国土交通省の「令和5年度マンション総合調査結果」によれば、建物の不具合に関するトラブルのうち、水漏れが「20.1%」ともっとも高い割合を占めています。マンションでは上下左右に隣接した住戸があるため、水漏れによる被害が大きくなりやすいのが特徴です。
また、放置をすれば建物自体に影響を及ぼすため、水漏れを発見したときには早急な対応が求められます。水漏れの原因としては、主に「設備の老朽化」「入居者の過失(水の出しっぱなしなど)」の2通りが挙げられます。
原因によって、誰が損害賠償などの責任を負うのかが変わってくるため、ルールを適切に理解しておくことが大切です。今回は、「入居者に責任がない場合」と「入居者に責任がある場合」「上階から被害を受けた場合」の3つのパターンについて、損害賠償の基本的な考え方を解説します。
(出典:国土交通省『令和5年度マンション総合調査結果(概要編)』)
賃貸物件を探す叶えたい条件で賃貸物件を探す
入居者自身に故意・過失がない場合

まずは、入居者に責任がないケースについて見ていきましょう。
修繕費・損害賠償費用は原則貸主の負担
賃貸マンションにおいては、経年劣化などによる自然な故障・損耗についての責任は、貸主が負うこととなっています。水漏れについても、配水管の老朽化などが原因で入居者に責任がない場合、修繕費や損害賠償は貸主の負担となります。
特約がある場合も無効
賃貸借契約時には、通常のルールとは異なり、貸主と入居者の間で特約を交わすこともあります。たとえば、電球の交換やパッキンの交換などの「小修繕」は、すぐに直せなければ入居者が不便を感じてしまうことから、特約で自己負担とされているケースも多く見られます。
しかし、配水管などの主要構造部については、特約をつけることができません。そのため、経年劣化による水漏れは基本的に貸主が負担すると考えてよいでしょう。
賃貸物件を探す 叶えたい条件で賃貸物件を探す
入居者自身の故意・過失が原因の場合

続いて、入居者の故意・過失が原因であるケースについて見ていきましょう。
入居者が責任を負う可能性があるケース
以下のように、入居者側に故意・過失がある場合は、入居者が損害賠償責任を負うのが一般的です。
- 水道の出しっぱなし
- 凍結の恐れがあるエリアで水抜きを怠った
- 洗濯ホースの取り付け不良
- 防水されていない床に水をまいて掃除した
- 水漏れ通知を怠って被害が拡大した
上記のようなケースは、入居者の使い方が「通常の使用の範囲を超えている」と見なされます。そのため、被害が発生した場合には、入居者自身が損害賠償責任を負うケースが多くなります。
また、水漏れそのものは経年劣化によるものでも、「通知を怠ったことで被害が発生・拡大した場合」には損害賠償責任を負う可能性があるので注意が必要です。
被害の範囲によって適用できる保険が異なる
賃貸マンションにおける水漏れトラブルは、被害金額が大きくなりやすいのが特徴です。そのため、入居者が責任を負わなければならないケースでは、基本的に入居者が加入している保険でカバーすることとなります。
このとき、被害の範囲によって利用できる保険の種類が異なるので注意しておきましょう。自身が借りている部屋に被害が発生してしまった場合には、入居時に加入した火災保険の中から、「借家人賠償責任保険」を適用させて補償します。一方、階下に発生してしまった被害については、「個人賠償責任保険」で補償する必要があります。
借家人賠償責任保険は貸主に対する補償であるため、入居時に加入するのが一般的です。それに対して、個人賠償責任保険は入居者が加入しているその他の保険に付帯させて加入するケースがほとんどです。自転車や自動車の保険、クレジットカードなどに付帯させて加入することができるので、加入の有無や補償の内容を確認しておきましょう。
上階からの水漏れで被害を受けた場合の対処法

賃貸マンションに住んでいると、上の階からの水漏れで自身が被害を受けてしまう可能性もあります。ここでは、自身が水漏れ被害を受けた場合の対処法について解説します。
原因によって誰が責任を負うかが変わる
自身が水漏れ被害を受けた場合も、原因によって責任の所在が変わるのは同様です。上階の入居者に故意・過失がなければ貸主が損害賠償責任を負い、故意・過失があれば上階の入居者が損害賠償責任を負うこととなります。
入居者同士で直接話し合うのはNG
貸主に責任がある場合は、対応次第で入居者全体に影響が及ぶ可能性もあるため、比較的にスムーズに話を進めてもらいやすいといえます。一方、上の階の入居者に責任がある場合は、対応によって話がこじれてしまう可能性も考えられます。
まず、トラブルを避けるために、直接上の階の住人と話をつけようとするのはやめましょう。正確な状況を記録するためにも、写真や動画などを撮影しておき、すぐに貸主や管理会社へ連絡することが大切です。
そして、被害の原因や度合いが明らかになったら、上の階の入居者が自身の保険や財産で損害賠償を行うこととなります。ただし、個人からの賠償には時間がかかることもあり、なかなか支払ってもらえないリスクもあります。
この場合は、自身の火災保険に含まれる家財保険に「水濡れ補償」があればカバーできる可能性もあるので、念のために加入している保険の内容をチェックしておくとよいでしょう。
賃貸物件を探す 叶えたい条件で賃貸物件を探す
〈具体例で確認〉水漏れトラブルに関する解決事例を紹介

賃貸物件における水漏れトラブルについては、実際の事例を参考に対処法をイメージしておくことも大切です。国土交通省では、直近の賃貸物件におけるトラブル事例をまとめ、「改正民法施行に伴う民間賃貸住宅における対応事例集」として紹介しています。
ここでは、事例集から水漏れトラブルに関するものをいくつかピックアップして見ていきましょう。
上階ベランダの劣化による軽微な水漏れ:賃料50%相当額を減額
一つめは、上階ベランダの劣化により、雨が降った際に軽微な水漏れが生じてしまったという事例です。この事例では雨漏りが軽微であったことから、工事が完了するまでの間も、入居の継続には特に影響がありませんでした。
しかし、工事が終わるまでに発見から50日程度の時間がかかってしまったため、貸主から入居者に賃料の減額が提案されました。その結果、月額賃料の50%相当額を減額するという形で決着しています。
水漏れでトイレが使用不能になった:賃料の30%相当額を減額
続いて、水漏れでトイレが使えなくなってしまったという事例をご紹介します。この事例では、入居時にトイレのクリーニングが不十分であり、改めて清掃を行ったところ、床と便器の接合部から水漏れが見つかりました。
その後、入居者から相談を受けた管理会社が貸主に状況を報告し、交換工事の了承を得たうえで工事業者に依頼し、20日後に工事を完了させました。このケースでは、交換までに20日程度の時間がかかった点などを踏まえて、当事者間で話し合った結果、月額賃料の30%相当額が減額されることとなりました。
(出典:国土交通省『改正民法施行に伴う民間賃貸住宅における対応事例集』)
記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:賃貸マンションの経年劣化による水漏れは誰が損害賠償責任を負う?
A:入居者に原因がなく、経年劣化によって水漏れ被害が生じた場合は、貸主が責任を負うことになります。ただし、入居者が水漏れを見つけたにもかかわらず、報告や相談を怠ったまま被害が拡大してしまった場合は、入居者が責任を負う可能性もあります。
Q:借主が原因の水漏れはどのように責任を負う?
A:借りている部屋の被害については、借家人賠償責任保険でカバーします。一方、階下や隣室などに被害が発生してしまった場合には、個人賠償責任保険でカバーします。被害の範囲によって適用できる保険が異なるため注意が必要です。
賃貸物件を探す 叶えたい条件で賃貸物件を探す
公開日:










