物件を借りる際に、「賃借人(ちんしゃくにん)」や「賃貸人(ちんたいにん)」が誰のことを指すのか正しく理解しておくことは、賃貸借契約を結ぶうえでの大事なポイントです。
この記事では、賃借人と賃貸人の意味や違い、定められている義務などを解説します。
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賃借人とは? 賃貸人との違い

不動産において「賃借人」とは、お金を払って物件を借りる人を指します。反対に、物件を貸す人を「賃貸人」といいます。分かりやすくいえば、賃借人が家賃を支払う入居者であり、賃貸人は大家さんのことです。
気をつけておきたい点として、賃貸借契約書の文面では賃借人や賃貸人のことを「甲」や「乙」と記載する場合が多いので、どちらが「借りる人」なのか「貸す人」なのかをよく注意して読む必要があります。
書面の内容で不明点があればそのままにせず、不動産会社や大家さんに対して説明を求めることが大切です。
賃借人の3つの義務とは

賃借人には、物件を借りる際に、さまざまな義務が生じます。ここでは、主に3つの義務について解説します。
賃料支払い義務
賃貸借契約書で取り決めた賃料を支払う義務が、物件を借り続けるかぎり賃借人には発生します。この義務は、家賃を賃貸人に支払うということであり、期日までに支払いが完了しないと、家賃滞納となるので注意が必要です。
原状回復義務
原状回復義務とは、賃借人が退去をする際に、入居したときと同じ状態で物件を賃貸人に返す義務のことをいいます。
しかし、時間の経過による劣化(経年劣化)や、通常の利用によって生じた汚れ(通常損傷)については、原則として入居者に回復義務はありません。
入居者の故意や過失、通常とは異なる使い方でつけた傷や汚れが対象となり、必要に応じて修繕費用を負担します。たとえば、喫煙による壁の汚れやペットが床につけた傷などが当てはまります。
契約内容遵守義務
賃貸借契約書の内容をきちんと守る義務のことです。物件によって賃借人が守らなければならないルールが定められています。
たとえば、増改築や自宅の貸し出し(転貸)の禁止が定められていることが多いといえるでしょう。また、ほかの入居者に対する迷惑行為(騒音など)を続けている場合には、契約違反となってしまい、最悪の場合は退去を迫られることもあります。
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賃貸人の3つの義務とは

賃貸借契約を交わす際は、賃借人が負う義務がある一方で、賃貸人にも義務が発生します。どのような義務が生じるのかを見ていきましょう。
使用収益させる義務
マンションやアパートの物件を貸す場合に、入居者が生活する部屋はもちろんのこと、共有スペースも問題なく使用できる状態にしておく義務が賃貸人には課せられています。
たとえば、入居者が廊下や階段も安全に利用できるように、環境を整えておくことなどが該当します。
修繕義務
修繕義務とは、入居者が部屋を問題なく使用できるように、必要に応じて設備を修繕したり取り換えたりする義務のことです。賃貸人は設備の故障や騒音トラブルといったような問題に対応して、入居者が快適で安全に暮らせる状態をつくる必要があります。
費用償還義務
部屋に何らかの不具合が発生して賃借人が対応した場合に、その費用を賃貸人が負担するという義務です。この費用は大きく分けて「必要費」と「有益費」があります。
必要費とは、雨漏りへの対処や破損した窓ガラスの交換といったような、安全に暮らすために必要な修繕費のことです。一方で有益費とは、温水洗浄(暖房)便座の設置といった物件の価値を高める費用を指します。
どちらも、賃貸人が一部または全額を負担するものですが、可能であれば賃借人は物件を借りる前に修繕を依頼しておいたほうがよいでしょう。
また、修繕費用を賃借人が支払った場合、必要費は賃貸人にすぐに請求できるのに対して、有益費は退去時に請求するという違いがあります。トラブルを避けるためにも、修理や設備の設置などを行うときは、あらかじめ賃貸人に連絡をして確認しておくことが大切です。
賃貸人の許可が必要な行為

定められた賃料を支払い、ルールに沿って使用すれば、入居者は部屋を自由に使うことができます。ただし、賃貸人の許可がなければ行えないものもあるので、事前に確認をしておきましょう。
転貸
転貸(てんたい)とは、自分が借りている物件をほかの人に貸すことです。いわゆる「又貸し」であり、ほとんどの物件で禁止されている行為です。
旅行者に自分の部屋を一時的に利用してもらったり、事務所をコワーキングスペースとして貸し出したりする場合も、転貸にあたる可能性があります。
ペットの飼育
物件を借りる際に、賃貸借契約書に「ペット飼育可」の記載がない場合は、勝手にペットを飼うことはできません。ペットの飼育が可能な部屋であっても、飼える種類や数に制約がある場合が多いです。
原状回復ができないDIY
前述のとおり、賃借人には物件を入居時と同じ状態にしてから退去する義務があります。そのため、原状回復できないDIYを行うことはできません。
たとえば、柱にくぎを打って棚を設置したり、壁をペンキで塗ったりすることなどが挙げられます。部屋のレイアウトを変えたい場合は、元に戻せるように工夫する必要があります。
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賃貸借契約書のチェックポイント

最後に、賃貸借契約を交わす際のチェックポイントについて見ていきましょう。トラブルを回避するためには、以下の点を確かめておくことが重要です。
チェックポイント
- 契約形態
- 中途解約時の違約金
- 解約通知
- 利用目的違反
- 更新料、敷金
- 特約事項
契約形態
契約形態には、普通借家契約と定期借家契約がありますが、賃貸物件は、ほとんどが普通借家契約となっています。
普通借家契約とは、契約違反などの正当な理由がないかぎり、貸し手が契約の更新を拒めないというルールです。借り手である賃借人は、契約期間の途中でも解約をすることが可能であり、借り手である賃借人を保護する仕組みとなっています。
一方、定期借家契約は、「定期」と名の付くとおり、契約期間が満了したら必ず契約終了となるのが大きな特徴です。普通借家契約のように更新は行われないため、引き続き入居を続けるためには再契約を結ぶ必要があります。
このとき、貸し手は再契約を拒絶することができるため、普通借家契約よりも賃貸人の権利を守る意味合いが強いといえます。
中途解約時の違約金
賃貸借契約を途中で解約した場合、契約内容にもよりますが家賃の1~3ヶ月分の違約金が発生するケースがあります。
解約通知
一般的に、退去の1~3ヶ月前に解約の通知を行う必要があります。遅れてしまうと、支払う必要がない期間の家賃を払ったり、更新料が発生したりする可能性があるので注意しましょう。
利用目的違反
賃貸人の許可が必要なことを勝手に行った場合、契約が解除になる可能性があります。転貸やペットの飼育、住民同士の騒音などによるトラブルといったことが盛り込まれているケースが多いです。気になる点は賃貸借契約を交わす前に確認しましょう。
更新料
契約を更新する際に必要な費用であり、相場は家賃の1ヶ月分とされています。一般的に、賃貸物件は2年契約が多いため、更新料を支払うタイミングとしては2年ごとと捉えておいてよいでしょう。
敷金
敷金とは、部屋を借りるにあたって家賃の滞納や退去時にかかる費用に備えて、契約時に支払うお金のことです。家賃の1~2ヶ月分が相場であり、初期費用として支払うことになります。
退去時に何も問題がなければそのまま返還されますが、部屋の修繕などが必要なときは原状回復費用として徴収される場合があります。
特約事項
賃貸借契約によっては、両者の合意にもとづいた特約事項が設けられていることがあります。特に目を向けておきたい点は、原状回復の費用を誰がどのくらい負担するのかという部分です。
経年劣化や通常損傷を賃借人が負担する必要はないため、不利な契約内容になっていないかをチェックしておきましょう。
まとめ

- 物件の契約においては、賃借人が家賃を払う入居者であり、賃貸人は大家さんのこと
- 賃貸借契約を交わす際に、賃借人には賃料の支払い、原状回復、契約内容の遵守といった義務が発生する
- 賃貸人が物件を貸す際には、使用収益をさせる、修繕、費用償還といった義務が発生する
- 物件を借りる際は退去時のことまで考えて、賃貸借契約書をチェックしておくことが大切
更新日: / 公開日:2022.05.06










