家はどうなる?自己破産ガイド
自分の債務の管理ができずに債務超過となって支払不能となったとき、自己破産するために破産宣告(破産手続開始決定)を申立てることができます。破産宣告(破産手続開始決定)がなされると、破産者となります。そして免責許可決定をもって、すべての債務はゼロになるのです。ところが、免責許可決定が出ても、破産者(債務者)が支払わなければならない債務があります。自己破産したにも関わらず、支払う義務がある債務とは一体何なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
冒頭でも確認しましたが、破産手続に続いて免責許可決定がなされたならば、破産者の債務はゼロとなり、破産者(債務者)はすべての債務を支払う必要がなくなります。問題はこの時、支払う必要がなくなった債務がどうなるかということです。消えてなくなると考えるのでしょうか、それとも残っていると考えるのでしょうか。この答えを考えるときに、非常によい教材問題がありますので、ご紹介しましょう。
Aさんが破産宣告(破産手続開始決定)を受けました。免責許可決定が出たので、知人のBさんから借りていた100万円も支払わなくてよくなりました。その後Aさんはがむしゃらに働いて多額の収入を得るようにまでなりました。そこで、かねてよりBさんに申し訳ないと思っていたAさんは、「あの時は申し訳なかった。稼げるようになったから、借りていた100万円を返すよ。」と言って、現金100万円をBさんに渡したのです。Bさんは正直貸した金が返って来ずに憤慨していたので、返すのが当然だろうという気持ちで100万円を受け取りました。
ところが半年後、Aさんの事業が傾き始めてしまいました。そこでAさんはBさんに返した100万円を思い出したのです。早速Bさんのところに行き、「免責許可決定が出たのだから、本来100万円を渡す必要はなかったのだ。100万円がどうしても必要だから、返してくれ。」と言い出したのです。Bさんは怒りました。「元々この100万円は俺のものだから、返すものか!」とAさんを怒鳴りつけたのです。さて、Bさんは100万円をAさんに返さなければならないのでしょうか。
どういう結論を導くと、皆さんは納得できるでしょうか。おそらく、Bさんは返さなくてもよいのではないかという答えが、多数派だと思います。裁判所も学者の先生方も、実はそのように考えています。
この場合、なぜBさんは返さなくてよいのでしょう。その理由は、免責許可決定が出たときに払わなくてよくなった債務は、消えてなくなったのではないからと考えるのです。消えずに残っているのだと考えます。残ってはいるけど、返せとは言えない債務なのだと考えるのです。債権者は債務者に返せとは言えないまま、債務者は返す義務がないまま、そのまま残っていると理屈上考えます。そのために、Bさんは100万円を正当に受け取ったのだから、Aさんに返す必要はないという結論が導かれるのです。
このように、返せといえない、返す義務もない債務のことを自然債務という言い方をしています。自己破産して免責許可決定をもらったら、支払うべき債務はゼロです。しかし、自然債務という支払う義務のない債務は残っているということになります。そうです、自然債務には支払いの義務はないのです。任意に返すことはできる債務に過ぎません。
自然債務には、支払いの義務はありませんでした。では支払う義務が残る債務というのは、どこにあるのでしょう。世の中には、原理原則があれば必ず例外があります。免責の例外として、支払い義務を負う債務が存在すると考えるのが妥当でしょう。その通り、確かに免責されない債務(非免責債務)は、破産法の条文の中にしっかりと存在していました。具体的に確認していきましょう。
滞納していた税金や国民年金、健康保険、罰金などは、破産によっても免責されません(破産法第253条1項、第253条7項)。支払い義務が残ります。これは、国庫収入の確保という政策上の理由と制裁の意味で定められています。しかしながら、国民年金や健康保険は、免除や減額、猶予という手続ができますので、社会保険事務所や市町村役場に相談してみるべきでしょう。
不正に他人を害する意欲あるいは積極的な害意をもって、詐欺などをはたらいて金銭等をだまし取った損害賠償は、支払う義務が残ります。この規定は、明らかに破産者に対する制裁としての意味を持ちます(第253条2項)
人の生命・身体を法的に守る必要性を考慮して、非免責債権とされました(第253条3項)。
一般的に経済的弱者となる妻子の保護の為に、非免責債権として認められました(第253条4項)。
経営者の自己破産が原因で、従業員が生活できなくなることを防ぐために、非免責債権として認められました(第253条5項)。
破産者が債権の存在を知っていながら、わざと債権者名簿に記載しなかった場合、その債権者は免責に対する異議申立の機会を奪われたことになり、免責に対する防衛の機会を奪われたという結果になります。そのため、非免責債権になっています。ただし、債権者が破産の決定があったことを知っていた場合は、免責となります(第253条6項)。
以上見てきたように、政策的意味合いや制裁、人の生命・身体の保護というような趣旨から免責されない債務が、破産法に規定されています。常識的に考えてみても、これらの債務までを免責する必要性はないと考える方が、一般的な考えでしょう。
債務超過となり支払い不能になったため、自己破産するために破産宣告(破産手続開始決定)の申立てをする一番の理由は、免責の恩恵を受ける為です。今まで見てきたように、一部の非免責債務は残りますが、通常の借金(債務)については、免責され、支払いの義務がなくなります。
しかし、免責不許可事由に該当すると、免責許可決定がおりません。軽微なものであり破産者(債務者)が真摯に反省している様子が窺えれば、裁判所の裁量による免責となることもあり得ます。以下に免責不許可事由の代表的なものを紹介しましょう。
このような免責不許可事由に該当していると、本来免責されません。
しかし、裁判所の裁量で、真摯に反省して誠実な態度をみせる破産者は、免責許可を受けることもできるのです。
ところが、裁判所の裁量免責でも救済されない場合が少なからずあります。この場合は、破産者となるにも関わらず免責許可決定が出ないという最悪の事態を迎えます。破産者になるにはなっていても、免責の恩恵がないのです。これは、望んでいた自己破産とは全く違う事態になってしまっています。どのような状況でそのような結末になり、どのような影響を及ぼすのか見ていきましょう。
以上のようなケースは、裁判所に悪質と判断され、免責許可決定がなされません。こうなると、免責手続の前に既に破産手続が終了していますから、免責のない破産者です。抱えているすべての債務を支払う義務が残ったまま、破産者なのです。年間で2%前後の割合でしかありませんが、そのような悪質なケースは存在しているのです。
免責の無い破産者となると、どのような影響が及ぶのでしょうか。自己破産にはメリットとデメリットがありますが、このケースでは、メリットがありません。はっきり言って、何一つよいことはありません。あるのは、デメリットのみです。
1.信用情報機関のいわゆる、ブラックリストに氏名が登録されます。
自己破産をすると、破産者であるということが登録されるのです。したがって、7年から10年はローンを組んだりキャッシングをしたりすることはできなくなります。全国銀行協会が最長10年間の登録です。
2.自分の財産を失うことになります。不動産を所持していれば、失います。自宅を所有していたならば、引っ越しを余儀なくされ、車も失います。現金、預貯金、解約した保険の返戻金なども失うことになります。
3.生活における制限事項
免責無き破産者は、すべての債務の支払い義務を抱えたまま、このようなデメリットが付加されるという状態に陥ります。
自分の債務を支払わなくてもよしとしてくれる自己破産は、債務者にとってありがたい法的制度です。抱えていた借金を一銭も払わなくてよいと認めてくれるのです。それを裁判所という日本国の法的機関が公に認めてくれているのです。
しかし、これほどの凄い制度でも、支払い義務を消せない債務が存在しました。それも破産法の条文の中にしっかりと規定されています。この債務は、破産者が免責される代わりに第三者が損をしないようにして、破産者の責めに帰すべき責任は、破産者が負うべしという判断が働いています。国庫の収入確保という政策的な一面も確かにあります。しかし、債務者に支払いの義務を背負わせるのもやむを得ないものだと、常識的に判断できる債務ではないでしょうか。
また、悪質な破産者に関しては、免責なき破産者として、すべての債務についての支払い義務が残っています。こちらも常識的にしょうがないと判断できるものです。ところで免責となって払わなくてよくなった債務は、自然債務となって存在しています。これは支払い義務のない債務です。債権者も返せとは言えない債務に変質してしまっています。
(2017年11月)
家はどうなる?自己破産ガイド
住宅ローンが払えなくなると破産!?自己破産について解説します。
いざという時にトラブルにならないために、差し押えのことが学べます。
独自の掲載基準で安心の不動産会社に査定依頼できるサービスです。依頼後は、 早くて当日中に 不動産会社から連絡がきます。
家や土地を
「急いで現金化したい」方
競売で家を手放す前にできることは?競売と任意売却の違いは?徹底解説します。
住宅ローンが払えなくなると破産!?自己破産について解説します。
いざという時にトラブルにならないために、差し押えのことが学べます。
ホームズ不動産査定は、ご本人またはご家族が所有する不動産の売却を希望する、個人のお客様向けサービスです
※査定依頼物件が、依頼者の所有物件ではないと弊社が判断した際、依頼内容を削除する場合があることをあらかじめご了承ください