社会環境の変化、人の暮らしの変化に伴い、都心部を中心に室内飼育が主流に
犬と人との暮らしが始まったのは1万年以上前、猫は5000年ほど前から人と暮らしはじめたといわれている。一般社団法人ペットフード協会が発表した「平成25年 全国犬猫飼育実態調査」によると、2014年のペット飼育頭数は猫が前年比2%増の約995万頭、犬は同5%減の1034万頭。猫は3年連続で増えており、犬は3年連続で減少していることがわかった。猫に関しては複数飼育する世帯が増えており、15年には猫の飼育頭数が犬を逆転するとみられている。
犬は外で、猫は家の中と外を自由に行き来しながら人と生活をするのが一般的だったが、いまでは社会環境の変化、人の暮らしの変化に伴い、都心部を中心に室内飼育が主流となりつつある。人と犬・猫との関係性、飼い方に変化が起こっているなか、生活の場となる住まいはどうあるべきなのだろう。
今回は、動物行動学や人間行動学を学び、人と動物が快適に暮らせる住まいについて研究しているファウナ・プラス・デザイン 一級建築士事務所の廣瀬慶二氏に、人と動物が快適に暮らせる住まいづくりについて話を伺ってみた。
日本ではまだまだ完全室内飼育のための必要な住まい環境が追いついていない
地域差はあれど猫の完全室内飼育、犬の室内飼育が住文化として定着してきたのは2003年頃。しかし、日本の住宅は靴を脱ぐ生活様式で建てられているのが一般的で、変化する飼育状況に対して、住まいが追いついていない状況にあると廣瀬氏は指摘する。この問題点をなんとかしたいと、廣瀬氏は2000年に人と動物との快適な住まい作りをテーマにした設計事務所ファウナ・プラス・デザインを立ち上げた。
まずはペット飼育の現状を把握するため、数百件にも及ぶフィールドワークを行った結果、食事する場所、トイレの場所など生活するために必要な機能が、廊下や部屋の隅に追いやられているケースが多く、そこに多くの問題が潜んでいることを突き止めた。犬や猫の寿命は約20年。ともすれば子どもよりも長くともに暮らすことになるかもしれないのに、生活するうえで必ず必要となる食事やトイレのためのスペースがおざなりになっている現状に、従来の家の形を変えていかないとだめだと実感。
「フィールドワークの結果、家の間取りが飼い主の行動を制限していると感じました。今更ではありますが、やはり脱nLDKの住まいづくりが必要だと感じたんです。環境が飼い主の行動を制限し、飼い主の立ち振る舞いによって動物の行動が形成されていきます。行動学的に見ると、好ましい行動は継続していくもの。行動によって起こった環境の変化が好ましければ、その行動は継続する。これは人だけでなく、猫や犬、脊椎動物すべてに当てはまることなんです」と廣瀬氏。
犬や猫が取りたい行動をとれる環境を整えることが、共に暮らす人の義務
猫を飼っている方の中には、猫が喜ぶだろうと考えて置いたキャットツリーがあまり活用されていない、という経験をお持ちの方がいるかもしれない。それは、猫にとって好ましい環境の変化が起こらなかったため、満足をしなかったからだ。登ってみたらいつもよりも日当りのいい場所が見つかった、心地よく過ごせる冷たい場所があったというように、猫にとって好ましいと思える条件が揃って、はじめてキャットツリーの存在価値が出てくる。
廣瀬氏によると、好ましい環境変化は次の行動を引き出し、一日の動きがつながっていくという。そのため、ペットと快適に暮らすための家づくりには、寝る、食べる、排泄するという生きるために必ず必要となる3つの機能スペースをあらかじめ用意しておく必要がある。
「私は犬や猫が取るひとつひとつの短い動作を考え、その短いストーリーを繋ぎ合わせて1日の行動を予測し、設計を考えています。多くのケースで飼い主の都合が優先され、防水された土間や洗面などの適当な場所にトイレや食事スペースが置かれています。しかし、最初からこの機能を考えた場所を設けることで、犬も猫も人も快適に過ごすことができます。ゴハンにたどり着ける動線がしっかりと考えられていて安全であることは基本ですが、それだけでは犬や猫が退屈してしまいます。遊びを探して家にキズを付けたりしてしまいます。それを防ぐための工夫が必要です」と廣瀬氏。
犬や猫の行動特性に応じて、住まいの形を変える必要がある
犬は基本的に平面移動、人と同じような行動をする。キッチンや和室など、入ってはいけない場所にはゲートを取り付けたり、犬がストレスなく過ごせる空間を作ることが大切だ。
「たとえば、バリケンネルを組み込んだ造作家具を提案しています。これなら住まいのデザインを損なうことなく機能性も兼ね備えているので、人にも犬にもよい環境がつくれます。とはいえ、犬は散歩に連れて行く必要があるので、完全室内飼育とはいきません。本気で犬を飼う気持ちがあるなら、日本独特の靴脱ぎスタイルの住環境を変え、土足スタイルにする方が犬にも人にも快適な環境にできるでしょう」。
一方、36㎜の幅があれば歩け、タテ空間も自由に使って移動をするのが猫の行動特長。猫の行動特長や能力を発揮できる場所を用意してあげれば、猫も楽しく生活できるだろう。
「食事の場、排泄の場はできるだけ離しておくべきだと一般的にいわれていますが、猫の場合、平面でのつながりではなく上下の配置であれば、近接していても問題はないようです。換気扇を取り付けるなど、ニオイの問題にも配慮しておけば、嗅覚が人の数倍も敏感な猫や犬にも快適な環境となります。また、多頭飼育の場合は猫同士の問題が出てきますが、これを建築的に解決するのが私の腕の見せ所。物理的な距離を取れるように設計しなくてはいけません。猫はテリトリーを意識しながらも、譲るという行動ができる生き物です。上下、並行にキャットウォークを配置することで勝ち負けが起こらないようにし、すれ違っても道を譲れるよう配慮した動線計画が必要となってきます」。
機能性と美しさを兼ね備えた住まいが、人・犬・猫の豊かな暮らしを築く
ペットとの共生推進協議会が発行する「ペットとの共生によるすぐれた効果・効用(ペットフード協会監修)」でペット飼育は人の心身の健康にさまざまな良い影響を与えると発表しているように、犬や猫との暮らしは本来豊かな暮らしのはずだ。だが、残念ながら美しくないことが多いのが現状だと廣瀬氏は嘆く。
「これからの人と動物にやさしく快適な住まいは、機能スペースが当たり前にあるレベルにまで到達し、さらにはデザイン的にも美しくあってほしいですね」。
人の生活に癒しと潤いを与えてくれるペット。飼い主は、犬や猫が持つ本来の行動特性も理解した住まいづくりで、ともに快適に過ごせる環境を整えていきたいものだ。最近の住宅は高気密・高断熱で、家中どこも温度が一定に保たれている。人は服を脱いだり着たりして自由に温度調整できるが、犬や猫はそうはいかない。
室内飼育が増えてきたいま、特に重要なのは熱中症対策。一日中家で過ごしている猫や犬たちも熱中症にならないよう、猫や犬が過ごすスペースにエアコンの設置は必須だ。最近は電源のオンオフ・温度設定などを外出先から操作できる機能のついたエアコンもあるので、人・犬・猫にとって快適な環境づくりを心掛けたい。
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