プロが教える「競売」と不動産売買
住宅ローンの滞納が続くと、債務者の不動産は競売にかけられてしまいます。その際、債務者へ競売開始通知が届き、この書類を見て初めて、事の重大さに気づくことも少なくありません。そこで、債務者が競売にかけられてしまった場合、どのように対処すればよいのか見ていきましょう。
借入金の債務を負っている債務者が、返済の義務を果たさない場合、債権者は法的な手段を取って債権の回収をはかります。債権を回収する手段はいくつかありますが、競売もその1つです。
競売とは、債務者の財産を差し押さえて強制的に処分し、得られた売却代金の中から、債権の回収をはかる手続きをいいます。不動産は、人が保有する財産の中でも価値が高いため、競売の流れの中で不動産が差し押さえの対象になることも少なくありません。
競売の手続きは、債権者が裁判所へ申立をして行います。債務者は、競売の申立の手続きに関与しません。そのため、債権者が競売を申立てた時点で、債務者自身が競売にかけられてしまったことをまだ把握できないのです。債務者が競売にかけられてしまったことを把握するのは、「競売開始通知」という書類が裁判所から届いたときになります。競売開始通知とは、債権者が競売の申立を行い、裁判所が受理して競売開始決定が出されたときに、債務者へ通知される書類です。
つまり、この書類は、「債務者に対する競売の手続きを始めます」という裁判所からのお知らせになります。競売開始通知が債務者へ届いたとき、差し押さえの効力が生じ、競売の手続きが進んでいきます。それによって、債務者は競売流れの中で、いくつかの不利益を被ってしまうのです。債務者は競売によって被る不利益を回避するため、一刻も早く対策を講じなければなりません。
競売の手続きが進行すると、債務者はどのような不利益を被ってしまうのでしょうか。まず、競売で、債務者の差し押さえられた財産は、裁判所によって強制的に処分されてしまいます。それから、競売で強制的に家売却をされてしまうと、債務者は新しい生活場所を探さなければなりません。その際、経済的に苦しい中、引っ越し費用を捻出しなければならないのです。
任意売却で自宅を処分する場合、債権者や買主から引っ越し費用を一部負担してもらえる場合があります。任意売却とは、借金が返済できなくなった債務者が、債権者の許可を得て、市場で不動産売買を行う取引方法です。しかし、競売で自宅が処分されたときは、債権者や買受人から引っ越し費用を一切負担してもらえないことがほとんどでしょう。さらに、自宅が競売にかけられると、インターネットや新聞紙上に物件の情報が掲載されてしまいます。
それにより、近所や職場の人に自分の家が競売にかけられたことを知られて、悪い印象を持たれることも少なくありません。競売の手続きが進行すると、債務者はこのような不利益を被ってしまいます。それを防ぐには、競売の手続きを止めなければなりません。債権者に競売の取り下げをしてもらえれば、手続きを止めることが可能です。そのため、競売開始通知が債務者の元へ届いてしまったら、債権者に競売を取り下げてもらう方法を考えましょう。
また、債務者の中には、競売開始通知を受け取った際に動揺してしまう人も少なくありません。裁判所は人々の紛争の解決をはかったり、法律の事務手続きを行ったりする機関です。一般の人は、通常の生活の中で紛争の解決や法律の事務手続きをするために裁判所を利用する機会はほとんどないでしょう。そのような状況で、裁判所からいきなり競売開始通知が送付されれば、冷静に対処できなくても不思議ではありません。債務者が競売開始通知を受け取って動揺してしまうと、その後の対処も遅れてしまいがちになります。
そのような事態を防ぐには、債務者が競売開始通知を冷静に受け止める状況を整えておかなければなりません。そのためには、債務者が借入金の滞納をして、裁判所から競売開始通知が届くまでの期間を把握しておくとよいでしょう。住宅ローンが払えない場合、一般的に返済しないまま6~7カ月程度経過すると、競売開始通知が届きます。銀行は債務者が住宅ローンを滞納後、6~7カ月程度で競売を申立てるのです。
債務者へ競売開始通知が届くと、差し押さえの効力が生じて、裁判所は競売の手続きを進めていきます。裁判所は、まず差し押さえた財産を売却する準備をしなければなりません。不動産競売の場合、差し押さえ不動産を処分する基準額を決定する作業が必要になります。
そのため、裁判所は競売開始後、現況調査を行うのです。現況調査とは、現地まで出向き、差し押さえ不動産やそのまわりの状況を調査する作業をいいます。裁判所の執行官が、不動産鑑定士を同行し、差し押さえ不動産の占有者や室内の確認を行い、現況を把握するのです。
現況調査は民事執行法上で規定されている手続きなので、債務者は協力する義務があります。そのため、裁判所の執行官が行う現況調査を拒否できません。現況調査の当日に無断で留守にすると、裁判所の執行官は開錠して作業を行うことになるので、留守にする場合は事前に連絡したほうがよいでしょう。
現況調査が終了すると、裁判所の執行官と不動産鑑定士は、それぞれ現況調査報告書と評価書を作成しなければなりません。現況調査報告書には、差し押さえ不動産の現況や占有関係、評価書には、不動産の評価額やその算出過程が記載されています。裁判所は、現況調査報告書や評価書を参考に、売却基準価額を決定するのです。
また、それと同時に裁判所は物件明細書の作成も行います。物件明細書には、取得できる物件の権利の内容、制限される権利の存在が記載されています。そのため、差し押さえ不動産の買受を希望する人にとって有益な情報となるのです。現況調査報告書、評価書、物件明細書は、競売実務上、三点セットと呼ばれています。
売却基準価額が決定し、売却の準備が整ったら、差し押さえ不動産の処分の手続きに移ります。差し押さえ不動産の売却は、期間入札の方法で行われるのが通常です。期間入札とは、一定期間内に買受申出を希望する人が金額を指定して入札する方法です。また、債務者に対して、「期間入札通知書」という書類が届きます。期間入札通知書とは、差し押さえ不動産の売却に関する詳細な情報が記載されている書類です。期間入札通知書を見れば、売却基準価額、入札期間、開札期日やその会場、売却の決定日を確認できます。そのため、期間入札通知書によって、競売で行われる差し押さえ不動産の売却手続きの日程を把握することが可能です。
通常、債務者へ期間入札通知書が届いて、1カ月半~2カ月後に期間入札が開始されます。そのため、債務者は期間入札通知書を受け取ったとき、競売によって自宅を失うことを実感するでしょう。
入札期間が経過し、入札手続きが終了すると開札手続きへ移ります。開札日に開札が行われ、最も高い金額を指定して入札した人が、差し押さえ不動産を落札することができるのです。落札者が決定した後、裁判所が買受人として問題ないか否かを審査します。不適格事由がなければ、裁判所はその人に対して売却許可の決定を出すのです。それによって、落札者は正式に買受人の地位を得ることになります。
売却許可の決定が出された後、買受人は1カ月から1カ月半後、指定された期限までに、裁判所へ代金を納付します。この時点で、債務者の不動産は買受人へ権利が移転してしまい、自宅を失ってしまうのです。
債務者に競売開始通知が届いた後、すぐに自宅を処分されてしまうわけではありません。裁判所から競売開始決定が出された後、自宅が処分されるまで、最低6カ月以上かかります。競売の手続きが長引けば、1年以上かかる場合もめずらしくありません。債権者から競売を取り下げてもらう時間的余裕があるので、あせらずに対処するとよいでしょう。
競売で自宅を処分されると多くの残債が残ってしまい、自己破産を余儀なくされる場合も多いでしょう。債務者が自己破産競売を回避したいのであれば、債権者から競売を取り下げてもらわなければなりません。そのためには、債権者の協力を得られるように相手との交渉の場で納得してもらえるような話を持ちかけることが大切です。
債権者に対して、任意売却への切り替えの話をすると、納得してもらえる場合が少なくありません。任意売却も、債務者の不動産を処分して得られた売却代金から債権の回収をはかる点で、競売と共通しています。さらに、任意売却は、一般市場で不動産取引を行うため、一般流通価格に近い値段で処分が可能です。そのため、競売よりも高い値段で売却できるので、その分各債権者の配当金も多くなるメリットがあります。
債権者が債権の回収をはかる際、必ずしも競売の方法で手続きすることにこだわっているわけではありません。競売よりも適した債権の回収方法があれば、債権者はそのやり方で手続きすることを考えるでしょう。したがって、債務者が任意売却の話を出して交渉すると、債権者は競売の取り下げに協力してくれる場合が多いのです。
ただ、競売の手続きが開始されてから、いつでも任意売却に切り替えられるわけではありません。競売の取り下げの可能な時期が決まっているからです。具体的には、期間入札が開始する前日までとなっています。この日までに、任意売却の契約を成立させ、代金決済を行い、競売の取り下げをしなければなりません。競売から任意売却へ切り替えて、手続きを完了させるまで、平均1~3カ月程度の期間が必要になります。そのため、債務者に期間入札通知書が届く前までに、競売から任意売却へ切り替えたいところです。
もちろん、競売から任意売却へ手続きを切り替えてから、1カ月未満で手続きが完了する事案も少なくありません。そのため、期間入札通知書が債務者に届いた後からでも、競売から任意売却への切り替えができることもあります。しかし、競売から任意売却への切り替えが早ければ早いほど、スケジュールに余裕が生じ、債権者、債務者相互が納得できる形で手続きが完了する可能性が高くなるでしょう。
競売の手続きが開始してから、債務者へ期間入札通知書が届くまで、3~6カ月程度の期間があります。債務者が競売開始通知を受け取ってから、できるだけ早い時期に競売から任意売却への切り替えを行うと、安心して手続きを進められるでしょう。不動産の仲介業者の中には、任意売却案件を専門に取り扱っているところもあります。任意売却の専門業者へ手続きを依頼すれば、債権者との交渉もすべて代行してもらうことが可能です。それにより、任意売却に関する知識がなくても、スムーズに手続きを進められるでしょう。
競売の取り下げの手続きは、裁判所へ取下書を提出して行わなければなりません。取下書には、競売の申立をした際に付された事件番号、取り下げ日、競売の申立人、取り下げの対象不動産を記載します。さらに、競売の申立人は取下書に捺印をしなければなりません。取下書に捺印する印鑑は、原則競売申立書に捺印した印鑑と同じものでなければならないことに注意が必要です。
任意売却をするために競売の取り下げを行うときは、代金決済後に裁判所へ取下書を提出します。その際、手続きを代行する司法書士が、債権者と同行して裁判所へ取下書を提出する場合も少なくありません。適法に競売の取り下げの手続きがなされると、裁判所書記官は、競売不動産に設定されている差し押さえ登記の抹消手続きを行います。差し押さえ登記の抹消手続きをする場合、登録免許税を納付しなければなりません。
したがって、競売の取り下げの手続きをするときは、取下書と一緒に対象不動産1個につき1000円の収入印紙を提出する必要があります。裁判所によっては、館内やその近辺で収入印紙を入手できないこともあるので、事前に準備しておいたほうがよいでしょう。
債権者が競売を申立てて裁判所が受理したときに、債務者へ競売開始通知が届きます。しかし、競売の手続きが開始されてから、自宅が処分されるまで6カ月から1年以上かかるのが通常です。債務者へ競売開始通知が届いてからすぐに動き出せば、競売の手続きを止められる可能性も少なくありません。一般的に競売よりも任意売却を利用したほうが、自宅を高い価格で処分できます。それにより、債権者も回収できる金額が増えるので、競売の取り下げに応じてくれることも多いのです。
どうにかして競売の手続きを止めたいと考えている債務者も多いでしょう。そのような場合、競売開始通知が届いたら、すぐに任意売却への切り替えを行うことが大切です。
(2017年11月)
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