福岡市の旧大名小学校を活用し、防災ワークショップが開催された

会場となった旧大名小学校。開校は1873年(明治6年)と福岡市内でも最も古い歴史を持つ小学校の一つだったが、2014年3月、児童数減少を背景に開校141年をもって閉校した会場となった旧大名小学校。開校は1873年(明治6年)と福岡市内でも最も古い歴史を持つ小学校の一つだったが、2014年3月、児童数減少を背景に開校141年をもって閉校した

2016年4月に発生した熊本地震の発生後、福岡市の高島宗一郎市長を中心に立ち上がった「WITH THE KYUSHU プロジェクト」。大西熊本市長と密に連絡を取り合い、水やトイレットペーパー、毛布など、現場が本当に必要としている物資を的確に把握して福岡県に集約し、届けるという被災した自治体に負担をかけない支援を推進した。
この際の支援物資を集約する場所となったのが、福岡市の天神地区西側に位置する旧大名小学校跡地だ。この旧大名小学校の活用については、規制緩和によって民間投資を促そうとする「天神ビッグバン」の1つのプロジェクトとして位置付けられている。
さらに福岡市は、2016年7月、災害時の復興支援に関するノウハウを蓄積されている日本財団と連携し、様々なモノ(物)がインターネットに接続し、制御できるようにするIoT(Internet of Things)といったテクノロジーを最大限に活用し、防災の先進都市を目指している。

2016年11月11日と12日の二日間、この旧大名小学校の体育館で「"災害や有事に強い街"のアイデアを形にする宿泊型ブートキャンプ」が開催された。当日は、ITベンチャー企業のスタートアップ支援を行うMistletoe(ミスルトウ)株式会社代表取締役社長兼CEOの孫泰蔵氏から、今後の防災のあり方を変える世界の最新テクノロジーの紹介がされた。また、福岡市防災危機管理課小野哲司氏から熊本地震に対する福岡市の支援方法が、元消防士として復興政策を専門おこなってきた熊本大学安部美和氏から、熊本地震の避難所運営の経験から学ぶ「自助の考え方」など、防災に関する情報のレクチャーが行われた。

孫泰蔵氏が考えるこれからの防災の考え方「レジリエンス」

Mistletoe株式会社の代表取締役社長兼CEO 孫泰蔵氏。東京大学在学中にYahoo! JAPANの立ち上げに参画。その後、ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社創業やスタートアップベンチャー育成のシードアクセラレーターMOVIDA JAPANを設立するなど連続起業家として活躍。2013年、広範囲なスタートアップ支援を手掛けるMistletoe株式会社を設立、現在に至るMistletoe株式会社の代表取締役社長兼CEO 孫泰蔵氏。東京大学在学中にYahoo! JAPANの立ち上げに参画。その後、ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社創業やスタートアップベンチャー育成のシードアクセラレーターMOVIDA JAPANを設立するなど連続起業家として活躍。2013年、広範囲なスタートアップ支援を手掛けるMistletoe株式会社を設立、現在に至る

「近年多くのスタートアップが集まり、国家戦略特区にもなっている福岡市を日本で一番先駆的な災害の復興支援や防災に関するテクノロジー、ソリューションが集約される地域にしたい」と語る孫泰蔵氏。孫氏は2016年8月24日、福岡市に防災のための最先端テクノロジーを研究する「防災テックラボ(仮称)」の設立を宣言した。
過去日本で起こった災害について孫氏は、
「阪神淡路大震災、新潟中越地震、東日本大震災、熊本地震…、数年ごとに大きな災害に見舞われ、その都度経験を活かそうとするものの、毎回異なる課題が生じるため対応しきれない部分があると思います」と語る。

孫氏によると、過去20年に起こった大きな自然災害の特徴を振り返ると、以下のようにまとめられるという。
■阪神淡路大震災(1995年)
大都市直下型・ビルや高速道路の倒壊・住宅密集地での火災
■新潟中越地震(2004年)
降雪地での地震・長期的に頻発した余震
■東日本大震災(2011年)
地震の後の大津波・非常に広範囲での震災被害
■熊本地震(2016年)
土砂崩れ・車中泊の避難者多数

つまり、日本が抱える防災の課題として孫氏は、
[1]これらの災害に対して、行政が全てをまかなうことの限界
[2]災害対策を予めマニュアル化することの限界
[3]年々発達するIT技術の活用方法
の3点を挙げる。

発表の中では、遠隔地に物資を届けるために人工知能が搭載されたドローンや、使用するパーツを最小限に抑えた水に浮く電気自動車など、世界中で開発されている防災に関連する様々な製品が紹介された。
「東日本大震災が起こった2011年、たった5年前の事なのに、当時スマーフォンの普及率は約2割。キャリアメールが繋がりにくい状況になり、公衆電話に長蛇の列ができるという事態になりました。それくらいIT技術の進歩は目まぐるしく、この先10年は、よりそのスピードがより早まると思います。先端技術をどんどん活用して、市民や民間企業が日頃から積極的に防災に関与し、平時からそうした仕組みやツールに慣れ親しむしなやかさ、"レジリエンス力"、つまり、臨機応変な対応力が求められています」。

いつでもどこでも現れる公共空間"Popup Commons"というアイデア

こうした課題に対し、孫氏から一つのアイデアが発表された。その名も、「Popup Commons いつでもすぐに現れる公共空間」だ。
世界共通の規格である「コンテナ」を使って、非常時のための備蓄拠点、支援活動拠点として、日常生活に存在するあらゆる施設を機能別に収める、というものだ。インターネットブラウザを利用する際に、最前面にメッセージなどが登場する"ポップアップ"のように、必要な機能を必要な時に必要な分だけ配置される、という点がポイントだ。共通規格であるために、大量のコンテナを一度に運ぶことも可能で、近隣の被災地にすぐ行くことはもちろん、世界中どこへでも運送が可能だ。
具体的な例を挙げると、医療施設の機能を持った「ポップアップ病院」、行政手続きができる「ポップアップ市役所」、その他にもスーパーや八百屋といった小売店に、美術館やイベント会場などのレジャー施設。さらに、有事の際に法律の制定が急務となった場合に出現する「ポップアップ国会」…など、考えればキリがないほど、自由度の高い内容だ。
また、これら一つひとつの施設には人工知能が備わっており、気温を予測して予め需要が見込まれる商品を自動的に仕入れるなどの利便性の向上はもちろん、IoTによってインターネットに接続されているため、常に在庫確認ができるために無駄の発生を抑えることにもつながる。
「ベンチャー企業を支援していてわかったことは、イノベーション(発明)による"価値の逆転"は、全うに考えても生み出しにくいということです。これまでマイナスだったものをゼロではなく、プラスに変える程の変化を起こすには、斜め上からのアプローチが必要なんです。"防災訓練"をいかに楽しいイベントにできるか、それが今回の場なんです」と孫氏は語る。

「Popup Commons いつでもすぐに現れる公共空間」のイメージ図。HOME(家)やWATER(水)、HOSPITAL(病院)、MUSEUM(美術館)、EVENT(イベント)など、様々な機能を持ったコンテナが配置されることで都市機能が形成される「Popup Commons いつでもすぐに現れる公共空間」のイメージ図。HOME(家)やWATER(水)、HOSPITAL(病院)、MUSEUM(美術館)、EVENT(イベント)など、様々な機能を持ったコンテナが配置されることで都市機能が形成される

これからの防災アイデアを考える宿泊型ワークショップ

セミナー終了後に始まったワークショップでは、まず「これからの自助、共助、公助をどのように考えればよいのか」というテーマについて、グループ別にディスカッションが行われた。
町内会への参加といった地域コミュニティ形成の重要性や、災害時にSNSなどから取得する情報の正確性などを見極めるリテラシー力の鍛え方など、参加メンバーが過去の体験で感じた事例を交えつつ、現状の防災についての課題とその提案が議論された。
特に多かったのが意見が、行政サービスをはじめとする「公助」に頼りきるのではなく、自分の身は自分で守る必要性「自助」の精神が、今後より求められるようになるのでは?だった。特に、過疎化や住民の高齢化などを課題とする地域では、今後公的なサービスが至らなくなるのでは…という危機意識も意見として挙がった。

今回まとまった課題から導き出されたアイデアは、翌日さらにブラッシュアップされ、2016年11月23日に福岡市中央区にある福岡市スタートアップカフェで、平時と有事の場合にそれぞれどのような活用ができるのかを想定したアイデアがプレゼンされた。チーム別に発表されたアイデアは以下の通りだ。
[1] チームリラックス:
(平時)移動可能なアロマお風呂を提供するコンテナ
(有事)アロマお風呂を各地の避難所にデリバリーするコンテナ
[2] チームポータル:
(平時)VRによって遠隔でも実際に会っているかのように話せる、移動可能なオンライン悩み相談所
(有事)精神的に疲弊している被災者と、被災者の親しい友人や常日頃から悩みを相談している人等とオンラインで会話が出来るサービス
[3] チームウェア:
(平時)色を好きなように変えられるオシャレなデジタル腕章
(有事)避難所で各自の持つスキル等を表示するデジタル腕章
[4] チームハンモック:
(平時)お店を出したい人がクラウド上で必要な資材をすぐに集められる仕組み
(有事)どこに物資が余っていてどこに物資が足りないのかを可視化する仕組み

不特定多数の人が入り交じる避難所において、必要な情報やスキルといった、潜在的なニーズをマッチングするアイデアが多くを占める結果となった。

(写真上)11月11日に旧大名小学校体育館で開催された防災ワークショップの様子。3つのグループに分かれて、<BR />「これからの自助、共助、公助」について、グループごとに意見がまとめられた<BR />
(写真下)11月23日に福岡市スタートアップカフェ(中央区)で開催されたアイデア発表会の様子(写真上)11月11日に旧大名小学校体育館で開催された防災ワークショップの様子。3つのグループに分かれて、
「これからの自助、共助、公助」について、グループごとに意見がまとめられた
(写真下)11月23日に福岡市スタートアップカフェ(中央区)で開催されたアイデア発表会の様子

平時の防災訓練を、いかに楽しい身近なイベントにするか

今回の防災ワークショップは、暖房をつけず夜間の体育館に宿泊するという、避難所生活を想定した環境下で行われた。初対面同士で、これからの防災のあり方について考え、話し合うという体験は、有事の際に取るとっさの行動に差をうむかもしれない、貴重な機会だと感じた。

イベントの冒頭で、孫氏から防災に対するある思いが語られた。
「熊本地震の発生後、世界中の起業家や友人から支援に役立ちそうなIT機器やサービスの連絡がありました。しかし、これらはそもそも災害時を想定して作られたものではないため、電気を必要としたり、ハイテク過ぎで現地に運用できる人がいなかったかったりと持ち込むことができませんでした。この大事な機会に、市民としてやれること以外に自分が仕事上で最も得意とするITの世界にいながら何も役に立つことができなかったという悔しい思いがありました」。

孫氏が考えるこの先10年間のテクノロジーの進化は、これからの防災をどのように変えていくのだろうか。他国と比べ、特に災害が多い日本においては、こうした防災に対する高い意識は今後、よりその需要性を増すものであるように思う。
防災先進都市を目指す福岡。ここで誕生した防災のアイデアが、世界の防災におけるスタンダードになる可能性もあるかもしれない。