではないかと思う。

3班:「 諸行無常の支えあり 」
プレゼンポイント:人々が支え合う、比叡山も昔からそういう場であったことを表現。
講評:座って感じるという行動を誘導しているが、ピッチが身体にやさしくない気がした。
合板のかみ合わせ、精度はよかった。メッセージと表現に乖離があったのでは?

4班:「繋(つなぐ) 」
プレゼンポイント:時の流れを感じてほしい、戒壇院前につくるアプローチ的な役割。
講評:ゲート的な役割としてはうまく空間が作られていると思った。
3点のバランスが心配。形状はもう少し立体的で安全な方法もあったのではないか。

(写真左上)1班:「残したい場」 (写真右上)2班:「終わらない場所 」</br>(写真左下)3班:「行無常の支えあり」 (写真右下)4班:「繋」</br>(写真:​© Satoshi Shigeta)(写真左上)1班:「残したい場」 (写真右上)2班:「終わらない場所 」
(写真左下)3班:「行無常の支えあり」 (写真右下)4班:「繋」
(写真:​© Satoshi Shigeta)

8班のそれぞれのプレゼンテーションと講評②
5班から8班まで

5班:「円と縁 」
プレゼンポイント:鐘の音を聴くということに意識を向けて、音の儚さを表現した。
講評:音の振動などを感じる形になっているのか?包む必要はなかったのでは?
音を可視化するための装置だとすると、花びら形はどう関係しているのか。

6班:「気づくべきもの 」
プレゼンポイント:あたり前にあるものの存在に気付く、そこに幸せがあるという表現。
講評:竹の細い材が良いと思ったが、比叡山という場所でつくるときに材を何でつくるかに意識を向けることはなかったのか?
現場で作り上げる際にその場で考えていくことも必要。現地を活かす組み方があったと思う。

7班:「 永劫回帰 」
プレゼンポイント:経験が一回限り繰り返されるという世界観ではなく、超人的な意思によってある瞬間を永劫的に繰り返すことを表現。
講評:絶妙なバランスで出来上がっているところが、コンセプトと合ってよいと思った。
予算もあったと思うが、フレームのクオリティに疑問。ディテールの細部に気を使うことが必要だと感じる。

8班:「移ろいの中で見えるもの」
プレゼンポイント:移ろう景色の中で、心の虫眼鏡を糸という素材で表現した。
講評:軸が多少ぐらついている状態であったが、中間発表であったドーム型から全く違ったアイディアでコンセプトを表現したのは良かった。
糸が効果的に使われている。コンセプトの表現としては良いと思った。

(写真左上)5班:「円と縁」 (写真右上)6班:「気づくべきもの 」</br>(写真左下)7班:「永劫回帰」 (写真右下)8班:「 移ろいの中で見えるもの」</br>(写真:​© Satoshi Shigeta)(写真左上)5班:「円と縁」 (写真右上)6班:「気づくべきもの 」
(写真左下)7班:「永劫回帰」 (写真右下)8班:「 移ろいの中で見えるもの」
(写真:​© Satoshi Shigeta)

最優秀賞は「移ろいの中で見えるもの」。
次の舞台は、伊勢神宮の周辺区域

最優秀賞を受賞した8班「移ろいの中で見えるもの」のメンバー(写真:​© Satoshi Shigeta)最優秀賞を受賞した8班「移ろいの中で見えるもの」のメンバー(写真:​© Satoshi Shigeta)

講評は、その場所や建築物の構造、安全性、素材の意味や選び方など、コンセプトを表現するために如何に細部にまで意識をめぐらせていたのかと多肢にわたる。プロたちの厳しくも暖かいコメントが学生に向けられた。

さて、審査の結果であるが、最優秀賞は糸をコンセプトの表現として効果的に使った8班の「移ろいの中で見えるもの」が受賞。優秀賞は4班の「繋(つなぐ)」、特別賞は「永劫回帰」が選ばれた。

学生たちにとって、制作時間や予算、そして素材や規定に格闘しながら実際に建築物を創り上げるといった経験は貴重である。また、第一線で活躍する建築家や研究者、教授による評価・講評を得られる機会は勉強になるだろう。
そして、何よりも日本の文化的な歴史ある聖地で、そのコンセプトと表現を考え抜くという経験が参加した学生たちの今後に大きな経験として生きていくのであろうと感じた。

来年は、三重県の伊勢市…伊勢神宮周辺の区域で、また建築学生たちの研鑽と挑戦の形が見られる予定だ。

取材協力:
建築学生ワークショップ比叡山 2017:http://ws.aaf.ac/

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