「子どもが成長して、今の家が手狭になってきた」 「転勤が決まり、どうしても引越しが必要になった」

ライフステージの変化で住み替えを検討する際、もっとも大きなハードルとなるのが「まだ残っている住宅ローン」です。

「ローンが残っている家を勝手に売ってもいいの?」 「売ったお金でローンを返しきれなかったらどうなるの?」

そんな不安を抱える方は少なくありません。 結論からお伝えすると、住宅ローンが残っていても住み替えは十分に可能です。ただし、そこには「絶対に守らなければならないルール」と、知っておかないと損をする「公的な支援制度」が存在します。

本記事では、残債がある状態での正しい住み替え手順、リスクを抑える資金計画、そして国や公的機関が用意している税制優遇について、初めての方にも分かりやすく解説します。

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住宅ローンを組んだ家には、住宅ローンを貸した銀行や金融機関の「抵当権」が付いています。これは「返済が滞ったときに銀行が家を差し押さえ、競売にかけて残債を回収する権利」です。

 

この抵当権が付いたままの住宅は買い手に引き渡せないため、売却するには「住宅ローンを全額返済し、抵当権を抹消すること」が絶対条件になります。抵当権は住宅ローンを完済しただけでは消えず、法務局で抵当権抹消の手続きを行う必要があります。

 

参考:法務省https://www.moj.go.jp/

住宅ローンが残っている状態で家を買い替える際、その成否は「売却価格」と「ローン残高」のバランスで決まります。

■アンダーローン(売却価格 > ローン残高)

家を売った代金で残債を一括返済でき、さらに手元に現金が残る理想的な状態です。この残金を新居の頭金や諸費用に充てることで、スムーズな住み替えが可能になります。

■オーバーローン(売却価格 < ローン残高)

家を売ってもローンを完済できず、借金が残ってしまう状態です。この場合、不足分を「自己資金(貯金)」で補うか、新しい住宅ローンに上乗せして借り入れ、残債をゼロにしない限り、家の売却はできません。

最も避けるべきは、住み替えの物件が決まっているのに、「金融機関に相談せず、自己判断で今所有している物件の売却を進めること」です。

 

もし「高く売れるだろう」と見切り発車で今所有している物件の売買契約を結び、結果的に売却代金より住宅ローンの残債のほうが多いオーバーローンになってしまうと、今所有している物件の抵当権を抹消できないため、引渡しをすることができません。自己資金で残債を支払えなければ、契約自体が成立せず、場合によっては違約金などを請求されるケースもあります。

 

そうなると、購入したかった住み替え物件の手付金など諸経費すら用意できないだけでなく、新たな住宅ローンの審査も通らず、住み替えたかった物件を購入できないことにもなりかねません。まずは、自分が置かれている現状を正しく把握することがスタートラインです。

 

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自分の状況(アンダーかオーバーか)をある程度把握したうえで、次はどうやったら家を住み替えられるかの戦略をたてましょう。住み替えには大きく分けて3つのルートがあります。

最も堅実で、資金的な失敗が少ないのがこの方法です。

メリット

家がいくらで売れるかが確定してから新居の予算を組めるため、資金計画が狂いません。売却代金でローンを完済できるため、オーバーローンの可能性がある方はこの方法が推奨されます。

デメリット

今の家を引き渡してから新居が見つかるまでの間、一時的に賃貸などの「仮住まい」が必要になることがあり、引っ越しが2回発生する手間があります。

資金に余裕がある方や、新居へのこだわりが強い方に選ばれる方法です。

メリット

納得いくまで新居を探せます。また、引っ越し後に空っぽになった旧居を売りに出せるため、生活感を見せずに内覧対応ができ、早期売却に繋つながりやすい側面があります。

デメリット

旧居が売れるまでの間、新居と旧居の「ダブルローン(二重返済)」が発生します。売却が難航すると、家計を大きく圧迫するリスクがあります。

「売る」のではなく「貸す」という選択肢もあります。特にJTI(一般社団法人 移住・住みかえ支援機構)などの公的制度を活用する方法が注目されています。

メリット

将来的に自宅に戻る、あるいは子どもに譲るといった選択肢を残せます。

機構住みかえ支援ローンの活用

住宅金融支援機構の【フラット35】には、「機構住みかえ支援ローン」という制度があります。これは50歳以上の人が対象ではありますが、JTIの「マイホーム借上げ制度」を利用することを条件に、旧居のローン返済負担を軽減しながら、新居の資金を借り入れできる仕組みです。

 

JTI マイホーム借上げ制度とは

50歳以上(要件により50歳未満も可)の方が所有する住宅をJTIが借り上げ、子育て世帯などに転貸する制度。空室時でも賃料が保証されるなど、公的なバックアップがあるのが特徴です。

 

出典:一般社団法人 移住・住みかえ支援機構(JTI)

売却しても住宅ローンを完済しきれない「オーバーローン」の状態や、一時的にローンが二重になる場合の具体的な資金調達方法について解説します。

資金調達方法

概要

メリット・注意点

買い替えローン(住み替えローン)

今の家のローン残債(完済できなかった分)を、新居の購入費用に上乗せして借りる方法です。

自己資金不足の強力な解決策となりますが、借入額が担保となる物件価値を超えるため、審査基準(年収・勤続年数など)は厳しく、通常の住宅ローンより金利が高めに設定される傾向があります。

ダブルローン(二重ローン)

「買い先行」で住み替えを進めるために、新旧2つの住宅ローンを一時的に組む方法です。

審査では、2つのローンの合計返済額が年収に占める割合返済負担率が厳しく審査されます。多くの金融機関では、年収の30〜35%以内という基準があり、利用は高年収者や夫婦とも一定以上の年収のある人に限られるのが実情です。

公的ローン「フラット35」

民間の住宅ローン審査が厳しい場合に検討すべき、住宅金融支援機構の長期固定金利ローンです。

全期間固定金利金利上昇リスクがなく、資金計画を立てやすい。

審査基準の明確さ年収400万円未満は返済負担率30%以下、400万円以上は35%以下と基準が明確。

親子リレー返済親子でローンを組むことで、年齢や借入可能額の課題をカバーできる場合があります。

【注意点:住宅ローンの完済年齢】

多くの金融機関でローンの完済年齢は「80歳未満」と定められています。住み替え時は年齢が上がっているケースが多いため、借入期間が短くなり、結果として月々の返済額が増加する可能性がある点に留意が必要です。

 

出典:住宅金融支援機構

 

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「売却価格」がそのまま手取り額になるわけではありません。見落としがちなコストと、国が設けている税制上の救済措置(特例)を必ず把握しておきましょう。

売却代金からは、以下の費用が差し引かれます。実際に手元に残る金額はこれらを引いた額となるため、特にオーバーローン(売却代金でローンを完済できない状態)の計算は慎重に行う必要があります。

仲介手数料: (売却価格×3%+6万円)+消費税 ※速算式

印紙税: 売買契約書に貼付

登記費用: 抵当権抹消など

一括返済手数料: 金融機関への支払い

※一戸建ての場合、別途、土地の測量費用がかかることもあります

住み替えで自宅を売却する際、利益が出た場合(アンダーローン)でも損失が出た場合(オーバーローン)でも、税負担を軽減できる特例が用意されています。これらの特例は、確定申告を行うことで適用されます。

■利益が出た場合(アンダーローン)

居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例

自宅売却で利益が出た場合、その利益から最大3,000万円を差し引くことができ、譲渡所得税を大幅に軽減できます。

■損失が出た場合(オーバーローン)

居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例

自宅売却で損失が出た場合、その赤字を給与所得など他の所得から差し引く(損益通算)ことで、払いすぎた税金を取り戻すことができます。差し引ききれない赤字は、売却翌年から3年間繰り越すことが可能です。

 

【注意点】

住宅ローン控除(減税)と3,000万円特別控除は、原則として併用できません。「どちらを利用したほうがトータルでお得になるか」については、税理士や税務署への相談をおすすめします。

 

出典:国税庁 タックスアンサー No.3302No.3255

最後に、今日から始めるべき具体的なアクションプランをステップ順にまとめます。

              ステップ            

アクション

内容

Step 1

ローン残高の確認(現状把握)

銀行の返済予定表やネットバンキングで、正確な現在の残債額を確認します。

Step 2

査定依頼(売却相場の把握)

不動産会社に査定を依頼し、自宅がいくらで売れそうかを確認します。これで、売却価格が残債を上回る「オーバーローン」か下回る「アンダーローン」かが明確になります。

Step 3

資金計画とスケジュールの決定

家族の状況や資金状況に合わせて、「売り先行」か「買い先行」かの戦略を決定します。オーバーローンの場合は、FPなどに相談し、具体的な資金計画を立てましょう。

Step 4

ローンの事前審査・特約の確認

新しい住宅ローンの仮審査(事前審査)を進めます。同時に、「買い替え特約(自宅が売れない場合に契約を白紙撤回できる特約)」の条件を不動産会社と確認します。

 

専門家との連携 金融機関、不動産会社、税理士など、プロの力を借りて進めます。

主な相談先と役割

相談先

役割・相談内容

住宅金融支援機構・金融機関

【フラット35】や住み替えローンなど、住宅ローンに関する要件の確認。

不動産会社

不動産の売却査定、および買い替えスケジュールの調整。

税理士・税務署

確定申告や各種税制特例の適用に関する確認。

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Q1. 住宅ローンの残債が売却額より多い(オーバーローン)ですが、売却できますか?

A.はい、可能です。 ただし、売却価格とローン残高の差額を「自己資金」で用意するか、「住み替えローン」を利用して、引き渡しまでにローンを全額完済し、抵当権を抹消する必要があります。

 

Q2. 売り先行と買い先行、どちらがおすすめですか?

A.資金の安全性を取るなら「売り先行」です。 売却金額が確定してから新居の予算を決められるため、資金ショートのリスクを最小限に抑えられます。特にローン残債が多い場合は「売り先行」を強く推奨します。

 

Q3. 「買い替え特約」とは何ですか?

A.自宅が売れなかった場合に、新居の購入契約を白紙に戻せる特約です。 「買い先行」で進める際、万が一自宅が想定通りに売れないとリスクが発生します。この特約があれば、手付金を放棄することなく契約を解除できるため、買い手(あなた)を守る重要な命綱となります。

 

住み替えは大きな決断ですが、適切な手順と利用可能な公的支援制度を把握することで、不安を解消できます。まずは、現在の自宅の売却価格と住宅ローンの残債を確認し、現状を正確に把握することから始めましょう。

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