もしもの時の「差し押さえ」基礎知識
強制執行手続きは、債務者から任意の支払いを受けられない債権者が、債権の回収を図るうえでいわば最終手段というべき手続きです。そこで、刑法は、強制執行の妨害行為に対し、刑事罰を科すことにより、強制執行手続きの適正な運用を確保し、強制執行手続きによる債権者の権利実現を保障しています。
強制執行手続きを妨害する者は、以下の各罪に問われ、刑事罰が科されることになります。強制執行手続きも公務の一環であることから、以下の各罪は公務の執行を妨害する罪に位置づけられますが、以下の各罪とも公務執行妨害罪(刑法95条1項)に比べて重い罪が規定されています。
※強制執行妨害に関する罪における「強制執行」には、民事執行法による強制執行の他、民事保全法による保全執行、国税徴収法による滞納処分(税金の滞納による差し押さえ等)も含まれます。
この罪は、強制執行の対象となる財産に対し、損壊等の行為を行った者を処罰する規定です。
刑法96条の2
強制執行を妨害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第3号に規定する譲渡又は権利の設定の相手方になった者も、同様とする。
この罪の対象者が、強制執行の対象者である債務者に限られるのか、債務者以外の人も含まれるのかについては従前から議論のあったところですが、判例は、債務者以外も含むという理解を取っています。したがって、「強制執行を妨害する目的」をもって、1 ~3の行為をした人であれば、債務者以外であっても、この罪に問われる可能性があります。
「強制執行を妨害する目的」とは、一時的ではあれ、強制執行の進行に支障を生じさせる目的をいいます。もっとも、そのような目的を持っていたといえるためには、客観的に強制執行が妨害されうる状態にあることが必要と考えられています。つまり、妨害行為を行った人が、勝手に強制執行が行われると思い込んでいただけではなく、実際に債務名義が取得されている等の状態にあったことが必要です。
強制執行の対象となる、もしくはなりえる財産(不動産、動産、債権)を、「隠したり」、「壊したり」、「本当は他人に譲り渡していないのに譲り渡したように見せかけたり」する行為は1の行為です。「隠したり」(隠匿)する行為には、物理的に持ち去る等することに加えて、自己の所有物を他人の所有物と偽って所有関係を分からなくさせたりする行為も含みます。
判例では、架空の金銭債権を記載した公正証書に基づく競売手続きにより債務者の所有物件が仮想の競落人の所有になったように装った行為、金銭を他人名義で預金する行為、プレハブ造りの未登記建物を解体し、その解体資材を隠匿する行為などが、「隠匿」にあたるとされています。
また、最近では、「アルフレックス」という会社の代表者らが、強制執行を免れるために、アルフレックス名義の銀行口座から二億円を海外にある法律事務所の口座に移して隠匿しようとしたとして起訴されています。「壊したり」(損壊)する行為には、物を破壊する行為だけでなく、汚したりして換価価値を低下させる行為全般を含みます。
「本当は他人に譲り渡していないのに譲り渡したように見せかけたり」(仮装譲渡)する行為とは、本当は他人に譲り渡すつもりがないのに、第三者と謀って形式上財産を第三者に譲り渡した形をとることをいいます。
「改変」とは、例えば、建物について本来必要のない工事をして換価価値を下げることがこれにあたります。
強制執行の対象になっている財産を第三者に無償で譲渡したり、市場価値に照らして著しく低い価格で譲渡した場合がこれにあたります。無償や廉価での譲渡は、債権者の債権回収の引き当てとなる財産を消失させることになるためです。
また、3の行為については、財産を譲り渡した人だけでなく、その譲渡に強制執行を妨害するという事情があることを知ったうえで、財産を譲り受けた人も罪に問われる可能性があります。
この罪に問われると、3年以下の懲役若しくは250万円の罰金が科されることがあります。また、懲役と罰金のどちらとも科される(併科)こともあります。
この罪は、強制執行手続きを進行する執行官や債権者等に対する妨害行為を処罰する規定です。強制執行目的物損壊等罪が強制執行の対象財産に対する行為を規制していたのに対し、本罪は人に対する行為を規制するものです。
刑法96条の3
妨害の対象となる「立入り、占有者の確認その他の強制執行の行為」とは、目的不動産への立ち入りや強制執行の相手方となる占有者の確認行為、さらには、強制執行の現場において執行官がとる行動がこれにあたります。
「偽計」とは、人の判断を誤らせその状態を利用することをいいます。例えば、対象の動産を全く事情の知らない人に占有させて、執行官による占有関係の認定を困難にさせることなどがこれにあたります。「威力」とは、人の意思を制圧させるに足る勢力を示すことをいいます。例えば、執行の現場で怒号することがこれにあたります。
「申立権者又はその代理人」が妨害の対象になります。
強制執行の申立てをさせないようにしたり、既に申し立てられた申立てを取り下げさせようとする目的です。強制執行の申立てが行われなければ、強制執行がなされるおそれは根本的になくなるため、手続きを妨害しようとする債務者にとってみれば効果的な妨害方法といえます。
暴行又は脅迫がこの罪の妨害行為となります。この罪が成立するにあたって、実際に申立てをしなかったことや申立てが取り下げられたことは必要なく、暴行又は脅迫が行われた時点で罪が成立します。暴行や脅迫は、この罪以外にも暴行罪、脅迫罪にあたり得ます。
強制執行行為妨害等罪についても、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれらの併科が罰則です。
強制執行手続きにおいては、最終的に対象財産を売却し、その代金から債権の回収を図ることになります。したがって、売却が公正に適切な値段で行われないと債権者の債権回収が害されるおそれがあります。この罪は、強制執行における売却の公正を阻害する行為を処罰するものであり、平成23年に新設された罪です。
刑法96条の4
偽計又は威力を用いて、強制執行において行われ、又は行われるべき売却の公正を害すべき行為をした者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する
強制執行における売却、すなわち競売手続きが妨害行為の対象となります。
「偽計」又は「威力」が妨害行為となります。強制執行行為妨害等罪における「偽計」、「威力」と同様の意味です。判例では、競売開始決定後に、競売不動産に賃貸借契約が締結されていたという虚偽の契約書を裁判所に提出した行為が「偽計」とされています。賃貸借契約が存在する不動産は、一般的に競売価格が下がるため、当該行為は虚偽の契約書によって、競売価格を下げ、公正な競売を妨害したものといえます。
また、「威力」については、入札終了後、物件の落札者に対し、不動産の取得を断念するように要求した行為がこれにあたるとされています。
上記の二つの罪と同様、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれらの併科が罰則です
強制執行の妨害に関する罪についておわかり頂けましたでしょうか。強制執行手続きは、裁判所や執行官という公的機関が執り行う手続きであり、実際に妨害行為が行われることは少ないですが、全ての債務者が素直に強制執行に従うわけではありません。債権者としては、このページで説明している罪に代表されるような債務者による妨害行為がなされておらず、公正な強制執行手続きが行われているかチェックすべきでしょう。
(2017年11月)
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