プロが教える「競売」と不動産売買
借金を返済できなくなった債務者の財産を差し押さえ、処分して得られた代金から債権を回収するのが競売の手続きです。債務者が住宅ローンを滞納したとき、銀行が競売の申立をして解決をはかる場合も少なくありません。そこで、競売はどのような流れで手続きが進んでいくのか、具体的に見ていきましょう。
住宅ローンを滞納してから2カ月程度は、銀行からはがきや手紙で催促されるのが通常です。はがきや手紙には返済が未入金になっている旨が書かれ、滞納分の返済日や返済回数、返済期日なども記載されています。銀行によっては、遅延損害金の記載があることも少なくありません。
また、催促に関する文言もありますが、「返済用口座へご入金をお願いします」というソフトな口調のものです。「法的手段を取る」といったような厳しさはありません。そのため、この時点ではあまり危機感を持たない人も多いでしょう。
しかし、今後も延滞が続くと、全国銀行個人信用情報センターへ報告する旨の記載があります。全国銀行個人信用情報センターとは信用情報機関の一つで、個人の収入や勤務先、借入に関する情報が登録されている機関です。この機関へ延滞情報が登録されると、お金を借りるときの与信審査の通過が難しくなり、ローンやクレジットカードが利用できなくなるのです。そのため、この時点で送付されるはがきや手紙にも重要事項が記載されていることから、安易に扱わないほうがよいでしょう。
また、はがきや手紙の送付だけでなく、銀行の融資担当者から直接電話で催促される場合もあります。未払いである旨やその事情を聞かれるのが一般的なので、それほど億劫になる必要はありません。返済できない事情を正直に伝えて、誠意を持って対応したほうがよいでしょう。個人の経済的な事情や住宅ローンの残債額によっては、任意売却で解決する場合も考えられます。誠実な対応をしておけば、銀行側も任意売却をする際、協力的な姿勢を示してくれる場合も多いでしょう。
滞納してから3カ月目にさしかかると、銀行の請求は厳しくなります。具体的には、督促状や催告書を送付して債務者に支払いを請求してくるのです。最初に送付されてくるのが督促状です。それでも支払いがない場合、最終通告の意味合いで催告書を送付してきます。督促状や催告書には、法的手段を取るような文言も見られるため、受領した本人の中には危機感を持つ者も少なくありません。
催告書は、茶色の封書で届くのが一般的で、滞納分の支払い請求と返済しないときの対処方法が記載されています。前者は元金のほかに遅延損害金の請求も含まれています。後者は、「期限の利益を喪失させて、保証会社に代位弁済を求める」という内容です。法的な専門用語が並んでいるので、読んでも意味のわからない人が多いかもしれません。期限の利益を喪失し、代位弁済が実行されると、債権を回収する手続きが本格的に始まります。債務者がそのことを理解したときに事の重大さに気づく場合も多いでしょう。
また、催告書を内容証明郵便で送付してくる銀行も少なくありません。そのため、内容証明郵便による催告書を受領すると、すでに法的手続きを取られていると思ってしまう債務者もいます。
しかし、銀行から督促状や催告状が送付されてきた場合でも、まだ対処可能です。これまでの滞納分を一括で支払えば、これまで通り住宅ローンの支払いを続けられます。ただし、住宅ローンの支払い3か月分と遅延損害金を合わせると、数十万円単位の金額になることが多く、銀行の請求に対応できない債務者も少なくないでしょう。
督促状や催告書を受領しても、債務者が滞納分の支払いをしない場合、銀行は期限の利益を喪失させる手続きを開始します。銀行が予告通知書を送付し、債務者が返済しないまま書面上の指定期日が経過すると、期限の利益が喪失してしまうのです。これによって、債務者は住宅ローンの残債を一括払いしなければなりません。
なぜ期限の利益を喪失すると、債務者は一括返済しなければならないのでしょうか。それには、期限の利益喪失の仕組みを理解する必要があります。
期限の利益喪失とは、「借入金の支払い期限が到来するまで、返済しなくてもよい」という債務者側の権利です。住宅ローンは、毎月決められた金額を分割で返済する契約になっています。そのため、月々の支払期日にその金額を返済すれば問題ないのです。
例えば、総借入額が1500万円で、月々の返済額が8万円の住宅ローンの契約をしたとしましょう。この場合、最初の支払期日では8万円返済すればよく、残りの1492万円は返済不要です。なぜなら、支払期日が到来していないので、債務者側に期限の利益があるからです。
しかし、通常、住宅ローンの契約には、期限の利益喪失条項が定められています。滞納が3~6カ月程度続くと、銀行は期限の利益を喪失させることが可能です。この手続きが実行されると、債務者は分割払いができなくなり、一括返済をしなければなりません。一般的に住宅ローンの滞納者が、一度に数千万円単位の額を支払うのは無理です。そのため、期限の利益喪失の手続きが実行されると、債務者は住宅を処分せざるをえなくなる場合が大半なのです。
期限の利益喪失により、銀行は債務者へ一括返済の請求ができます。しかし、銀行が直接債務者へ請求するわけではありません。住宅ローンの契約時、保証会社が債務者の保証人になっているのが通常です。そのため、銀行は保証会社へ残債を一括請求することになります。保証会社は、債務者の代わりに、住宅ローンの残債を肩代わりしますが、これを代位弁済といいます。
この手続きにより、保証会社は銀行に代わって、債務者へ残債全額を請求する権利を得るのです、したがって、債務者は、代位弁済が行われた後、保証会社へ全額返済しなければなりません。また、住宅価格よりローンの残債が多い場合、競売や任意売却により不動産を処分しても、債務が残ってしまいます。このような時は、保証会社からサービサー(債権回収業者)へ債権譲渡されることも少なくありません。そのため、オーバーローンの場合はサービサーが債権者になることもめずらしくないのです。
代位弁済の手続きが開始され、住宅ローンの残債全額と遅延損害金を一括返済できなければ、債権者は競売の手続きを進めます。競売とは、裁判所で債務者の財産を強制的に処分してもらい、その代金から債権を回収する手続きです。
ただ、代位弁済後でも、金融機関によっては任意売却が可能なケースもあります。任意売却で解決したい旨を金融機関に伝えれば、競売の手続きを止めてもらえるでしょう。また、金融機関側から債務者へ任意売却を勧められる場合も少なくありません。
代位弁済後も債務者が返済しない場合、債権者は競売の申立の手続きを進めます。金融機関によっては、手続きする旨を予告通知するところもありますが、そのまま実行するところも多いです。不動産競売の申立がされてから数日で開始決定が出ることもめずらしくありません。
債権者が裁判所競売の申立をした後、裁判所が開始決定を出すと、債務者へはその旨の通知が届きます。担保不動産競売開始決定通知書と呼ばれる書類で、請求する債権に設定されている担保権に基づき、競売不動産を債権者のために差し押さえる旨が記載されています。登記簿謄本にもその旨の登記が反映されるため、競売の事実が外部に公開されてしまいます。
ただし、競売の手続きが進んで不動産を差し押さえられても、まだ任意売却はできますので、債務者は差し押さえを取り下げてもらい、競売をストップさせることが可能です。任意売却は開札期日の前日までであれば手続きできます。開始決定から開札期日まで半年前後の時間を要するので、十分間に合うでしょう。
また、競売手続きが進んで競売物件の権利が買主に移転するまで、債務者は立ち退きを請求されません。そのため、競売の申立を受けても、必要以上に不安を感じなくてもよいでしょう。
不動産競売流れの中で競売物件を処分する場合、適正な価格を定めなければなりません。競売物件とは、不動産競売によって差し押さえられて処分される物件のことです。登記簿謄本や固定資産評価証明書の記載事項を確認すれば、競売物件の状況、権利関係、評価額がわかります。しかし、現地へ足を運んで競売物件の状況を確認しないとわからないことも少なくありません。所有者以外の占有者がいたり、書類上の情報と実際の物件の情報が違ったりする場合もめずらしくないのです。
したがって、裁判所執行官が競売物件の所在地を訪問して、現況調査を行うことになっています。債務者にも、この現況調査のために裁判所執行官が訪問する旨の通知が届きます。
裁判所執行官が現況調査を行う場合、不動産鑑定士と一緒に競売物件の所在地を訪問するのが一般的です。不動産鑑定士とは、物件や地域の状況を考慮して、適正な価格を判断する不動産の専門家になります。裁判所執行官は、競売物件を適正に評価できる知識を持っていません。したがって、不動産鑑定士の専門知識を活用して、業務を遂行していくのです。裁判所執行官が現況調査を行う際に一番重要視するのは、競売物件の占有状況とその開始時期になります。そのため、自宅の状況の聞き取りに力を入れて行う場合が多いでしょう。
また、現況調査は、法律上の規定による手続きなので、所有者の意思に関係なく強制的に行われます。物件のドアが施錠されていても、裁判所執行官は開錠して入ることが可能です。そのため、現況調査の当日、裁判所へ連絡しないまま不在にしないほうがよいでしょう。どうしても都合がつかないときは裁判所へ事前に連絡すれば、現況調査の日程を変更してもらえます。
現況調査が終了すると、裁判所は競売物件を処分する手続きへ移ります。まず、裁判所は物件明細書や売却までのスケジュールを公開し、一般公募で買受希望者を募集します。その後、裁判所は、入札によって競売物件の買受人を決めるのです。入札とは、買受希望者が、裁判所へ金額を指定して、競売物件を購入する意思を示すことです。競売で行われる入札には、期間入札と期日入札があります。
前者は、一定期間を定めて行う入札手続きで、設定される期間は1週間前後である場合が多いです。一方、後者は特定の日を指定して行う入札手続きで、入札から落札まで1日で行います。競売物件を処分する手続きは、期間入札の方法で行われるのが大半です。なお、債務者には、競売物件の売却を実施する前に、期間入札の通知が届くので、手続きの詳細を把握することができます。
買受希望者が入札するとき、購入希望額を指定する必要がありますが、その額は売却基準価額の80%以上でなければなりません。また、買受希望者が入札する際、売却基準価額の20%以上の保証金を提供することが求められます。入札者の中から、一番高い金額を指定した者が、競売物件を落札でき、買受人となるのです。
競売流れの中で任意売却を考えている人にとっても、期間入札の開始日は重要な日となります。任意売却で不動産を処分するには、差し押さえを取下げなければなりません。競売の申立人が単独で差し押さえを取下げるには、期間入札の開始日の前日までに手続きする必要があります。したがって、不動産競売流れの中で、任意売却へ切り替えようとする際は、期間入札の開始日を意識して遅れないようにしましょう。
競売物件の落札者が決定後、裁判所は売却許可決定を出すか否かを判断します。落札者が買受人として不適切な場合も考えられるからです。落札者に売却不許可事由がない限り、裁判所は基本的に売却許可決定を出します。売却不許可事由の具体例としては、落札者が債務者である場合があげられます。また、競売物件が農地で、農業委員会から権利移転の許可を受けていないときも同様です。
裁判所から売却許可決定が出されると、代金納付期限通知書が買受人へ送付されます。代金納付期限通知書には、競売物件の代金とその納付期限、書類受領者を買受人として売却を許可した旨が記載されています。買受人は、納付期限までに代金を納付すれば、競売物件の所有権を取得することが可能です。買受人が納付した代金は、各債権者への配当に回されます。
所有権が買受人へ移転した後、元所有者や賃借人が競売物件を引渡さない場合も少なくありません。この場合、買受人は法的手段を用いて立ち退きを求めます。具体的には、競売物件の代金納付後、裁判所へ引渡命令を申立てて、それを根拠に強制執行手続きを行うのです。引渡命令は代金納付後、6カ月以内にしなければなりません。したがって、元所有者や賃借人から競売物件を引渡してもらえない場合、買受人は代金納付日に引渡命令を申立てる場合も多いのです。
住宅ローンを滞納しても、いきなり自宅が処分されたり、自宅から追い出されたりするわけではありません。銀行が法的手段を取って競売の申立を行うのは、住宅ローンを滞納してから6~7カ月後です。さらに、自宅を処分されたり、追い出されたりするのは、競売の申立から1年以上先である場合もめずらしくありません。競売の手続きが終了するまで、時間的に余裕があります。そのため、債務者は住宅ローンを滞納してから、競売をストップさせる方法をじっくり考えることが可能です。
(2017年11月)
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