不動産・建築に携わる者が反省すべきこと
「次の地震でこの国は滅びます。本当に滅ぶんですよ……」
冒頭から穏やかでない言葉で恐縮だが、これは決して怪しい予言などではない。こうした警鐘を鳴らすのは、今回お話しを伺った名古屋大学減災連携研究センター長の福和伸夫教授である。
先に断っておくが、私たち不動産・建築に携わる者にとって耳の痛い内容を包み隠さず伝えていくので、業界関係者は覚悟して読み進めていただきたい。グサッとくるような内容をあえて取り上げるのは、それが私たちの気づいていない(あるいは目を背けている?)課題だということをまず自覚しなければ、最初の一歩を踏み出せないと思うからだ。
とはいえ、痛みを味わうだけではやはりツライので、課題を克服するためにどうすればいいかについても伺ってきた。つまり、希望のタネがあるとわかったから、厳しい内容も伝えようと思ったのである。ただし、希望のタネを育てられるか腐らせてしまうかは、この国に暮らす私たち全員にかかっているということも念のため言い添えておく。
さて、福和教授は私たちに、まずこんな苦言を呈された。
「住宅の立地ということで言うと、家を建ててはいけない場所(埋立地や軟弱な地盤など)がはっきりしているのに、それを破ってめちゃくちゃなことをしてきたところに問題があります。1番罪深いのは、あなたがた不動産事業に携わる人たちですよ。利益を最優先して本来私たちが家を建ててはいけない場所を開発し、そこを売ってきてしまったんですから。それは皆さんが反省すべき点です」
見栄えや住み心地ばかり優先する価値観にも問題あり
福和教授は各地で市民向けの防災・減災関連の講演も多数行っている。教科書には載っていない日本史としての地震の歴史を、誰もがよく知る歴史上の人物や出来事に絡めて話してくださるので、とても面白くてわかりやすいさらに、設計・管理をする建築家や、家に住む人たちの価値観にも問題点があると福和教授は指摘する。
「住宅で何よりも大事なことは安全であることです。安全な家をつくり、次に使い勝手のことを考え、その次に見栄えのことを考える。建築家がつくるべき家は住む人が不幸にならない家であるはずなのに、最近はお客さんにおもねって見栄えや住み心地ばかり気にし、安全性をぎりぎりまで削った建物をつくってしまう風潮がある。基本中の基本である『強なくして用なし、用なくして美なし、美なくして建築なし(※)』を忘れてしまっています。そしていつの間にか“建築基準法さえ満たしていれば安全だ”と勘違いする社会ができてしまった。でも、それは正しいことではなく、誰もが“安全な家をつくるにはどうすればいいか”を自分ごととして考えられるようにならなければいけない。それを技術者にわかってもらいたいし、家に住む方々にも価値観を見直してもらいたいのです」
確かに、多くの人が自分の住んでいる場所のことを知らず、安全だと思い込んでいる家に住み、災害に遭ったときの対策をしていなくても“まぁたぶん私は、ウチは大丈夫だろう”と思っているのではなかろうか。そうした私たちのノホホンとした様子が、福和教授のような専門家たちに「巨大地震が起きたらこの国は滅んでしまう!」と強い危機感を抱かせてしまうのだ。
本当にこの国は地震で滅んでしまうのだろうか……?
(※)紀元前1世紀頃の建築家ウィトルーウィウスの言葉
平常時も災害時もフル稼働。名古屋大学減災連携研究センター「減災館」
「だから備えをして、この国が滅びないようにするんですよ」
よかった。専門家は、ちゃんと希望のタネをまいてくれていた。その希望のタネというのが2010年に設立された名古屋大学減災連携研究センターだ。同センターは最先端の防災・減災研究を進めながら、産官学民の防災・減災連携にも取り組んでいる施設。2014年5月には市民が自由に見学できる「減災館」が一般公開された。
残念なことに今までは、どんな場所が危険で、どんな家が安全でなく、地震がどう怖いのかなどについて、私たちが学べる場所や機会がなかった。そんな私たちに学びの場、気づきの機会を提供してくれるのがこの減災館で、防災・減災について学べる展示や地震を体感できる施設があり、地震や防災・減災の正しい知識を身につけることができる。減災館を含む同センターは研究教育、人材育成、災害時の対策拠点という3つの役割を担っており、いざという時の備えも十分整っていると福和教授は話す。
「1週間連続稼働できるディーゼル発電機や太陽光発電、都市ガスとプロパンガスを切り替えて使える空調機などがあり、屋上には常時1000人分の水を蓄え、排泄物を処理する下水機能も備えています。さらに、建物は非常に性能の高い免震構造にもなっています」
地域にこのような頼もしい施設があるのは、市民にとって本当に心強い。
開館日にはギャラリートークも開催。某日のテーマは「地震の予知と予測」
減災館では、減災連携研究センターの教員によるギャラリートークも開催されている(開館日の13:30~14:00)。トークを担当される先生やテーマは毎回違い、この日は理学博士の鷺谷威教授が「地震の予知と予測」について話され、難しい内容を一般向けにわかりやすく説明してくださっていた。筆者が理解できた範囲で、予知と予測の違いについて簡単に列記してみよう。
・予測というのは確率を述べること(例:今後30年間に地震が起きる確率は70%です)。
・予知というのはその確率が極めて高いこと(例:明日M8の地震が起きる確率は99.999%です)。
・地震予知には時間と場所と規模(大きさ)が必須である。
・現在、地震学の専門家の間では地震予知は困難といわれている(ただし、将来にわたって困難かどうかはわからない)。
地震を予知することは難しいため、国では予測をもとに防災に重点を置いた取り組みを行っているとのこと。鷺谷教授のお話しの中で特に印象に残っているのが、降水確率と地震発生確率はまったく違うものという解説だ。
たとえば降水確率70%というのは、ある気圧配置があったときに10回中7回雨が降る確率だそうだ。「降水確率が70%だったら傘を持って出かけますよね?」と鷺谷教授が問いかけると、ほとんどの聴講者が頷いた。それを踏まえて、今後30年間に地震が起きる割合が60~70%という場合、60~70%だから危ないと思うのは間違いなのだという。
確率が高いほど危ないのではないのだろうか?
家具の転倒防止をするだけで被害を減らすことができる
「1000年に1回しか起きないような地震の確率は5~6%。でも、たとえ5~6%の確率であっても地震は必ず起きるんです」と鷺谷教授は語気を強める。そして次のように提言された。
「阪神・淡路大震災(※)が起きたときの、野島断層という断層の確率を評価すると8%ぐらいです。降水確率10%で傘を持っていこうとは思わないかもしれませんが、たとえ地震発生確率8%でも地震は必ず起きると思っていなければいけません」
福和教授のお話しや鷺谷教授のギャラリートークを伺って、価値観を見直さなければいけないことは痛感したが、諸般の事情でやむなく危険な場所に住まなければならないこともある。そういう場合はどうしたらいいのか、おそるおそる福和教授に尋ねてみた。
「そんな場所に住まないことです。便利なところはたいてい安全上は最悪な場所です。利便性を重んじる価値観をもつ人は自己責任で住んでも構いませんが、そういう場所に住むなら建物の安全性は倍にするべきです。昔の人は、どういう建物が安全で、どういう場所が安全かということをちゃんと考えていたので、集落は安全な場所につくっていました。家を密集させるということは火災が発生すれば一帯が燃えてしまうということ。もし密集した場所に住むなら、住む人全員が家具の転倒防止をして、全員が消火器を使えなければいけません」
叱られてばかりでしゅんとしてしまうが、福和教授はこんな言葉で勇気づけてもくれる。
「私たちはゴミの分別や分煙という面倒なことができた国民なのだから、やる気になれば何でもできるはず。家具留めという簡単なことをするだけで、災害時の被害を10分の1にできるんです。私たちの意識次第ですよ」
何だか元気が出てきた。反省点の多い私たちがすべき最初の行動として、さっそく自宅や職場の家具留めをしようではないか。
(※)兵庫県淡路島北部を震源とする1995年1月17日に起きたM7・3の直下型地震。
■関連リンク
名古屋大学減災連携研究センター http://www.gensai.nagoya-u.ac.jp/
※減災館の開館日は火~土曜日(祝日を除く)の13:00~16:00(入館は15:30まで)。 講義・イベントなどで休館する場合があるのでホームページで確認を。
内閣府防災情報のページ 阪神・淡路大震災の概要 http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/hanshin_awaji/earthquake/
公開日:






