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もしもの時の「差し押さえ」基礎知識

差し押さえの注意点

差し押さえは、債権者が債権を回収する際の最終手段であり、債権者にとっての大きな武器となる制度です。しかしながら、差し押さえを行うに際しては、債務者のもっている財産からして差し押さえを行うことが本当に有効なのか注意する必要があります。今回は、どのように債務者の財産を調査するか、差し押さえの費用対効果という点に焦点を当てます。

財産があるか

差し押さえという手続きは、債務者の持っている財産から強制的に債権の回収を図る制度ですので、債務者に引き当てとなる財産がない場合には、全く効果のない手続きです。

したがって、差し押さえを利用できるかどうか判断するうえでは、事前に債務者の財産を調査することが重要になります。

では、財産の調査とはどのようにするのでしょうか。

建物や土地、自動車など、対象物が大きく、目に見える物については比較的把握がし易いですし、登記簿謄本等を取れば、債務者の所有であるかどうかは一目瞭然です。しかし、債権、たとえば銀行口座をどこの銀行にいくつ持っているか、取引先への売掛金がないか等は目に見えないものであり、第三者である債権者がすぐに把握できるものではありません。以下では、債権者が取りうる財産調査の方法を説明します。

(1)財産開示手続

債権執行の際、債務者の持つ債権の特定が困難であることは前述のとおりです。

民事執行法は、そのような現状を打開し、債権者の権利実現の実効性を確保するために財産開示手続という制度を創設しました。

財産開示手続では、債権者の申立てにより、執行裁判所が債務者に対して財産の開示を命令します。

もっとも、債務者のプライバシー情報である財産状況を債権者といえども本来は第三者である人に開示する手続きであることから、申立てのできる資格や実施条件は厳格に規定されています。

申立てのできる債権者

単に債権を持っていると主張する債権者は財産開示手続を申し立てることはできません。債務名義(仮執行宣言付判決、執行証書、支払督促を除く)を有する債権者のみが財産開示手続を申し立てることができます(その他にも利用できる場合がありますが、ここでは省略します。)。

※仮執行宣言付判決、執行証書、支払督促も立派な債務名義であることは、 「差し押さえの法的手順」 で説明したとおりですが、仮執行宣言付の場合はその後の手続きで債務名義が認められない可能性があること、執行証書、支払督促については簡易な手続きによって認められているものであることから、財産開示手続の利用が制限されています。

財産開示手続の実施条件

以下の条件がそろっている場合に財産開示手続が実施されます。

  • 強制執行開始の要件を備えていること
    債権者が、差し押さえの申立てを行えば、実際に執行手続が開始できる状態であることが必要です。
  • 財産開示を行うことが必要であること
    財産開示の申立て以前に行われた強制執行等の配当等の手続きにより、申立人が完全な弁済を受けられなかったこと、又は、債権者が通常実施すべき財産調査を行ったものの、判明した財産によっては債権の完全な弁済が受けられないことを裁判所に対して明らかにする必要があります。
  • 申立て日前3年以内に財産開示手続により債務者が財産を開示していないこと
    3年間では財産状況に大きな変化はないだろうという考慮から不要な財産開示を制限しようとするものです。ただ、3年間のうちに財産状況の変化があった場合等には例外として、再度の財産開示が認められています。

申立て方法

債務者の普通裁判籍の所在地の地方裁判所が執行裁判所となります。債権者は、財産開示手続申立書を執行裁判所に提出して申立てを行います。申立人に申立て権限があり、イ記載の実施条件があると認められた場合には、執行裁判所は、財産開示手続実施決定を行います。

財産開示の実施

財産開示手続実施決定が出されると、執行裁判所は財産開示期日を指定し、債務者に対し、財産目録の提出を通知します。債務者(開示義務者)は、執行裁判所が指定した期日までの間に財産目録に自分の財産を記載し、執行裁判所に提出しなければなりません。財産開示期日当日、開示義務者は、自己の所有する財産のうち執行対象財産を陳述しなければならず、その財産について、執行裁判所と債権者が質問することもできます(債権者の質問は執行裁判所の許可を得る必要があります)。

財産開示期日の記録は、申立人、財産開示手続の申立てをすることができる債権者、債務者又は開示義務者が閲覧等をすることができる。

財産開示手続の実効性

開示義務者が、財産開示期日に出頭しなかったり、出頭したとしても、嘘の財産状況をいったりすることを防ぐため、不出頭や虚偽の事実の陳述を行った者に対しては、30万円以下の過料が科されます。もっとも、債権者のもっている債権が30万円以上であり、隠している財産が30万円以上である場合には、過料を覚悟の上で、不出頭や虚偽の事実の陳述により、財産を隠し通した方が得ということがありえます。

したがって、財産開示手続の実効性については疑問があるという意見が根強いです。

(2)裁判手続外の債権調査

財産開示手続は、裁判所の手続を利用し、準強制的に債務者から財産を聞き出す方法ですが、実務上は、あまり利用されません。財産開示手続を利用するには、基本的に申立人が債務名義を持っていることが必要ですが、債務名義をとるのにも費用が発生するため、債務者の財産を全く把握できていない状態で、債務名義をとるために民事裁判を起こしたりすることは極めてまれです。

通常は、債務名義を取得する前段階で裁判手続外での債権調査を進め、債権回収の引き当てとなりそうな財産を発見し次第、債務名義を取得し、任意での支払いがなされない場合には強制執行に移るという流れをたどるのです。したがって、債権者にとって、裁判手続外でどのような債権調査を行うことができるのかを把握することは非常に重要です。以下では、対象財産別にどのような調査が行うことが可能か説明していきます。

不動産

債務者の住所や会社本店所在地等が判明している場合であれば、その場所に所在する建物、土地の登記事項証明書を取得し、所有不動産ではないか確認する。多重債務者の場合、いくつかの不動産にまたがって担保権が設定されていることもあるため、この際に共同担保目録を併せて取得すると登記事項証明書の対象不動産以外にも債務者所有の不動産が見つかる可能性があります。

不動産の調査資料 債務者の住所、本店所在地等の調査、登記事項証明書

動産

動産の場合、不動産における登記事項証明書がないため、その調査は困難であることが多い。調査の方法としては、債務者本人やその関係人、債務者が法人の場合は会社ホームページからの業態調査、倉庫等に商品がありそうな業態であれば、商品の保管場所の調査が挙げられます。

動産の調査資料 債務者や関係人からの聴取

預貯金

債務者が個人である場合、債務者は自宅周辺に所在する金融機関に口座を開設している可能性が高い。預金債権の仮差押え及び差し押さえを行う場合には、支店ごとに対象債権を特定する必要があるため、債務者の銀行口座が所在する支店の特定は差し押さえによる債権回収に不可欠な調査である。

弁護士法23条の2において、弁護士会が、公官庁や企業などの団体に対して必要事項を調査・照会する制度(弁護士会照会制度)が定められています。

この制度によって、金融機関に対し、債務者の銀行口座の所在支店について照会をかける方法が調査方法として考えられます。もっとも、かかる照会に応じるか否かは各金融機関によって取扱いが異なるところであるため、確実に所在支店が判明するわけではありません。

債務者が法人である場合、企業等のホームページ上に取引銀行等の記載がある可能性があるため、チェックすべきでしょう。

預貯金の調査資料 住所地周辺の金融機関の調査、弁護士会照会

自動車

自動車は、陸運支局又は自動車検査登録事務所に登録事項等証明書の交付申請をして債務者が所有者か否かを判断することになります。上記の方法による場合、車両番号のほかに車台番号を申請時に示す必要があるため、通常の場合は第三者が登録事項等証明書を得ることはできません。

もっとも、弁護士会照会により、各地域の運輸支局に照会することによって、保存記録照会書を得ることができます。その中には、使用者、所有者の記載があるため、債務者の所有物か否かを確認することができます。

自動車の調査資料 登録事項等証明書、保存記録照会書(弁護士会照会)

生命保険

まず、前提として、生命保険契約の解約返戻金請求権を差し押さえた債権者は、これを取り立てるために生命保険契約の解約権を行使することにより、解約返戻金から債権の回収を行うことができます。

東京地方裁判所の運用によれば、生命保険契約の解約返戻金請求権を差し押さえるにあたって、保険証券番号は債権の特定のために必須の事項ではないとされています。差し押さえのためには、保険会社、契約者、受取人の特定、考えられる被保険者及び保険の種類を記載すれば足りる。生命保険の内容について、必ずしも高い特定性が求められているわけではないが、その内容についても考えられうる保険会社に対して個別に弁護士会照会をかけることによって各種情報を取得することが可能な場合がある。

生命保険の調査資料 弁護士会照会
One point仮差押え

上記のような調査方法が功を奏し、債務者の財産を探し当てられた場合であっても、強制執行を行うため、債務名義を取得しようとしている間に債務者によって財産を処分されてしまっては元も子もありません。

そこで、法律は、民事保全という制度を作っています。民事保全では、権利を主張し訴訟によって債務名義を得ようとしている者について、その時点で債権の存在や仮差押えの必要性が疎明できれば、暫定的に債務者の財産の処分を制限することができます。仮差押えの利用は裁判の利用により債権回収を図るうえで非常に重要です。

費用対効果

(1)執行にかかる費用

<弁護士費用>

差し押さえを行うためには、裁判所に対し、申立書を提出する必要があります。

裁判手続きにおいて提出する文書では、一般的な訴訟や民事執行手続きなどの手続きの種類に関わらず、法的な専門知識を用いて、手続き上必要な事柄について的確に記述をする必要があるため、基本的には法律の専門家である弁護士の関与が必要になります。

したがって、民事執行手続きによる差し押さえを行うためには決して安くはない弁護士費用がかかります

標準的な弁護士費用
債権額 着手金 報酬金
300万円以下 4% 4%
300万円超~3,000万円以下 2.5%+4万5,000円 2.5%+4万5,000円
3,000万円超~3億円以下 1.5%+34万5,000円 1.5%+34万5,000円
3億円超 1%+184万5,000円 1%+184万5,000円

<裁判所に納める費用>

弁護士費用とは別途、裁判所に支払う手続費用が発生します。

手続費用は以下のとおりです(東京地裁の基準を用います。)。

債権を差し押さえる場合

銀行預金や給料などの債権を差し押さえる場合には次のような費用がかかります。

手数料 4,000円
郵便切手 3,217円(ただし、債務者数・第三債務者数によって異なる。)
動産を差し押さえる場合

動産の差し押さえでは、執行官が直接現地に出向き、換価価値のある動産を調査のうえ差し押さえますので、執行官の出張費がかかります。また、動産が建物のなかにあるような場合には、業者を呼んでドアの鍵を開けたり、場合によっては窓ガラスを割ったりして建物内に入る必要があります。したがって、そのような業者費用も必要になります。

執行官の出張費にいくらほどかかるか、どのような業者を呼ぶことになり、業者費用はどれくらいか等は事前に執行官と打ち合わせることになりますが、申立時点においてはその段階で想定できる金額をまとめて予納し、執行終了後にその中から実際にかかった費用を差し引いたうえで返還されることになります。執行官と解錠業者の関与が必要な件ですと大体以下のような費用がかかります。

予納金 2~5万円
解錠業者費用 1~5万円
不動産を差し押さえる場合

最も費用がかかるのが不動産の差し押さえです。債権額に応じて多額の予納金を裁判所に納める必要があります。

手数料 4,000円
郵便切手 92円
予納金 60万円(債権額2,000万円未満の場合。債権額に応じて異なる。)
登録免許税 債権額の1,000分の4

(2)費用対効果

上記のとおり、差し押さえは申し立てるだけでも相当程度の費用が必要になります。

確実に債権回収の引き当てとなる財産が存在し、債権全額の回収が図れる見込みが大きい場合には、高い費用対効果が見込めますが、求める債権額が少額である場合や回収できる見込み額が少ない場合には、費用対効果が低くなってしまいます。

例えば、動産執行において、万が一、差し押さえが空振りに終わったような場合には、債権回収は果たせないにもかかわらず、執行官の出張費用と解錠業者の費用を負担するということもありえます。

差し押さえを考える場合には、事前に債務者の財産をしっかりと調査したうえで、財産の想定される換価価値、回収可能性、差し押さえにかかる費用を総合的に考慮し、差し押さえを申し立てるか否かを判断することが肝要です。

まとめ

差し押さえは債権者にとって便利な手続きではありますが、財産調査をしっかりと行うなど、債権回収の可能性を精査したうえで申立てをしないと自らが費用的なリスクを負ってしまうことになりかねません。債権者は、普段から債務者の財産に気を配り、いざというときに適切なリスク把握ができるよう心がけておきましょう。

(2017年11月)

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