「減価償却費」は不動産所得の重要経費
不動産などの償却資産は年々価値が減少します。その減少分を「減価償却費」として経費に計上できます。実際にお金は出ていきませんが、所得を圧縮できるため節税につながります。建物の構造で耐用年数が異なり、計上できる額も変わります。
詳しくは、「減価償却費とは?」をご覧ください。
資産の細分化で減価償却費を調整可能
減価償却費は不動産所得に大きく影響します。建物を「本体」と「設備」に分けて計上すると、耐用年数が短い設備部分の償却費を早期に多く計上できます。これにより、特定の期間の所得を低く抑えるなど、状況に応じた調整が可能です。
詳しくは、「減価償却費は償却資産の細分化でコントロールできる」をご覧ください。
不動産売却時は減価償却費に注意
不動産を売却する際、譲渡所得の計算では、建物の取得費から今までの減価償却費の合計額を差し引きます。そのため、購入時より売却価格が下がっていても、計算上は利益が出て課税されるケースがあるので注意が必要です。
詳しくは、「不動産を売却するときは減価償却費に注意」をご覧ください。

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不動産所得がある方は毎年確定申告をしなければいけません。

 

不動産所得は、収入から必要経費を差し引いて計算しますが、必要経費のなかに「減価償却費」という項目があります。「減価償却費」とはどのような経費なのでしょうか。

 

今回は、不動産所得の計算のしくみと「減価償却費」について、分かりやすく解説します。

 

アパート・マンションなどの賃貸経営をしている場合、家賃などの収入が支出よりも多ければ手元にお金が残ります。

 

このことを一般的には「収支が黒字だった」といい、「収入-支出=収支」の計算式で算出します。

 

しかし税金は、このような実際のお金の出し入れである「収支」ではなく「所得」に対して課税され、所得は「収入-必要経費=所得」で算出します。 

 

このなかの「収入」は、家賃、共益費、礼金、更新料、駐車場代など、賃貸物件から受け取ることのできるお金です。

 

一方、「必要経費」には以下のようなものがあります。

  • 公租公課…固定資産税、都市計画税といった税金
  • 借入利子…アパートマンションローンの支払金利の部分
  • 管理費…管理会社に支払う管理費やサブリースの経費
  • 修繕費…故障を修理したり、古くなった部分の機能を回復したりする費用
  • 水道光熱費…共用部分の電気代や水道代
  • 減価償却費

「減価償却費」は必要経費の1つですが、ほかの必要経費と違い、はっきりと目に見えないので分かりにくい経費といえます。

 

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確定申告イメージ

 

アパート・マンションなどの建物や、駐車場の舗装・門塀といった構築物を「償却資産」といいます。

 

償却資産は毎年少しずつ古くなり価値が減少していくので、減少分を「減価償却費」として必要経費にすることができます。

 

つまり減価償却費は、毎年お金が出ていくわけではないのに、一定の金額を所得から差し引くことができるので、その分所得を少なくできるありがたい必要経費なのです。

 

償却資産は、種類や構造により税務上の耐用年数と償却率が決められていて、一般的に堅固で寿命が長いものほど耐用年数も長くなります。

 

<建物の法定耐用年数と償却率>

 種類耐用年数償却率
建物木造22年0.046
鉄骨造(鉄骨の厚みが3mm超4mm以下)27年0.038
鉄骨造(鉄骨の厚みが4mm超)34年0.030
RC造(鉄筋コンクリート造)47年0.022
構築物アスファルト舗装、フェンス10年0.100
ブロック塀15年0.067

出典:財務省 財務省令「減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四十年三月三十一日大蔵省令第十五号)」
国税庁 減価償却資産の償却率表

減価償却費の計算は、取得価額に耐用年数に応じた償却率をかけて算出します。

 

ここで、1億円の木造とRC造の賃貸用建物の減価償却費を計算してみましょう。

【例1】

1億円・木造の賃貸用建物の減価償却費
1億円×償却率0.046=460万円

 

【例2】

1億円・RC造の賃貸用建物の減価償却費
1億円×償却率0.022=220万円

同じ価格の建物でも構造により耐用年数が異なるので、1年間の減価償却費に差が出ます。

 

この例では、同じ1億円の建物でも、耐用年数が短い木造のほうが1年間の必要経費を240万円も多く差し引くことができます。

 

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不動産所得の必要経費のなかで、減価償却費は高い割合を占めます。そのため減価償却費がいくらになるかによって、不動産所得が左右されることもあります。

 

また、償却資産を細かく分けることで減価償却費を増やすことができます。

 

建物の工事費には、キッチンやユニットバス、トイレなどの給排水設備や、コンセントや電気配線などの電気設備が含まれています。これらの設備の耐用年数は15年です。

 

そこで、建物を「本体部分」と「設備部分」に分けると、設備部分は耐用年数が短いので、減価償却費を多く計上することができます。

【例3】
建物工事費:1億円 鉄骨造(鉄骨の厚みが4mm以上) 
内訳:本体…7,000万円(耐用年数34年 償却率0.030) 
    設備…3,000万円(耐用年数15年 償却率0.067)

 

・建物工事費をすべて本体工事として減価償却すると
 1億円×0.030=減価償却費300万円

 

・建物を本体工事と設備工事に分けて減価償却すると
 本体部分:7,000万円×0.030=210万円
 設備部分:3,000万円×0.067=201万円
 合計:減価償却費411万円

 

比較すると
411万円-300万円=111万円

建物を本体部分と設備部分に分けたほうが、減価償却費を111万円も多く計上できます

 

ただし、設備部分の減価償却は15年で終わり、それ以降は本体部分しか減価償却できなくなるので、分けないほうが毎年90万円多く経費計上できることになります。

 

つまり、同じ償却資産を短い期間で多めに経費計上するか、少なくても長い期間をかけて経費計上するかによる違いだけで、最終的な減価償却費の合計額はどちらも同じです。

 

そのため、細分化については申告する人の状況によって検討が必要です。

 

たとえば、所得税率が高い会社員の場合は、特に現役のあいだの不動産所得を低く抑えるために、減価償却費を細分化する方法を選択するケースがあります。

 

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減価償却費の計算

 

不動産所得の計算上、減価償却費は必要経費になりますが、不動産を売却する場合には、減価償却費に注意しなければなりません。減価償却費は、譲渡所得の計算上、取得費から控除するからです。

 

譲渡所得は「譲渡所得=売却金額-(取得費+譲渡費用)」で算出します。取得費は、売却物件の取得価格に、取得後の設備費や改良費を加え、そこから売却するまでの減価償却費を差し引いて計算します。

 

そのため、実際には不動産を売却したときに、取得価格より値下がりして損をしたにもかかわらず、減価償却費の分だけ取得費が減っているために、“譲渡所得はプラスになって税金を課せられた”ということが起こります。

【例4】
1億円で購入した新築木造アパート(土地5,000万円、建物5,000万円)を10年経過後9,000万円で売却し、その譲渡費用は300万円でした。譲渡所得はいくらでしょうか?

単純に考えると、1億円で買ったアパートを9,000万円で売却したのだから1,000万円も損をしたと考えがちです。

 

ところが、譲渡所得の計算上は次の通りになります。

譲渡所得=売却金額9,000万円-(取得費(※)7,700万円+譲渡費用300万円)=1,000万円
※取得費:購入価格1億円-減価償却費(建物価格5,000万円×0.046×10年)=7,700万円

つまり、減価償却により取得費が小さくなるため、損失どころか1,000万円も利益があったことになります。

 

なお、マイホームを売却した場合には、減価償却費を計算する際の耐用年数が法定耐用年数の1.5倍と長くなるため、その分だけ減価償却費は少なくなります。

 

また、譲渡所得がプラスになっても3,000万円の特別控除などの優遇策があるため、よほど大きな譲渡所得が生じない限りは、あまり心配はいりません。

 

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減価償却費の計算方法や注意点をあらかじめ知っておくことは、賃貸経営や不動産の売却にあたっても大切です。

 

償却資産の細分化などについても知っておき、自分の資産状況に応じて適切に減価償却費をコントロールしましょう。

 

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Q.1:そもそも「減価償却費(げんかしょうきゃくひ)」とは何ですか?

A.1:建物は年数が経つにつれて価値が下がります。その価値が下がった分を、税金の計算上で経費として扱うのが「減価償却費」です。実際に支出があるわけではありませんが、会計上の所得を減らせるため、結果的に税金を抑える効果(節税)があります。

Q.2:不動産所得の計算で、なぜ減価償却費が重要なのでしょうか?

A.2:不動産所得は「家賃などの収入から、必要経費を差し引いて」計算します。減価償却費は必要経費の中でも金額が大きくなる傾向があるため、納税額に大きく影響する重要な項目だからです。

Q.3:減価償却費はどのように計算するのですか?

A.3:減価償却費は、基本的に「建物の取得価額 × 償却率」で計算します。償却率は、建物の構造(木造、鉄骨造など)ごとに法律で定められた使用できる期間(法定耐用年数)によって決まります。たとえば、丈夫な鉄筋コンクリート造(RC造)の建物は木造よりも法定耐用年数が長いため、1年あたりの減価償却費は少なくなります。

Q.4:減価償却費を多く計上して、節税効果を高める方法はありますか?

A.4:はい、あります。たとえば、建物を「建物本体」とキッチン・給排水設備などの「建物附属設備」に分けて計上する方法が有効です。設備は建物本体よりも耐用年数が短く設定されているため、短い期間でより多くの減価償却費を計上でき、特定の年の所得を抑える節税効果が期待できます。

Q.5:建物を「本体」と「設備」に分ける方法にデメリットはありますか?

A.5:設備部分は耐用年数が短いため、償却期間が終わるとその分の減価償却費は計上できなくなります。つまり、将来的に経費にできる金額が減るということです。これは、経費にするタイミングを早めるか、長期間で均等にするかの違いで、経費にできる総額は変わりません。ご自身の所得の状況や将来の見通しに合わせて判断することが重要です。

Q.6:不動産を売却するときに気をつけることは何ですか?

A.6:不動産を売却したときの利益(譲渡所得)は、税金の計算上、「売却価格 −(取得費 + 売却経費)」で計算します。この「取得費」は、物件の購入代金から、それまでの減価償却費の合計額を差し引いた金額になります。そのため、減価償却を進めていると帳簿上の資産価値は下がっており、売却価格が購入時より低くても、税金の計算上は利益(譲渡所得)が出て課税されるケースがあるため注意しましょう。

Q.7:マイホーム(自宅)を売却する場合も、投資用不動産と同じように減価償却を考える必要がありますか?

A.7:はい、売却時の取得費を計算する際に減価償却の考え方が必要になる点は同じです。ただし、マイホームの場合は事業用ではないため、耐用年数を法定耐用年数の1.5倍として計算します。そのため、投資用不動産と比べて1年あたりの減価償却費は少なくなります。また、マイホームの売却で利益が出た場合は「3,000万円の特別控除」といった税金の特例が利用できるメリットがあります。

更新日: / 公開日:2020.03.18