次世代が担う社会へひらいた日本の建築のために

今年からうめきたシップホールで開かれたU-35展今年からうめきたシップホールで開かれたU-35展

2020年に開催される東京五輪でメイン会場となる新国立競技場の建設問題が大きな話題となっている。

都市計画から設計競技の在り方まで多数の問題点が浮かび上がり、建築業界のみならず、全国民がこれからの日本建築の在り方ついて考えさせられる機会を与えられた2015年。例年通りアートアンドアーキテクト フェスタ(以下、AAF)による「Under35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会」(以下、U-35展)が開催された。

この展覧会は2010年より開催され、第6回目を迎える今回は、開催場所をこれまでの大阪・南港ATCから関西の玄関口・うめきたシップホールへと移し、次世代の建築家たちの斬新な発想力をより多くの人に見ていただける場を整えた。出展者を一般公募において選出することで、まだ知られていない才能をもった若手建築家に出会うきっかけをつくり、回を重ねるごとに次世代を代表する建築家を輩出するような若手建築家の登竜門ともいえる展覧会へと進化を遂げている。

出展候補者の審査は世界で広く活躍する建築家の藤本壮介氏が担当。過去最高となる応募作品の中から6名の出展者が選ばれた。うち4名が海外で建築を学んだのち、海外を拠点に精力的に活動を行ってきた経験を持つという。独自のスタイル、多角的な視点でグローバルに活動を行っている人が多いと感じた今回の展覧会。出展者それぞれのU-35出展にあたっての思いをインタビューしてきた。

若手建築家が発表できる貴重な機会を活かして

植村氏の作品。パラマリボ(スリナム)のアルツハイマーケアセンター植村氏の作品。パラマリボ(スリナム)のアルツハイマーケアセンター

第5回に引き続き選出された植村遥氏はイギリス、オランダでの活動を経て1年前に日本に活動拠点を移した。「長寿健康大国として海外から注目度の高い日本で、これから自分に何ができるのか考えるためにも、同世代の建築家と出会える展覧会への参加は、貴重な場所。今回のメンバーとも有意義なディスカッションをしたいと期待しています」。

最年少出展者となった25歳の岡田翔太郎氏。「一世代、二世代前の先輩方の時代には若手建築家が発表できるコンペや展覧会はほとんどなかったと聞きます。僕は大学卒業後すぐに独立したため、今回チャンスが欲しいという思いで応募しました。日本全国で地域が疲弊状態にある中、後世につながる地域に愛される建築に取り組んで行きたい」。

金田泰裕氏はパリを拠点に日本をはじめ、世界の各地で活動を行っている構造家。「日本の建築業界は枠組みがしっかりとしていて独特。日本にも事務所を構え活動しているなかで、意思表明ができる場を探していたんです。設計も展覧会も経験できないことが体験できる場というところでラップすると思うんです。今回は構造を言語化するということをテーマに、濃縮した状態での展示を考えました」。

今回、唯一実作品である7つのプロジェクトを展示した北村直也氏は、「35歳を迎え、ラストチャンスになるため応募しました。建築家はみな同じことを問題にしていますが、その解決方法は異なります。そこが楽しい。今回の出展作品のテーマは“ビッグスケール”です。建築の面白さは立体的で、いろんな角度から見られること。それを表現できる展示にしました」。

アムステルダムと東京を拠点に、建築だけでなく、アートやランドスケープ、リサーチまで枠組みを超えた活動を行っている佐藤研也氏。「今回のように、自由に発表できる展覧会はとても貴重な機会。自分の中の多様性を見いだしたいと応募しました。日本ではこういう場が増えていて、うれしいです。同世代の出展者の考え方を知り、たくさんの方に見ていただくことで、今後の活動に活かせるアイデアのきっかけを掴めればと思っています」。

留学先のスイスで5年間の活動を経て、3年前から日本へと拠点を移した高濱史子氏は最年長出展者。「人と人のつながりを大事に設計をしています。この展覧会では同世代との交流が楽しみ。場所、取り巻く人、環境、関わる立場を大切に、その中で生まれてくるものに興味があります。建築展示は実物を見てもらうのが難しいのですが、今回は自分の事務所を1/1スケールで体感してもらい、それぞれの棚に建築空間を取り込んだ展示を考えました」。

25歳から35歳まで、10歳もの年齢差、国内外それぞれに活動拠点の異なる出展者たち。展示手法や内容は6人それぞれに個性豊かなものだったが、今回の出展に際し共通していた思いは、「同世代と交流することで新しい発見に出合いたい」という所にあったようだ。

バラエティに富んだ出展作品に審査は難航

岡田氏による圧倒的な迫力の「でか山のまち構想計画」岡田氏による圧倒的な迫力の「でか山のまち構想計画」

展覧会初日の夜に開催されたシンポジウムでは、出展者への質問、作品に対するゲスト建築家それぞれの講評が繰り広げられた末、展示方法と作品を含めた人を審査するという基準で、最終審査が行われた。

先に審査結果から報告すると、今回のゴールドメダル受賞者は「該当者なし」。
出展作品の審査から携わった藤本氏は、「出展者の個性がバラバラに向いているなか、議論も多様に広がりました。肯定的な意味で、あえてゴールドメダル作品を1点に絞らず、受賞者なしという結果にしたいと思います」と総評した。

今回のシンポジウムで最も話題をさらったのは、最年少出展者・岡田氏の作品「地方都市に描く夢」だった。
地元・石川県七尾市に存在する巨大な山車“でか山”を七尾固有の建築として街に拡げていくという壮大な構想の作品だ。地域が愛する宝のようなものを建築に落とし込み、それを街に広げて行き、次世代に受け継がれる建築を残すことで、地域活性につなげたいという大きなビジョンを提示した岡田氏。ゴールドメダルの受賞には至らなかったものの、「もはや建築という概念を超えている。安藤忠雄氏の中之島プロジェクトのように、この作品は岡田氏が一生をかけて取り組んでいくのだろう」とゲスト建築家からは期待を込めたエールが送られた。

ゲスト建築家×若手建築家、双方に刺激的なシンポジウムに

シンポジウム第2部では一世代上のゲスト建築家たちから挑発的にも思える質問が繰り出され、出展者たちは一様に硬い表情に。言葉に詰まる場面も見受けられた。

しかし、「ときには厳しすぎるような意見、徹底的なダメ出しを受けることで、自分でも意外に思う言葉が出てきたり、次のフェーズに進むための大きなきっかけとなることがある。そういった経験をしてきたからこそ、あえて我々は挑発的とも思える質問を若手のみなさんに投げかけるべきなのだと思う。それぞれにかすかな根っこを穿り返して、ストラグルしている感じがとても面白かったし、私自身も刺激になった」と藤本氏。

ゲスト建築家は自分たちが通って来たU-35時代を思い返しつつ、これまで築き上げてきたものとまた違う考え方、背景を持つ次世代の若手出展者を叱咤激励。鋭く切り込んだ一世代上の建築家たちの言葉は、速いスピードで流れ行く時代の中で迷いを抱えつつも進んで行かざるを得ない若い世代の建築家たちに、一度深く考えるきっかけを与えたに違いない。

進行を務めた五十嵐太郎氏が、「すでに各方面で活躍している出展者たちだが、この場での体験は必ず今後に活きてくるはず。今回審査員を務められた藤本氏とゲスト建築家・平田氏は長年の盟友。このシンポジウムでも感じたことが、同じ時代を共有し、切磋琢磨してきたふたりのやり取りを聞いていると、その連帯感をうらやましく思うときがある。コンペや公募で選ばれ同じ場を共有するのは、偶然の出合いではあるが、苦労をともにしたメンバーを大切にしてほしい」と語っていたのが印象的だった。

これからの活躍が期待される若手建築家に発表の機会を与え、これからの建築の可能性を提示し、多くの人に向けた展示、発表を行うことを目的として開催されているU-35展。すでに第7回、2016年秋の開催に向け、出展者募集の概要が発表されている。

また新たに輝く建築家が、この展覧会から発掘されることを期待したい。

※応募詳細に関しては、以下を参照ください
第7回「Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会」募集要項

ゲスト建築家から出展者へ、鋭い質問が投げかけられたシンポジウム第2部ゲスト建築家から出展者へ、鋭い質問が投げかけられたシンポジウム第2部